第390話『ん? え、ん?』by海弟
何が起ころうと海弟は海弟。
つまりは、唯一無二の馬鹿の称号を手にする者。
語るは外道、示すは馬鹿……そう、それこそが海弟ッ!
「お、重い……」
やばい、思いのほか重くて圧死しそう。
いや、もう解放されたんだが。
「さっきからハァハァって、大丈夫なの?」
「人の呼吸器官はそれほど弱くない、安心しろ。心配するなら――」
耳を聞こえてくる声へと傾ける。
『こんの魔王ッ! 私はキサマと決着を着けるまで帰さないッ!』
『その台詞何度目だ、勇者。怪我人相手に勝って何が嬉しいというのだ。それに、我も勇者も剣がなければ……決着が着いたとは言えないと思うがな』
『その台詞も聞き飽きたッ! 魔王の洗脳だな? 効かんッ!』
『いや、効いてくれ。これ以上、向こうの連中を待たせるのは申し訳ない……』
さて、俺から魔神に一つ問題を出してやるとするかな。
「精神が幼稚園児並みなのはどち――」
「勇者」
「正解」
全て言う前に答えるとは中々やるな魔神。
とりあえず自分の母親なのが恥ずかしい。俺も随分恥ずかしいことをしてきた自覚はあるが親はその上を行っているんだからな。
どうやら食堂にいるらしい二人、たぶん勇者に近くで絡まれここまで連れてこられたのだろう。
まだ直っていない壁――何かシートみたいなのが張られている――をブチ破り中へと入る。
「えっ、え?」
「どうした魔神。早く来い」
「……い、いや……遠回りします」
何だアイツ、すぐ近くなのに。
勇者と魔王以外の奴等は『第三の破壊者が来た……』とか呟いているが無視して進む。
たぶん魔神のことだ。今はいないけど。
「さ、魔王に勇者。剣を返しに来たぞ」
鏡の中から白の剣と黒の剣を取り出す。
『各自逃げる準備をしろっ! この城はもう持たないッ!!!』
兵士の一人が叫ぶ。
それに釣られてか料理の乗っかった皿を放置し食堂から逃げていく兵士達。
何だ失礼な。
「で、魔王?」
「……そうだ、海弟……お前に用事があったんだ」
「無視?」
「何だ、用事って?」
「息子まで無視? お母さん泣くよ?」
それはそれで珍しいから勝手にやっててくれ。
俺も剣を返しに来ただけだしな。
あの戦い、何でこの剣を使った戦いになったかはわからないが……魔王の剣には助けられた。
「その剣……なのだがな、お前に持っていて欲しい」
「はぁ!? 何言ってるのよ。この剣は、あんたが持ってこそ――」
「受け取ろう!」
黙れ勇者。コイツはもう俺の物だ。
光る俺の剣を鏡に仕舞うと黒の剣を腰に下げる。
「理由はわからないが、もらえるものはもらっておかないとな。最強の剣の片方だし」
「聞かないのか?」
「魔王、お前の望みを叶える礼だと思ってもらっておくよ。魔神を頼んだ!」
少し言葉の意味がわからなかったらしく、少し固まる魔王。
「食ったの?」
「おう、魔神。遅かったな」
遠回りなんてしなきゃ良いのに。
マネキンが俺のところまでふらふらと歩いてくる。
「さて、魔界でこいつの面倒を見てくれるだろう?」
「……いや、少し待ってくれ。それが魔神か? お前と一つに――」
「分離しました」
「……そ、そうか。まあ……良いが」
納得できていない様子の魔王だが、知った事ではない。
お前が求める魔神の力はこのマネキンが持っているのだから。
「……今思うと、おかしいな。だから人形にしろと俺は言ったのに」
「でかい方が良いの! 何かと便利、だし」
「軽いほうがおんぶで疲れないんだが」
関係なし、と椅子に座り込む魔神。
勇者はと言うと手の付けられていない料理を食べ始めている。
あとで勇者には白の剣を渡せば良いだろう。
「そういや魔界の奴等は何で魔王を探していたんだろうな」
「何か起こったのだろうよ。たまに頼られるときがある。それでは、行ってくる」
「……おう、俺の元へ帰ってこいよ」
「ふっ、違うだろう。一応、複数の魔神を引き連れる王であるのだからな」
島に戻るのか。何だ、魔王がいれば面白いのに。
アレだ、親戚のたまに面白い事を言うおじさんみたいなものだ。
「さ、魔神。魔王に付いて魔界に行って来い」
「……へ?」
「へ? じゃなく、そういう約束だったからな」
首をブンブンと、それこそ上部分が飛びそう――あ、飛んだ。
「こ、怖いぞ、お前ッ!」
頭を拾って渡してやる。これくっ付くのか?
