第394話レジスタンスと新米教師
更新が遅れたぜ。
浅い説明したかっただけなのに思いのほか長くなったぜ。
前書き長くするとアレだからコレが最後の行だぜ。
カツカツ、と連続して響く音に気をとられながらも、昨日のことを思い出す。
あの夜のことだ。
☆
ごろつき達を倒すと、屋根の上にいた二人に俺は声を掛けた。
勿論、アイツ等は間に合わなかった。というか、思いのほかごろつき達は弱く……喧嘩慣れもしていないように思えた。
少し考えている間に、二人は降りてきたらしく俺の肩を叩く。
「……来たか」
「おう、答えてやっても良いが……声音で当ててみせよ」
……声だけで誰か判断しろ……ってか。
こっちの世界じゃあ知り合い少ないからなぁ、というか二人しかいないからな。
「お茶とアレン君か」
「お茶言うな。何だ、何処がお茶だと言うのだ。アレン、フードを取ろう」
周囲を見回しフードを取る二人。
リティだっけ? まあお茶で良いじゃないか。
「何でお前等は城の外にいるんだよ」
「うむ、実は――」
「姫様……ヤツ等が来ます。先ほどの仲間でしょう」
お茶の言葉を遮り俺にも聞こえるように話すアレン君。
ヤツ等? などと聞く間もなく路地裏へと身を隠すお茶に付いていく。
「ヤツ等って何だよ」
「シッ、見つかる……」
唇に人差し指を触れさせ俺に言う。
表情が強張っていた。
その様子から敵……なのかと思ったが来たのは意外な奴等だった。
「……むっ、町長さんか」
「みたいですね。ヤツ等の仲間ではないようです」
だからヤツ等とは誰なんだ。
聞く前にお茶に腕を引っ張られ広い通りへと出る。
表に出てみれば、初老の男性を筆頭に何人かの男性が剣や盾を持ちこちらを見ていた。
「……仲間、か?」
「そうだっ。我等は王国軍からレジスタンスと名を変え存在している……まあ、話は後だ」
彼等と話を通してくれたらしい、俺を一瞥すると頭を下げる町長とやら。
つられてか俺も頭を下げてしまう。
「どうする海弟。我々は基地となる場所へ戻るが……来るか?」
「色々気になるところもあるし、付いて行こう。情報収集もしたかったところだ」
それに、何故あんなにタイミング良くお茶達が現れたのか……。
偶然と言えばそれまでだが、屋根の上に登場したのだ、偶然ではあるまい。
そんな思考をめぐらせつつお茶達についていくと大きな建物が見えてきた。
石で出来ているらしい、手入れはされているらしく苔のような物は見当たらなく……ドーム状になっていてかまくらみたいだ。
ただ、比べるのも億劫なほど威圧感の差がある。
「……ここは? えと、何て読むんだ?」
看板のような物があるが読めないのでお茶に聞く。
元々書いてあったものの上から張り紙がされてあり、赤い文字で殴り書きされている。
「キサマ等が悪だッ! 滅びるが良いッ! と私が書いたものだ。気品が感じられる文体と言われる私の――」
「一言二言で文体もへったくれもあるか。その下には何が書いてあったんだ?」
眉を寄せるお茶。それだけの動作なのに何故か俺の心に罪悪感が積もる。
しょうがないので笑ったら殴られた。
「冒険者ギルドだな。この町で城の次に硬い建物だ。アイツ等から身を守るにはちょうど良い」
「さっきから聞きたかったんだが、アイツ等って――」
「続きは中で話そう」
そう言うとお茶は元冒険者ギルドである現在の基地へと走っていく。
その姿を眺めていると、後ろからふと視線を感じて後ろを見る。
見られていた。何という眼力、何という迫力。
アレン君である。
「……何だ? 何か気になることでもあったのか?」
声をかけてみたが返事はない。
視線を前へ戻すと、何か聞こえてくる。
「お前は、似ているな……」
「ん?」
後ろをチラリと見る。
「……オレの父親に似ている。お前は強いな」
「まさか、俺は弱い。お前の父親の強さは俺の強さじゃあないんだ」
即答する。
俺は強くなるために、この世界にいるのだ。
自分だけの、自分が認める強さを求めに来たんだ。
他人に認められたところで俺はそれを否定する。
「そうか。だが、一つ忠告しておく」
「忠告?」
後ろ向くのも疲れたので前を見て呟く。
「……揺れるなら、自分一人で揺れた方が良いんじゃないか?」
後ろを振り向く。
いなかった。さっきまで気配はあったのだが……まあ良い。
「一人は寂しいんでね。迷惑掛けるが、よろしくな」
さっきの男達はギルドへと着いたようでお茶と一緒に中に入るところだ。
アイツもお茶のところにもういるだろう。
ただ、俺のこの声は届いたと思う。
☆
ギルドの内部は木製の床に外壁をそのまま壁に使っただけという斬新な作りだった。
あとから設置されたのか、病院にあるカーテンみたいなものが設置されて内部の壁代わりになっていた。
しかし、規模からしてもかなりでかいことがわかる。
影流の国にも一応はギルド施設はあるのだが……ここまででかいものは見たことがない。
もっと言うと入ったのは初めてだ。どの世界でも内部の形は一緒なのだろうか?
