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第380話ヒカリとヤミ

もう何が何やら……。

一応、頑張る。

破壊とは限りある行動だ、しかし創造というのは尽きる事ない永遠。

悲しみを知る彼女だってわかっている。


けれども、彼女は何かを生み出すことの出来ない存在だ。


手を(かざ)せば町は壊滅状態へと変わり、生存者などいない荒れた大地へと変わる。


「……虚しいことなんてわかってる。悲しい行動なんてこともわかってる。狂気に突き動かされているだけというのも知っている――」


町の跡地の上空には一つの影がある。

一対の漆黒の翼を持つ少年の姿だ。


「――だからって、自分のやりたいことを……我慢したままでいいの?」


首を振る魔神。答えは自分の中で……とっくの昔に出ているのだ。

けれども、毎回毎回自分のしていることは正しいのか? と疑問に思ってしまう。


それが虚しいと、悲しい行動だとわかっているのに。


「……来たのね」


少年より高い空。

青く染まった大きなそこから一直線に魔人へ向かって何かが落ちてくる。


「闇」


片手を(かか)げ、闇を発生させる。

細く、槍状になった闇は落ちてくるそれを貫こうと先端を鈍く光らせる。


槍の先端部分とそれがぶつかった瞬間、バチリと電気が周囲で跳ね回る。

それが何度も起こり煙が空中に充満する。


魔神は体勢を立て直そうと半歩体を後ろへ下げる。

煙は風が強いせいかすぐに晴れた。


「……ヒカリ、いえ……一番初めの支配者。また封印しに来たの?」

「当たり前です。あなたは世界にとって害悪でしかない」


呟くようにヒカリと呼ばれた少女は空間に手を突っ込み黒の剣と対になる一本の剣を取り出す。

白の剣、正体不明の鉱石で出来た文字通り白色の剣だ。


「……しかし、これも今日で終わりです。彼、海弟には最初から忠告していました。彼女は危険だ、と。だから、今回で終わりです魔神――」


息を吐く間もなく続けて言う。


「海弟ごと、あなたを斬りましょう。彼は悲しむかもしれない、けれども……仕方のないことなのです」





目を覚ますとベッドの上だった……からといって夢オチとかそんなのではないだろう。


長い間眠っていた、のだろうか。体中がだるい。

そこを頑張って起き上がると、周囲を見渡し絶句する。


「……何処だよ、ここ」


荒れ果てた荒野、とはまた違う。

恐怖を煽ってくるような場所だ。何もないのに俺の気持ちをぶっ壊そうと襲い掛かってくる。


恐怖、というのがストッパーになっているのかそれ以上の感情が俺を押しつぶそうとしてこない。

これはこれでラッキーというヤツだろう。


これ以上の何かが押し寄せてくるのならば俺は表現する方法がわからないぞ。


「……何もないから、見つけるのも楽だな」


見つけたくなかったが……、まあ良い。


見つけたそれに近づき、声をかける。


「良い天気だなオイ。ふざけんなよこの野郎」

「……」


聞こえなかったのか? 反応ないって寂しいんだが……。


「……何?」


どうやら聞こえていたようだ。

薄汚れた人形のような魔神が反応する。


「質問が百個ぐらいあるが、今は五十個に絞ってやろう」

「五十歩百歩って言葉、知ってる?」


魔神にこんなこと言われたのは俺が始めてだろう。

嬉しくないが。


「まあ良い。ここは何処だ」

「あなたの心の中」

「……俺の?」


周囲を見渡す。


荒地に似た土地が永遠に続いているように思える。

視界が捕らえているのは地平線だけだ。


「まさか、俺の心の中にはな――」


言葉が詰まる。

何があるんだ? 恐怖、それしかないだろう。


さっき感じ取ったばかりじゃないか。


「……わたしの悲しみを、少しだけとはいえ触れたのだもの。心が壊れちゃったのよ」

「ほお、お前の悲しみを……、つまりアレか? 力をやる代わりに――」


――悲しみを擦り付けた、ということか? と口に出す前に魔神の言葉に遮られる。


「違う。わたしは悲しみの神だもの。わたしの力、記憶、能力はすべて蓄積された悲しみに比例している……つまり、わたしの力を受け継いだ者にはわたしの悲しみを背負ってもらうことになる」