もしくっ付かないのであっても魔神なら自力で直しそうだが。お、くっ付いた。
「いたた……。でもさ、わたしにも意思があるんだよ」
「知るか。拒否したいのなら俺を倒すことだな」
「……無理そう」
だから潔く行くが良い。
「イヤだァッ!」
「おい魔王、腕と足を引き抜くぞ。手伝え」
「良いのか?」
「何なら下半身引き抜いても良い」
「とりあえず腕と手だけに済ませておこう」
魔王は残虐だなぁ。
表情はないが、たぶん俺と魔王を恐れているのだろう、椅子から落ちてなお俺達のほうを向きながら後ずさる。
座った状態のままよく動けるものだ。
「ちっ、魔神……そこまで言うのなら何か行きたくない理由でもあるのか?」
「舌打ちが微妙に怖いけど……うん」
魔王に視線を向ける。コイツもコイツで時間が無いんだったな。
ならば、手短に聞くとしよう。
近くに椅子がなかったので机に座る。さっきの奴等は何に座って食事していたのだろう。
きょろきょろと視線を向けると椅子が一角に集まっているのが見えた。
うん、何々……『クリスマスパーテ――』
「くそっ、くそっ、くそっ、無茶苦茶にしてやるぜェー!!」
「うおっ、いきなりどうした!」
異国文化なんてこの異世界に持ってくるんじゃないバーカ!!
うわぁぁぁぁぁぁっ!!!
クリスマスってのはアレだろう? 町中の彼氏彼女がいちゃいちゃとするアレだろう?
はっは、去年は気にならなかったが今年はさすがに死にそうだ。
「というか今日なのか?」
最近日にちの感覚が無いからなぁ。
そういえばヒカリの奴と戦った日、あの日は車を多く見たな。
「……クリスマスに家族で何処かにお出かけ、かな?」
そして今日が! 二十五日だと言うのか!!
ふざけるなっ! 一日ぐらい消滅してもいいだろう!
「落ち着け海弟!」
「そうよ、彼女がちょっといないぐらいで……」
母親って一体何なのだろう。
「こ、こうなったら……向こうの世界にいって世界中のサンタさんを脅し、プレゼントを昼間のうちから配らせてクリスマスを一刻も早く終わらせるしかないか」
「いや、それは違うと思うが……。とりあえず落ち着け!」
「知ったこっちゃ無いぜ!」
とりあえず世界中にあるケーキ屋を襲撃するところから始めるとしよう。
集めたお菓子は俺一人で食べるんだ。はっは、素晴らしい作戦。
「血の涙ってのを始めてみたわ。あ、ジャキルが一回流したことあったっけ……確か、アレは急に目潰しがしたくなって――」
何か勇者が話しているが俺の知った事ではない。
鏡は、鏡は何処だ!
「か、海弟……大丈夫?」
「たぶんな! 魔王、魔神、行くぞ!」
「え、と……何をしに?」
「クリスマスと言う名の地獄を見せにさ!!」
「彼女がいなくて童貞な少年の狂気の一日が早速始まろうとしているのだった……」
変なナレーションを付けるな勇者。
それにただ一つ、認めちゃいけない罵声が混じっていたぞ。
「彼女がいないから怒ってるの?」
「さすが魔神、俺の心にこんなにダメージを与えるとは……」
まさかマネキンにこんなことを言われる日がこようとは……。
「すまんな、お前達は俺の同志だ、だが……お前達には足りないものを俺は持っていたようだ。さらば魔王、魔神ッ!」
鏡なら、鏡ならこの手にこの胸(ポケット)に、あるじゃないかッ!!
「海弟落ち着いてっ。えっと、彼女にならなってあげるから!」
「……うん?」
「えええ、あ……うー、こんな姿してますが……えっと、えーと……はぁ。ふー、好きで――」
「俺はマネキンと付き合う趣味はない。人形遊びをしていたほうがマシだ」
「こうして、一人のマネキン野郎の恋は終わったのだった」
このナレーションはどうかと思うぞ勇者。
というかノリだろう?
クリスマスの狂気とでも名付けましょうか。
心に隙が出来た時、海弟の心にやってくる……。
最悪の悪魔がっ!
どうでも良いですが、魔神に告白させてみました(オイ
元々、アレですよ。フラグは立っていたわけです。何処でかは一目瞭然。
さて、恋愛とか書くの苦手な自分ですから、即行で振っていただきました。