その疑問も長くは続かず――騎士風の男に連れられ木製の壁で出来た一室に入る。
そこには町長とか言う人間と、お茶がいた。
騎士風の男は部屋から出ると扉を閉めて部屋の前に立っているようだ。
「……ふむ、では……何から説明すれば良いか――」
「よし、じゃあ俺が質問して良いか?」
お茶の顔を見て言う。
「……ん、良いだろう」
「よし、じゃあ一つ目だ。お前達はレジスタンスと言ったが……何と戦っているんだ?」
「エシヴァン……まあ今までは仮想敵国だったわけだが、現在では完全な敵国となっている国だ」
「敵国へ対するレジスタンスって……おかしいんじゃないのか?」
レジスタンスとは権力者に立ち向かうことの意味だろう。
お姫様のやることではない、しかも民まで巻き込んで。
「……非常に不甲斐ない話なのだが……この国にも犯罪者はいる、その頂点とも言うべき男に……ここまでの被害を与えられたのだ」
「はぁ? 一人でか!?」
「いや、裏がいる。エシヴァンの王がそいつに兵を五万ほど与えてな……その塊が一晩のうちに直撃し、こんな状態になっているわけだ」
「ご、五万ってお前……。一つの国がそれだけの兵力を保有するって――」
「ああ、我が国『シアホイル』と敵国『エシヴァン』はこの大陸において最も大きな土地を保有する国家で一位二位を争っていたからな」
……この大陸の大きさにも、町の数にもよるが……ほとんどを兵力につぎ込んでいると言っても良い。
エシヴァンというのはよほどの武力国家なのか。
「対する……この国は、現状に満足してしまった……というわけか。犯罪者一人に率いられた兵に負けるんだからな。というか国境沿いに関所はあったんだろう?」
「山越えして侵入したらしい。さすがに、山を整備するまで財政が整っていないのでな……」
さすがに見つかりそうなものだが……。
それを悟ったらしいお茶。
申し訳無さそうな顔をする。
「それもこれも私が不甲斐ないせいだ」
「まさか、お前は関係ないだろ」
今までの話にお茶は全く関係なかったように思える。
逃げられただけでもすごいことだ。
「しかし、五万の兵がこの町にうろついているのか……」
「いや、今は五万もいない。奴等、他に何か目的があるらしく――北へと向かっていったきりだ」
「ほう、ならば城の中は――」
「占拠されていると考えていいな。物資も奪われていると……」
おお、怖いな。
あの時誰とも会わなくてよかった。
「そこに敵の親玉がいるんだろう? レジスタンスなら叩きに行こうぜ」
「無理だ。武器の数が足りない。兵力も足りない。こちらは女子供も抱えているのだ、攻め込むにはとても条件が揃っていない」
「ジリ損だぞ」
「だからと言って、今の状況では命を捨てるのと同じだ。もう少し、何かチャンスでも舞い込まないと攻め込むことは出来ない」
……まあ、そうか。
この様子だと食料はありそうだな。いつ尽きるかはわからないが、最終手段俺が輸入という方法を取らなくてもいいようにして頂きたい。
「……はぁ、少し熱くなってしまったな――」
「と言って彼女は服を少し――お前は何で鎧なんて着込んでいるんだッ!!」
この野郎、上から下までテッカテカじゃないか。
「何だ、どうした?」
「お前は、アレだな。戦うのは好きか?」
「ああ、体を動かすことは元々好きでな――男を打ち負かした時の快感と言ったら……そうだ、今度手合わせしないか?」
「こんな状況だ。無理だろ」
「……そうか。ならば一刻も早く国を取り戻さねば」
チャンスが来るまで無理と言ったのはお前だろうに。
それに、最後に聞きたい事もある。
「意気込んでいるところ悪いが最後の質問だ。何で、俺の前に現れた」
「……ん?」
いきなりすぎたか。
「俺が襲われたと同時にお前が屋根の上から現れただろう――」
「む、占いだ」
……占い?
