第399話『心配じゃなく安心を』by海弟
眠い頭で書いちゃダメですね。
はっはっは。
「うう、さむさむ……」
こっちの世界は寒いなぁ。
久々の実家、というか元々ここが俺の家なのだがしばらく帰ってきていなかったので懐かしい。
「異世界で先生やったりレジスタンスの一員になったり、忙しいわけだが……家にも顔を見せないとなぁ」
服装は――やはり騎士の格好では不味いのでTシャツにジーンズと言うと言う……寒いです。はい。
そろそろ風邪をひきそうなので家の中に入ることにしよう。
まさか俺の部屋にあった鏡が全部物置に入れられていたとは……、ったく。
何でこんな寒い思いをしなきゃならないのだ。
インターホンを押す義理というか理由もないので、鍵を開けて中に入る。
「ただいまー」
「おかえ……何処に行ってたんだお前」
玄関で言うと兄さんが出てきて答える。
「ちょいと遠いところへ……。んじゃ、風呂とベッドを貸してもらおうか」
「いや、お前の家だから良いんだが……。それよりも、学校に――」
「今は冬休みだろう? たぶん」
俺の中の日の感覚はおかしくなってきているからな。
自信無いが……そういや向こうの世界は冬休みとかあるのだろうか。先生も休みがほしいです!
「……はぁ、聞いたぞ」
「何を?」
兄さんが俺の胸に新聞を押し付ける――何だか呆れられている様子だ。
何だか嫌な予感がしたが受け取って読んでみる。
「えーと、何々……コレは人違いです」
「人違いなものか。コレはお前だろ。髭を付けていなかったからわかる」
……まさかデパートのサンタさん騒動が新聞で取り上げられているとは。
まあ、テレビに映っている時にあんなことやったんだから当然か。
「それと、年賀状増量中だ」
どっさり盛られている年賀状。
そんなに知り合いいただろうか。
「政治家の息子、ってことで住所バレてるし。ったく、馬鹿かっ!」
「え、ええっ!? と言うことは?」
「日本中から送られてきた年賀状です」
知り合い以前に知らない人から送られてきているのか。
だとすると知り合いの奴等はどんなリアクションをするのだろう。
俺の学校の先生とかはどんな……って待てよ。
この騒動に誘発されて俺が尾行されたりしたら……不味いな。
自意識過剰なのはわかっている。
だがっ!!
「……まあ、どうとでもなれ。風呂沸いてる?」
「あ、ああ……。良いのか? 学校にも絶対行ったほうが――」
「大丈夫。近年学校が燃えるという不可解な事件がたくさん起きているんだから」
そう、放火犯不明の。
んまあ、俺はもう騎士という仕事をしているからな。
食べ物だって鏡があればいくつでも複製できるし材料さえあれば欲しい物を作ることも可能だ。
「……自給自足サイコー。さて、風呂行ってきますかな」
「あ、おい……。知らないからなぁっ!」
人間頑張れば何でも出来るものさ。
そう、例えば……例えが思いつかないな。
脱衣所で服を脱ぐと、扉を閉めていなかった事に気づき閉める。
そんでもって風呂の扉を開き――うん?
「ちっ、ラッキースケベな展開は無いのか」
風呂へ入るとしましょうか。
☆
思いのほか長く風呂へ入ってしまった。
外が寒いから仕方が無いといえばそうだろう。そして着替えが無いので素っ裸で自分の部屋に向かったのも仕方が無いといえばそうだろう。
厚着の、とても夜着に見えないような服に着替え掛け布団を引っ張って自分の部屋のテレビの前へ移動する。
小さな物だが見れればいいのだよ、というか映ればいいのだよ、電源がつけばいいのだよ。
「さて、ゲームします――」
ん? 待てよ?
