第370話洞窟の中始まる――
何が始まる? ふっ、読めばわかるっ!!
「む、暗そうな洞窟だな」
キクさんの声が洞窟内に反射して聞こえてくる。
少し顔を洞窟に覗かせた程度なのに拡大されたこの声。かなり深いな。
「松明を用意したほうが良さそうですね。枯れ木を――」
「その必要はないっ!!」
剣を抜く。
そう、この剣の能力――
「発光せよ!!」
「お、ショボイ能力来たわね」
勇者の悪口はいつものこととして、俺が先頭に立って歩けば洞窟内は照らされるはずだ。
これで枯れ木を集めるなんていう無駄な労働はせずに済む。
「ああ、そうだ。案内ありがとな」
綿を籠に詰め洞窟内を不安そうに見つめる少女に向かい言う。
「あ、あの……本当に行くんですか?」
俺達を見て言う。
当たり前だ。山越えはしたくない、その意思は強い。
たかが邪悪な気配が漂う洞窟というだけで俺達の行く手を阻むことなど出来ないのだ。
「また襲われるかも知れないが……」
「大丈夫です。もう襲ってこないでしょうし、それよりもあなた達のほうが心配で……」
「はっ、無駄な心配しているぐらいならその平らな胸を大きくする努力でもしてろ。これで山賊から守ったのはチャラだからな」
それだけ言うと洞窟の中に入る。
少々心配だが、彼女のことだ……きっと大きくなる。特に胸が。
さすが、と言うべきか生物の気配など一切無い。
あるとしたらさっきから後ろから突き刺さるような殺気だけか……。お前等いい加減にしろよ。
「結構長そうな洞窟だな。整備もされてないし、人工的な洞窟じゃないのか?」
「特徴だけ見ればな。だがここを良く見てみろ」
そう言い壁を指差すキクさん。全員の視線が集中する。
剣から発せられる光を当ててみると、わずかに光っている。
光が当たっているせいだけではないだろう。
「魔力で地盤を固めているってわけね」
「ん? 全くわからないのだがどういう意味だ、勇者」
魔力で地盤を固める……地属性の魔法の応用だろうか。
「わからない? 魔力で出来た光に反応するように光る壁。つまり壁の中に魔力が含まれているってことよ」
「含まれている、って言っても誰がやったんだよ。そいつが固めているんだろう?」
「そこまではわからないわよ」
魔力で個人が特定できる、なんてことはないのか。
まあそいつのおかげでここが崩れずにすんでいるのだ。
「そうなると、ある意味人工的な洞窟ってわけか」
立ち話も長くなってはアレなので歩き始める。
それに続くように足音が重なる。
「そうなりますね。ワタシとしては、この洞窟の研究もしてみたいものです」
「んな暗い研究なんかしなくて良いって。頭使うと腹が減るだろ?」
「はぁ、馬鹿が三人に増えましたね」
呟くレラ。
「誰の事言っているんだ?」
「シュクリは含まれてないよね? ね?」
「あたしのことじゃないよな」
見事に三つの声が重なる。
「あんた等のことよ。馬鹿三人っ」
ギュッ、と勇者に後ろから抱きつかれる。
右隣にシュクリ、左隣にシャンという心地良い空間へとジメッとした空間から一瞬で変わる。
「俺は馬鹿じゃないっ!」
「あんたのおつむは蟻以下よ。それも比べものにならないぐらい下の下っ!」
なんっ、そろそろ怒るぞコラッ!
俺の髪をわしゃわしゃと豪快に撫でる勇者に威嚇……いや、宣言する。
「そこまで言うなら知力で勝負しようじゃないかっ!!」
勇者の元から逃げると、向き直りピシッ、と胸を張り勇者に指を指す。
それをみた勇者はシュクリとシャンから離れるとつかつかと俺の元へと歩いてくる。
「比べるまでもないことを何怒っちゃっているのかしら?」
「そんなのわからないじゃないか!」
「魔法陣の存在意義を答えてみなさいよ、じゃあ」
………………。
「わからなくたって生きていけるっ!!」
「それでも師匠を取って魔法を勉強したの? はぁ」
頭を抱える勇者。
母親として頭が痛くなったのか、それともコイツダメだ……という他人行儀なものなのか……。
どちらにせよ、もうやめだ。
「そんなことより、先を急ぐぞっ!!」
全員に向き直り言うと前を向く――と同時に何かにぶつかる。
「うわっ」
さすがに転びはしない。
壁だろうかと一歩下がって見てみれば、黒いローブを纏った背丈から見て……青年とぶつかったようである。
「ここを通る奴が他にもいたんだな。と、それよりもお前は逆の出口からこの洞窟を抜けようと入ってきたんだろう?」
数秒後、答えが返ってくる。
「抜けようと、というのは違うな。それと海弟よ、この顔を忘れたのか?」
声音からして男……そんなことどうでも良いか。
残念ながら顔がよく見えないので誰かはわからない。俺の知人なのだろうか?
