第413話『これが、例の電波女というヤツか』by海弟
犬死など……恥じゃッ!
何だか気分爽快だ。
自分の気持ちを偽らないって素晴らしい!
んで、こちらにも自分の気持ちを偽らなかったお医者様がいます。
「よくも俺を見捨ててくれたな」
「こ、ここまで聞こえてきてたよ。一晩中覗きについて語ってるなんてすごいね。はは」
隈が出来ている医者が言う。
何故だろうか、元気がなさそうに見える。
欠伸をしている医者を横目で見つつベッドに腰掛けると話を催促する。
一日経ってしまったが俺の目的は変わらない。
あの二人が何故俺を置いていったか、だ。
大体の予想は出来るが確証が欲しい。
「……それじゃあ、まずは何から話そうか」
「いきなり結果から話してほしいんだが……まあ順序だてて話してくれるならそっちの方が良い」
白いシーツを摩りながら言う。
あの宿のベッドも中々良かったが、ここのベッドも中々……。
「それじゃあ、まず君がかかっていた病気のことからかな――」
「ちょっと待て。俺の病気? ただの風邪と聞いているぞ、関係ないんじゃないのか?」
首を横に振る医者。
……風邪じゃなかった、ということか。
お茶は嘘を付いていたと――
「実は龍が持っている人を半日で殺すほど強力な病原菌が体内に侵入していたようなんだ」
「――はっはっは、嘘最高ッ!」
人を半日で殺す? そんな病気にかかっていた?
俺じゃあなかったら死んでいたぞ!
「たぶん、姫様達の龍が原因だろうね。長い間体を洗っていない龍はその病原菌を鱗の隙間とかに繁殖させやすいんだ」
「ほう、あの龍か」
……アイツじゃあないが俺も龍を憎む理由が出来てしまったな。
ただ、一つだけ謎がある。
「俺は何で死んでいないんだ? いや、何で生きているか……だな」
俺が死ぬ光景など想像できないぜ……。
感情が磨り減ってる、ってのは便利なのか便利じゃないのかいまいちわからないんだが考え方が変わるよなぁ。
「……そりゃあ、謎だね。解剖すればわかると思うけど」
何だ、謎なのか。
「んじゃあ謎じゃあなくしてみせましょうっ!」
「よーし、殴り飛ばすから右頬を出せ」
突然聞こえてきた声に対し反射的に言ってしまう俺。後から振り向くと右頬を差し出している少女がいた。
何だ、気持ち悪い。
「そ、そんな引かないで!」
「正直に言おう! 気持ち悪いッ!」
「お父さんに言われたら自殺ものだよその言葉ぁ!」
仰け反りつつ俺のほうへ前進してくるという器用なことをしている犬死ちゃん。
格好か黒いローブから黒いドレスに変わっているところに注目。
「……相変わらずの胸だな」
「よーし、殴るのはわたしね!」
いや、俺だ。
と、まあいつもの掛け合いをするのは面倒だ。
会ったの二回目だが俺の娘らしいので遠慮はしない。
「あ、あのさ」
「うん?」
医者の方を振り向く。
ハンカチを取り出し額の汗を拭うと、犬死ちゃんのほうを指差し言う。
「だ、誰かな?」
「焼死体犬死ちゃん。略して犬死ちゃんだ」
「まだ引きずってるー! 焼死体が苗字みたいでイヤなの!」
お前の反応など気にするな。それに俺の娘ならば苗字は『風詠』だろう。
ん? となると『風詠焼死体犬死ちゃん』となるわけだ。
「あれ? ちゃんまでが名前なのか?」
「今頃ッ!?」
あ、なるほどな。
前の『気にならないの?』発言の真相は『ちゃん』が付いていることだったのか!
ったく、そうならそうと言ってくれよ。
「何だか一人で納得しているけどさ、わたしのおかげなんだけど?」
わたしのおかげ……。
えーと、話を戻したのか。
ベッドの隅で足をぶらぶらさせている犬死ちゃんの隣に座ると少し頭の中を整理する。
俺は半日で死ぬ病気にかかっていた。
そして置いていかれた。
……冷たいなぁ。でも、あの二人は一分一秒でも早くあの王を殺したいのだしな。
邪魔となる俺を置いていくのも納得できる。
しかし、俺は死ななかったわけだ。
その理由――鍵を握るのはこの犬死ちゃん。
そんでもって彼女は『生死の門番』であり『神様』の一人でもある。
……ならば、可能か。
「いや、待てよ? 神様の一人ならば管理している世界の外には出られないはずだが」
「『生死の門』を使えば移動も楽々なのであった……」
生死の門、って何だよ。
いや、何となく神が管轄している場所から移動するためのものなのはわかる。
全ての神が生死の門というものを持っているのだろうか?
