第419話砂漠越えと五万の兵士
よーし、これからコメディー部分が少なくなっていくぞー!
一日で砂漠とは越えられないものだな!
町も村もないし! 絶対絶命だぜ!
「もうすぐ日が落ちそう……。ここで死ぬのはイヤだー!!」
暴れる犬死ちゃんに砂を拾い投げつける。
黙っていろ、こっちだって疲れているんだから。
「今時砂漠を越えるのに徒歩なんてやっぱり古いんだよ。飛龍とかさ、借りていけばよかったんだ」
「馬鹿め! 借りたって俺は乗ろうとしないぞ!」
医者に言う。
俺は龍が苦手なのだ。つまり龍の病気にかかったら死亡は確定している!
「犬死ちゃん最高だぜ!!」
「何の脈絡もないけどうれしー!」
うむ、口に砂が入ったようで唾を吐き捨てている犬死ちゃんは馬鹿なのだけれど、やはり神とはすごいんだな。
「そう言えば、この世界にも神はいるんだよな?」
チラリと後ろを見て犬死ちゃんへ視線を送る。
砂のお城を作っていた。
「大怪獣のしゅうげーき」
一撃で沈んだお城の兵士はさぞや地獄で俺を恨んでいるだろう。
風に乗り飛んでいく砂を見ながら思う。
「……大、怪獣?」
何だか恥ずかしいのだけれども。
首をかしげて俺を見る犬死ちゃんに砂を投げつけ先へ進む。
何だか重要な話をしようと思っていたのに話の内容を忘れてしまった。
「と、言うか。何だか寒くなってきていないか?」
「そりゃあ、砂漠の夜は冷えるよ」
それは大変だ。
「地中に潜れと言うのか!」
「どんな発想をしていればその結論に辿り着くのかな?」
砂風呂ってあるだろ? アレだよ。
「つまり砂に潜れば暖かいッ! 死ぬというデメリットさえクリアすればいけるっ!」
「いや、そのデメリットクリアできないよね!?」
「頑張る!」
「頑張っても無理なものは無理!」
理解を示さない愚かなる医者め。
ならば証拠を見せてみろ。
「犬死ちゃーん、砂用意ッ!」
「用意するまでもないと思います!」
そうだな。その通りだ。
「……え? え?」
戸惑う医者よ。その白衣が形見とならないよう祈るんだな!
「はっはっはっ! 投擲開始ィ!!」
砂を投げつけられ地面と同化し始める医者。
何か叫んでいるようだが俺の手は止まらない。勿論、犬死ちゃんの手も止まらない。
むしろ投擲スピードが早くなっていく。
「埋まれぇ!」
「土に帰れー!」
うん、何かやっていること地味だな。
砂に埋まるんじゃなくて砂に埋まるぐらいのことをやってのけなきゃ面白くない。
「投擲ストーップ!」
「はぇ?」
両者共に手が止まる。ここで両者というのは俺と犬死ちゃんのことだ。
「ゴブル!」
「誰それ!?」
地面から這い出てくるゴールデンボールことゴブル君。
キン○マの方がよかったのか?
「まあ良い。玉無しよりかはマシだろう。数万倍マシだろう」
「数億倍マシだけどさ。それよりなんだい? もしや謝るとか? 天変地異の前触れかな?」
俺が謝るだけで天変地異が起こるのなら喜んで謝ろう。
だが俺は謝らなければいけないことなど一回もしたことがないので生憎と謝ることが出来ない。
「玉有りよ。先を急ぐぞ、この世の終わりも近い……」
「この世の終わりじゃなくてぼくらの命の終わりじゃないかな」
……不吉なことを言うな、馬鹿野郎。
「まあお前は死んだら食料になるが、俺と犬死ちゃんはならないからな」
「豚じゃないからね!?」
「ちなみに玉を食う趣味はないので放置するから、生きろよ」
太陽ももう完全に沈んでしまっている。
凍えるような寒さと静けさが辺りを包んでいるが、まだ足は動く。
「徹夜で砂漠の散歩ツアー。俺は死ねないから死なないが、お前等はどうだ!」
「生きろと言われちゃいきないとね」
「神は不死! 必然的に――」
「よし、行くぞォ!!」
砂を蹴り走り出す俺。
その後に付いてくる医者と犬死ちゃん。
そして二人に両方の靴のカカトを踏まれ転ぶ俺。
盛大に顔面から地面へダイブする。
……よーし、面白いことを思いついたぞ。
むくりと立ち上がり二人を見る。
「今から俺が鬼な。ちなみに捕まったら死刑。……二人とも十数えるから逃げるが良い」
楽しい楽しい鬼ごっこの始まりだ。
☆
砂漠を越えた。
三日かけて超えた。
「もう動けるかッ!!」
「眠たい……」
「三日間休みなしで走るなんて……無茶を通り越して無謀だ」
……でもやってのけたぜ。
死の恐怖とはすごいなぁ。
「今日は休んで、明日……いや、明後日から旅を再開しよう」
もう昼時だ。今日と明日、じっくり休んでおこうという作戦か。
「うむ、却下で」
「ええっ! まさか、まだ歩くとか言わないよね?」
「言うか馬鹿。今日は休みでいいが、明日には出発するぞ。たぶん体中筋肉痛だがな」
……神殿、というのも見えてきたしな。
道はなく、獣の足跡が多く見受けられる森の中、木々が邪魔をしてよく見えないが……少しだけ見える。
神殿の先端部分であろう、光る何かが置かれた天辺……。
たぶん金で作られた十字架か何かだ。
「……見間違えとかだったらやだなぁ」
と、その前に。
「この森もたぶん、小規模なものだよな。だとすると……」
道がないので木々を掻き分けがさごそしつつ前へ進む。
すると、目の前に広い荒野が現れる。
しかし、ただの荒野ではない。
「……五万の兵士か」
「こりゃあ、将軍クラスの奴が何人いるやら。勝てる気が失せる光景だね。帰ってもいいかい?」
「帰れるなら帰ればいいさ」
無理だろうけどな。
で、お茶達もここにいるはずだ。
兵士達の様子で察することは出来るはずだが……遠くてよくわからない。
偵察部隊でも捕まえて情報収集しようか。
「……ダメだな。捕まえたら捕まえたでこっちの存在がバレる」
……突撃あるのみ、ってヤツか。
「犬死ちゃん、全員殺したり出来る?」
「お父さんの脳が死んだほうがいいかも!」
何だ? 三日走らされた恨みか?
それとも砂を何度も投げられた悲しみか?
どちらにせよ、俺の脳は死にません。
「近くの散策だけはしておくか。三人で別れるぞ。集合地点は五万の兵士の真ん中で」
「とりあえずココにしようか」
「わたしもココに集まるからね!」
『散策と書いて奇襲と読む作戦』はダメなようだ。
しょうがない、俺もココに集まろう。
目印として、この木に何度か切り傷をつけて、と。
「何かいたらあの兵士に頼るんだぞ! とりあえず、敵と認識されていなければ助けてくれるだろうし」
「そういや、ぼくらは明確な敵と認識されていないんだよね」
うむ、あの五万と仲間にはなりたくないがな。
……うん、前書きで言ったのはこの話が終わった後……という意味です。
決してこの話にコメディー部分が入っていないとかそういうんじゃないんです。
それと一日で砂漠越えはやはり出来ません。