第393話『誰しも、強さに一度は悩む』by海弟
海弟もそういう時期になりました。
借り物の力じゃなく、自分の力について考える時期にです。
人の目に見えるものと見えないものがあるのなら、心はきっと見えないものだ。
けれども、見えたらきっと楽しいだろう。
「ある日のことです、俺はカップル撲滅のために町に繰り出しました。そして辿り着いた答えはサンタを脅しプレゼントを子供に昼のうちに配るよう脅迫する、ということでした。これで子供が眠り起きたらクリスマスは終わりです。しかし、作戦に無茶があったようで、何故か俺はサンタの服を着てインタビューに応じました。その時気づいたのです。俺が夢を子供達にプレゼントすればクリスマスは終わると。それを日本中の子供達にテレビを通してそれを伝えると俺は外へ出ました。で、サンタの服は蒸れるので断念しました。告白されました」
はい、解説終了。
「……ふぅ、えと……青空さん?」
「さん、か。うん、えと……何かな?」
俺に笑顔を向けてくれる青空。
う、うーむ……奇跡じゃ。奇跡が起こっているのじゃ。
「ワンモアプリーズ」
「え、と……恥ずかしいけど、二回も三回も同じ……だよね」
こほんっ、と咳を一つすると目を瞑り俺にだけ聞こえるような声で言う青空。
「私は、海弟が好きです!!」
「テンキュー」
……このデパートに丈夫な縄はあるだろうか?
大丈夫、誰にも知られず地に帰るとするよHAHAHA。
「青空……世界は広い、何処までも……俺なんか――」
「ううん、海弟は広い世界よりもおっきいよ! 世界を賭けて、何度も戦ったことがあるんでしょ?」
……それを言われると、そうなんだが。
ちょっと違うと言わないといけない気がする。
「青空、俺は世界を賭けてとか誰かのために戦ったことなんて……少ないぞ? 全くないとは言わないが、自分のために今までのことはやった自覚がある」
「でも、みんな海弟には感謝しているんだよ? 海弟が頑張ったから、それをみんなわかってるから……」
……こう、純粋な言葉を並べられるとむずがゆいな。
コレが彼氏彼女の関係と言うヤツか?
「あー、そうだな……。お前から見れば、俺は誰かのために戦っているように見えるのかも知れない」
言葉が出てこない。青空を説得するための言葉なんて持ってない。
いや、必要ないんだろう。
遠回りしているのはわかっている。
けれども伝えなくてはいけない。長くなってもいい、伝えろ俺。
「けどな、何かを背負うってのは……大変なんだよ。だからこそ、俺は俺自身のために戦っている。楽だからな。だから、えと……」
……うん、丁寧な言い方なんて思いつかないや。
「俺以外の何かを俺が背負って前に進めるほど、今の俺は強くない。お互い、強くなってから――何かを掴んでからにしよう、そういう関係はさ」
「……私は、強くなれないよ……。海弟みたいに、強くなる方法を知らないもん」
「はぁ、俺だって知らないぞ。だからスタートラインは同じだ。いや、俺のほうが遅れてるな、三週ぐらい……お前はすぐに強くなれるさ」
サンタ服を青空へ手渡す。
「……え、と?」
「と、言うわけで強くなってくるとしようじゃないか」
「へ?」
手鏡を取り出し、あの場所……姫とやらの部屋の思い浮かべる。
少々荒い方法のほうが俺は好みだ。辛い道をあえて選んでやろうじゃないか。
「おっと、そうだ……。明日また会おう、約束しとかないと忘れるからな」
「……帰ってくるんだよね?」
「ああ、教師だろ? してやるぜ!」
夜の間、その間だけ俺は向こうの世界にいることにしよう。
成長するには手っ取り早いが――俺には我慢も必要だ。
鏡に触れると吸い込まれる――次の瞬間、目の前は真っ白で、それがぐにゃりと曲がった空間へと変わると線のくっきりした現実へと変わっていく。
ここが、あの姫様の部屋か。
☆
「……えらく殺風景になってるな。前は色々あったんだが……何かあったのか?」
扉から出る。廊下に出ると、凍てつき時が止まったような……そんな感覚に陥ってしまうような光景が広がっていた。
人の気配が全くない。誰かが暮らしているからにはありそうな活気が全くないのだ。
「……おかしいな。何があった」
前に姫様と誰かが喧嘩していた場所まで歩いていく。
誰かに見つかるかと思ったが、やはり誰もいない。
「……本当にここは城か?」
扉を開き、中に入る。きっちりと整理整頓された部屋なのだが、何処か寂しげがある。
「何処か別の場所に――ん?」
机の上、そこに紙が置かれている。
「……こっちの言葉はわからないな。とりあえず仕舞っておこう」
言葉は共通なのに字は違うものを使うのか。
まあ、覚える必要があるのなら覚えることにしよう。
他に目に留まるものはなく、そのまま部屋から出る。
「ふむ……あれだな。家出ならぬ城出というヤツか?」
いやいや、そんな大事になるはずがない。
戦争で負けた、とかそんな理由がなければこんな無人の城になるはずがないのだ。
いや、負けたとしてもこの国には姫が一人いる。あれほどの短期間で二度の戦を出来るはずがない。
まさか一度の戦で王と姫が殺されてしまったのだろうか? それとも、捕虜とされているのだろうか?
