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第401話『や、やぁ!』by犬死ちゃん

誰!? と思った方。安心してください。

今回出ます(オイ

金持ちなど紛れ込んでいなかったが、無事に四人(さば)ききった……。

接客というのは意外に大変なのだな……シャトも苦労しているっぽいし。


今度魔神がもらったマネキンに似た物を持ってきてやろう。

そうだな、色は……クリーム色で良いか。うん、クリーム色だ。


「ふぅー、落ち着きましたねぇ」


俺に話しかけているのだろう、レジの内側にいるシャトが言う。

確かに、周囲を見れば先ほどとは違った落ち着きを見せてくれる店内がある。


こういうひと時も良いものだ。


「そうだ。俺も何か買おうか」


お茶への土産……いや、餞別(せんべつ)ということで。

何だか意味が違う気がするが……異世界のことに興味があるみたいだし持っていってやるもの良いか、というわけだ。

人形なら手ごろな価格だし、あのマネキンみたいなものでなければ……ではあるがな。


「仕事が終わったら自由に一体選んでもっていってもらって結構ですよ?」

「そうか?」

「はい、人形好きに悪い人はいませんもん!」


はっは、別に好きじゃあないぞ。どちらかと言うと魔神のせいで恐怖を感じるような気さえする。

ただ、やせ我慢なんて素敵な言葉も世の中にはあるわけだし、俺は恐怖程度では屈しないがな。


「そういやおっさんは?」


レジの後ろの通路をその場で眺めつつ言う。

シャトの背後にあるわけだが、そちらは工房になっていると説明された。そこでシャトの父親ことおっさんが人形を作っているらしいが……。


後ろを振り返るシャト。


「んー、工房でしょうね。あっ、そろそろ夕飯の買い物に行かなきゃ……」


今度は俺の後ろにある時計を見てシャトが言う。


「行ってて良いぞ。俺が店番をしよう」

「ありがとうございます」


ぺこりとお辞儀を一度してから支度し始めるシャト。

それにしても、この時間帯に買い物か。


時計を見れば六時頃、こちらだって日が暮れ始めている。

一人で行かせるのは危険な気もするが……うん、シャトの護衛は俺の仕事じゃないし良いか。


ぱたぱた、という足音が連続して室内に響く。

いつの間にか工房行っていたらしい。


父親に買い物に行く事を言ってきたのだろう。

しっかりした奴だなぁ、と思いつつ店のほうに出てきたシャトのために店の扉を開いてやる。


「な、何だかお姫様気分」


ほお、お姫様か。うん、面白い。


「行ってらっしゃいませお姫様ッ!!」

「えっ、大声で言わないでくださいっ!! ほら、周りの人が変な目で見てるし!」

「お姫様の美貌のせいですよ! にくいねー、このっ♪」

「おちょっくってるんですかー!!」

「すみませんでした。んじゃ、行ってらっしゃい」


巡回の兵士が着て呆れ顔をする前にシャトを送り出す。

後姿を数秒眺めてから店内へと入る。


もっと静かになった店内の人形は何処と無く寂しげだ。

しょうがないので景気づけに何かしてやろう。


人形相手に何をしているのか。


「……よし、こうしてこうやりこうなって……」


口の部分に両手を当てて小声で言う。


「炎よ」


次の瞬間、まるで口から炎が出たかのような――うん、不味い。


ぱちぱちと燃える床を眺めつつ思う。

掃除する時は天井(うえ)から……だよな。天井燃やせば解決なんじゃないか?


「いや、水か? いやいや、あえてこのまま放置……何だか人形がやばい気がする」


黒い煙が充満してきたのでどうにかしようと周囲を見回す。

ガラス窓なので……割れば換気になるだろうか。いや、壊したら怒られる。

……待てよ。燃やしたからもう怒られることは確定なんじゃないだろう――


「な、何じゃこりゃあっ!!」


通路のほうから聞こえてきたのでそちらを向く。

おっさんだ。人形を作っていたはずのおっさんが助けに――


「こんのっ! おめぇっ」


レジを挟んだ対面にいるわけだが台を乗り越え俺のところまで走ってくるおっさん。

何をするのかと眺めていると『このモーションは……殴られるッ!!』と俺の体が自動操縦の如く右へおっさんの拳を避ける。


「はやく消せぇっ!」

「天井か!? 水か! それともあえて放置? いや、窓ガラ――」

「全部だッ!!」


任せろッ!!


片手から炎を、片手から水を、それぞれの役目をさせるために放つ。

炎は天井へ燃え移り、水は床の炎を消す。


これで安心だ。あとは窓ガラスを放置か。


「……な、何だか呼吸が苦しくなって来たのだけれども」

「こ、こりゃああれだ。天からお迎えが――」


倒れるおっさん。

体を揺するが起きる様子は無い。


おっさん? おっさぁぁぁぁんっ!!

