第361話『魔界に伝わる……のレシピか』by海弟
レシピはレシピでも?
「名前、わかってもらえたかな?」
「キクテナ、略してキクさんか!」
「……それでも構いませんが……」
キクテナはやはり呼びにくい。
「んでキクさん。魔王については何処まで調べることが出来ているんだ?」
「そちらからの情報によると自身の家、それも実家に居るというものがありましたし調べたら出てきました」
もう見つかってるのかよ!
何だ、俺達が来た意味は――
「ただ道のりが険しく軍全体を動かさなければ到底たどり着けないようなところにあるらしいのです」
さすがは魔王だ。
しかしそのおかげで俺はそんな険しいところに行かなきゃいけないのか。
くっ、ここは隊長という立場をフルに使ってやる。
「わかった。俺の部隊も同行させよう。俺はここで朗報を待っている」
「シュクリはですねぇ、隊長様も行ったほうが良いと思うんですよ。魔王様という方に会って正気でいられる気がしませんから」
笑顔でそう俺に告げるシュクリ。
「……この悪魔め」
「どうしてですか!!」
俺まで行く雰囲気になっちゃったじゃないか。
しょうがない、こうなったらここにいる全員で行こうじゃないか。
「という訳でお前もこいっ!」
「僕は普通の人間だし付いていける自信はないよ。魔力も持ってないし、剣だって扱ったことはないからね」
「……あの時のはなんだよあの時のは!」
あの五人が消え去った光景を思い浮かべる。
確かにコイツが消し飛ばした。
「彼女の力だよ。僕には到底できない技、やっぱりすごいねぇ」
「彼女?」
「……あー、秘密だね」
……イライラしてくるな。
椅子から立ち上がると部屋から出ようと扉の前まで移動する。
そこで一つ言っておかないといけないことがあることに気づき顔をキクさんに向ける。
「明日、城門前集合だ! 魔王退治――じゃなく、魔王捜索といこうじゃないか」
「退治は困りますね。ま、明日出発というのはこちら側としても問題ないので集合に応じましょう」
何か重要なことを聞き忘れている気もするが扉にもう一度向き直る。
「シュクリ、他の部隊の奴等とこの城に泊めてもらえ」
「隊長様は?」
「ちょっとした用事だ」
部屋から出る。
くくっ、明日が楽しみだぜ。
☆
……寝不足、更に筋肉痛。
ったく、楽しみにしていた明日なのにこんなに疲れるなんてな。
「剣と槍と……何で鎌まで買ったんだろう。まあ良い、使いこなせるようになれば良いだけさ!」
さて、鏡の中の確認完了。
「更に! 昨日の夜に手に入れた……ふふふ、ふははははははははっ!!」
前に来たときに買い忘れた魔界のお菓子レシピは既に俺の手の中にあるぜ。
くっくっく、これを買った以上もはや魔界に用は……あるんだよなぁ。
「あとは魔王をお縄に繋いでここに連れてくるだけだぜ!!」
ったく、このレシピを買うために歩き回った俺の労力の分だけ俺の近づいてこい魔王。
「しかし魔界の夜はすごかったな」
まさかこの目で黒猫の大行進(仮)を見ることになろうとは。
眠気を抑えて夜のことを回想しつつ俺の部隊の奴等と魔族の奴等、双方を城門前で待つ。
門番から変な視線をもらっているが気にしない。
「早いな」
「海弟様と呼べ底辺のクズめが。くっくっく、今の俺に勝てる者などいないのだからな!!」
響いた俺の声に驚く門番。その隣にいるキクさんを見れば引きつった顔をしている。
「ニヤニヤしているところ悪いが、君……気持ち悪いぞ」
「言葉を慎みたまえ。キクさんの寿命は一分一秒ごとに一億年ずつ削られていっているぞ!!」
「すまない、わたしは死なない種類でな」
何と!?
「いざとなったら盾にする。よろしく頼む」
「握手を求めるな。同意しないぞ」
「死なないんだろう?」
「首を切断されたら誰だって死ぬさ」
確かに、首は脆いからなぁ。
「足辺りで防がせてもらうとしよう」
「待て、話がおかしいぞ。わたしは拒否したよな?」
「ああ、首では防がない」
「わたしで防ぐな」
ちょっとぐらい良いじゃないか。
そんな会話をしていると城の中から部隊連中が出てくる。
やっと来たか。
「遅い。埋めるぞ」
「石畳のここでどうやって埋められるというのでしょうか?」
「割ればいいだろ」
「聞いたワタシが馬鹿でした」
俺の答えから一秒足らずで行ってくれるレラ。
馬鹿野郎! 割るのも大変なんだぞ!
「あの男は来ないんだな」
「次会ったときに殴るから良いんだよ」
「やあ、遅れてすまないね」
いつの間にか現れる男。
そういやコイツも名前を聞いていないが……構わないか。
どうせ俺の盾役なのだし。
「そっち側にもあと数人いるんだろう?」
「ああ、船の手配をさせる為に先に行かせているんだ」
……?
船? 船ですか。あの船ですKA?
「おっと、そろそろ俺はダメなようだ。お前等……先に行ってくれ」
「隊長様ーーーー!!」
「起きてくれよ! なぁ、起きろよっ!!」
シュクリとシャンの声がする。
ああ、神よ。俺が死んでもこの子達だけは――
ずざざざざ
何だか右頬が痛んだけれども。
「引きずるなっ!!」
「それが嫌なのでしたら自分の足で歩いてください。キク様、道案内頼みます」
「……あ、ああ。そうだな」
物凄く戸惑ってるよ!?
こうして魔王捜索一日目が始まった。
目的地がある分多少気楽だな。
何が何やらもう作者にはわからなくなってきました。
整理すると、魔王の実家は危険な場所にあるから一緒にこいやヴォケっ!
船は嫌なんだっ!!
こういう感じか……。
というか名前も出ていないのに海弟に盾扱いされている……可愛そうな――
ここで名前を出しちゃダメですよね。