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第342話『やばい、主人公の座が奪われそうだ。誰か助け(ry』by海弟

ん? ボスとの戦いはシリアスでいけ?

そんな鉄則打ち破ってくれるわ!!

「ヒーローは、必ず遅れてやってくるっ!! つまりか弱い女の子が屈辱的な行為を受けない限りヒーローになる義務は無いのだっ!!」

「……何だ……その登場の仕方は。気配は感じていたし別段驚かないが。というより何故女の子限定」

「何っ!? 女の子限定なのは、あれだ。様式美(ようしきび)

「まあいきなり叫びだした内容には多少驚いたが……。そうか、様式美か」


うむ、作戦成功だ。

この動揺の隙を衝き――


「……隙が……見当たらない」

「当たり前だ。お前はさっきからふざけているのか?」


何てこった!! 俺の完璧な作戦がここまで簡単に破られるなんてっ!!

くそぅ、こうなったらアレをやるしかないっ!!


「ほら、RPGでもあるだろ? ボス戦なのに逃げるコマンドがあるんだよ。ってなわけでさらばっ!!」

「……その場合必ず逃げることは出来ないがな」


しかし回り込まれてしまった。


……ふっ、見事なり三日月荒野。


「と、まあ冗談はここまでにしておいてやろう。そこっ、溜息を吐くな溜息を。倒すぞこら」

「こっちの台詞だなそれは」


雰囲気? 何それおいしいの?

ってなわけで相手を置き去りにハイテンションになりそのギャップにより生まれた隙を衝いて倒す作戦が失敗に終わったわけだがいきなりテンションを下げるのもアレだからこのままで行こう。


「その前にだ」


鏡の中に手を突っ込む。荒野も何を取り出すかわからない状態だからか身構えている。

残念だが俺が今から取り出すのは白くてどろどろして乾かすとカピカピになる物だ。


「木工用ボンドー!! と、扉を直しておかないとな。ってこれ木製じゃないのか、残念だ」

「死ねっ!!」


何やら黒い物体が俺に向かって投げつけられる。

感情的になってはいけないな。


近づいてきたそれを片手で払いのける。


「ぐぅっ、なん……文鎮(ぶんちん)っ!?」


おま、これを投げるとは良い度胸しているじゃないか。


ふっ、ならばこちらもそれを上回る物を投げねばなるまいな。


「食らえっ!! 究極の鉱物、ミスリルっ!!」


大きく振りかぶりそれを荒野に向かい投げる。

それは見事に荒野の額に当たり見事世界の支配者であり悪の化身である荒野を打ち破る。


そう、世界に平和は取り戻されたのだ。


やったね海弟、キミは英雄だ!!





にしてもこの廊下長いな。走れば良いんだが疲れるのも嫌だし。

荒野を倒す方法を考えるのもいい加減飽きたしな。どうしようか。


うーん、と唸っていると急に空気の質……というか危なげな雰囲気が漂い始める。

一瞬でも気を抜いたら殺される……そう脳に錯覚させているかのような……。脳内では近くに敵の気配は無いとわかっているのだがこの一番奥にいるアイツに反応しているんだろう。

それとも早速世界の支配者の能力を使って俺にプレッシャーを与えようとしているのか? 小さいな三日月荒野。

キサマは箪笥の角に指でもぶつけて悶絶していればいいのだ。


「と、ん? 行き止まり? おかしいな」


……そうか、この感覚。

俺も初めてだから良くわからない幻覚の魔法っ!!

くそっ、いつの間にかけられたんだ。……ありえるとすればあの五人とすれ違ったとき……くそっ、影流達があの五人の中で俺に幻覚の魔法を使った奴を倒してもらわない限り俺は奴の部屋に着けないってわけか。

用意周到というか……時間稼ぎのつもりか? となると幻覚を使ってきている奴は後方支援に徹するか、それとも一人ずつ戦うとしたら一番最後。

どの道俺が執務室に着くのはかなりの時間が経った後というわけだ。


「むぅ、どうにかして幻覚を解くことが出来ないだろうか」


……そういや師匠に何か解決法を聞いたことあるような……。





「妖精や魔物が好んで使う魔法の一つに幻覚があるわ。普通の奴が掛かったら一生解けないでしょうね、まあ私に金を払えば解いてやらない事も無いけど」

「さすが師匠、一日で酒に消えるんだからあまり変わらないのに外道っぽい」

「まとめると馬鹿って言ってるわよね? 対処法教えないわよ?」

「すみませんでしたっ!!」

「……難しい方だけ教えるわ」

「簡単な方は!!」

「教えない。で、難しいけどとりあえず一度死んで、生き返れば良いのよ」

「うん、無理」




うーん、あの時は爺さんで復活ー! なんて出来ないから無理って言ったけど今は出来るんだろうか?

