閑話
閑話です。
石が敷き詰められた通路を歩くアオル。
彼女は海弟命名である『自由部隊』の一員で、自由部隊とは、基本的に自由……その代わりにどんな仕事でも引き受けるという変わった部隊である。
現在は王である影流に呼び出され広間へ向かっている。
外を見れば寒そうな風が吹いていて、王妃提案である魔法学校の最終段階の整備をしている他の部隊の人達のことを思うと少し頭が下がる思いだが、今日アオルは休日なのである。
基本的に自室に閉じこもっている彼女だが、王に呼び出されては行かぬわけにはいかないと着替え現在歩みを進めている。
訓練をしている人達は大変そうだなぁ、とか思いながらも訓練もなしにいきなり魔物退治とか命じられている私たちもどうなのだろう……と、複雑な心境になる。
「あの隊長だから、仕方のないことかも……。ん?」
視界に移る女性。確か、海弟の師匠という人だっただろうか?
考えていると向こうも気づいたようで近寄ってくる。
「確か、えーと……海弟の部隊の――」
「アオルです……。隊長の場所は知りません」
あの人は何処にいるのだろう、わからない。
毎度のことなので溜息も出ないのだが師匠であるこの人は違うようでぷっはぁ、と溜息……ではない。
「何で酒瓶なんて持っているんですかっ!!」
「寒いでしょ? 体を温めてるのよ、ね?」
わからなくもない、が何か違う気がする。
複雑な表情を消し愛想笑いを浮かべると、会話を終わりにして広間へと向かおうとする。
「ああ、ちょっと待ちなさい」
何だろう? と後ろを振り返れば何かが顔面にぶつかる。
「ぐぅっ!」
「おお耐えた」
何とか倒れずに済んだが、何なのだろう。
落ちそうだったので手で押さえたそれを見れば、宝石だろうか。妙にピカピカ光っている物が目に映った。
「何ですか、コレは?」
「余った材料」
何の? と聞く前にアオルのほうに倒れこんでくる師匠とやら。
「う、これじゃあ遅刻しちゃう……」
首を回すが……通路には時計がない。
仕方がないが、この人を一度部隊に割り振られた部屋のソファに置いてこよう。
あの王様だから……クビになったりはしないよね……。
☆
影流はというと、政務を切りの良いところで終えると普段面会などで使う広間に向かい足を運ぶ。
「影流様、午後からの予定は――」
「覚えている。言わなくてもいいさ」
一度席を外し、昼食を取ってから仕事を再開する影流のためか気を使ってくれるファンだが毎日こうも仕事していると内容は大体覚えてくる。
「領土がでかいと仕事も大きくなって大変だな」
「一人で抱え込みすぎなのです。私に頼ってくれても良いのですよ?」
頼れと言われても……、と何か頼める仕事はあるか考えてみる。
「俺が頑張れば全部うまくいくんだ。ファンが頑張ることはないさ」
さて、と広間の扉を自分で開き中へ入る。
中には誰もいない。入るなと影流が言っておいたからだ。
「まだ来ていないようですね」
「だな。少し待つか」
豪華な椅子、王座に座ると溜息を吐く。
異世界にせっかくいるのに何をしているんだろうなぁ、などと思いながら海弟のことを思う。
思えばアイツが一番ココを楽しんでいるんだ。
青空は海弟の性格が少し変わったと言っているが、ココにいるアイツが本来のアイツなんだろう。向こうの世界は海弟にとって狭すぎたんだ。
少しだけ、海弟の話を海弟自身から聞いている影流がそんなことを思っていると扉がノックされる。
「入ってくれ」
衛兵もいないので開けてくれる者はいない。
入ってきたのは予定通り、アオルだ。
「何か酒臭くないか?」
思わず言ってしまう。
彼女は緑茶を気に入ったそうで、最近はあまり果実酒を飲んでいないそうだが……。
何かあったのか心配していると、困った表情を浮かべるアオル。
「え、ええと、私は違います! 隊長の師匠様の臭いが移ったんです!」
「なるほどな。そういえば今日は会ってないな」
国家予算の中に酒代を加えよう、と毎日のように言ってくるのだが珍しいこともあるものだ。
「それで、話とは何でしょう?」
「その前にだ――」
びくぅっ! と体を震わせる彼女。
