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第377話九十九階とタッグ

勇者は犠牲になったのだ by海弟

何とか体勢を龍の上へ持っていったのは良いが――ここで攻撃してコイツを破壊したら落下することになるだろう。

ならば、どうすれば良い?


答えは簡単だ。


「諦めるッ!!」


いや、待て。その結論に至るにはまだ早い。

もう少し考えてみないか海弟? そうそう、落ち着け俺。


何とかもう一人の俺を作り出し心を落ち着けると現在掴まっている部分を確認する。

ちょうど頭の上、風でなびく毛なんていうものはないので目の辺りの凸凹(でこぼこ)に手を引っ掛けて何とか落ちないようにしている。


「……う、うーむ。思ったよりピンチっぽいな」


わかってたけど塔内部に戻り――更には敵まで倒す方法。


……あ、一つ浮かんだ。

けど、無理だよなぁ。


後ろを振り向けば塔の九十五階部分が遠ざかっていくのが見える。

異空間に浮かぶそこに辿り着くにはかなりの距離があり、今もどんどん遠ざかっていっている。

一体この龍は何がしたいんだろうか。


「……やるやらないならやるっきゃない。だがその前に……」


体勢を何とか胡坐を組んで座っている状態になる。


「おい龍さんや。ここらで一旦戻りません?」


返ってくるのはびゅおびゅおと吹く風のみ……ふふ、良い度胸だ。


「やってやろうじゃないか。俺の真の実力、略してOSJを見てビビるなよ!!」


Zの方が良かったか? まあ良い、兎も角だ。

これより作戦を決行す――ん?


