第407話『ウィスウィス』by海弟
ウィスってホントに何なんですか?
「まったく、海弟は少しふざけすぎっ! 相手は子供なのに……擦り傷だらけなんだよ?」
「はい、俺が全面的に悪いです。すみません、ごめんなさい」
「本気で謝ってる? 私はそう見えないんだけど!」
くっ、城門のところで見つからなければ……こんな事態には……。
土下座の状態からちらりと青空の顔を窺う。怒っているから数時間解放されないだろうなぁ、なんて気になってくる――
――だがッ!!
俺には秘密兵器があるのだ。そう、大怪盗マヤさんである。
「青空、今回はアイツに免じて許してくれ」
後ろのほうで生き残りの数人と談笑しているマヤを指差す。
早くも環境に慣れるとは……これが怪盗の力か。
俺が関心していると、背中の辺りに重圧が掛かるのを感じる。
……えと、青空さん?
上を向く、が顔は見えない。彼女はドレスを着ているのだ。
あのふんわりとした部分のせいで顔が見えないのだ。
代わりに見えるのはパンツと白い生地だけだ。
くそっ、邪魔……じゃないな。うん。
「ほお、シマシマパンツなんて何年ぶりに見たんだろ――」
重圧が二つに増える。そして俺の視界からパンツが消える。
おかげで視界が確保できたわけだが、そこに青空さんの姿はない。
「……青空さん?」
「何かな海弟?」
上から聞こえてくる声。
……うん、上に乗らないで――
「えと、おしおき!」
「猶予が無いだとぅ!?」
俺の背中の上でぴょんぴょんジャンプを繰り返す青空。
くっ、これだけなのにかなりキツい。早く脱出せねば!
青空が俺の背中から跳んだ瞬間、体の向きを仰向けに変える。よし、次にジャンプした時に地面を転がり脱出しよう。
作戦を一瞬で立てると右と左、どちらに転がろうかと思考する――した瞬間。
全体重の掛かった衝撃が俺の鳩尾辺りから体全体を駆け巡る。
おおうっ! 腹で受け止める事になろうとは!
「あっ、ごめん――」
「お、重い……」
「――海弟は本当に怒らせるのが上手だね」
何だかさっきよりヤバい事態になっていないか?
アレだ、糖分不足なんだよ!
「け、ケーキなら用意できるが……」
「……あのさ、太ってるって……女の子に言ったあとにケーキ勧めるって……はぁ」
呆れた眼差しを俺の腹の上に立つ青空が向けてくる。
何か俺は不味いことをした気がする。
いや、最初からそんな事はわかっているのだが……最初よりも機嫌が悪くなっている気がするのだ。
「海弟は問題起こしすぎなんだよ! 後片付けをするためだけに雇った人に払う人件費がすごい事になってるって、影流が言ってたよ?」
「税金で賄お――」
ぐりぐりしないで青空さん!
「もー良いっ! 海弟は罰として明日までに何か学校全体で出来る行事を考えること!」
「昼寝大会なんかどうだ? みんなで寝るんだ」
「早い! そしてくだらないよ! もっと、一体感というか……ね?」
「俺の知り合いに夢を操作できる奴が居てな。同じ夢を――」
「そういう一体感じゃないのっ!」
複雑だな。
青空の望みに俺は答えられる気がしないぞ。
「普通に、運動会とかさ!」
「じゃあそれで」
「これはダメ!」
……うーん、じゃあどうすりゃ良いんだ。
運動会で良いならそれで良いだろうに。
「考えておいてね!」
「期間延長の術は何度使えますか?」
「ゼロ回です」
……ふっ。
俺の脳よ、聞こえているか?
アイ、イエッサー。
よし、落ち着いて聞いてくれ。実はカクカクシカジカなのだ。
アイ、イエッサー。
おい、聞いているのか?
アイ、イエッサー。
相変わらず俺の脳はポンコツだなぁ。
はっは、脳って誰だよ。
「それじゃあ私は忙しいから!」
そう言ってこの場から去っていく青空。
うーむ、言うなら今だな。
「青空ー、ワンモアチャンスだ!」
「意味わかんないよー」
振り向きもせず数秒の間も無く言葉を返してくれる青空。
何だか寂しい。
……というか一言で言おうとするのに無理があったんだ。
ワンモアチャンスじゃ確かに意味わからないだろう。
俺は一度、自分以外の強さに頼ってしまった……だからもう一度、一から始めるぞ! と言えばよかった。
うん、後悔しても今更って感じだな。
「追いかけるか」
諦める? はっは、俺の辞書に住んでいるヤギさんや、その言葉を知っているかい?
え? 辞書なんか無いって?
よし、腹を捌いてみようじゃないか。
「いや、こんな事している場合じゃないな。マヤッ!」
背後にいるであろうマヤに声をかける。
いなかった。
「……アイツ、教室に戻ったのか。くっ、何ていうか恥ずかしいぜ」
門番は後で殺す。
その他はあとで埋める。
「ええいっ、一人で探してやるぜ!!」
☆
あとはここだけだ。
ドキドキワクワクの詰まった、そう……女風呂。
全て探したあとの女風呂だ。俺は頑張ったんだ。
トイレは既に両方調査済みなのだから。
「入ろう。そして伝えよう」
女風呂と、この世界の言葉で書かれた隣にある出入り口から脱衣所へと侵入する。
何だか汗の臭いがしたが気のせいだろう。男風呂と間違えたか? なんて気もしたが間違えだと信じたい。
さて、浴場へゴー。
木製の扉を少し横へ開き中を覗く。
湯気で中は見えないが……しっかりと女子の声が聞こえてくる。
……パラダウィス。
パラダウィスだぜ。
ウィスって何なんだぜ。
「あれ、隊長何してるんですか?」
「ん? 覗いているんだ、邪魔するんじゃない」
「いや……ここ女風呂ですけど」
「女風呂だから覗くのだ。わからないのか!」
振り返る。
あらあら、アオル君じゃないか。
「……HAHAHA、ワタシこの国の言葉わからないネ!」
「女の敵は死滅するべきです」
「おーぅ、ロープを差し出されても首吊りNGですヨ? HAHAHA! じゃ、そういうことで!」
脱出ッ!!
「あっ、隊長!? ……誰に言いつければいいんだろ」
王妃様という選択肢は無しで。
ちなみに、海弟が覗いたのは王族専用の大浴場とは別にある兵士の中でも少ない女の兵士が使う風呂なのでした。
勿論タダです、無料です。汗臭いのは訓練後に入っているからでしょうね。
うん、すべての女子が汗臭いなんて僕は信じないぞ!
さて、もうやりたい放題というか……青空さんの行動すら読めなくなってきた作者はどうすれば良いのでしょうか?
どなたか教えてください。