第369話『手入れ修行の苦痛を味わうが良いっ!!』by海弟
買いたかったラノベの最新刊が出ていてハイテンションな兎桜なのでした。
入荷してくれてありがとう本屋様っ!!
「ほぉ、じゃあ洞窟があるんだな」
「はい。山を超えずにそこを通る人もいますが――」
「よし、じゃあそっちを通ろうっ!! 山越えなど物好きがやることだ、最短ルートそうだしな」
彼女から洞窟の話を聞き……そこを通り、山を越えようと思考する俺。
「あ、あのー」
「ん? ああ、情報ありがとな。シュクリ、みんなを呼んで来い」
お礼を言うとシュクリのほうを向いて命令する。
きょろきょろと周りを振り向き――首を傾げるシュクリ。
一体どうした。
「帰り道がわかりませんっ!!」
「そうか。じゃあ仕方ない。埋まっていろ」
ったく、俺でも道を覚えているというのに。
ちらりとお供一号に視線を送る。
了承してくれたのか背を向け町のほうへ走っていく。
「ふむ、後になったが……道案内頼めるか?」
「え、あ……はい。良いです、けど……」
何か言いたそうな表情の彼女。
「ん? 何かあるのか?」
俺が聞くと、おそるおそるといった風に口を開き言葉を発する彼女。
「あそこには……近づかないほうが……」
「やっぱり、何かあるんだな?」
敵がいるなら倒せば良い。
道が塞がれているならば破壊すれば良い。
「その、最近……邪悪な気配というか――」
「元凶を突き止めて倒せば良いんだな? 了解した」
「話が早くて助かりま――違いますっ!! 危ないから近づいちゃダメなんですっ!」
ノリ突っ込みの腕は一流、いや……俺のボケが冴えていたからか……。
無駄な才能よ……ふっ。
「シュクリはですね! 隊長様が大丈夫と言うなら何とかなると思うんです。だから大丈夫っ!」
目をキラキラさせて言うシュクリ。
ふむ、信じられるのって気持ち良いな。
「しかし、邪悪な気配を感じるというだけで俺達を足止めできると思うなよ」
「えっ」
近くに住む、住人なのだろう少女に向けて言う。
この二日、俺達はあの町に泊まっていたがそんな情報は聞かなかった。
いや、キクさんは聞いていたから山越えを選んだのか?
……色々考えているんだなぁ。
「け、けど大きな魔力も持っているみたいなんですよ。感じませんか?」
「感じない」
ふっ、残念だったな。
俺は魔力センサーなど持ち合わせてはいないのだ。
近距離、少なくとも数十メートルぐらいの範囲にいないと気づけないぜ。
魔法の修行を怠りまくっている俺に不可能なことは多い。
「シュクリもわかんないよな」
「馬鹿ですから!」
うん、スッキリするような返答だが今の質問と馬鹿は関係ないぞ。
「勇気がありますね……。私なんて、この森に入るのも嫌だったのに……」
「山賊にも会ったしな」
「今日は厄日だねー」
宥めるとお供一号の行った道を見る。
まだ姿は見えない。
時間はありそうだな。
「シュクリ、武器貸してみろ」
「溶けていますっ!」
「ああ、それで良いから」
受け取る。
軽い、溶けた部分がないせいでもあるだろうが……元々すごく軽いことがわかる。
「元々丈夫じゃないんだな」
俺もレイピアは持っているが、今度からもう少し慎重に扱うとしよう。
そして、勇者から受け継いだ白の剣の手入れ方法、その応用を実践してみる。
数回、白い閃光が瞬く。
感覚的に、成功したのがわかったが、あえてシュクリに渡すまで結果は伝えない。
「な、直っている!?」
「ああ、すごいだろう」
白の剣の手入れ方法、いや……既に手入れという範囲を超えたそれは……普通の剣に使えば溶けた部分の復元ぐらい……。
「俺には造作もないことさ」
「どうやったんですかっ!」
「そうだな、まずは血を吐かずに我慢できる特訓から始めようか。かなりキツいからな」
「……し、シュ――」
「弟子ゲットッ!」
「嫌ですーっ!」
知ったことか。
この技術は役に立つぞ。一人でも多くの人間に知ってもらいたいという俺の善意じゃないか。
お前も血を吐き地面にひれ伏せこの野郎♪
「あ、きたみたい……ですけど」
「おお、遅いぞお前等っ!」
手を振る。
まず先頭に勇者。走り、とび蹴りを放ったのでひらりと避ける。
次に来たシャンの頭突きを、足を伸ばし転ばせると次の姉の脳天へデコピン。妹と一緒に倒れていくのが見えた。
なんのつもりかは知らないがレラまでいたので足で鳩尾辺りを蹴っておいた。
「ひ、被害がワタシにも……。ワタシは立っていただけなのに」
「なら今お前の瞳に宿る殺意はなんだっ!」
怖いぞ。
先頭の勇者に目を向ければ悔しげな表情をしている。
この野郎、実の息子になにをするんだ。
しかしここで怒っても俺に利益はない。
戦闘の際、誤って勇者に剣を突き刺してしまった……それぐらいがちょうど良いだろう。
「その案もらったわ」
「読心術っ!?」
な、何てことだ。
「顔に書いてあるのよ。誰かの馬鹿が移ったんじゃないの?」
「馬鹿は感染しない……するのか?」
シュクリを見る。
うむ、ありえる。
楽しげに笑う姿は愛くるしいのだが残念、馬鹿以外にコイツを表現する方法が見つからない。
「まあ良い、洞窟に案内してもらおうか」
「待ってくれ。君は――」
「避けているのはわかっている。だがな、綿集めなんていうみみっちいことしてられるかっ」
黙るキクさん。ふっ、勝った。
「常識がわからないの?」
可哀想な人を見るような目で俺を見るお供一号。
この野郎、俺も皮肉を言ってやるとしよう。
「非常識を理解出来ないのか?」
「したくない」
負けた。これは負けた。
「だが、洞窟を通るのは決定事項だっ!」
「そこまで言うならわたしは付いて行くとするけど、どーすんのよ」
勇者が言う。
それが決定打になったのかコクコクとみな頷き始める。
さすが勇者。俺と違って影響力が……さっきの首謀者はきっとコイツだ。
「ったく、まあコレでチャラってわけだ。行くぞ、野郎共っ!」
「全員女なのだがな。しょうがない、付いて行くとしよう」
しぶしぶといった感じのキクさん。
俺には勝てぬのよ。ふぉっふぉっふぉ。
ふっふっふ、最近海弟を脇役に置いた小説が書きたいと思い、少し手をつけてみた……のですが、うまくはまる立ち位置が一つしかない。
その位置? ふっ、答えはあなたの心の中に(この台詞が言いたかっただけです)。




