第366話『相変わらず馬鹿なのよ』by勇者
カッコいい台詞を吐いても海弟は海弟。
そして作者自身、この小説を何処へ持っていこうか迷走中。
町に着いた――のはそれから一週間後。
食料は俺が居る限り複製可能。つまり、山だろうが森だろうが俺達を餓死させることは出来ないのだ。
「はっはっは、食料を奪えっ。住んでいる奴等は売り飛ば――」
背後から強襲を受ける俺。
無数の拳骨が俺の頭へと吸い込まれ重い一撃を食らわせると持ち主の元へ戻っていく。
「……いつの間にそんな山賊紛いのことをする集団になったのよ。ったく、宿取って二日ぐらい休憩したら出発しましょう」
「そうだな、では宿を取ってくるとしよう。海弟、君はそこで殴られていろ」
「断固拒否する。反撃の時間だっ!!」
やれやれ、といった様子のキクさんは宿をとりに行ったのか姿が見えなくなるがこちらに残っている人数のほうが多い。
俺の恐ろしさを思い知るが良い。
獲物を見る目で美少女達を睨みつける。
その中でも一番弱そうな――そうエレア。
びくりっ、と体を震わせるそいつは俺が狙っている事に気づいたのかも知れない。
姉の方は鈍感らしく自分を守ろうと必死になっているというのに。ええい、キサマ邪魔だ。
「とうっ」
要領良く地面を蹴る――と同時に勇者の足が俺を転ばせようと伸びてくる。
甘い。
横へ無理やりジャンプ、地面に体が着く前に片手で方向転換しエレアの方に――って何処だ?
一瞬目標を失う俺。しかししゃがんでいる事に気づく。
え、ちょ、待てっ!!
それが不味かったのだろう。エレアの方に倒れこむ。
ありえない失敗による苦悩と口の中に入った土を唾と一緒に吐き出す。
「う、重い……」
「しゃがむのが悪い。こういう時は回し蹴りか魔法で完全燃焼が普通の対応なのだ」
「何処がよっ」
背中を殴られる。
姉のほうか、うるさい奴に絡まれたなぁ。と予想できていたこと思いっきり顔にだしながら後ろを向く。
「何よその顔は。わたしはね、妹を守るっていう――」
「義務か? なら男が女を襲うという義務を発動させてもらおうっ!」
もう一度立ち上がり後ろを向く。
「心臓突いてやりましょうか」
比較的軽そうな槍を俺に向け威嚇する姉。こっちの名前はもう忘れても良い頃だろう。
もう一度振り返る。
ひゅぅ~、と風が俺と姉の間に吹く。
「あっ、アレなんだっ!」
あらぬ方向に指を向ける。
「ひかっかるかぁっ!!」
その隙を衝いてか無駄の無い動きで槍を俺に突き立てんと振るう。
しかし、そこは俺だ。こんな簡単なことで引っかかるとは思っていない。引っかかってくれた方が楽だったが仕方ない。
俺は手の中にある物を振りまく。
ざざぁっ、という小さな音。
そう砂だ。
「あっ」
「隙だらけである」
口調変化とともに目潰しを食らった姉に拳による打撃を一撃食らわせる。
その一撃に耐えられなかったのか気絶する姉。
「ふっ、弱い奴がほざくからこうなる――」
――のだ。
背後に殺気っ!?
完全に言う前に気づき後ろを振り向く。
いや、間に合わない。
出来るかどうか、わからないがやるしかない。
真剣白刃取りを実行する。
頭の中のわずかにある時代劇によくある風景が目の前に蘇る。
両手に強い衝撃。力でゴリ押ししているわけではないらしく、受けてからは比較的簡単に攻撃を止める事が出来た。
「助かった……けど、何かやばそう。勇者カモーン」
ちらりとそちらを向く。
「宿を取ってきたから付いてきてくれ」
「よっしゃー、シャワー浴びるわよ。もちろん全員で」
この野郎っ!!
全員でですかー!? とか聞こえてくるが俺の惨事を見てみぬ振りする部隊の面々。
取り残される奇抜な格好をした俺達。ついでに隣で姉が気絶している。
「……なぁ、エレア。剣を仕舞おうか」
「お姉ちゃんに……手をださないで」
「わかった。了解した。イエスだ。だから剣を仕舞おうか」
ぐいぐいと何故か力が強まってきている気がするのだが俺の勘違いか?
歯を食い縛りなんとか止めているが重さの分向こうの方が有利。これは止められない。
一か八かだ……。
横へ剣を往なし、後ろへ飛びのく。
ズガンッ
靴と地面が摩擦する音がその音に掻き消される。
剣が地面に直撃したことによる音だ。
「さ、殺意がこもった一撃だな。うん、剣を仕舞おうか」
口癖になりつつあるぞ。
殺気のこもったエレアの瞳を一度睨むと俺も剣を抜く。
構えは中段。エレアはというと下段に構えている、というよりも中段以上には上げられない……そういう風に見える。
体力、というよりも筋力があまりないのだろう。
ならば簡単。体力を削ればいい。歩き回ってからこんなことをしているのだ。
もうすぐ体力がきれるはず……。
剣を受け止めることだけを考え突撃する――も、相手は剣を振ってこない。
ましてや動こうともしない。
「……こいつ、目を開けたまま気を失っている?」
軽くホラーだぞ。
剣を仕舞い、大剣をエレアの手から外す。
よしよし、いい子だ。
宿の位置は大体把握したし気絶した二人を運ぶ事にしよう。
そろそろこの町の住人の視線が痛い。
☆
この宿、結構高いところじゃないのか?
という俺の不安とともに部屋は三つ借りたらしくその中の一つにこの姉妹を投げ込む。
扉を閉めると俺の部屋に向かう。
場所は親切な宿屋の主人に聞いた。
「ここだな。うん、大丈夫」
俺は男一人ということもあり一人部屋だろう。
こんな高級そうな宿だ。結構な部屋に泊まれるのだろう、そう思うとわくわくする。
扉を開けるとやはり豪華。ベッドは余分に二つ。更にはシャワールームらしきものまで。
外見だけを褒めるならいくつでもあげられそうだがそれだけじゃない。
料理はすでに用意されていて、どれもうまそうである。
とは言ってもまずは汗を流そう。
そう思いシャワールームへと向かう。
しゃわしゃわと音がするし、俺の予想も間違ってはいまい。
扉を前にし一つ頷き手を伸ばす。
そこで気づく。
「……誰か居る?」
そういえばベッドが二つ。
ありえない、相部屋だと?
もしかしたら美少女達のうちの誰かかも、という期待は意味のないものとなるだろう。
そりゃあそっちのが良いが勇者等の策略によって俺は嵌められたとしか思えない。
くっ、こうなったら相部屋相手を追い出してやるっ!!!
そう思い扉を開けば張本人の勇者様の裸体が――
「家族だからセーフ」
「アウトッ!!」
勇者の拳が俺の右頬へとクリティカルヒットした。
方向性としてはうまい具合にハーレムを(ムリか)。
さて、最近海弟が殴られまくってますね。
なんていうか女の子に強い海弟ですがうまい具合に均衡を保っている感じ?
そのおかげで恋愛とかに発展しないぜ。
青空さんにハンカチ届けてくるとしましょうか。