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第405話『強さを求めたその心、捨てるに相応しい』by海弟

くそっ、思ったより傷が深いな。

ノッグの傷が思ったように塞がらない……まるで何かに邪魔されているみたいだ。


顔色が悪いので急ぎたいところだが、この俺の治癒技術を持ってしても数分で治せないとは……。

あの奇襲の一撃はそれほど強力だったのだろう。


貫かれても自分自身ならば早く治せたんだけどな。


溜息を吐く。そのせいかは知らないが、傷口が開きかかったので傷に集中することにする。

後ろでは二人が戦っているのであろう、剣戟により起きた鉄を擦り合わせるような音が聞こえてくる。


「……ったく、今までは逆だったんだけどな」


メインで戦っていた方が俺には似合っている。

けれども、普通に戦ってアイツに勝てる気はしない。何故急所を外した攻撃を俺にしたのかは疑問だが、運が良かったという事にしておこう。

それよりも、鏡の結界とも言うべきミラードームをすり抜けて……何故俺の元へ辿り着けたのだろうか。


地面から? まさか、短時間で床を抉って俺の元へ現れるような芸当が出来るはずがない。

ならば……残った可能性と言えば転移だろうか。


転移ならば『鏡』で跳ね返すことが出来ないし、突然俺の前に出現することだって出来る。全てに納得がいくのだ。

気配を断つことが出来る辺り、戦闘能力の高さも(うかが)えるし……奴は、魔族なのだろうか。


だとすれば、お茶は危ない。

アレンもだ。魔族は普通に戦って勝てる相手ではないのだから。

何度か無茶して掴んだ勝利がここにあるわけだが、想像を絶する戦いだったのだ。


「……ちっ、早く治れよ! せめて俺が加勢出来たら――」


再び傷口が開きかける。

ありえない、治しても……それと同じスピードでダメージを与えられているとしか思えない。


いや、俺の治癒魔法自体がダメージを与えている、という錯覚まで起こるほどだ。

考えられるのは……奴の剣に毒でも塗ってあった……ということだろうか。しかし、毒だろうと魔法の治癒を上回るダメージを与えるものなど聞いたことがない。

異世界なのだからわからないが、これでも俺は治癒魔法に長けているほうなのだ。

これは選択肢にいれたくないところである。


……じゃあ何なのだろう。

何でノッグは治らないのだろう、こんな時だからこそかもしれないが……本当に強さがほしくなる。


『う、うぅ……』


うめき声とともにこちらに顔を向けるノッグ。

何やら伝えたいことがあるらしく、口を開けたり閉めたりを繰り返している。俺の耳には届かない。


だが、俺からは伝えたい事がある。


「喋るな! こういう時は喋らないパターンが唯一の生還の道なんだよ!」


怒鳴りつける――がひるんだ様子はなかった。

それどころか、さっきよりもはっきりとした声で俺に言葉を伝えてくる。


『……呪い、だ。あの剣、あの剣を破壊すれば――』


血の塊を話している最中に吐くノッグ。

本当に辛そうだ。


「……呪い?」


と、とりあえず剣を――


剣を捨てた場所へ視線を向ける――が、剣戟の音により気づく。

奴は既に俺の捨てた剣を拾っていたのだ。


広間を踊るかのように一進一退の攻防を続けるお茶とアレン。

互角の勝負に見えるが……俺からしたら明らかにこちらが劣勢だ。


「……な、クソッ!!」


俺はこの場を離れられない。

と、言う事はお茶とアレンに頑張ってもらうしかないのだ。


けれども、勝てる見込みはゼロだ。

奴が魔族なのかも知れないという可能性があるだけで……勝てる確立は無い。


ノッグのほうを向く。

伝え終わって安心したのか目を閉じ眠っていた。


……見捨てられるものか。コイツも、お茶も、アレンも。

どうすれば良いのだ。


鏡を数枚置いて治癒を続けるか? ダメだ、あきらかに時間が足りない。

鏡の大きさにより内臓しておける魔力の量は決まっているし……内臓された魔力が切れれば……ノッグは死ぬだろう。


久々にこんな気持ちになる。

焦りだ。それを上塗り出来る……力を持っているのに、強さではないから使いたくないと俺は意地を張っている。


本当に、これで良いのだろうか?

狂気に任せ城ごと相手を潰す……なんてことも出来る。お茶もアレンもノッグも死ぬだろう。

だからこそ、すべて忘れて……元の世界に帰って……。


……俺らしくない。


俺にだって魔力の限界がある。底はまだ見えないが……やはりいつかは尽きるのだろう。

それを待つのか?


……動けば一人が死んで、動かなければ全員が死ぬ。

いつもの俺ならば見捨てる道を選ぶだろう。


……頼む、悪魔でも天使でも神でも魔神でも良い。

もう誰でも良いんだ。


俺に強さをくれ。呪いを跳ね除ける力と、仲間を助けるための勇気を。

どうにも理解出来ないんだ。

強さってのが何かさ。

だから頼む。


「……異世界まで、来てさ。何やってるんだろ……」


これも久しぶりだ。涙が出てくる。

熱い水だ。しょっぱい水だ。


目を瞑ろうと止める事は出来ない。


背後で爆発のような音がした。

見ることは出来なかったが、男の笑い声が響いてきて嫌でもわかってしまった。


……追い詰められたな。そうか、そうだな。


く、クク。クハハハハハ!! ダメだ、笑いが止まらない。

何でこんなところで俺は膝をついて治癒魔法なんてかけてなきゃいけないんだ。


意地とか信念とか強さとか!

求めて手に入るならとっくに手に入っているだろうが!


