第406話勧誘と騎馬
少し、少しだけで良い。
海弟よ……行動パターンをわかりやすくしてくれ。
「と、言うわけでだ。今日は野外でサバイバルな授業をしましょう!」
『せんせー、何が「と、言うわけで――」なんですか?』
「うむ、実は学院長こと王妃様と顔を会わせたくないのだ。たぶん今出会ったら干されるしな」
……白の剣と黒の剣は強かった。神々しさとか、邪悪さとか抜きで強かった。
あんな強さを手に入れたかった……が、しかしだ。手に入れる前に、俺はそれに頼ってしまったのだ。
あわせる顔がないとはこの事だろう。
「と、言うわけで! 城内を飛び出そうじゃないか! 見よ!」
背後を指差す。現在地は城門を出た、城と比べ少し広い場所だ。
少し広いと言っても、俺のクラス全員を収容できるだけの広さはあり、俺の背後には大通り(メインストリート)となる道路があるわけである。
良く目を凝らせば、教会が見えるだろう。そこが今回の目的地なのだ!
「教会だ、この大通りはやはり人通りが多い。そこを歩く人を避けて……そう、相手から繰り出される攻撃を避けるかのように体を捌き一番乗りで教会に辿り着いた者に――良いものをやろう!」
『つまり、教会まで走れと?』
「言わずともがなだ。俺は一番最後にスタートするからな、サボりは許されん!」
俺の言える言葉じゃないがな!
そして通行人のみなさーん! 気をつけてね!
『先生、許可とか――』
「よーい、ドンッ!!」
『――え、う、うわぁぁぁっ!!』
俺の前に立った学級委員の男が複数のノリの良い男子生徒達にぶつかり何処かへ吹っ飛んでいく。
あはは、昼間なのに星が見えるや。
「おるぁっ! 女子だからと言って俺は手加減しないぞ! 走れ!」
複数人でくっちゃべっている女子の足元へと風を送る。
言わずともがな彼女等は魔法学校の制服を着ている。そして制服のデザインは青空がしたわけだ。当然動き重視でなく可愛さ重視。
つまりはスカートなわけである。
意図的なパンチラは好みではいのだが……うん、どれ柄でも確認――
『さ、最低ッ!!』
『バッカじゃない!』
――生徒の反応は冷たいな。
しかたがない、一つ良いことを教えてやろう。
「『追剥』それはパンチラの上位に存在する、犯罪行為である」
『……い、いこいこ!』
走っていく女子達。
俺には勝てぬよ。
広場に他の生徒がいない事を確認すると俺も走っていく。
勿論体を強化せずに、だ。舗装された道とは言え、結構な距離があるので走れるか心配だ。
「……大丈夫、死ぬ前に倒れるんだから」
うん、苦しくなってもこう思ってれば死なないね!
この町に住んでいる町民とも言うべき人間がこちらを見てくるが、その表情も『またか』といったものなので気にせず走ることにする。
好奇の視線を向けてくるのは旅行客やこの町に来たばかりだろう傭兵。更にはおのぼりさんだけだ。
そういった方々に手を振りながら走ること十分、最後尾が見えてきた。
女子かと思ったがそうではないらしい、最初に飛ばしていた男達だ。
ゼェゼェ言っているのでせっかくだし燃やしてやろうと思ったが思いとどまる。俺は教師なのだ。
ならばしなければならないことと言ったら一つだろう。
この日の為に作っておいた竹刀を鏡の中から引き抜くと斜めに構えて走る。
さあ、今こそヤル気を見せろ海弟ッ!!
