第383話魔神思いとヒカリの思い
くそっ、ダメだとわかっていたはずなのに!
コイツをいれたらカオスな事態になるのはわかっていたはずなのにッ!
やってしまったッ!!
「やっぱりここが一番だな」
アスファルトで出来た地面、数メートル後ろに下がれば脆そうなフェンスが一つあるだけだ。
風が俺とヒカリに吹き付けるが、気にせず目の前にいる相手を見つめる。
「……随分と、変わったところですね。中途半端です」
「そうか? 揺れに揺れてる中高生の諸君には似合いの場さ」
ここでは数々の思い出が作られてきたのだろう。
そう、その一つには――男と女のラブラブな展開もあったはずだ。
「……くそっ、こんな場所嫌いだッ!!」
俺が叫ぶと同時に、目の前に光が現れる。肥大していくそれを避けるとヒカリを睨む。
「不意打ちか。ふざけんなよ!」
「感情的になりすぎです、私がした行動は正しい」
「正しいとか正しくないとかじゃない。危ないだろうがッ!!」
主に俺がッ!
当たってたら体の半分ぐらい失ってたかも知れん。
アレ本気の攻撃だろう?
「しかし、久しぶりだな。学校の屋上なんてィ!?」
再び放たれた光を避ける。これだけの行動に物凄く労力を使っている気がしてならない。
学べよお前ッ!
「しかし、天井のあるところでなくても良いのですか?」
「何だそのなかったことにしよう、みたいな雰囲気は。フェンスを見ろッ! これお前が弁償だぞ」
「……あなたは、戦う気がないのですか?」
「あるよ。あるからこそ、お前に最後に聞きたい」
そういう方向に持っていきたかったんだが、無理そうだからここで言おう。
「お前は、魔神の行いを悪いことだと本気で思っているのか?」
悲しみの神という、人の感情を収縮して作ったような神の行いを、本当に悪いことだと。
そう俺は聞いている。
「思っていなければ、このような形にはなりません」
「思っていたって別の形にはなったさ。数ある未来のどれを掴むか、お前はあの時選べたはずだ。世界の支配者だったんだろう?」
「……支配者だろうと、出来ないことはあります」
出来ないこと、か。なるほど、それがお前の答えか。
俺の答えとまるで違う。対立すべき相手だと、俺はコレで確信できた。
片手に掴む黒の剣に力を集中させる。
「ハァァァァッ!!」
それを一気に放出、俺の背後の空が真っ暗になる。
空を黒く染めた闇――それを黒の剣を一振りし落とす。
一直線に、空から黒い物体が降りていく。
「いきなりすごいものを出して来ますね」
ヒカリは空に向かい翼を使い羽振く。
片手に持った白の剣を使い闇に向け突っ込む。
「その程度で破られるかァァァッ!!」
「こちらとて本気を出していないわけではないんですッ!!」
二つがぶつかり合う――が、白の剣の光が勝ったのかヒカリが剣を振り切ると空の闇がすべて消える。
力を拡散させていたから俺が押し負けたのだろう。
「……剣同士で戦った方が早そうだ」
ニヤリと笑い呟く。
魔力を黒の剣へ込めてヒカリへと向かい剣を一振りすると、その衝撃を具現化させたかのような魔力が相手へと向かって飛んでいく。
ぶつかる直前でそれは避けられたが――意図は伝わったらしい。
「……劣る生物を相手にしていると、時々強さというものを忘れてしまいます」
呟くと同時に俺目掛けて上空から突っ込んでくる。
空気が歪んで見える……何かありえない次元にいるんじゃないか?
「劣る生物とは言ってくれるなヒカリ。一つ言うと、テメェと同じ立ち位置に俺はいたことあるんだぞッ!!」
「時代が違いますがねッ!!」
黒の剣と白の剣が交差する。
速度の差か、俺のほうが押し負け下へと地面を壊し追いやられる。
「ぐっ」
下の教室は……家庭科室か。
どうやら調理台の一つに落ちたらしい、甘い香りとともに目の前に浮かぶ粉が見え……ん?
『……え、と、誰?』
……おっかしいなぁ。今日は何曜日?
学校なんてしばらくぶりだし、うーん。忘れてた。
「ちっ、不味いなオイ」
家庭科室の扉を目指して走る――と、同時にか空いた穴からヒカリが中に入ってくる。
「逃げるのですか?」
「背を向けただけじゃあ逃走じゃないぜ」
家庭科室の扉を開いて廊下へと出る。
ちょうど顧問の先生とぶつかったが力の限り前へ前進して踏みつけて前へ出る。
「邪魔だッ!!」
『な、わたしは教師だぞッ!!』
「知るかァッ!!」
後ろから飛んでくる光を隣の教室に入り避ける。
硝子の割れた音がしたが、気にしていられる状況ではない。
「ここは何処だ!?」
……科学室?
何だか嫌な臭いがするんだけど。服に掛かったし。
『……試験管が割れました先生! というか割られました!』
『ん、中に入ってた液体は?』
『塩酸です!』
……待て待て。塩酸?
馬鹿野郎ッ!!
染みる前に脱ぐしか無いだろうこれはッ!!
っていうか髪にも掛かってないコレ?