「んまあ良いや。お前が助けてくれた、だから俺が生きている。そうだよな?」
「どう助けたのかは聞かないの?」
「面倒だ。俺の『ありがとう』一言でお前の話は終わりだ。ありがとな」
「……感激」
ベッドに倒れこむ犬死ちゃん。
何だか知らないが感激したらしい。
医者の方に向き直る。
「コイツのおかげで助かったらしい。それで、俺が死ぬ病気にかかっていたから置いていったんだよな」
「そう、姫様に頼まれて君が死んでいたら墓を作ってやってくれと言われていたんだ。正直ビックリしたよ」
興奮気味に話をする医者。
「何だ、この病気にかかって生きている奴はいないのか?」
「……彼、レンテ君もこの病気にかかっているよ」
「ほう、ならば死ぬ病気というのも――」
「……いや、彼と君が特殊すぎるんだ。他にも……数人だけどこの病気にかかっている人が過去にいてね。全員死んだよ」
……ほうほう。
奴は龍の病気にかかっている。そして龍を憎んでいる。
……似ている。
いや、俺は犬死ちゃんに助けてもらったわけだか正確なものではないが……。
俺は龍が嫌いだし、アイツも龍が嫌いらしい。
「……偶然か」
「何のこと?」
「秘密。よし、じゃあ北へ向かうぞ丸い医者。略してブタ!」
「ど、何処をどう略したんだい?」
超未来的な略し方をしたらブタになったんだ。
文句を言うな!
「明日出発する! 準備はお前に任せた!」
「えっ、仕事が――」
「知るかッ!!」
さて、今日はこのベッドで寝るとしよう。
夜に寝てないし一日中寝るぞー!
振り返れば悶えながら転がっている犬死ちゃんが。
「おい、ベッドは一つしか空いてないのか?」
「診察用のベッドなんだけどなぁ。他は一つしかないし仕事に使うから無いね」
……しょうがない。
「ちゃぶ台返しの上位、ちゃぶ台ひっくり返しを凌ぐ超必殺奥義ッ! ベッド雪崩れ込みッ!」
ドッカーンッ! と犬死ちゃんを押しのけベッドに転がり込む。
「うぎゃー!」
「はっはっはー、このベッドは俺が頂いたッ!」
「一緒に寝たい、ってこと?」
あれ? 今一気に会話が飛ばなかったか?
一緒に寝たい? いつ俺が言ったんだ?
「もー、お父さんならいいよ! ね?」
えっ、俺何も言ってないぞ!
……コイツの妄想か? そうかそうか。
何か嫌な予感がするのですが。
「えーいっ!」
「緊急回避ぃっ!」
転がりながらベッドから落ちる。
床は石で出来ていたようで、頭を打ちのた打ち回る事となるがそこへまた恐怖が襲い掛かってくる。
「お父さんのドジッ子ー。うふふ」
何だコイツ。危ないぞ。
その妄想をぶち壊すッ!
匍匐前進しつつ出口を目指す。
「医者ァ! あとは頼んだッ!」
「……仕事の邪魔だよ、君」
「そうか! じゃあな!」
ぜんしーん。
「おとうさーん!」
捕まってたまるかぁぁぁぁっ!!
海弟の興味あることって何だろう。
……今現在では強さと甘い物以外に思い当たらないなぁ。
というか何かすんごい病気を治してしまう犬死ちゃんは何なのだろう。
電波だからかな。うん、たぶんそうだ。
それにしても姫様は薄情……というか海弟の死んでいる姿が見たくなかっただけかも知れませんが……。まあ真相はわかりません。
何故ならばこの先の構想が出来ていないからッ!
この町でちょっくら修行してパワーアップする海弟を予想していたら全然違ったのですよ! 何か勝手にバトルして伏線みたいな感じのが出来上がってました!
不思議です。