「擦り付ける、ってよりは自身で受け入れた、という方が正しそうだな。そうか、お前の記憶……ね」


俺を粉々にした正体は、でっかい悲しみ一つ。


「あの時、俺は感じた。物凄い違和感を。言葉に当てはめて、その意味を理解できない理不尽さを」


本当に理解できなかった。

世界の理不尽さを、数秒の間に百個以上見せられるのだ。


「……海弟、君は耐えられなかったんだ」

「……だから?」

「壊れたわたしが、君の体を操っている。洗脳状態に近いかも知れない」

「……で?」

「あなたは、どうしたい?」


……俺に聞くか。

どうにもならない。俺は何かをする力はない。


今俺に残っているものは何だ。

ここで俺が動いたって無駄な足掻きだろう。


「このままで良いさ。このままで……俺は無力なんだから」


実感した。


俺は、一人で立てない人間だ。

姑息な手段を使ってでしか人を出し抜けない、ポンコツだ。


「そう、ならば……わたしはわたしの目的のためにあなたの体を借りる」

「……目的?」

「わたしの目的、知りたい?」


俺は、ゆっくりと頷いた。





ヒカリの少女は白い剣を振るい。

ヤミの少年は黒い剣を振るう。


「あなたが私に勝てたことがありましたかねッ!! 悲しみという感情しかもたないあなたが!」


白の剣が振るわれる。

それを黒の剣で受け止めるとヤミの少年も叫ぶ。


「悲しみを背負わせたのは……、一体何処の誰だと思っているッ!!」


ヒカリの彼女に同様する様子はない。過去のことだと、完全に割り切っている。

二度と同じ過ちを犯さないと、誓った彼女には響かない言葉だ。


「闇よッ!!」

「光よッ!!」


同時に展開される光と闇。

コンマ単位で闇のほうが早く魔法が完成し、ヒカリの少女に襲い掛かる。

それを白の剣を薙ぐ一撃で無力化させると自身の攻撃をヤミの少年へと放つ。


「ハァッ!」


ヤミの少年も同じように防ぎきるとお互いに間合いを取る。


「……一度壊れたガラクタは、何度同じ間違えを犯し続けるのでしょうか」

「っ、この……ッ!!」


体が動かない。


魔神には理由がわからなかった。

わけのわからないうちに、殴り飛ばされていた。


「……動か、ない」


掠れた声で呟く。

語尾が風にさらわれ消えた直後、地面へと体を激突させる。


「ガ、グッ!」


意識が飛びそうになる。

体中が痛い。


「人間の体、脆すぎる」

「いいえ、違いますよ。海弟という男は強いです。彼のあこがれるヒーローとやらでしたから」


魔神に降り注ぐ太陽の光を遮るかのように立つヒカリの少女。


「どういう、意味だ」

「口調が変わっちゃってますよ? 怒ってはダメです、あなたはもっと大人しかったはず」

「昔の話をするなッ! どういうことだと聞いているッ!」

「答える必要はありません。しかし、仕方のないことなのです。彼もきっとわかってくれることでしょう」


遠く、安全な場所へと避難させた彼の海弟への思いは本物だった。

純粋な尊敬。ヒカリの少女は海弟の何処を尊敬していたのかはわからないが、それでもわかっている。


海弟を殺そうと、最愛である自分を彼は咎めたりはしないと。

だからこそ取れる大胆な行動なのだ。


「さようなら魔神。次、生きることになったら普通の人生を送れると良いですね」

「っ、コノォォォォォォッ!!」


叫びを上げ、体を起こそうとするが起き上がらない。

体中が悲鳴を上げている。


「クソがァァァァァァッ!!」


ヒカリの少女の白の剣が振り上げられた――そして……。


海弟洗脳……ってことで勘弁してください。


しかし、海弟には何かが足りない……。

そうです、決め台詞です。


さて、どうしましょうかね(決め台詞の内容? 考えていると思ったか! 考えていないんだぜ!)。



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