第352話ある騒ぎの夜
ああ、簡単にネタを見つけられる方法無いかな。
これ以上のギャグをいれてどうなるかは知りませんが(そっちのネタじゃない)。
城の中は物凄く狂乱に満ちた世界になっていた。魔法の使える者は大道芸人か何かのように炎のジャグリングをしたり、使えない者は兵士の中でも美人と噂される(噂ね)女に向かって愛の告白をしたり。まあ何だか俺の好きな雰囲気だ。
「と、その原因がわからなきゃ俺も一緒に騒げないな」
「ふっふっふ、教えてしんぜよー!!」
豪く高い声が近くでしたのでその方向を見てみればファンが酒瓶片手にふらふらとこっちに向かって来ていた。
顔が真っ赤になっているところを見るとかなり飲んでいるなコレは。こっちの世界の人間は酒に強いし俺の基準じゃあ図れないのだろうけども。
「んじゃあ教えてもらおうか。酒臭いファンさんよ」
「酒臭い言うなぁ! 何と影流王が帰って来た――そういや海弟もいなかったような。まあそれはどうでも良いのぉ」
説明の途中で別の話題が入り込んで来たな。
俺のことがどうでも良いってのは酷い話だがしっかりとした説明がほしいところだ。影流がどうしたって?
ファンに話を聞いた限りじゃあ影流の為の騒ぎらしいのでその影流を探すことにするが……見つからない。
城内にいるのだろうか? ならば中庭にいても意味無いんだが……。
「あら、久しぶり」
「……ああ、師匠か」
「何その合間。忘れていたって言うんじゃないでしょうね?」
まさか。俺が師匠の醜さと酷さを忘れているわけないじゃないか。
逆に言えば師匠は醜さと酷さで形成されているんだ。
「む、まあ良いわ。酒臭い男どもばっかねここ」
「そう良いながらもタダ酒飲みに来ているんだろう? 師匠、この騒ぎの原因知ってる?」
「知ってるも何も。……本人に聞いた方が良いんじゃない? その本人も困ってるようだけど」
「何処にいるか知らないし」
「あそこよ」
そう言ってテラスを指差す師匠。上を見ていなかったからわからなかったが確かにあそこだけ何故か明るい。
そこに人がいるという証拠だろう。
「ありがと。で、師匠もう一つ聞きたいことがあるんだけどさ」
「何?」
「俺の剣、まさか『発光する』ってだけの能力じゃあないよね?」
「……ひゅーひゅー、あー唇が乾いて口笛吹けないっ。酒よ! 酒ぃ!!」
逃げたっ!?
師匠の後姿を眺めつつ弱くも強くもならずにちょっとした利便性をゲットして俺の手元に戻ってきた剣の柄を掴む。
今ここで斬りかかってやろうか……。思ったが抜く寸前でやめる。
「きっと呪い殺されるな」
自分自身に『殺した相手を呪い殺す魔法』ってのをかけてそうだ。そんな魔法があるかは知らないが師匠ならありえる。
柄から手を離すとテラスにどう行こうかと考えていると上から何か生き物が降ってくる。
それは翼があり硬い鱗を持ち、鋭い眼光を持った……ドラゴンだった。と、まあそれだけなら大丈夫。俺も知っての通りこの城にいるドラゴンは一匹のみ。
青空のドラゴンだ。ならば人に危害は加えないし、という思考もすぐさま終了。俺の頭の上に落ちてきたコイツを掴むと地面に投げつけ何度か足で踏みつける。
「この野郎っ!! 俺はドラゴンが苦手なんだよっ!!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
「なっ!!」
大きく咆哮するドラゴン。当然回りにいた人物は全てコイツの咆哮に気づき視線を俺に集めてくる。
コイツは孔明の生まれ変わりに違いない、そう思ったりした。
ただ俺も黙っているだけでは無い。ドラゴンを掴むと遠投よろしく上空へ手を伸ばし片方の手でドラゴンを掴む。
さあ後は投げるだけだ!!