「廊下に立ってなさい――六連激ッ!!」
一人目は胴を抜く感じで背中を木刀で叩き、二人目のわき腹を重心を前に倒し蹴る。
そのまま男達の前で前転し、すぐさま立ち上がり構える。
まだ四人残っているのだ。廊下に立ってなさいの言葉に威力があるのならこういう事なのだろう。
『い、いやだぁぁぁっ!!!』
『ば、置いてくなッ!』
『待ってくれよぅ!』
『お前等! 二人はどうす……ひぇぇっ!!』
俺の横をすり抜け走っていく男達。
二人気絶しているが……しょうがない、俺が引きずって走ろう。ちょうど良い、両方の足に縄で縛って錘代わりにしてやろう。
ちょっとばかり背中に擦り傷が出来るが気にしないでほしい。
数分かけ、解けないようにしっかり結んだ紐を何度か引っ張り確認し走るのを再開する。
ズザッ、ズザザッ!! という音が背後から聞こえてくるわけだが、彼等は犠牲になったのだ。
数メートル走ったところからだろうか。
足が錘でもつけているかのように重くなる。たぶん錘をつけているせいだろう。
それにしてもさっきよりも走るスピードが格段に下がった。
消費するスタミナも多いし、コレでは効率が悪すぎる。
「……見捨てるか」
腰にぶらさがる剣の鞘から剣を抜き両方の足に取り付けられた縄を切る。
彼等は生贄になったのだ。
後ろを向かずに俺は走り続ける。何故なら彼等の死を無駄にはしたくないから。
☆
様々なことがあった。
路地裏で休んでいた生徒に殴りかかったり、転んだ生徒を踏みつけたり、たらたら走っている生徒に金的をしたり。
長かった。
しかし、ゴールは目前……あと数メートル。
教会が見え、通行人がいるなか邪魔にならないように端に座り息を整えている生徒が幾人か見えた。
俺もゴールだ。
犠牲者数、三十人を出したこのマラソンも終わりなのだ。
『先生!』
『先生……』
「お前達――」
座っていた生徒が一斉に立ち上がり、俺のほうを向く。
言葉を投げかけてくれる生徒もいた。そして俺は今まさに最後の言葉を言おうとしている。
「お前達、往復だッ!!」
『え?』
『へ?』
『は?』
ふっ、聞こえないのか馬鹿共め!
往復と言ったのだ。城まで走って帰る、帰るまでがマラソンと言うだろう? つまりは走れと言うことだ。
「安心しろ、乗り越えるべき仲間の死体は既に配置されている!」
『せ、せんせー。無理です!』
「ちなみに一番最後が――」
「あの」
声が掛かり、そちらの方を向けば大怪盗マヤさんが居た。
こんな小さな外見をしているのに盗めないものは『アナタのハート』だけと言う凄腕の泥棒さんである。
珍しい事に修道服なんか着ちゃっていた。
「これは何の集まりですか? あ、シスター方が気にしているので代表して聞きにきているだけです。私は興味ありませんから」
何だか先手を打たれた気がする。さすが大怪盗マヤさん。
とりあえず今回は俺の負けということにしておいてやろう。
「俺は現在学校の先生というものをしていてな、生徒だ」
十人にも満たない生徒を紹介する。
あれ、おかしいな。もう少し居た気がするんだが。
「……何処の青空教室ですか」
「いや、おかしいな……。まあ良いや、学校というのは嘘じゃないぞ? 俺は魔法学校の先生に抜擢されたのだ」
胸を張って言う。一ヶ月ということは伏せておこう。
「学校、そういえば行ったこと無い――いえ、興味ありませんから」
「よーし、みんな! みんなの仲間が一人増えたぞ!」
「え、私は――」
「やったな! 美少女だぞ!」
『うぉぉぉぉ!!』
血の涙を流す男子、そう……お前の春はもうすぐ来るッ!!
しかし、三秒でお前の春を俺が毟り取ってやろう。
「そういうわけで、行くぞ」
「……いや、色々忙しいのでごっこ遊びはまた今度にしましょう? ね?」
「色々の中にごっこ遊びも組み込んでオーケーッ♪」
マヤという盾があれば、青空の怒りを静められるッ!
さあ行こう。
「俺は右腕を持つ、お前は左腕、右足はお前に任せた。左足は……」
周囲を見渡すが、生徒の姿はない。二人しか見えないのは何故だろう。
大通りのほうを見れば既に走っている生徒の姿があった。
「ふっ、逃げれるとでも? 騎馬を組むぞお前等。アイツ等をボッコボコにするぞ!」
勿論上は大怪盗マヤさんだ!
……うん、何でこういった話が出来上がったかは不明です。
ただ一つ言い訳をさせてもらうとすれば、疲れていたんです。目が。
はい、すみません。目とか関係ないですね、すみません。
ついでにいつにも増してメチャクチャですみません。