第424話『これはトラウマになる』by海弟
コメディーを、少なくしたら、爆発だ
爆発? と思う方もいらっしゃるかも知れません。
それ以上に『コメディーを』って六文字じゃねぇか! と思う方もいらっしゃるかも知れません。
とりあえず、弁解しようと思ったのですが無理そうです。
口の中で愚痴を呟きつつ、片手に握った剣を振る。
その動作だけで三人ほどが後ろへ吹っ飛ぶ。その剣の速さは兵士達が見ることの出来ない、別の次元にでも溶け込んだかのような一撃だった。
「……外れか」
外へ出るため、ではなく内側……神らしき人物がいる場所へと向かうために走り回っている青年は倒れた兵士達の床を踏みしめて歩く。
レンテは海弟を探しているわけだが、目的地が一緒ならば先へ向かったほうが早いと考えたわけだ。
けれども落ちた場所が何処かすらわからないし、兵士達はさっきからうじゃうじゃ沸いてくる。
当然といえば当然、五万の兵士の半分ほどが納まるだけ神殿内に入ってきているのだ。
このままでは一部の部屋を除いて、動く事が不可能なほど圧縮されるに違いない。
少し歩いていくと、十字路が見えてくる。
そして十字路の真正面から誰かが歩いてくる。二人組みだ。
犬死ちゃんと海弟が既に出会った、というのは考えられにくい。
背格好から見ても一方が犬死ちゃんではないということがわかる。
「敵か」
短く呟き十字路の中央で待つ。
十字路と言っても狭いものなので数人が立ち回るには適していない場所だ。
相手が武器を手に取ったら突撃しよう、そんなことをレンテが考えていると声が聞こえてくる。
「いやぁ、さっきの人の波は何だったんだろうな。おかげでコタツが大破したぜ」
「オレはモロに食らったんだが」
「こういう時こそ天井に張り付けよアレン君よ。好きなんだろう?」
「勘違いするな」
その会話を聞いて核心する。
――アイツ、何してんだ?
☆
棍棒(コタツの足)という武器を発光剣が下げられた反対の腰に下げ、歩いていると何やら十字路が見えてくる。
しばらく歩くと人が中央にいるようだ。
俺は気配に鈍感なせいか、目視できるまでわからなかった。
「……敵、普通の者と格好が違うな」
「将軍とかじゃないか? 何か見覚えあるが……二人でかかれば倒せるだろう」
棍棒を手に持ち十字路、そこの中央に立つ間抜けな人物へと殴りかかる。
「っ、馬鹿!」
聞き覚えのある声がした。
と、ここで顔を見ると何と、レンテさんじゃあありませんか。
俺は動きを止めアレンのほうを見る。
既に双剣と両手剣による戦いが始まっていた。両手剣と言っても、大きさから判断しただけでレンテは片手で扱っているが……軽いのだろうか?
思考を一度振り払うと今やるべきことを考える。
「……巻き添えを食らわないように退避、か?」
いやいや、二人の間に入って『そこまでだ……』とか言っちゃったりしたほうがいいのだろうか?
などと考えていると二人が兵士を踏みつつ返ってくる。
「お前は敵と味方の区別も付かないのか」
アレンに言ってやる。
「先に教えろ、馬鹿」
馬鹿とは何だ、と言いたかったが教えなかった俺も悪いのでやめておく。
だが『そこまでだ……』が言えなくなってしまったので八つ当たりだけはしておこう。
「ふっ、察するのが一流だぜ?」
「オレは一流を語るつもりはない」
ひらりと避けられてしまった。
ならばキサマは何流だ!! と突っ込みたいのを我慢する。
まずは自己紹介ならぬ他人紹介からだ。
「こっちがレンテでこっちがアレン。握手!」
よろしく、の一言もなしに握手をする二人。
まあ基本的に無口なところとか、家族が恋しいところとか。似ているところはいっぱいあるのだ。
「よし、魔法陣のある部屋とやらに急ぐぞ」
レンテは俺たちの対面から来たらしいので、右か左……どちらかに階段……もしくは例の部屋があるわけだ。
犬死ちゃんはこの世界が危ない……とか言っていたのであえてゆっくり歩いていこうと思う。
と、うおっ!!
見れば俺の足を持ってニヤリと笑っている兵士の姿がある。
相変わらず抜け出せる様子はないが、手だけは動くということだろう。
『へへっ、ただでやられて――』
この野郎、俺の足を引っ張るとは生意気な!!
顔を何とか踏みつけて脱出すると二人に告げる。
「右だ!」
「いや、左だ」
「魔力の流れ、だな」
……いや、うん。確かに俺はそういうの敏感じゃあないけれども!
