第355話迷い、遅刻、そして食欲
ああ、海弟……お前をこれほど殴りたい気分になったのは久しぶりだ。
おかしい。何処に俺の美少女達はいるんだ。
「海弟、顔」
「はい、すみませんね。これでも男の子なんで」
何処かな何処かなー。城内へ入ると俺の部隊の奴等が目に入る。
「あ、隊長ー」
「アオル君じゃないか」
「相変わらず君付けですね……。聞きましたよっ!」
「ふっ、昇進確定のすごい任務を任されている俺に最後の挨拶を、と待っていたのか。良い奴だなぁ」
「昇進……ですか? えっと、それは……無理だと思いますけどー」
「俺に不可能は無いさっ! じゃあなっ!」
呆然としているアオル君を背に王の勅命を受けるため広間へと向かう。
上の奴等から回される仕事じゃないってところがミソだぜ。
「さて、迷った」
「はやいよ……」
だってしょうがないじゃないか。
気づいたら外に出ていたんだもの。
「というか青空、気づいてたんだったら一言ぐらい声をかけてくれても……」
「かけたよ」
なるほど、全面的に俺が悪かった。謝ろう。
「ということは、帰り道を知っているんだよな?」
外、と言っても城壁の上らしい。空が近いなぁ。
うんうん、と頷きながら青空の顔を見る。うん、青空が近い。
「ここから降りれば道はわかるんだ。そう、降りれば良いんだよ」
階段は……近い位置にあるし、そこから降りれば大丈夫。
即座に提案し青空と一緒に階段を下りる。
「ん? これは……」
「火薬庫、ってところかな。臭いがすごいよ……」
「なるほど、大砲が設置してあったしな。火薬がここにあるのも頷ける。
周囲を見回してもここには階段が無いようだ。
何で無いんだよ……という愚痴を吐きそうになったが、防壁の中に部屋なんていくつも作るものじゃないな、と思いその愚痴を飲み込む。
この自論が正しければ……階段は防壁の一番端にあるっ!!
俺達は火薬庫から脱出し、防壁の隅っこへ。
「やはり、正解だ」
「そろそろ時間大丈夫?」
「ん? 時間?」
「……えっとねぇ、軍って時間厳守の規則が普通あるでしょ?」
「うん」
「で、海弟は集合を影流にかけられているの。影流は先に行っちゃったけど」
「そうだな」
「で、集合時間に海弟が間に合わなかったらどうなると思う?」
「軍は時間厳守だから……うん、今回の任務の隊長をクビになるな」
……あれ、それはやばいんじゃない?
青空の説明を聞き急に忙しなく動く脳。
急いで城の地図を頭の中から引っ張り出すが……行ったことのある場所が少なすぎて役にたたない。
まあ知っている場所に出れば広間まで行くのなんて楽勝だろう。
「飛び降りるぞっ!!」
「ええっ、階段は!?」
「『林我』『林脱』」
「ほ、ホントにいくんだ……。それじゃあ――え、私も?」
たしゅっ、という踏み込みの音が響きその後青空を抱え防壁から飛び降りる俺。
重力に従い落ちている、のだがそれに逆らってみせるぜ。
「……それじゃあ飛ぶって意味になるな」
それに耐えてみせるが正解か。まあどっちだって良い。
我が足に力を込め、近づいてきた地面に対し踏み込む準備をする。
大きな音とともに地面に着陸……とは言わないだろう。激突が正しいか?
痺れる足を無理やり動かし前へ……やはり折れていたか。
柔いな俺の体っ!!