テラスに向かいドラゴンを投げる……と、同時にその玉……ではなくドラゴンに俺の手首を捕まれ見事失敗。その重さにより顔から地面へとダイブ。
キーン、とした耳を劈くような音と周囲の笑い声が一緒に聞こえてくる。
それと同時に体が引きずられているような感覚まで……、しっかりと視覚を確保し前を向くとドラゴンがその翼を広げバッサバッサと空を飛ぼうと頑張っていた。
が、風も無いのにこんな小さなドラゴンが男一人掴み空を飛ぶことは不可能。助走さえ無いのだ。
「俺を連れて空を飛びたいのならば飛べば良いさ。出来るのならばな……」
出来ないだろう。そうだろう。
そんな優越感に似た何かに浸っていると何者かに背中を踏まれる。
「うぎゃっ、誰だよ!」
力の入れ具合か何かは知らないが踏んだ人物が過ぎていった方向を見る……と一国の王様、とまでは俺の中では認められていない人物がいた。
「エイラか。なるほど、死ね」
「ふえ? 死ねと言われたような。気のせいか」
これでお互いスッキリした。素晴らしいなあ世界って。
うちの国の兵士を一人連れまわしているみたいだが、まああの顔からするに恋愛感情とかじゃあ無いんだろうなぁ。
「ところでドラゴンさん。放してくれませんかね?」
言葉通りに動いてくれるドラゴンさん。
コイツとならいつか友情が生まれそうだ。その時は……俺が墓に埋まる時だろうけどな。
「龍など信頼するものか、をモットーに生きている海弟ですから。と、そろそろマジメにいこうか」
城内から階段を上がり衛兵を数人倒してからテラスまで着くのに十数分掛かったが問題ない。
不自然な笑みを作り会話をする二人を発見し近づく。
「おーい、影流さんや。何だ、この騒ぎ」
「ん? 海弟……ちょっと待て。ここまで普通に来ることが出来たわけじゃあ無いよな?」
「いや、心優しい衛兵さん達が俺の話を聞いて退いてくれたのだよ」
「信じられるか。疑いが強まっているんだぞ、宝物庫荒らしに衛兵を毎度毎度倒して王のいる場所に特攻していったり。反海弟派と言ってもいいな」
「首吊り死刑だな、そいつ等」
「お前自分の立場わかってないだろ」
いざとなったら逃げるから安心しろ。
「それで、話は最初に戻るんだが何だよこの騒ぎ」
「影流が帰って来たからだよ」
青空さん得意の解説が始まりました。
みんな正座。
「何で正座なんてしているのかな……。良いけど、王様がいない国……それが一週間も続いたんだよ? それから急に王様が帰ってきたらみんな喜ぶに決まってるよ」
「心配されていたってことか?」
……俺のことは完全に忘れられていたのに酷い。
嘆いていると青空のフォローが入る。
「わ、私は海弟のこと忘れてなかったから安心して!」
「後付設定などいらぬさ。ふふ」
虚しいのぉ、虚しいのぉ。
こうなったらこの城に幽霊が出るという噂を流してやる。
「そういえば何で一週間も二人ともいなかったの? 私帰れなかったし……」
「向こうの世界にいたな。海弟と一緒に」
「そうだな。俺は病院にいたが」
「……それについて何だが――」
何だか会話が怪しげな雲行きに包まれてきた。
なんだろう、嫌な予――あるぇ?
影流と青空の後ろに空中に浮遊している五人の悪者が見える。
「ん? どうしたんだ?」
「顔色悪いよ? というか真っ青」
……ありえない。人が空を飛ぶなんて……ありえないよね。
俺飛べないし、影流も飛べないし、青空も飛べない。なるほど、やっぱり人は空を飛べないんだよ。だからアレは幻覚……。
俺の視線を辿ってか後ろを振り向く影流。急に顔つきが強張る。
「なるほどな……」
ああ、幻覚じゃあ無いのか。
「誰かいるの?」
後ろを振り向こうとしている青空の腰に手を回し見えないように顔を俺の胸に押し付ける。
タンスに仕舞ってあったやつだから木のにおいがするだろうけど勘弁してくれ。
「あー、バレたか。っていうかインパクトある登場だったよなぁ、な?」
「知るか。そうだな……五点中五点だ。勿論驚いてない方の点数だけどな」
「そうか? まあ良いけどよぉ、荒野しらねぇ?」
……こいつ等知らないのか? 良いだろう、教えてやろうじゃないか。
「アイツなら……母親の幻影を追いかけ何処かへ消えたよ……。世界の支配者の権限まで捨ててな」
「何やってんだよアイツ」
騙せたのか? 騙せてしまったのか?
うぉぉぉい!!
「嘘だ」
「嘘かよ」
俺の良心……ってやつかな。というか俺は何で青空を抱きかかえたんだ?
出てきたー!!
と、都合よく敵だけ死ぬなんて展開は無いのです。この後スタッフがおいしくいただきました何ていうテロップも入りません。当然です、人は食えません。
にしても、祝日終わっちゃいましたね。