第368話馬鹿な二人
あとは姉と妹を海弟と絡ませれば……ダメだ。
微妙にレラを海弟と絡ませないと。うむ、均等に均等に……。
何の話かって? ふっふっふ、魔王と出会ってからのお楽しみだったりする。
二日経った――出発を予定していた日。出発するため、準備をちゃくちゃくと各自……済ませていなかった。
理由が出来たのだ。
何が? ふっふっふ、簡単なことだ。
「海の次は山か。それも雪積もる」
という訳で、今日のうちに防寒具を手に入れなければいけないわけである。
キクさんのドジっぷりにはもはやこりごりよのぉ。
何ていうことを言ったら殴られそうなので言わず、全員で洋服店へ。
小さな洋服店らしく、防寒具を作るための材料が無いらしい。近くから取ってまいれということなので少数精鋭、いや……全員で行くのも面倒だとあみだクジを引き見事……俺とシュクリ、更にはキクさんのお供一号の三人になってしまったわけである。
基本キクさんお供は何も喋らないので良いチャンスだ。
キクさんの秘密を一から全部聞いてやろう。
という訳で今に至るわけである。
後ろに付いてきているキクさんお供一号にまずは話題を振るところから始めなくては。
気軽に名前でも――いや待て。受け取った資料の中にお供の名前も紛れていたような。そこから始めるのは気まずい。
だからと言って知らぬまま話を進めても打ち解けることは無理だ。当たりさわりない会話しか出来ない。
どうしようか。
ちらりと隣で自分の体験談、というか初任務の話を続けるシュクリを見る。
「シュクリはですね、あの時のことを――」
「これだっ!」
「これって何ですか!」
「いやな、シュク――待て」
説明したら作戦が台無しじゃないか。
お供に聞かれたら『名前を知らなかっただと……?』ジャキリ、という風になるに決まっている。
「シュクリ、お前の一人称は何だ?」
「いちにんしょう、って?」
馬鹿だ。
「私、とか、僕、とかだよ」
「シュクリはシュクリです」
「そうだよな。俺は俺だし、お前は?」
話を振ることに成功。
「……私」
「そうなのか。でも自分のこと名前で呼びそうなんだけどなぁ。一回呼んでみろよ」
さあ、結果を待て。
と、ここまでが作戦である。
ドキドキしながら見ていると――唐突に目の前に何かが現れる。
「魔物ですかっ!?」
「違う、どうぶ――何だこりゃ!!」
フォルムは鹿、しかし顔が……花? いや、花に顔が付いているんだ。
「魔物です。下がって」
「いや、下がるのはお前だな。魔物ならば俺に任せるが良い」
剣を抜く。
上段に構え突撃する。そのまま叩ききる――のをイメージしていたが見事に顔のお花で防がれる。かなりの防御力だ。
一度下がるとシュクリに目を向ける。
持っているのは突くことを想定されて作られたレイピア。
「胴体を狙えっ! 動きが鈍くなったところを斬るっ!」
魔法は、あの時偶然使えただけかも知れないので一応選択肢から外す。
まだ魔道が残っていたりするが体に宿すことしか出来ないので素手で突っ込む勇気はない。
「了解しま――」
口から液体を飛ばす花鹿。
それに触れ溶けるレイピア。とっさに避けたシュクリは助かったが、いやはや……喋ってないで早くやれと言いたい。
しかし、これで相手が危ない溶解液を使うことがわかった。
「シュクリ、魔法は使えるかっ!!」
「使えませんっ!」
「よしわかった。お前も下がれ!」
「はいっ!」
後ろを向いて走るシュクリ。
馬鹿な会話をしていると自分でもわかる。
「逃げるなら今のうちだぞ……花鹿よ!」
返答はない。
くちをもごもごさせ――不味い。
右に飛ぶ。
「あぶなーい」
「良いところにいたシュクリ! っていうかお前は逃げろっ!!」
さっきまでいた俺の場所が溶けている。
それを見てから俺の下にいるシュクリを見る。
レザーアーマーのせいでせっかくある柔らかいものが俺に触れていないのは残念だ。
「助かったが、早く下がれ」
「了解しました」
後ろに数歩、小走りし下がる。
そして俺に向かいこれで良いですか? と視線を送ってくる。
数歩じゃ意味無いだろうに。
マスを動く将棋の駒、あるいはチェスの駒のように下がってくれたシュクリに顔面チョップをお見舞いする。
「もう良い。そこで動くなよっ!」
「何で怒るんですかー! 下がったのに」
確かに下がったが、距離にして数十センチだぞ。
もう余計な動きをしなければそれで良い。
ちらりと魔物の方を向けば馬鹿にしたような笑いをこちらへ向けてきた。
俺の本気を見せてやる。
確か『我慢はお肌の一番の天敵』なのだ。くっくっく、勇者の教えに一度従ってみようじゃないか。
思い切り剣を振り上げると溶解液を飛ばそうとしている花鹿へ真上から振り落とす。
反射的かは知らないが、花が閉じ……攻撃を防御する。そのまま溶けるが良いっ!!
