表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
421/557

第402話治癒と餅鉄

実は犬死ちゃんは、今回のボスと対峙する直前に出す予定だったのです。

しかし、海弟は言いました。


「焼けた、よな……」


と。つまり彼女が生まれ変わる――



はい、半分真実なのですが後半の嘘がうまく書けませんでした。

諦める事にしましょう。


さて、犬死ちゃんは本当はもっと後で出す予定の部分までを信じてくださいね。


扉を何度か乱雑に叩く。ミシミシ、という音がノックの音に重なって聞こえた気がしたが……気にしないでおこう。

返事も待たずに侵入すると包帯によりぐるぐる巻きにされた男がベッドに横たわっているのが見えた。


一応、ここは宿屋なのだが……鍵無しとは無用心な。

シャトが自由に出入り出来るようにだろうか? そういや内側からしか鍵の開け閉めは出来ないんだったな。

これだから安物の宿は困る。


溜息を一度吐き、包帯ぐるぐる男を見る。

一定感覚で聞こえてくる寝息に気を取られないようにこちらも負けじと一定感覚で包帯男に近づいていく。

当然ベッドに足をぶつけて包帯男の寝るベッドに倒れこむ。


「うぐぅっ!?」

「あっ、え!? ちょ、何してるんですか!!」

「負けたくなかったんだ!」

「意味がわかりませんよ!」


ふっ、所詮凡人には理解できないのだ。


包帯男は口までぐるぐると巻かれた包帯により塞がれているので、元々の声が低いせいもあるだろうが全く俺の耳に声は届かない。

当然、現在行われている説教らしき何かも俺には理解できない内容なのだ。内容じゃないな、理解できない言葉なのだ。


「おっさん、俺がその怪我治してやろう。さすがに家は無理だが……これぐらいで許してくれ」


おっさんを無理やりベッドに寝かせると治癒魔法によりおっさんの治癒を始める。

全身ボロボロなので結構時間がかかりそうだが……ちらりと後ろを見る。


ぽかんと開けた口に手を当てているシャトが居た。

魔法を見たのが始めてなのだろうか? そういえば、魔法を使える者は少ないのであったな。

最近は魔法学校なんてものも設置されたのだし、広まっているかと思ったのだが……魔法は先天的なものなのを忘れていた。


そのせいで影流も青空も魔法を使えないのだから。


どうにか使えるように出来ないだろうか……?

ん? そう言えば犬死ちゃんは言っていたぞ。


各世界に神様が配置された、と。

しかも、俺を父親だと慕うとも言っていた。俺が見つけ出し頼めば一人や二人に魔法の才能を与えることは可能なのでないだろうか?