「うーむ、謎は深まるばかり。こりゃあ今日は眠れませんな」
元々睡眠など想定していなのだが……。
城下町には人がいるはずだ、そこへ向かうとしよう。
「強盗、ダメだ……。もっと正攻法でいかなければ」
外道の正しいやり方……うーむ、やはり大怪盗を名乗りトリックを使って売り上げをすべて巻き上げる……か。
鏡を使えばそんなのいくらでもやれるな。
「はぁ、まあ良い。情報収集から始めよう。リティとアレンの格好は目立つからな、何処かに逃げたとしても手がかりは何かあるはずだ」
☆
無法地帯だぜ、ひゃっはー!
「……情報収集どころじゃあないな。まずは、この城下町の平和を取り戻すことから始めるとするか」
城から一歩出たちょくごに数十人に囲まれて金品要求されるって何だよ。
勿論、数秒で血の海に沈めたけれども。
「無法地帯になるにしても、親玉がいるはずだ。そうだな、城が見捨てられて何日経っているんだ?」
大きな通りの中心を歩きながら呟く。
黒っぽい雲が空を埋めていて……雨が降りそうだ。
「……おい、お前等。雨が降るぞ、その前に襲っておいたほうが良いんじゃないか?」
路地裏、そこにいるであろう馬鹿達に声をかけてやる。
バレているのだから隠れている意味がないと悟ったのであろう、ぞろぞろと……数十人が一度に表通りに現れる。
「……うわぁ、囲まれたというより……包囲されてるよ」
俺一人で倒せるかな。
と、言うより……コイツ等を倒せば……俺だって少しは強くなれるはずだ。
「せっかくだ、魔法を使わず倒すことにしよう」
発光剣こと俺の得物を取り出す。
白の剣と黒の剣はチート性能なので俺が強くなるために不必要だ。
「剣よ光れッ!!」
『グッ、何が……?』
ならず者の一人が言う。
光るだけだ、安心しろ。
「さあ、何処からでも掛かってこ――」
「待った待ったァー!!」
上から聞こえてくる声。フード付きの薄汚いローブを着た二人組みが屋根の上に立っていた。
片割れは鉄製なのだろう、剣と盾を持ち、短い二本の剣を持っている。
「……待っていろ、今降りるッ!」
うんしょ、と屋根の上から恐る恐る降り始めるローブ達。
『降りてくる前にやっちまえ!』
『オウ、そうだな』
……アイツ等の仲間ではないんだな。
それよりも俺をピンチにさせてどうするよ。ローブさん。
「……まあ良い。生き残るのはこの俺だッ!!」
……うん、海弟らしくないね。
でも、青空さんは満足してくれただろう。と言うわけでしばらくの出演は――海弟さん?
この野郎、勝手に約束などしやがって……。
次から一話ずつ世界が入れ替わっていくのか、面倒な……。
今回始まるこの騒ぎ(?)を名付けるとしたら
『姫の復讐編』ですかね。うん、後書きは無法地帯だぜ、ひゃっはー。
んでは、今日は疲れる一日になりました。