第376話塔の中での戦い
着々と海弟が塔を上っていっている! しかもここに来て敵の弱体化!!
え、何? えーと、今回で躓くんですね。はっは、海弟らしい。
六十階から六十九階までは楽勝、ほとんど一突きで倒していき現在七十階にいる。
「ちっ、七十階は液体……なのか?」
形は人型で浮かんでいる。目の部分が薄い青色に光っており液体である体部分は水なのか透明である。
その一撃一撃は威力が低いが体温をかなり奪われる。今は避けているが体力が無くなり次第、攻撃は俺へ当たることだろう。
なんせ範囲が広すぎるのだ。避けるのにも一苦労――『鏡』があれば跳ね返せるのだが使えないのだから仕方が無い。
「くそう、何か反撃の策は……」
塔内部には……やはり何も置かれていない。
落とし穴を作ってそこに落とすか? いや、あの水は浮かんでいるんだ。落とし穴なんて意味はないだろう。
……いや、待て。頑張ればいけるんじゃないか?
「雷よっ!!」
手のひらに出現したそれが人型を象った水の足元に命中し塔の床部分に穴を開ける。
やはり、と言うべきか浮かんでいるせいで穴には落ちない。
「落ちろォォォォォッ!! 風よ!」
重圧、錘を乗せるかのように真上から風を送る。
その場を飛びのこうとする水だが遅い。浮かんでいる、つまり浮遊しているということは衝撃や風に弱いのだ。
そのまま下降していく水。床を何とか手で掴んでいたが――ラストスパートだ。
「よいしょ、っと」
剣で掴んでいた床の周辺を破壊する。
落ちていく水人間。声を出さないせいか怖さ百倍だ。
「……ふう、次からもこの作戦で行こうか」
浮かんでいるのが弱点――か。
☆
おいおい、何か間違ってないか?
九十五階――敵は球体の硝子。
攻撃は当たりダメージを与えることは出来る……のだが、それ以上の再生能力を相手は持っている。
いくら剣を振るおうとこちらから相手の体に残るダメージを与えることが出来ないのだ。
「落とすか?」
球体を睨む。
そういえば……さっきからアイツは一度も攻撃をこちらに仕掛けて来ていない。
何か不自然だ。
攻撃をやめて距離を取る。
「……何か、あるのか?」
何かが起こる、そう感じさせるものの何が起こるかはわからない。
俺に不利な状況だ。何か策を練らないと……。
「水よ!」
ずっとここまで使ってきた戦法『落とす』を発動する――も球体の敵の大きさは俺の空けた穴よりも大きく……落ちない。
「これ以上破壊したら階の中央が破壊されるな……」
中央には敵を倒したあと魔法陣が出るので出来る限り破壊したくない。
もっとも、それしか方法がないのなら別なのだが……。
「どうす――」
――る。
発音する前に衝撃が襲う。
床が揺れ硝子球が割れる――中から飛び出てくる何か。
「やはりか。何が出てきた!」
それが飛んでいった先を睨む。
「……硝子で出来た……龍?」
大きな口を開き、咆哮するそいつは俺へ向かい突っ込んでくる。
その姿は神々しいのだが……ダメだ。避けきれない。
「ぐぅっ」
剣で体を食いちぎられるのだけは避け龍にしがみ付く。
あの生々しさがないから、ある程度は我慢できる。
「って、待て!!」
後ろに迫る壁を見て叫ぶ。
これはぶつかる。
「くっ、途中で降りられないな」
牙でがっちりと剣が固定されてしまっている。
口の中に咥えるな、ボケ!!
