第345話『まずは相手の気を逸らす!! そして……むふふ』by自由な王様
登場人物全てが敵に見えてくるぜ……はっはっは。
血が飛び散る……光景を僕は予想していた。
しかし目の前に広がる光景は全く違う物……なのだけれどもある意味一番良い展開なのかも知れない。
「……痛い」
「こんな偽物じゃあ斬れない。次は本物でいくけどね」
いつの間にか透明の状態を解除しているあにょ。
余裕の笑みを向けるエコンはというと偽物と言われた剣を消し再び長剣を生み出す。
ここまでくればエコンの言いたい事はおのずとわかる。
「降参、します」
「そうすると良い」
僕の方を見てくるエコン。ん?
……ああ、なるほど。
「勝者エコン、えーと一応チーム戦ですよね……。どういう形式で――」
「おいおい降参なんて終わり認めんのかぁ?」
睨み付けてくる解説員さん。
こ、怖い。
「へぇ、認めないっていうんだったら。私とやらない?」
そこで出てくるのがゼッカス代表のこの人、エイラ王だ。
この人も心の中では呼び捨てで――
「呼び捨てで?」
……エイラ様です。
心が読めるのかこの人……。
「ほぉ、良いねぇ。二回戦目は俺が出る」
「えと、名前は……」
「……んなもんどうだって良いんだよっ!!」
「あにょさん知ってる?」
「……ナエ」
「では第二試合。ゼッカス代表エイラ……様。対するは――」
ちらりと両者に視線を送る。
どちらとも準備はできているようだ。解説員はナエに変わりあにょがお送りします。
と、僕の審判も誰か変わってくれないかなぁ。
代表達のほうに視線を向けると僕の同僚達が代表の後ろ側から僕の方を指差して何か話している。
な、何でいるの!!
「早く始めろよぉ!!」
「は、はいっ!! 対するはナエ!! 試合開始っ!」
何か色々と省略してしまったような気もするけど試合はこの合図で開始された。
それと同時に複数の剣が宙を舞う。
「あ」
ぽかんと口を開く僕、真上から大量の剣が降り注ぐ。
急いで壁際に避けると飛んできた先を見る。
「え、エイラ様っ!?」
「ちっ、惜しい」
「何がっ!?」
心臓がバクバク鳴ってるのが聞こえる。
うわぁ、僕死ぬところだったんだ。
「はい、審判は起きる」
ディティさんに股間を蹴られ強制的に現実逃避から目覚める。
どうやら僕が現実逃避している間に試合は進んでいた様子。
「えと、あれも魔法ですか?」
「そうね。まあ特殊な部類の魔法には入るからあんまり使う魔法使いはいないんじゃない? まさに魔法石の国の王様ならではの魔法ね」
「どういう意味――」
僕の目の前を通過する剣。
急いで口を閉じなかったら今頃僕の舌はどうなっていただろう。
二度目の余裕なのか今剣の形をした物に何か模様が付いているのが見えたような……。
「簡単に言えば転移魔法に近い近接戦闘に特化した危険度S級最凶魔法ってところかしら?」
「な、何だか凶悪な響……」
「まずあの剣。模様、見えた?」
「え、ああ……少しだけ」
剣の形は一緒だったけど色使いというか、何というか……。
まあそれが一つ一つ違った。
「あれ全部が魔法剣よ。模様の方は……たぶん自分で書き加えたんだと思うけど、あの子も暇ね」
「ええ、ということは……」
「そ、私達が作ったの。あの子の剣を作る作業が大変すぎて海弟の剣の能力は発光する程度に……あ、これ秘密ね」
「は、はぁ」
……そんな剣を使って海弟様は敵の親玉に挑んでいるのか。
何だかすごい話だ。
「完全に他人事って感じね。まあ私もそうだけど」
作って渡しちゃった本人なんですから。
「んで、剣と魔法。両方使う魔法剣士ってのは見たことあるわよね?」
「はい。城内でも最近多くなってきたように思えます。僕も魔法が使えたらなぁ」
「一生無理でしょうよ。で、その剣と魔法、この関係をこう……すごーく近くしていくとあの魔法が完成するわけよ」
「途中で説明めんどくさくったでしょ。ま、まあ一応剣と魔法の関係が近くなるとああいう魔法が出来るんですね」
うわ、納得できないよこの理論。
この人海弟様の師匠なんだよね?
