第397話大雑把と大胆
さて、寝てました。何故起きれたか……それは海弟が剣を持って、ああ恐ろしい。
「眠いな、馬鹿のせいで眠れなかった」
「私のせいか? お前が私の部屋に入ってこないのが悪い」
……女の子の部屋に入るときにノックしても反応がなかったら入れないだろうよ。
……。
いや、本当は部屋に入って思いつく限りの方法をすべてやってもお前が起きなかっただけなのだが。
「とりあえず、お前は一番最後にココを出ろ。俺と、その他傭兵達が先にギルドの外に出て敵というか市民の目を引き付ける」
「うん、了解した。場所は覚えたな?」
大丈夫だぜ、たぶん。
親指を突き出し不敵に笑う。
俺の精神的な余裕を悟ったのか、殴り返してくれるお茶。
衝撃が頬を伝い視界を揺らす。
「……何すんだ」
「目覚ましパンチとでも名付けよう。それと、私はこっちだ」
何だ、逆か。
声が違う方向から聞こえてきておかしいとは思っていたが、なるほど納得できる。
「ホントに眠いんだよ。お前のベッドの一角を使わせてもらえばよかった」
「む、部屋に入ったのか?」
……しまった。
☆
もう一発殴られ気分爽快だぜ!
そんな気持ちのまま頬を抑えつつギルドの出入り口まで移動すると、既に複数の男達が集まっていた。
景気づけかは知らないが、酒を飲んでいる奴もいる。
そういうスタイルの奴もいるのだろう、と割り切って眺めていると――昨日のノッグが目の前に現れる。
まだ眠いせいか、視界がぼやけている。接近に気づかなかったのはそのせいだろう。
『よく眠れたか?』
「殴るぞ」
拳に息を吹きかける動作とともにノッグを睨みつける。
ノッグも冗談だったらしく、笑って誤魔化すと話題を今日の作戦の事へと変える。
『本当に――』
「もう言うな。あとは、信じて進むだけだ」
無論、俺は危ないと思ったら命を優先し逃げるがな。
そうだな、敵が一人でも出てきたら逃げよう。
「勝ち目はお前等で見出せ。俺は俺でやること、というか出入り口を封じるっていう大事な任務があるからな」
『ああ、我々も各自頑張るつもりさ。この国を取り戻したら……美人のお姫様が国の舵を取るんだろう?』
俺の後ろに居るお茶を見て言うノッグ。
美人と言えばそうなのだが、性格が凶暴だから気をつけたほうが良い。
そんな忠告も面倒だからせず、作戦についての会話だけをしていく。
「それはそうと、全員を燻り出す作戦……俺もある程度考えてあるのだが、お前等に頼っても良いのか?」
『うん、この町の地図はギルド内に複数枚あったからな。グループ分けして地図を見ながら連携を取るつもりだ』
「ん? 連絡方法があるのか?」
『当然だ。傭兵ならば誰でも……と、まあ教えずにいようか』
気になる……が、問答も面倒なので作戦開始の時間を待つ。
日が昇ったら……その時が開始なのだが……俺は先に出ていたほうがいいかも知れない。
服装は黒一色だし、夜の闇に紛れて行動できれば見つからずに城へ辿り着けるかも知れない。
提案するのも面倒なので一言「突っ込んでくる!」とだけ言いギルドの外へ向かう。
何だか後ろがうるさいが、見つかるから騒がないでほしい。
幸いなことに、周りに誰もいなく……近くの路地裏へと入り、出来るだけ日の光の当たらない場所を進むことにする。
今日の先生は遅れますよ生徒さーん、という叫びを心の中でしつつ前へと進むと家がひしめく場所へ出る。
さっきの通りが商人などが店を出す地区だったので、こちらは住まいを構えた市民が暮らす地区なのだろう。
こうやって区分けされていると、覚えるのも早くて助かる。ぼやけた頭だから思い出すのにも時間が掛かるが、朝が近いせいか風が心地良い。
「コーヒーの一杯でも飲んでから出てきたほうがよかったなぁ」
砂糖は大盛り五杯だ。
微糖? ははっ、中途半端なのは嫌いだぜ。
ぼんやりとしながら前へ進む事五分、いきなり壁へブチ当たる。
つまりは敵だ。人数は一、二、三……十人ほど。
「おい、邪魔だ。退け」
『退くかよ、バーカ!!』
「んじゃ死ぬほうを選ぶわけだな? おめでとう」
『はぁ?』
手のひらに炎の塊を出現させると、敵へと向かって投げる。
そういえばさっき俺は逃げるとか言っていたような気もするが……倒しちゃったし別に進んでも良いだろう。
目の前で起きている惨劇へと目を向ければ、彼等がちょうど断末魔を上げて俺のほうを睨みつつ力尽きる。
何だか悲惨だ。墓は作らんぞ。
「さて、人を引き付けるのは俺の役目じゃあないんでね」
歩みを進める。そうしてから少しすると、広場のような場所にでる。
実際は通りが一箇所に繋がっていただけのようで、ここの中央に噴水が設置されている。
女神が壺のような物を持ち、何故か口から水を出すという意味不明なものだが……設計した奴に俺は賞賛を伝えたい。
何故ならば、この女神衣服を一切纏っていないのだから。
何て言うか……裸でリアルだから良い。
「つまりエロいッ!!」
そう叫んでから周囲を見回す。
誰もいないようだ。一先ず安心。
「さて、朝日もそろそろ――」