治癒魔法をやめ、ポケットの中の鏡から白い剣を抜き出す。

強さを手に入れるためには使わないと誓った剣だ。だが、馬鹿みたいに意地を張ってやせ我慢をする強さよりも……他人の命のほうが重い!

ましてや――将来有望のお人好しな傭兵を俺のために死なせるわけにはいかない。


「光よ!」


光の持つ消滅の力、浄化に繋がるその力により傭兵の中の呪いが消え去る。

表情でわかった。今までのものとは違う、明らかに安心しきった寝顔がそこにあるのだから。


「……ったく、今までの分は取り戻させてもらおうかッ!!」


振り返り敵の姿を探す。

ちょうど真後ろ、十数メートルは離れているがそこにいた。

ピエロの格好の青年と、動きやすそうなレザーアーマーに――この国の国旗(マーク)か何かだろうか――カッコ悪い(しるし)が付けられた剣を力がまるで入っていない手で握る少女。


アレンは……近くで倒れている。死んではいないだろう。

いや、死んでいたって問題ない。天国だろうが地獄だろうが揺さぶって生き返らせるだけだ。


「好き勝手やってくれたなァ、ピエロ野郎ッ!!」


ピエロが振り向く。その手には黒の剣に似た……刀身まで真っ黒に塗られた剣があった。

あの剣には斬った相手を呪いに掛ける効果があるらしい、何故俺に効かなかったのかは不明だが……俺ならば倒せ――


「チィッ!!」


剣を斜めに構え顔の前へ持っていく。

その瞬間、黒い刀身の剣が上段から振り落とされる、俺の目の前で。


「……見切った?」

「違うな。反応できるだけの反射神経が俺にはあるってだけのことだ!」


初期動作で見切っただけだ!


ゆらりと一度体をゆらすと次の瞬間、後ろに間合いを取られている。

完全に相手のペースだ。だからこそ、ぶっ壊しがいがあるというものだな、うん。


「ふっ、よく聞いておけよ! 今からキメ台詞を言うからな!」


ピエロを指差して叫ぶ。


「テメェが反抗しようとも、希望と絶望潰して回る……そんな最強お邪魔ムシ! この名を刻め、俺の名は海弟だッ!」

「……前置きながい」

「知ったことかァァァァァッ!!」


片方の手で握られた白の剣によりコントロールされた光を相手へ向かい放つ。もう一方の手で黒の剣を鏡の中から引き抜く。

最強で何が悪いッ!! それを誇って何が悪いッ!!!


放った光がピエロに当たる前に爆発する、それ自体は威力を持っていないのだが――


「……っ、能力が――」

「光の消滅能力によりこの空間で、一定以下の能力は全て無効化されるッ! そう、白の剣のそれに匹敵する能力でなきゃ使えないのだ!!」


つまり、俺の無双が始まるんだぜ☆


「闇よッ!!」

「……何て、外道なや――」

「必殺必滅『爆裂(ドッカーン)白黒(モノクロ)光線(ビーム)』!!」

「撤退かな」


逃がさん!


白い光と黒い光が混じったような、直径一メートルぐらいある最強光線をピエロに向けて放つ――が、寸前で避けられる。

能力は能力でも身体能力を無効化すると俺まで動けなくなるから無効化できないのだ! つまりコレはもう逃げられたね!


はっはっは、この野郎追いかけてやろうじゃないか!


『っ、うぅ……』


俺の足が止まる。


……そろそろ、暴走も終わりかな。

地面に横たわる死体……でなくノッグを見る。


……追うのは諦めようか。仕留めそこなったのは痛いが、外で待ち伏せしている傭兵やら騎士やらが居る事だし、安心してくつろいでも良いだろう。


「……海弟」

「おおうっ!」


右肩、剣を持った方の肩を抑えたお茶が俺の後ろに出現する。

先ほどまで壁にのめり込んでたのに……大した奴だ。


「……お前、化け物か?」

「人間を化け物と呼ぶならそうなのかも知れないな。あくまで俺は人間なのだから」

「……そうか。ふふ、人間も化け物だ。お前は化け物なんだぞ!」

「墓穴を掘ったな化け物め!」

「な、何を……私は姫なのだから化け物ではないのだ。残念だったな!」


な、何だその理屈は……。

というか急にほのぼのとしてきたな。


「……お――」

「リティニアだが」

「リティ、化け物から一つ言いたい事があるんだけど」

「……何だ?」

「城の壁壊してごめんなさい」

「気にするな、どうせ城を長い間空けるつもりなのだから」


リティの顔を見る。

察するに、エシヴァンの王をぶっ殺すための旅をするつもりなのだろう。


「……俺も行くぞ」

「当然だ、あの破壊力……私の第二の騎士に相応しいな、ちなみに娯楽係だ」


第二の騎士ってちょっとカッコよさげなのに娯楽係なのか。

そうだな、俺に適任だ。


「拒否しよう」

「はっは、冗談だ。明後日出発だからな、絶対に来いよ?」

「おう、明日は来なくて良いんだな?」

「……いや、お前の顔は見ておきたい……と、言うかだな――」


よーし、明日はあえてこの世界に来ないぞー!


ここまで我慢してきた海弟、いつもより暴走しております。

白の剣と黒の剣の凄まじさがわかってもらえたところでですね、あの時勇者と魔王が戦っていたら……の話をしようと思います。


はい、そうですね。

勇者が勝ちそうです。あの性格ですからね。

うん、性格がこの小説内での強さを表しちゃってますね。ただ一人、才能を持つ者影流だけが海弟に匹敵するという……登場回数で負けてますけどね! 当たり前か。


まぁ、影流君も海弟の白黒無双状態(作者命名)と戦ったことがないのでね……うん。


すみません、今日は嬉しい事があったのでハイテンションなのです。

理由は秘密です。

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