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第367話勇者様の戯れ

とりあえず、無茶苦茶なのは変わらないことがわかった。

若干だけど手直ししたんだよ。

むすっ、そんな表情の勇者。

それはこちらだって同じなのだが二人きりのこの空間じゃあ言い出すことが出来ない。


しょうがない、今回のことは水に流してやろう。


話題にも出来ないので別の話題を探してみるとする。


するとすぐに見つかった。


「そういや何で俺と母さんが同じ部屋なんだよ」

「ん? さぁ、知らないけど」


お互い知らされていない、という事か。


キクさんは何をやっているんだ。

こういう事に手際が良さそうなのに。


不思議と溜息は出ないがその分疲労に似た何かが体に溜まっていくのがわかる。たぶん反抗心というヤツだろう。

今度会ったら覚えておけよ。


ふっふっふ、と笑う。

しょうがない、ベッドは二つあるし最悪の事態だけは避けられる。


「親子だしな。うん、セーフ」

「アウトだと何回言ったらわかるっ! もし馬鹿息子に襲われでもしたら……」


頭の中がお花畑だな。おめでたいことに。


俺は現在進行形でハーレム形成に全力を尽くしているのだ。

自分の母親など眼中にない、その前に選択肢にすらあがらないっ!


「勇者、キサマにそれほどの価値はないっ!!」

「何をっ! 魔王みたいなことを言ったって本音は隠しきれてないわよ」


それほどの価値がないという本音を今ぶつけたのだから当然だ。


ベッドにお互い腰掛けると天井を見上げる。


言い争いも面倒になってきた――という具合だろう。

つくづく性格が似ている。


「そういや、母さんは……俺以前に異世界に渡っていたんだよな」

「そうだけど、話聞きたい?」

「まあ興味があるって程度なんだけど。どうやって渡ってきたんだよ」


まず話はそこからだ。


「……そうねぇ。秘密、と言いたいところだけど……ああ、教えちゃおっかなぁ」


もったいぶる勇者。何か言えば『やめた』となるのでジッと耐える。


「興味なさそうね。まあ旅の始まりから話してあげるわ」


しまった。逆効果かっ!!


俺の頭の中で繰り広げられ、展開を続ける苦悩を何とか押さえ込み話を聞くことにする。





空に広がるのは青空――ではない。人々の不安を煽るかのような漆黒の雲が空を覆っている。

彼女、勇者がこの地に現れたのは、この日だった。


ある人物から渡された剣一本で世界を救え、そういう無茶振りをされたせいか多少吹っ切れた表情で町を目指そうと足を進めている。

雲程度で彼女の気持ちは変わらないのだろう。というか、気にしている暇もない。そんな様子だ。


「勇者って何よ、勇者って。似合わないの私にはっ!」


夢ならば出口がある。

恐怖を見せられているのなら必ずそれは終わる。


彼女がゴールとして目標にしたのは町。

人にさえ会えばこの恐怖も消えると思ったから――という思いも無残にも目の前に現れる数匹の魔物によって粉々になる。


「っ、ただでさえ体力ないのに。こんなとこに出てきてアホじゃないの」


知識として――叩き込まれたその脳内から情報を引き出す。


弱点は知っている。けれどもそこを突くだけの動きが出来るとは思えない。

ならばどうすれば良い。


答えは実に簡単なものだ。


「負けん気さえあれば勝てるものなのよ!!」


無謀な特攻――唯一の作戦ともいえぬ作戦を繰り返し魔物の隙を突き、時に逃げ時に倒し……町へたどり着いた頃にはボロボロになっていた。

人格そのものが吹っ飛びそうな時を超えた彼女は――何だかすごく破天荒な性格と運だけで世界を救ったとさ、おしまい。





「おい待て。最後の方おかしいだろ」


いきなり手に入れたものがでかすぎる。

その前に母さん動き良すぎ。俺よか決断力あるじゃないか。ホントに素人かっ!


だからこその勇者なのだろうけども。


「ああ、ジャキルとネイルは旅の途中で出会いました。追加ね」

「感動のストーリーとか無いのかよ!」

「あるっちゃあるけど、トラウマを穿り返すのとか嫌いだからね。まあ話はしないわ」


そこは俺と逆だな。


人のトラウマを掘り返し、なじってなじってなじりまくる。

最高じゃないか。


「その笑顔の理由が何かわかんないんだけどさ。勇者としてじゃなく、母親として一つ忠告しといたげるわ」

「はい?」

「我慢ってのは、お肌の一番の天敵なのよ」


ああ、そうですか……。


ツヤツヤした肌をしている、死んでいる時間を合わせもうすぐ三十路後半であろう母親に哀れみの目を送る。

死んでいた時間を除けば……それでも母親としては若い方か。


「ま、今日明日はここで休憩するわけだし――楽しんでいかなきゃね」


そう言い剣の手入れを始める勇者。

一般的な娯楽とはまた違う気がするが俺も戦闘を繰り返したので剣の手入れはしておきたい。


「そういや白の剣の手入れってするんだな」

「しなかったの? 馬鹿ねぇ、切れ味が悪くなるから次からは手入れしなさい。方法は教えるから」


俺のベッドの上に大きな布を一枚置くとそこに白の剣を置く勇者。

ここでやるのか。


換気はしようと窓を開ける。


ぐいっ、と首を掴まれ横に俺が座ると手入れとやらを始める。

傷の数を見ているのか様々な角度から剣を眺める勇者。あまり一般的なのと変わらないよう――


瞬間、光が数度瞬く。


――今のなんだ!?


「手入れ完了。わかった?」

「わかるかっ!!」


何をどうしたんだよ。

そしてあの光は何なんだよ。


ああ、突っ込みは苦手なんだが無理にでもやっていかないととんでもない事態になりそうだ。

当分ぶっ飛んだ行動は控えないといけないな。


親子のコミュニケーションとしては異質だが、次の日の朝まで俺は白の剣の手入れ方法を体に叩き込まれた。


勇者と海弟の親子らしい一面――書けてない。

これは違うと断言できる。


親子らしさって何なのか。

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