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第417話『兄、健在です』by海兄

夢や希望を乗せた船があるとします。

ちなみに手元にどんな怪物でも一撃で倒せる銃があるとします。

その銃は反動無しで撃てるんです。


さて、どうしますか?

「私の……兄は、死にました」


いきなりショックなことを言われた気がする。

ベッドに腰掛ける少女の瞳を見れば、嘘をついているようには見えない。


自分にとっての真実を、静かに語り続ける。


「龍に殺されたんです。私の目の前で……体を貫かれて、血塗れで……」


かくん、と首の力が抜けたかのように……顔を伏せる少女。

瞳からなにやら光るものが見える。それを拾い集めるかのように手が添えられるが溢れたそれは自分自身の手だけではせき止めることは出来なかったようで、指の隙間から零れ落ちる。


「続きは?」


嗚咽するような声が響いた後、瞳を一度拭うと少女は赤くなった顔と目をこちらへ向ける。


「ごめんなさい。私のせいで、死んだんです。あの日、は――」

「わしが、代わりに話そう」


顔を後ろへ向けると、爺さんが立っていた。

それを見た少女が顔を伏せる。


「……お前の考えていることはわかる、わかる……が、お前の兄は――要領を得ませんな」


ゆっくり歩いていき少女の隣に腰掛ける。

爺さんが少女の肩へ手をかけると少女が体をビクリと震わせる。


「この子の兄は死にました。龍に殺されたのです。この子の目の前で」

「そこまでは説明されたが、続きを聞こうじゃないか」


沈黙がこの場を包む。

話して良い事と、話してはいけない事、頭の中で分けているのだろう。


「この子とこの子の兄の親は……龍に殺されたのです。母親は村の外で襲われて、翌日……龍を退治に出かけた父親も……」


復讐が失敗した姿……なのだろう。

妻を殺され、父親は怒ったはずだ。怒って、仇を討ちに。


しかし失敗した。


そして残された、この少女と少女の兄は……。


「この子達もまだ子供で、判断がつかなかったのでしょう。父親の死体が見つかったという報告があったとき……村を飛び出していったのです。二人で……」


……で、兄は死に……この子は村へ戻ってきたわけか。

死の病気を抱えて。


「……そうか。うん、何となくわかってきた」


親を殺され、兄を殺され、この少女はあまりにも不幸な人生を歩んできたんだ。

だが、しかしだ。


「俺の兄をくれと言ってもやらないからな!」


立ち上がり宣言する。そう、お菓子作りの天才兼その他を兼ね備えた兄を渡すものか。


「ん?」

「へ?」

「何ですと?」


それぞれ、同じ気持ちを表現しているだろう言葉が俺へ向かい飛び出してくる。


何だろう、何か俺は間違えたことをした気がする。


「な、何だよ! 素直な感想を言っただけじゃないか!」

「話には続きがあります。あの、私の話を聞いてください」


そう言うなら、座ろう。

さあ話せ。


「……でも、兄は生きているらしいんです。私が発見された時、兄の死体はなかった……。そして、こんな村ですが……有名人の情報ぐらいは入ってくるんです。龍の装備を纏った傭兵の話……」


龍の装備?


「何でも、龍を憎んで……各地を巡っているとか」


龍を憎んで、ねぇ。


「龍の装備、と言うと……この世界に存在するのは……たぶん、この村にあったもの一式のみ」


ほうほう、龍の装備というのはすんごいんだな。


「なら、その傭兵が……私のお兄ちゃんじゃないのかな? って」

「ほー、なるほど」


龍の装備を纏った傭兵。


「子供の頃、龍に挑戦した時も龍の装備一式を着ていったのか?」

「たぶん、ですけど記憶が曖昧で……」


何だかなぁ。

ま、推測は出来る。


龍の装備というのは一式のみ。

そして着ていたほうが兄だ。


着ていなかった妹が生き残っているのだ、着ていた兄が生きている確立は言うまでもない。


「生きていると良いな。お前のあ――」

「それで頼みたいんです」


さて、何で俺は台詞を遮られたんだろうな。

無駄に心に穴が開いたよ?


「旅人さん。私の兄に出会ったら、この村に帰ってくるように……言ってくれませんか?」


俺の目を真っ直ぐ見つめ言う少女。


……ふっ、そうだな。


「まずは頭を下げろ。話はそれからだ」

「い、今までの話をもう一度しろと!? お父さんそれは無茶だよ!」

「土下座がないと、何かイヤなんだよな」


俺の(こだわ)りだ。


「……お願いします」


ベッドから降り、土下座する少女。

うーむ、しょうがない。


心当たりが無いわけでも無いしな。


「それは本当ですか!?」


爺さんの叫び声が響く。

何だ、俺はまだ何も――と、この爺さんは読心術の使い手だったか。


まあ待て。まだ秘密だ。

感動の再開の演出家である海弟さんは秘密を多く有しているのだよ。


「んじゃ……出かけるぞ、娘よ!」

「お医者さんは!?」

「鞭があるだろう?」

「……なるほど!」


そう、鞭があるなら脅せば良い。

ドタドタと駆けていく犬死ちゃんの後姿を眺めつつ二、三度頷く。


「龍の村の少女よ! 俺に任せろ!」


背負ってやる……違うな。

背負うとか……そんなんじゃねぇな。


「お前の想い、託されたッ!!」


……ん? そうだ、言い方だ。


少女の部屋から出て行くと真っ先に家の外へ向かう。

途中犬死ちゃんの声が聞こえてくる。


「確保ぉ!」

「ひ、ひぎゃぁぁっ!! や、やめっ、あはっ!」


『あはっ!』って、何だろう。


前書きの模範解答!


海弟

『勿論、船は壊さない。壊したら魚なんかに幸せを与えることになるだろう? 襲うのは港に着いてからだ』


さて、反面教師って言葉が素敵ですね。

模範解答ですら間違っています。


……何だか調子を取り戻してきたな海弟よ。

ちなみに、構想の半分ぐらいをここの話で海弟に潰されました。

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