第371話『こういう、RPG風なファンタジーは初めてなんじゃないか?』by海弟
ふっふっふ、伏線が何処に仕組まれているかわからないだろうっ!!
壁の窪み、更には色……。
色々調べまくった結果――
「見つからないのだがっ!?」
「そろそろ家に帰って眠りたいのだが……」
「魔王、今宵の宴はまだ始まったばかりじゃ」
まだ帰さぬ。
近くにある岩に座ると考える人のポーズで考える。
これだけ探して見つからないということはここには隠し扉なんていうものがないのかも知れない。
もしくは、何か仕掛けがあるか……それっぽいものはなかったが巧妙に隠してある……やはり見落としがあるのだろうか。
一度意見を統一しようと、二つのうちどちらかに賛成してもらうことにする。
「ここには隠し扉なんてないと思う人ー」
全員が手を上げる。勿論、俺も含めて――
ズゴゴゴゴ
――ん? 何だ今の音は。
ズゴンッ
急に座っていた岩が沈む。当然、尻を地面に打ち付ける結果になったのだが声をあげるより先に溜息が出る。
その理由は簡単。
俺の視線の先、そこに木製の扉が出現していたからだ。
「んーと、何だかわからないが発見っ!!」
「手を上げる……というのが仕掛け起動するために必要な条件だったのでしょうか?」
「俺に聞くな」
レラが言ってきたので言い返す。
知らなくても良いことだ。というか進もうじゃないか。せっかく扉があるんだから。
扉を開き、その先へ出る。
そこには階段があり、物凄く深い場所へと繋がっていた。つまりは階段があったのである。
「これを降りろと?」
「はいっ! 転がればはやいですっ!!!」
「よし、じゃあシュクリ行って来い」
笑顔で突き飛ばす。
「ふぇっ!?」
痛々しいというか生々しいというか……そんな音とともに下へ転がっていくシュクリ。
誰もお前を止められないっ!! だって巻き込まれたくないものっ!!
「俺達は歩いて下に向かおうか」
「あの子はそのままで良いのか?」
「知るかっ。最悪、墓を作るぐらいのことはしてやる」
一応扉を閉めて地下へと向かう。
先に下に降りた――というか転がったであろう鼻血で階段が濡れているせいか軽いホラーを体験しているみたいだ。
ドキドキしながら一番下まで降りると、シュクリの死体――死んでないみたいだ――まあそれが目の前に現れる。
「おい、誰か治癒魔法かけてやれ」
この場にいる奴で治癒魔法を使えるのは魔王と俺だけらしく、仕方なく魔王が治癒をかける。
「何で誰も治癒魔法使えないんだよっ!!」
特に勇者っ! 勇者は何かすごい治癒魔法を使うものだろ。
一瞬で体力満タンみたいなやつ。
言い争っても仕方ない。気絶しているシュクリをシャンに背負わせ前へ進むことにする。
幸いなことに、階段を出た場所は洞窟になっていて――目の前を見れば出口なのか光が見えている。
距離も短そうだし、少し足が疲れているがそこへ向かい休憩にしよう。
無言で歩き出す俺の後ろを付いてくる部隊の面々とキクさん達。
洞窟を出れば、現れたのは塔。
「おかしいだろ!!」
突っ込みも虚しく響き、天井を見上げれば――
「頂上が見えませんね」
そう、頂上というか一番上が見えないのだ。
黒く塗りつぶされたかのような漆黒が塔の先端を隠してしまっている。
「どうする? 中に入るか?」
「ワタシとしては――ここが魔神になるための施設であるとして、魔族ではない我々が入るのは危険だと思います」
「一理あるな。魔王、お前が行くのはわかっているが、俺達がどうするかだよな」
キクさん達は魔族なので別に入っても問題ないだろう。
けれども、レラの言うように魔族以外が入って何か問題があった場合……死んでしまったら、どうすれば良いのか。
「塔の周りを散策してみるか。魔王、何かヒントがあるかも知れないしな」
「……寝るぞ」
ここには明かりがあるようなのだが、まだ持っていた発光剣を構える。
発光剣と書いて『レーザーソード』とか『フラッシュブレード』とか読めたら良いのに……コイツはホントに発光するだけの剣なのだ……。
「わかった。剣を仕舞え」
困り顔で魔王が答える。ふっ、わかれば良い。
「各自散開し何か見つけたら俺に報告するように。特に割り振りはないが、広い範囲を探せるように各自しっかり動けよ」
発光させるのをやめ、剣を仕舞う。
その様子を見てか勇者が近寄ってきてこんな一言を言う。
「それって剣よね?」
「ああ、剣だ」
「コンサートとかでよく見る光アレじゃないわよね」
「ああ、剣だ」
「……武器?」
「くどい。確かにっ!! カッコ悪いことは認めよう――だがなっ、剣なんだ……」
ある意味珍しいこの剣が出来た成り立ちを説明すること一分(短い)、納得の表情の勇者。
ふっ、何でこんなことしてるんだろう。
「ほら、勇者も魔王も関係ない。お前も探せっ!」
「そうねぇ。魔王の後ろを付いて回ることにするわ」
怖いぞそれ。
仲が悪いのか良いのかわからないが、やっちゃいけないことはやらないだろうと信じておく。
「隊長、こっちに来てください」
「ん? 何かあったのか?」
塔の入り口にいたレラが言う。
コイツ探し物させたらすぐに見つけてくれそうだしな、何か見つかったんだろう。
「コレを見てください」
「んー?」
指差した先にあるのは、石版。
その石版の上を文字が浮いていて、俺にも読める文字でこう書いてある。
『この塔を上る者よ、この塔へ持ち込めるのは己の技能のみとなる。気をつけたまえ』
己の技能のみを持ち込める?
