第351話剣を探して 後編
ハッタリ? 上等だ!!
マヤがまず先に行く。表情は年相応のもの。さすがは長年の……っていつからマヤは盗賊なんて真似を始めたんだ?
まあ良い、雑念は作戦を失敗に導く。職員室の扉を開くと良く響く声で言う。
「お姉ちゃんどこ~」
たぶん今にも泣き出しそうな表情を作っているはずだ。
反対側にある扉を少し開け中の様子を見る。
……教師側の反応は完璧。数学の野々村以外は全員マヤに付きっ切りだ。
くっ、少し見つかる可能性もあるが……これならいけるっ!!
静かに扉を開き中へ進入。バレた様子はない。マヤもまだ余裕で引き付けられる状況だ。
いざとなったら泣きまねでも出来るだろうアイツなら。
ロッカーの位置は高一のときに把握してある。文化祭の魔王役をなめるなよっ!!
腰をかがめて移動、これでそこまで到着。
「ふふふ、さてロッカーオープン」
小声で呟くとロッカーの扉に手をかけ出来るだけ音をたてないようにしてロッカーの扉を引く。
……が開かない。たぶん……鍵だろうなぁ。めんどくさい。
鍵穴を見ないようにしていたがやはり鍵があった。
何処にあるかというと逆方向の壁の掲示板の角に吊り下げられている。
くっ、どうするべきか。このままこれを奪って逃走。それはダメだ。
何故ならば今ここの生徒会長はあの女だ。ソイツが真っ先に疑うとしたら俺。生徒会企画でやっちゃった過去もあるし全校生徒の諸君も俺だということを疑わないだろう。
「……盗み出すのは不可か」
という事は鍵を取らなければいけない。
先ほど上げた逆の壁という障害の他にも数学教師野々村の席の後ろという障害もあるのだ。
見たくない現実とはこのことか。
どうする。そうだ、まずはこの中に剣が入っているかどうかだけでも……。
白の剣は特殊な剣、込められた魔力も半端じゃあない。
それを察知できれば……感じない。このロッカー内には白の剣は無い!?
……む、しかし大きな魔力が一つ……二階か!?
多目的室だっただろうか。そこならば演劇部が……っ、まさか!!
現在進行形で白の剣が演劇の小道具の一部になっているのか!?
「まずい。物凄くまずい」
一時退却。
数学の野々村に目には見えない強烈な風を一度当ててやってから教室から出る。
時間切れ、というところだろうか。マヤも職員室から教師達の魔の手から逃げ俺のところへ走ってきた。
教師は当然探している様子だったがやる気の無い様子ですぐさま職員室の中へ。
「ふむ、少し手違いがあったようだ」
「何がどうしてどうなったんです。まさか場所が違ったとかそういう間違えじゃあないでしょうね? 殺しますよ」
「すまん、場所が違った」
「……で、何処です?」
寛大な心に感謝する。
多目的室にあると、伝え急いでその場所へ向かう。
ちょうど演劇の最中、兄さんもいた……なるほど兄さんがいなかったのは部活だったからか。
「白の剣は……」
「あの仮面騎士だな。元々は義賊をやってる盗賊団のグループの一人なんだが仮面の魔力により姫様を助け出す騎士になってしまった、というシステムらしい」
「設定とせめて言ってください。けど、都合良いんじゃないんですか?」
「え?」
「海弟も仮面をつけています。あそこにいる男も。ということはうまくいけばバレずに白の剣を回収出来るかも知れませんよ」
限りなくその可能性は低いと思うが……面白そうなのでやろう。
俺の剣の場所(入り口のすぐ近くにポイしてある。ふざけんな)もわかったので戦いの準備は完璧だ。
扉を開き入り口近くの剣を拾うと仮面騎士に先端を向ける。
「ふっ、盗まれた剣返してもらおう」
ポカーン、となる場。しかし戦いにおいて隙を見せた者には死が訪れるのだよっ!!
走りより、柄部分を剣で斬りつけ剣を弾くとその勢いを利用して仮面男が立ち上がらないようにタックル。
肩に痛みがあったが関係ない。白の剣を奪うと窓際まで一気に走りジャンプ。飛び蹴りにより割れ、飛び散るガラス。
そのまま地面に着地。
完璧だ。
『な、何だったんだあの変態』
聞こえないよ。実の兄の声だろうが今の俺には聞こえないっ!!