ゲームソフトの並んだ棚を見る。
コイツを量産すれば一気に金持ちに……いや、ダメだな。
「中古で売るにしても怪しまれるに決まっている」
定期的に金に変えるという方法もダメだ。
現在、俺は逃走中の犯人の如く顔が世間に知れ渡っている。
ならば安全な策と言えるだろうか? 否、言えない。
「家に篭ってゲームをするのが一番だな。うん」
こっちの世界に帰って来たのも久しぶりだし思いっきりやるぞー。
と、コントローラーを握ったところで気づく。
「長い風呂のせいで頭まで溶けたか、海弟ッ! 俺はリアルファンタジーを体験する希少価値高き人間だろうに」
せっかく俺の夜着に着替えたわけだが、いつもの騎士の格好へ着替える。
すると感覚が戻ってきた、と言うか安心出来るというか、この格好が一番自分に似合っているな。
「さて、影流のところに遊びに行くのもいいが、この時間帯だとファンと徹夜でむふふな事をしているかも知れないしな」
いや、影流のことだ。一人で山に篭って……俺の中の影流像はどうなっているんだ。
寝ているだろうな、きっと。
「今の時間起きているのは……お茶か。俺の為に毎日夜遅くまで起きていたわけだし、昼夜逆転していてもおかしくはない」
うむ、ならばそっちに行こう。
掛け布団をしっかりと元あった場所――ではなく鏡の中に仕舞い別の鏡に触れる。
☆
水の枯れた噴水は寂しい、けれども……それが似合う人物もいるのだろう。
リティは水の溜まっていない噴水の縁に座り月を眺める。
その光景を数秒間眺めるとアレンは視界を真後ろに動かす。
「……お前か」
すっ、と物陰から現れた少年に向かって言う。
「お前で悪かったな、ちなみに俺は呼び捨てで呼ばれることを好む。海弟と呼べ」
「オレに用は無いだろう。姫様の元へ早く行け」
呟き、視界をリティを中心に移動させる。
その行動が気に食わなかったのか、海弟が言う。
「随分と信頼されているんだな。うん、よかったよかった」
信頼とは違う、と言ってやりたかったが心の中で押し殺す。
この少年にこの言葉を言うのは無意味だ。
「なぁ、アレン。強さ、って……今朝のお茶みたいなものなのかな」
「……」
後ろを向く、がいない。
視線をめぐらせれば、リティの元へ走っていったらしい。
「……姫様も海弟、お前も……何を考えているのか全くわからない」
夜風が冷たかった、地面も冷たそうだが壁に凭れ掛かり、地面に座る。
咄嗟に対応できなくなるが、海弟が近くにいるのだから少しぐらい油断していてもいいだろうと判断したのだ。
溜息を吐くと空を見上げる。
ここからでは月は見えないが、何か壮大なものを感じた。
あの空に、何があるのだろうと言う、好奇心にも似た感情。
「何も無い、いらない。任された事も出来ないような奴に……」
☆
そろりそろりと近づき、ちょうど良い距離へ入った瞬間に叫ぶ。
「あけましておめでとう!」
空を見ていた穏やかな表情から急激な変化が訪れる。
口は開かれ、目は見開かれ、顔がこっちに向き固定される。
「お、おおうっ!? な、何だその挨拶は!」
「一年の始まりの挨拶だ。古き良き何かが詰まったアレだ」
伝わらなかったと思うが頷くお茶。
散歩でもして眠気を誘おうとしていたのだろう。休憩していては意味がないじゃないか。
「空を眺めて何をしていたんだ? 星占いか?」
予知能力の源は星です。なんて衝撃の真実か?
「いや、空とは不思議だな。青くなったり、赤くなったり、黒くなったり……」
「全部綺麗だから気にすることはない」
それに有害でも何でもない。
よほど暇でなければ空なんて眺めないが、それでも綺麗なのはわかる。
「なぁ、この空は……どこまで続いているのだろうな」
「知るか。今は自分のことを考えるのが一番なんじゃないのか? 明日は作戦会議なんだろう?」
城と言うだけあって攻めにくい構造になっている。
そのため、勢いだけで突破出来ると思えないので作戦を立てることにしたのだ。
勿論、俺が主力となっている。
「……ああ、そうだな。けれども、今は今だ。明日のことは明日に考えればいい。だろう?」
「あとで取り返しのつかない事になっても――」
ああ、何だか兄さんの言いたいことがわかった気がする。
心配してくれているんだな。
少し微笑むと、きょとんとした表情をしているお茶に言う。
「この噴水、壊したの俺だ」
「……良い運動が出来そうだ」
剣を引き抜くお茶。
はっは、やっぱりね。
「アレン、いるんだろう? 挟み撃ちだ」
ゆらりと、建物の影から現れるアレン君。
……何てことだ。
「……た、例え逃げ切れる確立がゼロでも……俺は逃げようッ!」
広場の出口を目指して走る。
リアルファンタジーはやっぱり面白いな、うん。
何だかほのぼのとした感じに……なっているだろうか。
ちなみに、あとで海弟は処刑されました。
方法は……秘密です。にしても眠い。