と、言うとどういうことだろう。
「技能と言うと、剣を扱う技術とか……それに当てはまりますね」
「なるほど、それじゃあ魔法は……?」
「特殊魔法は使えないでしょうが、普通の魔法なら発動可能だと思います。魔力を使いますが一種の能力と捕らえる魔法書もありますし」
なるほどな。能力はこの塔へ持ち込めない。
持ち込めるのは、武器と……それを扱う技術のみ。
「『鏡』が封じられるのは痛いなぁ」
「普段頼っているからこうなるのです。しかし、我々が上るのは本当に危険だと思いますよ?」
「ふっ、そこまで言われたら上るしかないな」
「何でそうなるのですか」
「……天邪鬼というヤツさ」
違うな。
もっと純粋な――
「そして好奇心っ!!」
「馬鹿ですか。入ったら死ぬのかも知れないのですよ?」
「死なないように頑張るさ」
もう湧いてしまった好奇心は仕方ないだろう?
オトコの意地というヤツを見せてやろう。
「おい魔王っ!!」
きょろきょろと視線を動かし、近くに居た魔王を呼ぶ。
「……何だ?」
ぎゅっ、と腕を掴む。
ふっ、ここで決め台詞だ。
「お前等は後から来いっ!! 俺達は先に行ってるぞっ!!」
塔の――入り口である門を開け放ち中に踏み込む。
門の内部は黒い霧で充満していたが――扉が閉まると同時に晴れていった。
「うおっ、何もしていないのに扉がっ!」
「それよりも何故……入ったのだ」
「ふっ、まあ良いじゃないか。好奇心は止められないんだぜ? それよりもだ、あんな台詞を吐いて――ん?」
視線が中央へ向かう。
何か、動くものが見えたからだ。
「甲冑、いや……銅で出来た像か」
つまりは銅像。
腰に剣を携え、頭に被る兜で顔の様子はわからない。
中央にいるその像の前まで来ると、周囲を見回してみる。
上へ繋がる階段が見当たらないこと以外は――何一つ物のない広い場所だ。
『これから君、いや……君達には百の試練を受けてもらう』
っ!?
頭に直接聞こえてくる声。
魔王のほうを向けば、動揺している様子はないが少し驚いているようだった。
「試練?」
俺の言葉に返されたのではないのだろうが、言葉が続く。
『それらの試練に耐え、勝利を勝ち取ることが出来たのならば――魔神の力を授けよう』
何とっ!
思考が少し追いつかなくなってきたが、とりあえず試練とやらをクリアすれば良いんだな?
となると……。
視線を中央の銅像へ向ける。
たぶん第一の試練は――
『この銅像に――』
落書きをする試練だなっ!?
『――勝利せよ』
予想と違うぞおいっ!!
そんな心の叫びも相手には聞こえないのか、銅像が動き出す。
腰に携えた剣を抜き俺へ向かい突っ込んでくる。
「跳ね返してやるっ!! 『鏡』」
……発動しない。
そうだった、発動しないんだった。
ズボッ、と俺に直撃する剣。
「ぐっ、安心してみてるんじゃねぇよ魔王っ!!」
「しかし、何故発動しないのだ!」
そういえばコイツは知らないんだった。
だから安心してたんだな。
「ここでは能力は封じられるらしい。つまりはお前が第二形態だー、とか言っても変身できないわけだ。『鏡』とか特殊魔法も当てはまるらしい」
俺が入れたのは良いが、特殊魔法を封じられたのは痛いぜやっぱ。
「治癒魔法で応急処置してる間コイツの相手頼む魔王っ!!」
「……了解した」
そう言い俺の前へ立つ魔王。
ふっ、頼りになる奴だぜ。
さーて、この後続くのはどんな物語なのだろうか。
大まかにしか制御できないって怖いですね。でも成長したと実感……。