……だから海弟様もメチャクチャな理論を振りかざして戦ってるのかなぁ。
「ま、魔法そのものが非現実的なんだから一々気にしてちゃダメなのよ」
魔法そのものを否定したよこの人!
「んで、近距離で最凶って私が言った理由なんだけどね。逆に言うと中距離、遠距離じゃあこの魔法は役に立たないポンコツになるの」
「え、でも……」
「そう、この子は中距離、遠距離でも扱えてる。理由は何だと思う?」
「その前になんで近距離じゃないと使えないんですか!!」
「……自分で考えなさい」
うわ、ひどい。
「ああ、この一言で言った方が早いわね。魔法使いは基本魔力の大きさと頭の中の知識を足した分の強さを発揮できるのよ」
「へぇ」
じゃあこの強さは持ち前の魔力の大きさから来ているのか。
頭の中は空っぽそうだから。
「あぁ?」
剣が飛んできました。
「……説明する」
「え?」
「あにょが……」
……説明してくれるの?
ありがたいけどその口調で説明されてもアレかも。
と、言うわけで全部聞いてまとめてみると。
あの魔法は近距離でしか普通発動しない。あにょもそうする。
その理由は魔力の問題。魔法剣に込められた魔力と、自分の魔力は当然違うもの、それを気力と膨大な魔力でコントロールしていってその剣の実力の五倍以上の力を出せるとか何とか。
で、その膨大な魔力を維持するためにはどうしたらいいか。当然普通の魔法使いでは五秒ほどで魔力が枯渇して気絶、悪くてトラウマになるとか。怖い。
このエルフ女が言いたいのは魔法石とかいう物を使って魔力を回復しつつ半永久的に剣を操作している、と言うことらしい。
ふう、長かった。何が長かったってこの二名の解説員の話を聞いて理解するまでが長かった。
ほら見てよ。こうしている間に両者血まみれ……じゃない。
「くそがっ!! 踏みこめねぇだろうがっ!!」
「ふふん、足元狙ったぐらいで動けないなんて貧弱ね」
一方的な展開!? え、何それ。
「ま、弱点を見つけるだけの時間があったからこういう戦法が取れるんだけどねぇ」
そういえばこの人海弟様と戦っているこの人のことも観察していた!?
ほ、本当はすごい人なのか!! さすが王様というだけの事はある!!
「ほら後ろからサクッ、と」
「なぁっ!?」
後ろへ首を向けるナエ。しかし……剣は飛んでこない。
と、言うかエイラ様消えた!?
「くそっ、魔力が充満しててうまく探れねぇ、あ?」
「しょぼい」
美しく、細い足……しかし確実にアレは入った。
ナエの持っている大剣はほとんど防御にしか使われることはなかった……が、この一撃は防ぎようがなかった。
「あああぁぁぁっ!! ぐうっ、がぁぁぁっ!!」
「うわぁ、これ痛いんですよ」
俗に言う金的。
「ふっ、あんたが注意を向けるべきは前だったってわけ、何だけど。もう一発やっとく?」
「ぎ、ギブアップッ!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっ!!」
ナエさんご愁傷様です。
「勝者エイラ。えーと、僕としては反則負けにしたい勝負でした」
……っていうか自分の最終奥義を撹乱のためだけに使うとか、うーんこの人も思い切りがあるというか。
「えと、第三試合の前に一回休憩っ!!」
代表の人達が今後こういうことしないように確認とっとかないと……。
一撃、一撃で……終わるものなんだと、理解しておいて欲しい。
自分の中では小指タンスが二位でこいつが一位なんです。
……そろそろ読者様方がファンタジーからコメディーに変えろという怒りのメッセージ? がきそうで怖い。
……基本ファンタジーですから!!