かなり怯えている様子であるが、影流は身に覚えがないことなので聞いてみることにする。
「怯えている様子だが……どうかしたのか?」
「い、いえ、私はまだ働けます」
……何の話だろう。というか、俺に言わなくても良いだろうに。
意味がわからなかったので「そうか」とだけ言っておく。
一応、海弟は隊長という身分ではあるが他の将軍と方を並べるだけの権力は持っているのだ。
彼女をクビにさせるか否かは影流ではなく海弟に委ねられているわけである。
それと、当然海弟は将軍じゃあないので領地は持っていない。
海弟がそれで良いと言うからそうしたのだが、影流としてはこの国の半分の権力を持ってもらいたいぐらいである。
「まず、最初に言っておきたいことがある」
返事はない。
全て語り終わるまで相手は文句を一つも言ってこないだろう。相手が話している最中に言葉を挟むのは失礼にあたるからだ。
それが王ともなれば、普通だったら死刑では済まされない。
「お前は、今の部隊……まあ、海弟が隊長で、それに仕える形、その現状に満足か?」
「え、あ……その、昇進の話ですか?」
言ってからしまった、という風な話をする彼女。
「いや、違うんだが……。まあ海弟についての話だ。これ以上話をややこしくするのもアレだな。簡単に言うぞ、海弟を魔界へ送り、魔王捜索の任務に就けたい」
時間をかけて理解してもらった方が良いだろう、と話をここで区切る。
「それって……えっと――」
「いや、現状で見ればお前達……海弟含め今の自由部隊では――魔王捜索は失敗すると思うんだ」
「な、何故ですかっ!! 私は……その、よわっちいです。けど……、みんな強いんです!! 隊長以外のみんなもすごいところを持っているんです!!」
やっぱりかぁ、と苦笑いを浮かべる。
「失敗すると思う理由の一つにコレがあるんだ。お前達と行ったら魔界に迷惑がかかりそうだから、っていうのが」
理解できなかったらしい。
戸惑いの表情を浮かべる彼女になんて言ったら良いのかわからなかったのだが、傍らにいたファンが言う。
「つまりですね。海弟様が……いつものメンバーで行ったらカッコつけて暴走するから隊長だけ引っこ抜いて即席部隊で魔界へ送ろうというわけです」
「まあ、そういうことだ」
あまり変わらないような気もするが、まあ海弟を育てる良いチャンスだと思って言っているわけだがアオルは理解してくれただろうか?
彼女の言葉を待つ。
「その、その……、隊長が魔界へ行っている間私たちは……」
「今の任務を続行かな」
ああ、それと――
「続行ですか」
言う前に彼女の呟きが響き、口を閉じることとなってしまう。
「了解しました!」
まんざらでもなさそうな表情で言う彼女。
「良いのか?」
「はい! 私は子供好きですし、みんなもうまくやっています。普通に魔物を倒したりするよりこっちの方が似合っている気がしますし」
じゃあ何で軍隊に入ったんだよ、という突っ込みをいれたかったが……やめておく。
「ふむ、じゃあ早速みんなに伝えてきてくれ。馬には――」
「一応……口だけのあの隊長に全員乗れるようにしとけよ、と言われましたから」
自分は乗れないのに何をやっているんだ、アイツは。
心の中で突っ込むと、もう一つ言っておかなければいけないことがあることに気づき、さっき言えなかった言葉を言う。
「それではみんなに伝えてきてくれ。青空が制服の試作品を作ったらしいから――着てみてほしいと言っていたのも追加で」
「……あの、それは命令――」
「これは命令だ」
「そうですよね、はい。言っておきます、なんで私たちが着るのか疑問ですが命令ですもんね!」
青空は何で彼女達に着せたがるのか。
うーむ、これが趣味じゃあないことを祈るか。
冗談めかして心の中で呟くと、もう一言付け加えることにする。
「ああ、それと。浮かれている海弟を見たら、それは無理だと伝えておいてくれ」
三人称視点難しい。
だが、前よりかは成長しているとは思うっ!!
うむうむ、アオルファン(何がなにやら……)が増えることを願って。
彼女は海弟部隊の中で唯一の良心です。
それと、調子に乗ってガムを噛んでたら舌を噛みました。痛いです。