だとすると、まずは神様探しから始めなければ……。

これは、まあ……影流に頼めば良いだろう。この世界ということは大陸を渡った別のところかも知れないが、この大陸のことは一国の王である影流に任せるに限る。

面倒な仕事を押し付けられるとは最高だ。


……まあ、立場的に下働きをするのが俺の役目なわけだが……幼馴染とは素晴らしいものなのだ。

こちらの世界でもその関係は有効であり情事発動する絆なのだ。


視線をおっさんに戻す。そろそろ完治しただろう。

絆も素晴らしいが治癒魔法も素晴らしい。


包帯を一々巻き取るのも面倒なので鏡の中からカッターを取り出し一部を切る。

ほどけた部分から全体を緩めると一気に引っ張る。


「うごっ!?」


見事に一回転するおっさん。引っ張ったせいだろう、ベッドに背中をつけていなきゃ回転しなかったのに。

とりあえず笑っておく。


「面白いぜおっさん!」

「な、治っとる……。ま、魔法かっ!」


俺のほうを見るおっさん。何だ、治癒魔法がそれほど珍しいのか。

首をかしげているとおっさんの顔が妙に眉の辺りの皺が寄る面白い表情へ変わる。本人は睨みつけているつもりなのだろう。

はっは、声を出して笑うのはやめておいてやろう。


その代わりにこのおっさんを怒らせると面白いと町中に言いふらしてやろう。


「……キサマが犯人だな? よくわからないのだが、炎の魔法で……店内から燃やされたはずだ!」

「犯人?」


……ああ、放火したのは確かに俺だ。

不味いな、隠そう。隠して……何処かの酔っ払いのせいにしよう。


「はは、まさか。一国の騎士がそんなことするわけないじゃないですか。それよりも、家が直るまで宿に住んでいるんですか?」


敬語とは難しいものだ。


「……そうだな――」


おっさんがシャトのほうを見る。

宿、と言えば安全そうなイメージがあるが……しっかりとした場所でなければ保証はないのだ。

ギルドに管理されたところなんて最高なのだが、いかんせん一泊の金額が高い。地方で名の知れた傭兵ならば余裕で払える金額なのだが、庶民が払うには辛いだろう。

だとすると、多少危険な……このような安物の宿ということになるが……年頃の娘と一緒に数ヶ月泊まるとなると勇気のいる行動だ。


教会、という最終手段もあるが……あそこに良いイメージはないので俺はおススメできない。


俺もシャトのほうを見る。


「お父さん……私は、大丈夫――」

「――じゃないんだな。よし、俺が城に部屋を用意しよう」

「ええっ!?」


何だ、何か不服なのだろうか。

コレが一番良い方法だと思ったのだが……何か俺は間違えただろうか。


む、そうか。


「安心しろ、城には女子寮というものもあってだな。毎晩、男子が侵入を試みるが一度たりとも攻略されたことのない鉄壁要塞なのだ」

「な、何かすごい……。お父さん、この厚意に甘えてもいいんじゃないかな?」

「うむ、そうだな」


ならば決まったな。

手続きは……困った時の影流君に頼もう。


「それじゃ、城へ行こうっ!」





いやぁ、久々に人助けをした。

影流とはすぐに会えたし、手続きも日が沈むまでにはしておいてくれると言っていた。


「それまで、この俺の部屋を自由に使っていてくれ。あ、クローゼットの中は見るなよ」


何も入っていないが一応言っておこう。

鏡一つでいろんなものが収納できるのでクローゼットなどはただの置物と化している。

正直、邪魔なだけなのだが……部屋に帰るのも寝る時ぐらいなので配置を変えるのも面倒なのでそのままにしておこう。


おっさんとシャトの二人を部屋の中に押し込めてから廊下へ出ると、見覚えのある数人がこちらへ向かい歩いてくる。

えーと、確か……うん、声をかけて問題ない。そして頼みごとを押し付けても問題ない。


「よお!」


……明らかに嫌そうな顔をした奴が数人居たが気にしないことにする。


「あっ、元隊長様だ! シュクリ達は食堂に行くんですよ!」

「ば、馬鹿! コイツのことだから付いてくるとか――」

「行くな。ヘイユーカモン」


手招きする。

数人とは、シュクリと双子の片割れとシャンだ。元隊員とはいえ容赦はしない。


「か、カモンて……。何? 用事があるなら早く――」


俺の部屋の扉を素早く開く。

そしてここからが大事だ。まずシュクリのケツを蹴り部屋の中へ押し込む。

コイツには土台になってもらおう。


シュクリが倒れたのを確認する前に片割れを見る。名前は……忘れた。

もう片割れでいい気がする。


片割れの背中を両手で力強く押し、部屋の中へ押し込む。

シャンは……腹が減っているのか力が出ない様子だ。昼ご飯はメイドか誰かに頼んでもってこさせよう。

何の抵抗もなく全員押し込むと、こう言い放つ。


「夕方まで、コイツ等の相手をしてやってくれ! あ、ちなみに馬鹿三人の面倒を二人で見てくれと言う意味だ。食事の心配はするな!」


扉を閉める。

えーと、廊下の幅は……これぐらいか。


鏡を出現させ、つっかえになるように三つほど扉と廊下の壁の間に配置する。

これでいくら力を入れても扉は開かないだろう。通行人の邪魔にはなるが、昼食を運んでくるメイドに片付けて置くように一緒に頼めば良いだろう。


「さーて、俺もメシだ」


はっはっは、食堂へ一足先に行っているぞっ!





昼食かと思ったら夕食だったのです。


はい、何だか昼抜きだったのか……と感傷に(ふけ)ることが出来そうだ。

まあ、おかげで早めの夕食が出来たから良いとするか。


「ふぃー」


職員室で温まっていると、背後に気配が。

気づいてほしそうだがあえて無視する。俺は後ろから抱き着いてほしいな!


「ええ、ホントにやるんですかぁ?」

「あったりまえよ。蹴りの一発も食らわせてやらないと気がすまないわ!」

「んでもさ、今日はいつもより豪華な食事だった――」

「食後の運動よ」

「なるほど、ボッコボコだな、元隊長」


……とりあえず、背後の諸君等に伝えておこう。


「俺は後ろから抱き着いてほしいなぁ、何て思ってるんですが……」


……あるぇ、答えが返ってこない。

その代わりか、三つの足音が遠ざかっていく音が聞こえる。


何だ、脅しに来ただけなのか。


タッタッタッタッタ――


コイツ等助走をつけるために遠ざかったのか!!

くっ、何とかしなければ。


周囲に視線をめぐらせる。


……っ、コレだ!!


そこにあったアレを持ち背後に振り返る。

既に空中に浮いている状態の三人。片割れ以外の二人は合格だ。スカートだから。


「これでも食らえっ!」


俺の手にしているのは鉱石……ただの鉱石ではない。

燃やすと……膨張するのだ。鉄の本来持つ性質を百倍ほど増大したような鉱石。


その名も『MO☆TI☆TE☆TU』!!


炎を餅鉄を持った方の手に灯す。

その瞬間、餅鉄の膨張が始まる……熱を持った鉄が一瞬にして膨張し始める。


ちょ、熱いっ!!

何これ、膨張する方向を決めれないの!?


いや、だがこれで良い。アイツ等が飲まれていく光景も俺は確かに見た。

はっはっは、これで俺の勝利だ!!


さて、勝利したのは良いわけだが……。


「膨張をどうやって止めるのでしょうか?」


炎を消しても鉄自体の温度は保たれたままなのか――膨張し続ける餅鉄。

硬さもそれなりにある鉱石なので、周囲にある人間を押しつぶし机と椅子を粉々にし……天井や床、壁に沿って膨張していく。


ある意味、建物が壊されないだけ良いのだが……何だか予想外の結果に驚いている。


「……餅鉄すごいな。生徒は……もう帰ったか」


職員室から外に出ると、職員室の扉を閉める。

朝になれば餅鉄の膨張も止まるだろう。


数人、いや……教師を含めば十数人か。

巻き込まれてしまったのだが、俺には関係ないよね!


よし、異世界に行ってすべてを忘れようじゃないか。


『MO☆TI☆TE☆TU』


餅鉄なんて鉱石が現実にあったらどうしよう。

いや、その前に戦鋼という鉱石も……うーむ。


まあ泡鉄(あわくろがね)奇跡石(ミラクルストーン)なんてものもちゃっかり妄想しちゃってる自分ですから大丈夫でしょう。

どういう特性を持つ鉄なのかって? はっは、秘密です。

あえて言うならば奇跡石のほうは七つ集めると龍が出てきて何でも願い事を――すみません、嘘です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