いや、表と裏の世界が交じり合って神の力がうまく使えないー、なんてことにもなりかねないし第一この空間に神の力は侵入できないんだよな残念ながら。

まあ俺は何かすごいから普通にいけるがな。


「まあとりあえず。歩いても無駄だろうから、寝よう」


手を組み上へ伸ばす。うーん、寝心地の良い環境じゃあないけどまあ良いか。

寝て起きるころにはもう幻覚から解けてるだろう、きっと。


ぷちんっ


……ん? ぷちんっ?

脳と体が無理やり切り離されるような感覚。

ああ、何だこれ。


頭がふわりと溶けているようだ。何だか感覚があやふやに……え。

いきなりそれが痛みへと変わる。まさか、気絶するのか。

気絶するってわかってても頭がふわふわして……無理。





「乱戦になるのは嫌なのでね、ルールを決めようか」


えーと、何でしょうこの展開。

あ、お久しぶりですあの時の兵士ですよ。覚えてない? ほら、食堂の。思い出していただけましたでしょうか。


というか僕がこの場に何故いるかと言うと、僕の首を見ればわかると思います。

はい、首輪です。勇者様に捕まえられゼッカスの国王に引き渡されここまできちゃいました。何か空気に溶け込んでて今まで気づかれなかったみたいなのですがいい加減発言した方がいいよね?


「あのー、僕は帰っていいですか?」


視線が一気に僕に集まる。あれ、おかしいな僕の目の前にあるエイラ王の背中がビクッと震えたような。

もしかしてここまでしといて僕の存在忘れてる? いやいや、無いよねそんなこと。


「……あんた誰よ」


代表してゼッカスの国の王様が質問してくださいました。


「……あの、帰らしてもらって良いですか? ちなみに一般兵士です僕」

「なるほど、こういうのはどう? ルールはそっちが決めても良いわ。でもこっちからも条件が一つ……」


嫌な予感……。


「何だ?」

「コイツを審判にしなさい!! 勿論、中立的な判定をさせるわ、ルールがそっちに有利だったりしない限りはね」

「構わない。ルールはこうだ。一対一の五回戦。そして、こちら側が全滅させられたら負け、一度戦った者は二度戦えない。これでどうだ」


な、思いっきり向こうに有利なルールじゃないか。

相手側が全滅させられたら負けと言っているけれど五回戦、それに一度戦った者は二度戦えない。

つまり一度でも僕達(僕は戦わないけど)が負けたらそこで終わり、この通路は封鎖され援軍にもいけないし海弟様が帰ってくることも出来なくなるだろう。

いや、あの特殊魔法があれば……ダメなんだろうなぁ。

相手側もわかってて言ってるはずだし。


「どうする?」

「俺は別に良いが。一人一回ずつ勝てば良いという話だろう?」

「面白いな、オレも良いだろう」

「この老体に鞭打つなんて……などとほざいてたら始まらないしの、良いじゃろう」

「……勝手にすると良い」

「私も良いし、早速第一回戦といこうじゃないの。ほら行きなさい」


うわぁ、決まっちゃった。

と言うか行きなさいって。


「首輪、外してもらえないでしょうか?」

「……何で首輪なんてしてるの?」


いや、その根本の部分を聞かれたら困るんですけど、まあ理由の一つとしては……


「勇者様のせいですかね?」

「そう」


この人ホントに忘れてるんだなぁ。と思いつつ前へ出る。

一般人のこの僕が審判に入って生きて帰れるかなぁ、まあ審判には基本攻撃無しだしね。


こうして壮絶な五回戦が始まったのであったりした。

海弟様は今頃敵側のボスと交戦中なんだろうなぁ。





『気絶中』



「うわぁ」


書いた人が完成してから言った言葉。


さて、不幸な兵士が自分の未来が残酷なことを知ったところでバトルといきましょうか。

次回は無駄な解説ばっかいれると思います。いや、もう次回の話書いちゃった。

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