硝子と鉄が擦れる音を聞いても不快になるだけなのでそのまま身を任せる。
背中に硬い壁がぶつかる。
うめき声は出たが――ある程度まで衝撃は抑えることが出来た。
しかし、一つ問題点がある。
「塔の外に出ちゃったんですけど!!」
戻るにはどうしたら良い。
その前に龍を倒すのが先決か? いや、そうなると塔の内部に戻れなくなる。
「こ、この硝子龍め。余計なことをしやがって!!」
九十階に入ってから敵がどんな系統か見極めなくなってきたのがこの事態を招いたのだ。
それは俺も悪いがもっと悪いのはコイツだ。この龍だ。
「今すぐ粉々にしてやるぅぅぅぅ~~~!!」
虚しくその叫びは異空間へと響いた。
☆
純白の霧と漆黒の煙が魔力を帯びて塔内部に充満する。
時折それらが触れバチンッ、と火花が散るがどれも勇者と魔王の戦いの合図に相応しくないものである。
「魔王、ここは数十年、いえ……百億年前から温めていたこの決め台詞を使うときが来たのよ」
「一体キサマは何歳なのだ。決め台詞か、言いたいのなら言えば良いだろう」
「ふ、大言壮語はうちの家系独特なのよ。大言壮語のくせに成功させちゃうのもね」
すぅ、と息を吸うと魔王を指差し叫ぶ。
「誰かがやらなきゃいけないのなら、この手で果そうその因果――」
腰に携えられた白の剣を引き抜く。
「――この手に収まるこの光。希望を忘れた民を救う! 影を貫き光を広める正義の剣士――勇者の名の下にキサマを斬るッ!!」
「笑わせてくれるな。今、この状況には不似合いな一言だぞ」
魔王が笑うと勇者は剣を片手に魔王へと単身で突っ込む。
元々仲間などこの場にはいないのだが――勇者と魔王の実力差はないに等しい。
「ふりゃぁっ!!」
「はあっ!」
勇者が振るう剣を魔王が黒の剣で止める。
腕力に任せ勇者を遠くまで飛ばすと空中で受身を取っている勇者に追撃を放つ魔王。
「光よ!」
魔王へと近距離から放たれる強烈な光の柱。
それを剣一本で防ぎきると魔王も距離を取る。
「勇者よ、そんなことでは簡単に魔力が尽きるぞ?」
「ははーん、わかってないわね、あんた。私も海弟から教わったわけだけど――連想魔法って知ってる?」
「……初めて聞くな」
「教えてやんないわ」
使い手次第で無限の可能性がある、それが連想魔法だったりするのだが海弟は単なる魔力消費を抑えるものとしてしか見ていないので勇者も同じ使い方をするのだ。
実力の差はない。あとは各分野……自分に長けた部分を最大限に発揮出来た者が勝つのだ。
「光よ!!」
「闇よ!!」
二つがぶつかり合い混沌を生み出す――そこで勇者と魔王が動く。
爆発の中に飛び込んでゆき剣を交差させる。
一合、二合と剣を合わせる度に火花が散り、床にひび割れが起きる。
地の利では魔王が勝っている。光の魔法の特徴は消滅、闇の魔法の特徴は侵食。
平面の地形は魔王が最も強さを発揮できる場なのだ。
「場を支配しろ!!」
魔王の足元から闇が床を伝い、壁を伝い……完全に光を遮断する。
暗闇に慣れていない勇者は一度たたらを踏み後ろへ下がる――が、魔王には見えている。
「隙だらけだ」
「何のォッ!!」
前へ剣を構える勇者――だが攻撃は後ろから来る。
「ぐぅ。卑怯よ、魔王。暗いからよく見えないじゃない!」
「ならば、この闇を消し去ってみるが良い」
無理な話だ、と心の中で魔王は呟く。
自分の魔力が篭っているのだ、そう簡単に壊せるものではない。
「へぇ、言うじゃない。お望み通り……やってあげるわよっ!!」
途端、勇者から溢れる光が闇を消し去る。
床、壁問わず全てが消滅していく。
そして――落下。
「うおおおおおぉぉぉ? お、落ちるぅぅぅぅぅ!!」
「この阿呆め。床ごと闇を消しよって!」
勇者と魔王、無限の異空間へ落ちていく。その光景はシュールというべきだろうか。
勇者よさらば。永遠にあなたのことは忘れない。
魔王、生きて帰れよ。
逆でも良いです。生還してほしいほうに対してクールに言いましょう。
にしても勇者と魔王の戦いは書いてて面白くて良いですね。