俺の名前も知っているよう……なのだが、魔界で活躍した俺の名を知らない奴など魔界にいるのだろうか? いやいまい。
「顔を隠すな。忘れたのか? とか言う前に顔を見せろ、馬鹿」
「おお、そうだったな。魔界で顔を見せると大変なことになるから隠していたのだ」
顔が見えるようにフード部分を取る男。
その顔は――まるで俺の知る魔王にあたる人物とそっくりだった。
「……うん、ちょっと待て。キクさん、俺達が探している人物は?」
「魔王だが」
「目の前にいる人物は?」
「魔王だな」
うむ、魔王か。
「総員確保ぉぉぉぉっ!!」
『うおぉりゃぁぁっ!!』
重なる掛け声とともに部隊の面々が魔王に向かい飛び掛る。
それを見事に全て避けると俺のほうを見て呆れたような目を向けてくる。
「魔王探しの依頼でもされたのだな?」
「そうだ。ふっふっふ、俺のハーレムと昇進がかかっていたりするので大人しく捕まってくれ魔王」
「すまぬが、やることがあるのでな。また今度、ではダメか?」
やることがあるのか。
それならばしょうがない。
「追撃だっ!!」
『あいあいさっ!!』
「納得したような顔をしていたではないかっ!!」
追撃もかわされる。
ちっ、しょうがない……話を聞こう。
「そのやることってのは何だ」
「いや、な……。魔王から位を上げ……魔神にならなければいけなくなったのだ。魔神の力がどうしても必要でな」
「魔神?」
「歴史に数々の忌むべき災厄をいくつももたらした……魔界の神の名だ」
キクさんが言う。
神の名。
魔神というからには納得できる。
しかしだ、疑問が一つある。
「神? それはおかしいんじゃないか」
世界の支配者の管轄化にあるのが神。しかし、世界の支配者がいない今……旧時代の神は神でなくなっている。
どうなったかは知らないが……生きていると信じよう。世界の支配者の力がないのならば、その力もなくなっているはずだし魔神も魔神ではなくなっているはずだ。
「ええ、元々称号……みたいなものだったからな。名前を付ければ力は強まる……知っているな?」
そういえばそんな話もあったな。
いつだったか、説明された事があった気がする。
称号ということは、中身は魔族の誰かだったのだろう。
「その魔神が封印されたんだ」
「災厄をもたらしたからか? で、その災厄を魔王は復活させようとしていると」
「違う。魔神は災厄を確かにもたらした。しかし、あの力は使いようによっては――」
「言い訳は見苦しい。どの道ここで魔王はこちらが保護する」
キクさんが魔王の腕を掴む。
それを何度も魔王に飛び掛り顔面から地面に落ち鼻血を出しているシュクリが忌々しそうに見る。
「ほらティッシュだ」
「ありがどうございまず……」
涙目になっているぞ、お前。
まあ俺には関係無い。
「待て、キクさん」
「どうし――」
「その手、離さないのならばここで俺が斬ってやろう」
おおう、自分でもわかるほど話が飛躍してやがるぜ。
沈黙が流れたので補足説明しておく。
「ああ、うん。少しの間で良い……魔王を自由にさせてやってくれ。事情はわからないが……魔王は魔神の力を悪いことに使おうっていうんじゃないんだろ?」
「そう、だが……」
キクさんの目を見る魔王。
全員の視線が集まる。ただ一人、勇者だけは地面に絵を描いて――その絵は俺か? 下手すぎるだろっ!!
「少しの間、まあ良いだろう」
「ありがたい」
魔王の実家は突き止められなかったが、まあ魔神とやらにも興味がある。
「その魔神が封印されているのがここってわけだな? あ、でもここは――」
「この洞窟の何処かに隠し扉があり、そこから魔神の封印された……空間に行けると言われているのだ」
ほお、隠し扉か。
と、なると魔法で壁をコーティングしたというのも怪しくなってくるな。良く探せば魔力の流れとかなんかで隠し扉も見つかるんじゃないだろうか。
「魔王、手分けして探すぞ」
「いや、もう時間的に夜だろう――」
「朝だ」
自身の持つ時計を出す魔王。
「……ああ、壊れているな」
「む、ここまでくる途中に壊れてしまったのか。しかし、眠いの――」
「問答無用。ここにいる奴のなかで誰が最初に隠し扉を見つけられるか勝負だっ!!」
三、二、一……。
「スタァァァァトッ!!」
魔王、魔神。
神を出したのなら魔神を出せとじっちゃんも言ってるだろう?
天使を出したのなら悪魔も出さなきゃいけない。
さて、この小説で天使って出しましたっけ?
すみません、冗談――じゃなく忘れております。
それよりもっ!! 重大なことがあるんですよっ!!
魔王の一人称がなんだったか思い出せないっ! これを何とかしないと――はい、一話から読み直してきますすみませんでした。