「治癒魔法、治癒魔法……っと」
数十秒かけ治癒完了。
さて、あとは階段上って広間まで行くだけだ。
急いで城の中に入ると俺の耳元で声が聞こえてくる。青空の声だ。
「海弟ー、私はいいからっ。私は用事ないのっ! 放してー」
あれ、影流に用があるから俺に付いてきていたんじゃ無いのか。
青空を放すとビタンッ、と床にくっつく青空。何かやばそうだが俺の知ったところでは無い。
まあ機会があったら埋め合わせはしようっ。
「ではっ!」
俺は逃げるため……ではなく、影流の下へ一刻も早く向かうためいっそう速く走るのであった。
☆
「遅刻だな」
「終わったっ! 一瞬にして俺のハーレムが終わったっ!!」
影流め、ほんの数秒ぐらいの遅刻――
「十分も待たせるな。何処に行ってたんだ」
長いね。十分は三分のカップラーメンを三つ用意できるよ。
「一分でその三つは食べれないだろうけど」
「何か食べてたのか? まあ良い、少しのことには目を瞑っておいてやる」
「神じゃ、神がいる」
さすか影流、わかってらっしゃる。俺のハーレムはまだ健在なのだなっ!!
何人かの後ろ姿が見えていたのでその隣に俺も並ぶことにする。影流は王座にもう一度座り俺達の姿を確認すると何か紙のような物を隣にいる男性に渡す。
何か重要なものなのだろう。男性は丁寧にそれを俺のところまで持ち運ぶと俺に渡す。
「内容は……ふむ、これが正式な依頼の受け方か」
『魔王捜索依頼』
という文字の後に取引内容が書かれている。
俺に関係無いことだろうし読み飛ばすと、もう読む部分がなくなってしまった。
その紙の最後に各国の印鑑が押してあり、国からの依頼だということを示す証となっている。
「ん? 影流……王、一つ質問があるんだが」
「何だ?」
「何で魔族……国? の印鑑まで押されているんだ。てっきり島の魔族共の依頼かと思ったんだが――」
「何か向こうで問題が起こっているらしく、魔王の帰還を待っているらしい。まあそれはこちら側の勝手な推測なのだがな、あの様子じゃあ当たっているさ」
色々と説明が省かれている感もしなくはないが、俺達の任務には関係ないから教えないっ、ということだろう。
どうせこの後魔界に行くんだろうし勝手に捜索してやろうじゃないか。
「向こうは向こうで捜索隊を出しているらしいから、合流して強力して探す――」
「はっはっは、んなことしたら小部隊特有の機動力が無くなるだろうが。話し合いなんてくだらない事は俺はしないぜっ!」
『口に利き方に気をつけたまえ。たかが小隊長一人が――』
何か影流の隣の男が喋っていたが無視をする事にする。
不敬罪? 上等だ、俺達の絆はそんなものより何倍も強いのさっ!!
その後の会話は無く、支援金を出され旅の出発……という展開らしい。
☆
広間から出て部隊連中の顔ぶれを見る。
確かに美少女ばかり、なるほど影流の力も中々侮れないな。
「自己紹介でも――」
「その前に食堂行こうぜ。腹減ったよ」
……隊長の言葉を遮るとは良い度胸だ……。
「まあ俺も朝食抜きなので同意する」
「もう昼ですよ。感覚がおかしいんですか?」
「どっちだって良いだろ、食べたい時に食べるのが一番だっ!」
「おおっ、気が合うね隊長さんっ!」
ああ、これぞハーレム。
ただ俺に気持ち悪いものを見るような目で見てくる奴が二、三人……部隊の半数じゃないか。
ただ、まあ俺を理解していないからそういう目で見ているんだ。
きっと自己紹介が終われば仲良く出来るさ。
そう楽観視し、俺達は食堂へ向かう事にした。
青空さーんっ!!
さて、前書きの理由がわかってもらえたところで君に海弟を殴る権利――その前に斬られるでしょうからやめときましょう。あやつ剣を持つとは生意気な。
というわけで、男少女多パーティで挑みますかね魔王探し(明らかにふざけた展開です。彼の謎も一緒に解くので許してください)。
それと、アレでハーレムと読むのはか不明ですので参考にしないでくださいな。