ええい、もうどうにでもなれ。
「はぁっ!」
「くぅッ!」
いつの間にかこの教室内に入っていたらしいヒカリの攻撃を黒の剣で防ぎ出口を目指し走る――が、何かまた嫌な臭いが俺を襲う。
何か手に巻きついている感じもしなくはない。
「……ガスの臭いがするんですが」
『先生! ガスバーナーが――』
爆発音が俺の耳に届く、と同時に衝撃で吹き飛ばされる。
「ぐっ、気絶してる場合じゃねぇッ!!」
何とか廊下に這い出る――も、目の前にはヒカリが立っていた。
その表情で物語っている。キサマは暗黒物質に相応しい原材料だ、と。
皮肉なのか良くわからない。
一拍置き、俺の顔面目掛け刺殺を目的とした白の剣による攻撃が行われる。
「闇よォォォッ!!」
眼前に硬い闇を生み出し白の剣へとぶつける――も、白の剣はびくともせず俺へ向かい直進する。
「ちっ、光よォッ!!」
ガスの爆発に続き二度目の爆発――目の前が真っ白になり体中に痛みが走る。
気づけばグラウンドに横たわっていた。
だいぶ広いそこは、部活が行われているはずだが爆発のせいか校舎のほうに人だかりが出来ていて誰も居ない状態になっていた。
「……当然、か」
そういや塩酸かかったけど体は大丈夫だろうか。
髪に触れてみるも変化はなさそうだ。
これも魔神の力か……解せぬ。
「一々忠告するのも面倒です。あなたは、馬鹿ですね」
「うっさい」
叫んでから声の聞こえてきた方向を向く。
所々、傷ではないだろうが服の生地が破れているヒカリの姿があった。
「……もう、言葉は必要ないでしょう。いえ、元々言葉など不要」
「まあお前がそういうならそれでも良いさ」
黒の剣を地面に突き立ち上がる。
視界が一瞬かすんだが、たぶん光の魔法を白の剣も無しに使ったせいだろう。
時期に治る。
俺が黒の剣を構えるのと同時にヒカリは動く。俺へ向かい走る、その速度は俺の見えるものでなかったが感じることは出来る。
掛け声と共に相手を両断せんと攻撃を放つ、も横へ避けられ俺へと白の剣が横へ振り切られる。
それを右手を離し、腕を斜め左に移動させる。
黒の剣がちょうど白の剣とぶつかる位置に来た瞬間、左腕に衝撃が走る。
それと同時に体が吹き飛ばされそうになるが、黒の剣の剣の腹を右手で掴みなんとか耐える。
……指が千切れそうだ。
これは、勝てないかも知れないな。
だが、必要なんだ。俺には、勝利が。
「言葉は心の形だ。だから宣言しよう。俺の心はすでに決まっている。勝つ!! 勝って勝って――」
「何故、あなたは私に勝とうとしているのです?」
……何?
「世の中には意味のある勝利など……少ないでしょう。まして、それを得るチャンスなどもっと少ない。
けれども、私は勝たなくてはいけない理由があります。あなたが魔神になってしまったから……。
しかし、あなたは違いますよね? 私に勝ったところで何の利益もないんです」
くく、何の利益もない?
それは違うな。俺はボランティア活動などやらない主義なのだが違うと断言できる。
「人ってのは本当に意味のある勝利を求めているのか? 違うだろう、本質を見失っている!
俺が――人が望んでいるのは意味のある勝利なんかじゃなく、大きな成功だ! コツコツと意味のない勝利を積み上げていった先の成功を手に入れたんだ!」
俺は魔神の力を手に入れた。これも一つの成功だろう。
しかし、大きな成功、と言うと間違っている。まだ終わってない。
「テメェを倒せと疼くんだよ。俺と、魔神は……俺達は何も悪いことはしていない! 断言してやる、悲しみを知った上での狂気を……真正面から叩きつけるなんてのは間違っているんだ!」
俺だって狂気を知っているからこそ言える言葉だ。
狂った人間を――殺してそれで済ましてしまうのか? 封印して、人々の記憶から消してしまっていいのか?
ダメだ。それはいけないことだ。
アイツは苦しんでいる。俺が受け止めて――その思いを清算させてやらなきゃいけないんだ。
「俺は、勝つんだ」
「……言葉は心の形、ならば……言葉にはそれ相応の責任があります。あなたは、それを果たすには弱すぎる」
「弱くなんかないッ!!」
手のひらに闇を出現させる。まるで生きているかのように形を変えるそれを見て呟く。
「悲しみ背負った、アイツの思いを受け取ったんだ。今の俺は弱くなんかないさ」
「では、あなたが生きて、破壊行動をすることが正しいのですか? 過去、あなたは、魔神は人をたくさん殺してきました、建物をたくさん壊してきました、たくさんの悲しみを、自ら生みました。私が、彼女を封印した理由、わかりますか?」
……それ、って……。
「これ以上の悲しみを、アイツに背負わさないため……か?」
「……」
ゆっくり頷くヒカリ。
……な、じゃあ俺が戦う意味は!?
ヒカリのやることが正しいのか? コイツはもう、どうにもならないのか?
生きてたら、ずっとずっと悲しみを背負わなきゃいけないのか?
「おかしい、おかしいだろうがッ!」
「彼女のため、です」
……どうにか出来ないのか!
俺は、俺はどうすれば良い。魔神はなんと言っていた。彼女を倒したいと。
けれども……クソッ!
俺にはわかんねぇよ。
『……心に、隙が出来たね』
……お前……。
うん、混沌としています。
アレだね、次に期待しよう。