第344話『この戦いで掴むものは勝利じゃないんだぜ☆』by海弟
ここまでセッティングしてやったのに海弟の野郎が全部ぶち壊してくれました。
……あいつの性格をどうにかしてやりたい……。
僕がずっとこの戦いを見てきて思ったこと。
それはエコンの得意技は『変化』では無いのかということ。
召喚魔法を使ったけれども呼び出したのは変化の得意な低級魔物(ディティさんが言うには)らしいし、自身が武器にするのは魔力を物質に変える魔法武器。
「こういう戦い方をする人は始めてみるなぁ」
「強さにも色々あんのよ。ま、型に填まった強さなんて私の望むところじゃないけどね」
「どういう意味ですか?」
「エルフの国王様にでも聞けば? そっちのが詳しいと思うしねー」
ちらりと視線を老人に向ける。老人と言っても男か女かわからないけれども何処となく威厳が感じられる。
一向に喋る様子も無いので魔法の解説はこのままディティさんに任せ試合に目を戻す。
巻きつく攻撃、当たるはずも無いのだが何故かスライム状の魔物が何も無いところでぐるぐると何かに巻きついているように見える。
……見えるの?
ま、まぐれだよね。
エコンの方に視線を向ける。
弓の端を持ち魔物へ向けもう一方の端を向けている。
この構えは……?
「……強化」
弓が徐々に分解されていき、エコンに吸収……いや強化パーツとして一つ一つ取り込まれていく。
それが終わらないうちに両手に填めた手袋から大きな剣を取り出すエコン。
身長の倍ぐらいの大きさがあるのに……持てるのは強化のおかげだろう。
それを横に一度振る。感触を確かめているのだろう。
相手側の顔を見る。
「あのー」
「んぁ?」
「これからどうなるんでしょうか?」
「んなもん、あの魔物がアイツを捕まえてたらアイツの負け、逃げてたら背後からそっちの姉ちゃんが背後からやられんじゃねぇか?」
「えと……」
「アイツの魔法は完璧だ。この場にいる誰にも見えてない、はずなんだよ」
……と言うことは……。
視線をエコンに戻す。
どうなっているんだろう。勝つのか、負けるのか。
これで決まるんだろうけど、この場にいる誰にもわからないなんて。
「……これで、決まり」
小さく地を蹴る音が響く。
それと共に剣が少し傾き……魔物ごとそこにある空間を切断する。
☆
……目が覚めた。
いや、長い封印からとか言うつもりは無いが。
「やっと起きたか」
「ん?」
声のした方を見てみれば三日月荒野君が魔王専用、と書かれていそうな禍々しい椅子に座っていた。
そういや前に俺が作って執務室の端っこに置いておいたっけ。アレを使う気になるとは……良い趣味してるじゃないか。
「と、そうじゃないな。荒野、俺を運んだのはお前か?」
「オレの邪魔をするんだろうお前は。ならば、正々堂々と戦い打ち破ってくれる」
正々堂々か。と、ちょっと待て。
「俺に幻術を掛けたのはお前か。そいつのせいでたどり着けなかったんだぞ」
「……なるほど、あとで叱っておく」
……まあ地獄に落ちた後に仲間内で反省会でもしてるが良いさ。
早速戦いの準備、俺の普段使っている剣を構える。
「おっと、その前にオレも聞いておきたいことがある」
「……何だ」
いきなり斬りかかりはしない。
とりあえず最初の会話は肝心だ、そうボス戦前の会話は何故か気になる言葉がいっぱいなんだ。
「何故オレの邪魔をする。確かに世界の支配者の座は奪った。その仕返しか?」
……仕返し?
「何を言ってるんだお前は。んな私的理由ははずがあるわけないだろうが!!」
「ならば何故オレの邪魔をする」
「そりゃあ……お前は表の世界と裏の世界をくっつけようとしているんだろ?」
「そうだな」
「それで色々問題が出てくるんじゃないのか? あぁ?」
「そうだな……。色が失われたり……世界の終わりだと嘆く人間もいたな」
「だろう? だから一応倒して……おこうじゃないか!!」
うん、何で戦ってるのか自分でもわからなくなってきたがそれが理由で良いや。
「さあ勝負!!」
「ふっ、ならオレとお前の戦う理由は無いっ!!」
「おい勝負って言ってるんだから諦めの悪いことはやめて武器を構えろよ」
戦う理由はない?
はっ、何を言って――
「どういう意味だよそれ」
「色など、後で世界に足せば良いだろう」
「今まで世界を壊したのは?」
「オレ達の作戦はAとB、二つあったんだ」
「ほう」
「一つは世界の支配者の座を則り、表と裏の世界の格差をなくす事」
「もう一つは?」
「世界の支配者、その立場を完全に消す事だ」
確かに、世界が無くなれば世界の支配者の座はなくなるな。
だからって自滅覚悟ですること無いのに。
「んで、何で俺とお前が戦う理由が無いんだよ」
「ヒントは出し尽くした。自分で少しは考えてみろ」
「いや、俺の中の結論はお前と戦うっていう一つ何だよ。だから説明しろ」
「……俺は表と裏の世界の格差をなくす為に来た。そして、これから表と裏の世界の格差は無くなっていくだろう。俺の望みはこれだけなんだ」
「……途中で死んだ奴等は?」
「生き返らせるさ。表の神はそんなことも出来るんだろう?」
「世界は戻るのか?」
「当たり前だろう」
「……」
少し考える。
この可能性もあっただろう。それにクォンが気づかないわけがない。
ならば何故俺を行かせた。影流がクォンから聞いた『秘密兵器』とは何だ……?
俺も珍しく考え込むかな。
敵のボスの前で何やってるんだろう俺は。
まあ考えろとそのボスが言ってるんだから良いだろう。それにこの提案をしてくるからには俺を少なくとも荒野は俺のことを敵だと認識していることになる。
……秘密兵器、たぶんこれが鍵になるんだろうな。
これを使えば形勢逆転っ!? とかだろう。
うーん、そんなの俺持ってたかな。
手持ちの鏡を床に広げ一つ一つ確認していく。
「あ、ちょっと待ってろよ」
「……まあじっくり考えれば良いさ」
地道な作業を続けること十分。
なるほど、秘密兵器ってのは嘘なんだな!? わかるぞクォン、そんなものは最初から無い――ん?
んー。
手のひらを目の前にかざす。
「……ほうほう」
なるほどな。うん、わかった。
無くすんだな。
「決めた。決めたぞ良く聞けっ!!」
「そのテンションはどうにかならないのか」
「無理な相談だな」
いやぁ、こういうのも良いかも。
ついでにクォンの願いも達成。
「俺がお前の野望を引き継いでやろう」
「……お前が世界の支配者にもう一度なるということか?」
「いいや、違うぞ。世界の支配者という立場を無くすのさ」
「今から世界を全て壊して――」
「それも違う。物分りの悪い奴だな」
まあお前と違い俺はお前に一切ヒントはやらんがな。
「さて、一発殴らせてもらうぞ」
これで成功するかはわからないが、面白いことになるだろうなぁ。きっと。
まあその為の犠牲になってくれ、荒野くん。
普通の主人公だったら……もっとカッコいいはずなのに。
普通の主人公だったら……もっと正統派に見えるのに。
普通の主人公だったら……もっと情熱的な展開になるのに。
はい、たくさんの不満があります。
自分の敵は海弟、再確認しましたね☆