「魔王覚悟ォォォォゥッ!!」

「待て勇者。落ちてしまった以上は話し合うのが先決……アァッ!!」


……何も俺は見ていない。

上から落下してくる勇者と魔王が交戦状態で勇者の無茶な攻撃を一方的に受ける魔王など見ていない。


途端、龍の体が揺れる――最悪の展開になってしまったようだ。





体中を激痛が襲う中――勇者と魔王は立ち上がろうとする。

しかし立ち上がれない。強風のせいで何処か――地面の突起を掴まなければ振り落とされてしまうのだ。


「な、何ここ……」


勇者は自然と口に出た呟きにより余裕が出たのか周囲を見回す。そして地面だと思っていたそこで視界が固定される。


「硝子……龍? っていうか魔王っ、あんたのせいよ!」

「そうか。それは悪かったな。さて、勇者どうしてくれる」

「全く反省してないでしょ!!」

「理由がないのだから仕方あるまい」


ちょうど良い突起が出ている場所へと腰掛け、勇者を睨む魔王。

今の状態を一番把握しているのはこの男だろう。


「そこの――出て来い」


龍の頭の部分だろうか。龍の体毛ではない、明らかに人間のものの髪の毛がなびいているのを見つけ呟くように言う。

驚く様子もなく、それは姿を現す。


「何で勇者と魔王が上から降って来るんだよっ! おかしいだろ、俺のほうが上にいたのにっ!!」

「待ちなさい。私を会話から置いていくな、一から説明しなさい」

「実は……なんだよ」

「小声!? しかも短すぎない?」


龍の目部分に掴まっていた海弟は右の髭部分へと場所を変えて座る。


「さて、何で魔王達は上から落ちてきたんだ?」

「上から……というのはわからないが、勇者の攻撃で六十階が破壊されてな。全部」

「魔王のせいって言ってるでしょうがッ!! うわっ、とと」


立ち上がり風を受けて前かがみになる勇者。

それを見て何の反応も示さず情報交換を始める海弟と魔王。


「ふっ、なるほどな。と、なると……上へ俺達は上っていたはずが、逆だったわけか」

「ここが異空間――というところからおかしいのだ。その可能性も否定は出来ない」

「あら、ちょっと私は無視なのかしら? 二人とも落とすわよ」


瞬間――海弟の目が光った。


「ふっ、それだよ勇者。下へ向かっている! つまりは――下へ行けば百階へ到達できる。試練をすべてクリアせずとも魔神の力が手に入るんだ!」

「私は別にいらないんだけど」

「そうか、じゃあ命知らずの勇者様から落ちてもらいまーす」

「おかしくない!?」

「おかしくない。ほら、親は子を守れ」


雰囲気に後押しされたのかじりじりと体を湯に沈めるときのように降ろしていく。


「え、ええいっ! どうにでもなればいいわ!」


手を離し空中へと身を投げ出す。


「さて魔王。勇者は犠牲になったのだ、話を再開しよう」

「待って。というか待ちなさぁぁぁぁぁ――」


姿が小さくなっていくと同時に声も聞こえなくなっていく。


ふむ、と顎を撫でる海弟。


「俺達も落ちるとするか」

「何だ、結局はそうするのか」


横目で海弟を見る魔王。

海弟が何を考えているのかはまるでわからない。


「なぁに、この台詞を叫びたいだけさ」


息を吸い込む海弟。


『I can fly!』


瞬間、海弟は龍の髭部分から飛び降りた。





無重力状態とは違う、何やら違和感バリバリの空間の中で浮かんでいる土の塊みたいなものを発見する。


「お、一つ目の階層はっけーんっ!」


九十六階は無視。


さて、次は九十七階になるわけだが――それよりも前に勇者を発見したな。うまく空気抵抗を作って落ちるスピードを下げているようだ。

背中にキックしてやろう。


「ファイナルパワースペシャル!! 半導体をぶっ飛ばせキィィィック!!」

「あぶぐぇっ!?」


ひゅーん、と今までとは段違いのスピードで下降していく勇者。

中々面白いな。


「追撃開始ッ♪」


バゴベッ


音とともに体中に痛みが走る。


な、何だ!! 何が起こった!!


体中が痛むなか、何にぶつかったのかよく見てみる。


「……九十七階め。よくも俺にぶつかってくれたな。いや、逆か。よくも俺にぶつかられたな」


ああ、もう意味不明だ。


天井部分であろう、そこから飛び降り再び下降を開始する。


「海弟」


名前を何者かに呼ばれ後ろを振り向く。

声音から予想できていたがやはり魔王だ。勇者が何処かに隠れていて必殺技を出してくるなどということはなさそうだ。


「ん、何だ?」

「このような方法で本当に――魔神の力は手に入ると思うか?」

「最もな疑問だが――後悔すんな。もう過ぎたことだ、俺はお前の疑問の答えを知らないっ」


兎に角今は楽しもうぜ兄弟ッ!


「お、あれは九十八階だな」


さて、あと二階――待て。おかしいぞ。

何やら後ろから殺気を帯びた何かが迫ってくるような……。


「反撃じゃこの野郎ッ!!」


やはりかっ!!


「魔王バリアー!」

「ぬわっ、ぐっ!?」

「ちぃっ」


ふふふ、俺にダメージはゼ――


ボゴバァァッ!!


――ロ、じゃないな。どうやら九十九階に叩きつけられた様子。


「まったく、あと一階というところで何をしてくれる勇者」


塔の内部に落ちてしまっては試練を始めるほかない。今から下に落ちても、九十九個目の試練に挑戦中ということで魔神の力は手に入らないだろう。

ここにいる敵を倒さなければ。


「何をしてくれる、はこっちの台詞よ」

「いや、我の台詞だろうそれは。とばっちりを受けたぞ」

「知るか」

「知らないわ」

「ぬぅ」


途端に――殺気に気づき塔内部中央に振り返る。

そこには人型の……言い表すなら騎士がいた。顔まで隠れるタイプの兜を被っており実際に中に人がいるかどうかはわからない。


(あぶ)ろう」

「丈夫な紐は持ってるわ」


勇者に視線を送る。

コクリを頷く勇者。


うん、俺達は――


「俺達は――最強だっ!」

「そうみたいねっ!」


二人同時に騎士に向かって駆け出す。


そこに俺と勇者、更に騎士のいる位置からちょうど中央になる場所に何かが落ちてくる。

見たことのある、凶暴そうではなく美しいフォルムをした――龍だ。


「硝子龍。っ、そうか、九十五階の試練も受けっぱなしということになっているのか!!」

「な、何よそれ。あの二つを相手にしろっていうの?」

「龍を頼んだ勇者!」

「レディーファーストよ。私が先に選ぶっ! ね、騎士様は殺されるんだったら可愛い女の子に殺された方が嬉しいわよね?」


殺されない方が嬉しいに決まっている。


『二対二の戦いに――誰が誰の相手をする、などと悩む必要はないだろう』


声の主、たぶんあの騎士。そいつに視線を向ける。


『戦いは基本、サバイバルだ』


ダッ、と地面を蹴る音が響く。

良いこと言うじゃないか。ならばサバイバルとやらに参加させてもらおうか。


「魔王、お前は見ているがいい。百個目の試練はお前だけで受けてもらうがな!」

「……すまないな」

「任せろ。勇者、勝つぞ!」

「この後の魔王戦に備えて肩を温めておくってことね?」


そのつもりでいい。実行されるかは別として。


海弟が……飛んだ!? (落ちただけです)


さて、実は地下に進んでいたというね……だったら何故上方向にまで伸びていたのか。


実は金銀財宝がざっくざっくと詰まって――いたりはしません。

百階に行けば明かされるでしょうか?


それにしても、魔王と勇者の戦いに決着が着かない。

それなりの場所を用意しないと……。

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