嫌な臭いが漂ってきて徐々に花びらが解け始める。
そこへうまく食い込んだのか剣が少し花びらに刺さる。
今なら斬れるっ!
一度振りかぶるとさっきと同じ場所を思いっきり斬る。
今度はスムーズに斬ることが出来た。
溶解液の部分は……まあ、偶然だったりするが……さすが俺だ。
「ふっふっふ、俺に不可能な事は無いのだ」
「隊長様すごいですっ!」
「いや……胴体を狙うのが一般的、頭は普通狙わない」
さいですか……。
突然現れたお供一号を尻目にシュクリと喜びを分かち合う。
胴体だけ見たら動物なのになんで変な部分がくっついているんだが。
「まあ兎に角だ。作るための綿とやらを取りに――おっと」
シュクリの背後。何やらふわふわした毛――いや違う。
綿だ。
「これを持って帰れば、防寒具が作れるというわけだ。量は出来るだけたくさんが良いな」
落ちているそれを拾う。
「そ、そこの旅人さーんっ!! あ、あのっ!」
遠くから声がしてきょろきょろと見回せば遠くに髪を束ねた少女が見えた。
「うむ?」
持っているかご。そこにあるたくさんの綿。
なるほど、彼女の落としたものなのか。
それを裏付けるかのように、落ちているコレは真っ直ぐ彼女の方を向けている。
ならばコレは彼女の物だ。
仕方ない、彼女にこの綿のありそうな場所を聞くとしよう。
随分と慣れているようだし。
「旅人さんっ!」
息を切らしている少女が俺を見つめ言う。
別に走らなくても良いのに――ん?
後ろ、山賊風の男が二人……少女の後ろを追いかけて来た。
「へっへ、もう逃げねえのか?」
「しっかし、二人もほかに女がいるとはなぁ」
「おい俺を無視するな。何だ、お前等の目は男を避けて見えるようになっているのか?」
……死刑。
そういえば仕舞っていなかった剣を構える。
いや、その動作すら必要ない。
「少女を守る少年の糧となってもらおうか愚かな山賊共っ!!」
構えもせず、単調に剣を振る。
各々武器で防ごうとするが――阿呆め。
振った剣を投げる。相手の武器に当たると大きな音をたてる――が、身軽になることが目的なのだ。
とりあえず、股間に一撃を加え片方を倒すと悶え苦しむ片方に隠れるようにもう片方の隙を衝き金的を――ガードされてしまった。
「おおう、やばいぞ、コレは」
「はっ、目的がバレバレなんだよぉっ!?」
首が落ちる。
倒れる男の後ろからお供一号が、小刀を手に面白く無さそうな表情を俺に向けてくる。
「武器を投げるのは馬鹿のやること」
「馬鹿と天才は紙一重。ふっ、お前には馬鹿に見えるだろうが間違えだ。天才なんだよっ!」
「隊長様がすごいんですよっ!」
「そうだ、もっと言えっ!」
「すごいですっ」
何だ、その馬鹿を、いや……馬鹿な二人を見るような目は。
前書きに意味深い何かを残した作者ですが、さて一体何が起こるんでしょう。
作者自身わかりません。