何故ならば明鏡止水の忠実なる騎士なのだからっ!!
もう自分で言っててわからないが一回の職員玄関まで走る。演劇部の奴等も小道具が盗まれたというだけあって走る。
後はマヤと合流するだけで良いんだが……くそっ、窓から飛び降りなきゃ良かった。
鞘に二つの剣を収め職員玄関に入る。この時点で鏡の準備は完璧。
「マヤっ!! 早くこーーーーーいっ!」
「は、はぁはぁ……。飛び降りないでくださいっ!!」
「知るかっ!」
見れば演劇部の部員は間近。というかその距離一メートルほど。
すぐに捕まってしそうだが……甘いっ!!
「水よっ!!」
放たれた水流により廊下側の壁にぶち当たる演劇部員。音に気づき教師側も職員室から出てきた。
「いったん隠れてから転移しよう!」
「り、了解ですっ。そっちのが安全そうですし」
とりあえず近くの体育館の影が安全そうなのでそこまで走ることにする。
俺達はずっと靴を履いていたから良いとして、履き替える時間分俺達が有利なはずなのに差が何でこうも小さいんだっ!!
「マヤ、おんぶだ」
「はぁはぁ……。了解です……」
「『林我』」
速さが一段階ぐらい上がりマヤを運びながら体育館まで走る。
体育館裏を目指しているんだがこの調子だと何処か隠れる事が出来る場所まで逃げた方が良さそうだ。普通に追いつかれる。
「何てスポーツマン!?」
必死になって走っていると一際目立つ声が響く。
『えー、緊急連絡? 演劇部の小道具が盗まれました、犯人は体育館に向かって逃走中。部活を一旦停止し犯人を捕まえる強力をしてください』
良い度胸じゃないかっ!!
というか弟の持ち物を小道具として学校に持っていくって……兄さん酷すぎっ!!
「ふっふっふ、炎よ!」
かなり緩い速度で球体の炎を投げつける。
ひるむ演劇部、しかしそれを避け現れるサッカー部。
その後に続く運動部軍勢。くそっ、何て奴等だ!!
「……ん? そうだ」
走るのをやめて立ち止まる。
『勘弁したようだな盗人めっ!!』
「な、何で逃げないんですかっ」
「気づいたんだよ!! 俺が逃げるのは不可能だと言うことにな!!」
「……まあそうでしょうけど。うまくいけば……」
「良い事を教えてやろう。お前の中にある辞書を開いてメモしておけ。逃げている奴に幸運なんて訪れない。それはきっと悪魔のささやき何だよ。ならば今すべき行動は一つだろう? 戦うことだよ!!」
「死人でますけど」
「そこなんだよ問題は」
「馬鹿ですね」
『おーい、オレを無視しないでくれないかなー?』
ん?
その声に反応する時にはもう遅く、完全に包囲されていた。
「……仕方が無い。アレをやるしか無いようだ」
『アレ?』
柔道部部長が姿を現す。この寒いに裸足だなんて頭が下がる。
「そう、この剣の本当の力さ」
そう言って白の剣を引き抜く。こいつを使ったらこの学校なんて一撃で吹っ飛ぶだろう。
うろたえる生徒達。その時俺は鏡を取り出す。
「『鏡』」
『何をするつもりだ!!』
「くっくっく、死ねぇぇぇっ!!」
風が吹き荒れる。
『ぐぐぐっ!! ぐあぁぁぁぁっ!!』
『な、うっ!!』
吹っ飛ぶ生徒達。
追い討ちをかけるように……ということはせずに鏡の中に入り事なき事を済んだ。
☆
「結局、『鏡』がどんな魔法かわからないという心理の裏をかいた作戦ってだけでしたね」
「完璧かつ素晴らしい作戦だったな。と、そろそろ城に戻るとしますか。マヤ、報酬はまた後でな」
「私の方は顔を見られましたし、報酬は十倍で」
……わかった。わかったから馬鹿をみるような目付きでこっちを見るな。
ハッタリ未満嘘以上。
……オチしょぼいな。
生徒全員病院送り展開のほうが面白かった気が……いやいや、剣を持ち帰ることが出来たんだからあとの事は良いだろう、なあ読者様。
はい、すみませんでした。