そんな言葉を呟いていると、背後から太陽が昇ってきたようで俺の影が伸びていく。
後ろを向けば、直射日光ことお肌の天敵が俺へと降り注いでいた。
「……はぁ、眠い」
特に感銘を受けることなく、先へと進むことにする。
そろそろ傭兵達が動き出した事だろう。残った騎士達は防衛の達人ということもあり――そんなことは知らないが――ギルドに残ってもらう事にしたのだ。
俺が決めたのではなく、お茶に説得されそうしたらしい。
実際、戦力外だと伝えられているようなものなのだがな。
騎士というのは戦争の道具の一つだ。人だが道具。
団体行動という規律に縛られ、数でゴリ押しする戦争へ勝つ為に複数で行動することを義務付けられた人形。
彼等は複数の人間で行動しなければ、真価を発揮できないのだ。
騎士というのは支えられつつ支える、というものらしい。
つまり俺は例外中の例外。
ふっ、外道騎士に相応しい。
そんな自画自賛で眠ることを阻止しながら城へ辿り着く。
まず真正面を封じると複数に分かれて他の通路から出られるかもしれないので使用頻度が低い出入り口から塞いでいこう。
「うまくやってくれよ、リティニアさんよ」
あとその他大勢も。ノッグはかろうじて覚えてるぞ。
☆
ひんやりとした空気がリティの肌を撫でる。
風が冷たい、久々に感じる空気の張りに緊張して体が強張る。それと同時に心の中では復讐心に燃えていた。
今回は第一段階に過ぎないが、目指す城にいるのは……父親の仇なのだ。
もしかしたら、母親も同一人物に殺されたのかも知れない。そんな相手なのだ。
「……くっ、落ち着け」
自分自身に言い聞かせると深呼吸する。
ギルドの外だが、現在は誰もいないであろう。誰かいたとしてもアレンが何とかしてくれるだろう、という自信がある。
現在進行中の作戦で、リティは要とも言うべき存在だ。
町に、外にいる元々は善良な市民であった人々は――現在は敵へと回っている。
それと、どれだけ仲間に出来るか。
「……違う。すべて、私達の仲間にするんだ。全部手に入れる、自分の為に」
利己的な行動はあまりしたくはない。誰かを犠牲にするなど持っての他。
けれども今は……という気持ちが現状で勝っているリティの心の迷いを吹き飛ばすかのように風が吹く。
「この道を歩き、私は私の出来ることをするだけだ」
誰が居るわけでもない、なのに胸を張って前進する。
自分に対して、なのだろうと苦笑いしながらリティは進む。
しーん、としているのは朝だから……という理由だけではないだろう。
町にいる犯罪者と一般人の比率がおかしいことになっているせいだ。
その瞬間、違和感に気づく。
城を占拠され、もう数日経っている……そして五万の兵は城の占拠のためにわずかばかりの兵をココに残し北へと去っていった。
この国の北には何もないはずだが、あるとすれば遺跡か。
まあそこへ向かっているのだろう。
現在問題なのはそこじゃあない。
相手を単一化して見ていたのだ。
相手はエシヴァンだけ、そう思っているのは間違えだった……ということだ。
この肌寒い中、囚人服を着てこちらへ向かってくる集団を眺めて思う。
「……相手は国だけじゃあない。犯罪者すべてだ。ちっ、鍵はこちらで預かっていたと……まさか壊したのか」
不可能ではない。けれど、どの犯罪者の牢も魔法をかけ厳重に捕獲……隔離されていたのだ。
「相手が犯罪者だと、悪知恵が働いて困る」
騎士の中でも魔法を使える者を脅して壊させたのだろうか? と一瞬思ったが、今は考えるべき時ではない。
目の前の障害、犯罪者達を倒す。
「知っているか? 脱獄者はあえなく死刑だ。逃げるのならエシヴァンへ逃げることだな」
相手へは聞こえないであろう声に妖艶なものが見え隠れする。
いつの間にか隣に立っていたアレンを見据え、というよりもチラリと一度目を向けて伝える。
「あの陣形ならば真ん中を崩すのが手っ取り早い。相手も殺すつもりで来るのだ、お前も――」
「姫様の命が優先です」
「……ふっ、ならば私に傷の一つも付けるなよ!」
肩を並べて突撃する。
片手で扱う剣を一本持っているだけだったのでかなり扱いにくいが、人数差と武器に差があっても勝てる自信はある。
叫び声をあげながら突撃すると同時に、何か不可解なものを見た気がした。
箱のような……違う。鏡だ。鏡を組み合わせてできた巨大な箱が城の方に見えた。
「まさか、な」
一人目に斬りかかる。
時に避けるのがうまい奴もいたが、押し切る事は出来そうだった。
☆
「ココに天才がいる。はっはっは、城の周囲を全部囲ってしまえば一々移動しなくても良いじゃないか!」
さて、眠いのでコレで失礼しよ――噴水で演説ぐらいは聞いてやるか。
いい子守唄になることを期待しているぞ。
海弟の眠たさ全開で書きました。そして妙に丁寧なところと丁寧じゃあないところがあるのは秘密です。
敵はエシヴァンだけではない、大きな敵に惑わされ小さな敵が見えていなかった……、と言うことなのですが姫様はなぎ倒して進みます。
というか海弟はせっかく姫様から教えてもらった場所へ行かずに何をやってるのか。そうですね、結果は同じです。