「そうだな、左だ」
足を掴まれないように急いで三人で左の通路へ入る。
先が薄暗くなっていたが炎の魔法で道を照らしつつ進んでいるので今のところは苦になっていない。
「……魔力の流れが、上か」
レンテが言う。
既に兵士は足元にいないが走っていたので少し疲れた。
「階段を探すぞ」
「んじゃ、俺は別行動で!」
何も言わずに走っていく二人。今の発言は無視されたと捕らえていいのだろうか?
いや、別行動にはなっているのだ。文句は無い。
「はぁ、いやぁ。ここから先、俺の息子or娘に会うわけだしな、それなりの格好をしていかなければ」
鏡を目の前に出現させ、俺の全身を映す。
砂漠を歩いてきたせいか、少し騎士の制服が色褪せていた。
「うーむ、通常なら騎士の正装だしこのまま会ってもいいのだろうけども……汚れているし着替えないとな」
親子の初対面、重要だろう。そうに違いない。
ポケットの中の鏡を全て廊下へ出し、撒き散らすと一つずつ中身を確認していく。
うーむ、変えの制服がない。
「……あれ、修道服なんていつ入れたんだ? しかもシスターさんの」
子供用サイズ。マヤのだろうか?
いつ入手したんだろう。
まあこれは仕舞いなおそう。
次だ。
次の鏡の中には――何だろう、コレは。
砂糖?
少し手に取り舐めてみる。
「塩、だと!?」
くそう、過去の俺め。現在の俺を苦しませて楽しいか!
未来の俺が同じ目にあうように塩を再び鏡の中に仕舞う。
砂糖と間違えてこの塩を舐めるがいい!!
はっはっは、笑いが止まらないぜ。
「……って、これじゃあダメだろ」
いや、未来の俺が苦しむわけだし……現在の俺じゃあないし。
いいか。うん。
次の鏡を覗いてみれば武器がたくさん入っていた。
久しぶりに拳銃を見たので手にとってみる。
うーん、この重さ。
詳しくないからわからないが魔力で何とかできるように改造計画はどうなったんだろう。過去の俺どうした。
塩で未来の俺を苦しめようとか考えているんじゃない。
その他数枚の鏡を覗き、そろそろ時間もやばいんじゃないか? という思考が頭の中に過ぎり求めているものも見つからないまま服を脱ぎ始める。
見つけたらすぐに着替えられるように、という配慮である。
そこから数枚探してみたが見つからない、既にパンツだけだというのに何故見つからないのだ。
アレか? パンツを脱がなきゃ見つからないのか?
しょうがない、脱いでやろう。
しぶしぶと手をかけた瞬間、俺の足元が盛り上がる。
「……ん?」
静止する俺。足元が崩れたかと思うと、そこから鉄の柱が廊下の天井へ向かい伸びていく。
その延長線上、というか鉄の柱の上部分に乗ってパンツを脱ぎかけたまま静止している俺。そのまま上へ上がっていき廊下の天井に頭をぶつけたところで意識を取り戻す。も、反射的に頭を抱えてしゃがみ込んでしまい廊下の天井と鉄の柱で挟まれる。
ぐっ、ぐぐぐ……。吐くモン吐いたからもうでねぇっつーの!
まさか口からだけじゃなくお尻のほうからも……運命は俺の敵か!
鏡が鉄の柱の上、俺が間に挟まることで上昇が止まっている空間から廊下の床へと落ちていく。
待って! それは大切な物なの!
「やばい、動いたらパンツ脱げる!」
下半身を手で押さえた瞬間、全ての鏡が一気に床へと滑り落ちていく。
「……ど、どうなってる――」
ついに天井を突き破り上にあるだろう部屋、または廊下へと鉄の柱とともにパンツのみ装着した俺が出現する。
誰から見ても変態の出現なわけだが人がいたらどうしよう。
『大をしていました』
よし、この言い訳で逃れよう。
って待て、大をするのに何故パンツ一丁なんだ。くそう、コイツも手放さなければいけないのか!
次の階へ行ったことにより空間の余裕が出来たので立ち上がりパンツに手をかける。
俺の為に犠牲になれ。
涙し脱ぎたてパンツを手放す。
そして、叫ぶ。
「俺は大をしていたんですッ!!」
えーと、まあ今日のはギリギリセーフだと思う。
明日はもう無理だと思う。
け、けれども毎日更新の運命……新たなる道を切り開くには本能を爆発させなきゃいけないんだぁぁぁぁぁぁっ!!
はぁ、今回は普通にやりすぎました。ごめんなさい。