ああ、俺もそろそろやばい。


おっさんの上は何か嫌なので隣、それも嫌だな。


中途半端に立った状態になる俺。

倒れることすら許されないのか。


「くっ、無理か……」


虚ろな目で最後に見たのは崩れ始めた天井だった……。





っ、何だ?

目の前は真っ暗で、なおかつ冷気が俺の体を包んでいる。


……えと、死んだの?

はっはっは、人間の体って貧弱なのねっ!


……さて、どうしてくれようか。


「死人にくちなしっ! はっはっはー、生死の門番こと『犬死ちゃん』だよ!」


ぼろぼろのローブを纏った少女が現れた。得物は鎌で、まるで死神だ。

生気のない瞳と声音のギャップがあるのだが、不思議と違和感でなく安心感が俺を迎えてくれる。


と言うか、いつの間にか犬死ちゃんだっけ? そいつの後ろに門が現れている。

そこから出てきたのだろうか。俺が見た時にはそんな物なかった気がするが。


「おーい、反応なし?」

「三分時間をくれ」

「ダメです。だって嬉しいんだもんっ♪」


……嬉しいって。

ぶんぶん振り回している両手を掴む。


「鎌を振り回すな、危うく刃の部分に落書きをするところだったじゃないか」

「……何かすっごい!」


そうか。


「それよりも、だ。話し合うためにテンションを下げろ、血を抜くか?」

「残念ながらわたしの血は流させないよ! それよりも、重要なことがあるの!」


重要なこと?


色々考えてみるが、やはり重要なことなど思いつかない。

まさか、「死んだのでおめでた転生でーす!」とかじゃないだろうな。怨むぞオイ。


「わたしのお父さんなの!」

「おし、俺の頬抓ってみろ」


右頬を犬死ちゃんとやらに差し出す。


「こう?」


全力で抓る犬死ちゃん。コイツは手加減というものを知らないらしい。

というか知る知らない以前に知っていてもコイツは手加減しないだろう。


それよりも、だ。見掛け通りの腕力らしくあまり痛くなかったわけだが――痛みはしっかりあったのだ。

つまり生きている! つまり夢じゃない!


……あれ、複雑になってきましたよ、奥さん。


「話を進めてくれ」

「そうなのです。海弟様? お父様? お父さん? どれで呼ばれたいです?」

「ご主人様で一つ頼む」

「……ご、ごしゅ……ご祝儀様?」


わざとだろ、コイツ。


「はぁ、一番呼びやすいので頼む。それで、何で俺の娘とか語ってるんだ、お前はさ」

「そりゃあ遡ること……まあ適当に遡ってください。支配者戦、と言えばわかるでしょーし!」


支配者戦? ああ、支配者をぶっ飛ばしたアレか。

いやぁ、死ぬかと思ったよ。


「あれの影響により、各世界に神様が生まれたわけです!」

「ほう、お前も神様というわけか? 新しく生まれた」

「ですです。旧時代の神様は一部を除き食われたので、犬死ちゃんには後の事はわかりません。ですがっ! わたしがお父上様の娘――」

「待て!!」


お父上様って何だ!?

何でここで新しいのが出てくるんだ。


「おっと、これは心の中での突っ込みだ。真実は別にあるのだよ。それでだな、食われたって何だよ」

「こっちも聞きたいことあるよ! でもね! お父さんを待っている人も多いと思うの!」


答えになっていないんだが……。食われたって何だよ。

何に食われたんだ。


「お父さんは暖かくて優しいわたし達にとっての唯一の親! だから、みんなと会ってあげてよ!」

「……それは全部の異世界を回れ、と? 馬鹿を言うな」

「ええー」

「ええー、じゃない。疲れることはしたくない。楽しいことだけしていたい」

「このっ、ダメ人間がっ! 殺すよ!?」


何だかキレられちゃいました。

まあ良い、殺せるものなら殺せるが良い。


我等海弟四天王の一人を倒したところで痛くも痒くも無い。


「……な、何らかの意図により性格が突っ込み役で固定されちゃいそうっ! 犬死ちゃんはボケが良いの!」


はっはっは、ボケの座は渡さんぞっ!

誰が来ようと俺という最強の――


ゴツンっ


頭に響く痛み。何だコレは。


「現実世界で殴られているんじゃない? 救出活動のために動かした木材が頭に当たったとか」


……現実世界って。

とりあえず整頓しよう。


俺、海弟、お前、犬死ちゃん。


「待て、ネーミングセンスがないな、お前」

「ええっ! 犬死ちゃんダメ!? 自分で付けた名前なのにぃ!」

「今からお前は焼死体ちゃんって事で」

「焼けてる!?」


おう、次から肌を黄色く塗り濃い紫のローブを纏うことだな。

ちなみに鎌はアルミホイルで作れ。


はっはっは、予想通りの乱れだ。

さすが海弟……燃やして出会って狂わせて。


作者を何処まで困らせる気なんだい?

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