「姫様は予知の力があるのですよ。そう、例えば……今回の事……姫様がいなければわからないことがたくさんありました」
町長が言う。
「ほお、予知の力か。じゃあ犯人も――」
「そうだ、私の力で特定したのだ。母親譲りというヤツだな」
「お前の母さんも予知能力とやらを持っていたのか」
「すごい人だった。ああ、優しく……誰にでも微笑み一切の悪口を言わない……すごい人だったよ」
確かにすごい。
誰の悪口を言うこともない、何てことは俺には出来ないからこれからいつも他人の悪口ばかり言っていようかな。
それはダメだ。
三日で悪口は尽きる自信がある。やるならば語尾にお菓子の名前を付けるとかか。
うん、良いなそれ。
「と、俺の目的はそれじゃない」
強くなることだ。
強くなって、強くなって、俺を待つ奴に安心させるぐらいの強さを手に入れよう。
「ふっ、まあ良い。この手鏡を渡しておこう。コイツを通して声だけ伝えることが出来る」
「何がまあ良いのかはわからないが。受け取ろう。使い方は?」
「だいぶ前のことだから俺も忘れたぜ。というわけで自分で探せ」
何だその視線は。
話も終わったので外へ出る事にする。
とりあえず、今日は帰って寝ることにしよう。
「おい、お茶……」
扉に手に掛ける際、言葉を投げかける。
「……リティと呼べ。何だ?」
「チャンス、ってヤツを……連れてこようか?」
向こうの、俺の知り合いを呼べるだけ呼べば城の一つ二つなんてあっという間に奪還できるだろう。
すごい奴等なのだ。たぶん、俺があの中で一番弱い。青空なんかよりももっともっと弱いだろう。
実力差、とかじゃない。何かが足りないのだ。
「……自分で掴めるのに他人に頼る必要が何処にある」
「そうか。それじゃあ、少しの間だがお前に俺の背中を預けるッ!」
「光栄だな。きっと、異世界で名を馳せる剣士だろうに」
ふっ、剣士ね。
確かに騎士には見えないよな。
「俺の背中をお前に預けたんだ、俺にもお前の手伝いをさせろよ」
「当然、異世界にはもう帰るのか?」
「そのつもりだ。明日の夜――また会おうッ!」
☆
カツカツ、という音が消える。
それと同時に俺の思考も途切れる。
「海弟の担当してもらう教室だよ」
「おう、任せろ青空。学園長より長くインパクトのある挨拶で生徒をイチコロだぜ」
「あはは……。それじゃあ、道は覚えたよね?」
この教室とやらの道のりのことだろう。
当然、覚えた。
一度頷き教室の扉に手をかける。
青空が笑いながらこちらを見ているので無茶を少しやってみようと思う。
「ここは魔法学校だ。そして、俺は魔法を使うッ! お前等には当然、魔法の適性があるッ! 今から教えるわけだが――まずは、自己紹介だ」
こほん、と咳を一度する。
「と、言うわけで俺の名を当ててみよう。手を上げろ野郎共ッ!」
……シーン
「何だお前等。第三の手を上げているのか? 先生にはそれは見えません。とりあえず、窓際の席の奴が寒そうだから運動させてやろう。ほい、そこの立て」
『イヤです!』
「よし、じゃあ殴りに行くから座ってろ」
『先生は先生でそれ以外の何でもないと思います! だから名前なんて知らなくても大丈夫だと思います!』
それが彼の最後の言葉だった。
「はい、もう一度言うぞ。手を上げろ」
何だみんな。両手を上げなくても大丈夫だぞ。
ちなみに、この元気の良い男の子のお墓は海弟先生指導の下、磔に決定し実行されました(死んでません)。
いやぁ、教師の部分がコメディを担い――異世界部分がシリアス装う(装う)。
大切なことなのでカッコ付け二度言いました。
はい、三度言います。
装う。
それでは次回!