第336話その頃兵士は
頭痛い。喉痛い。咳が出る。風邪か……。
薬の効果か眠たいながらも書き上げましたよー。
最初の部屋。結構大き目の部屋で、ベレテナの王様の部屋だ。
ノックもせず扉を開くといきなりむさ苦しいおっさんが姿を現すが、そこは王様。失礼なことなど出来るはずも無い。
「ティガレ様! 敵です、今海弟様が戦っています!」
ぶぉんっ!!
……。
目の前を通過する剣。僕の隣の壁が少し削れこの剣が突き刺さっている。
「……へ、あ……。な、何を――」
「今は素振りが優先だ」
「は、はぁ……」
「他をあたってくれ」
「し、しかしですね」
「海弟が対応しているんだったな? なら多少遅れても大丈夫だ」
「……はぁ、では他の方をあたります」
廊下に出て扉を閉める。
「ひぃ、怖かった。次の人だ」
☆
次の人。と言ってもこの人も王様だ。
僕とは天と地ほどの差のある人物なのだけれど非常事態だからこそ話が出来る人物だ。
「マエティー様っ!!」
勢い良く扉を開ける。
「また私の勝ちね。この金貨はもらうわよ」
「くぅ、惜しい勝負だったのじゃが……」
「さーて、儲けも出たことだし酒を飲みに行くかー。奢りよ奢り」
「はぁ、ん?」
あ、やっと気づいてくれた。
「マエティー様! 敵です!」
「ああ、敵か。だがな、今わしはディティの奢りで酒を飲みに行く途中なのじゃ。悪いが他をあたってくれ」
「……酒ですか……」
「すまんな」
……そんなゴツい顔で謝らないでください。
「じ、じゃあ他の方をあたります」
廊下へ出て扉を閉める。
「……あの二人は知人と聞いてたけど本当だったんだなぁ。さて、次の人だ」
☆
次は王の中で唯一の女性、この世界では珍しい人材だ。
すごい綺麗な人だとは記憶しているんだけれども直接喋ったことは無いから少し緊張する。
「エイラ様っ!!」
勢い良く扉を開く。
「せやっ!」
「うぎゃっ、目が!!」
「レディの着替え中に何をするのか馬鹿者め。と、着替え終了。目を開けても良いよ」
む、無理です。
目から流れる涙を服の袖で拭いつつ王の顔を見る。
「て、敵です。今海弟様が――」
「んじゃあ見学に行こうか。酒とつまみは任せた!」
「手助けには行かないんですか!?」
「当たり前だよ。助ける方も疲れるんだから」
理由になってませんって!!
何とか目を開きエイラ王を見る。
綺麗な人だなぁ。
「それじゃあ後は任せた!」
「あ、何処に行くんですか!」
「海弟くんを見にさ!」
あーあ、行っちゃった。
場所も知らないのになぁ。
廊下まで追うも姿を見失ってしまう。
「……何だか薄情な人ばかりだなぁ」
「そうかな? 俺には信頼しているようにも見えるぞ」
「え? わ、影流王っ! そ、その……あ、敵です!!」
「廊下まで聞こえてきてたから知ってる。だがアイツは尖兵なんだ」
「少し意味が違うと思いますが」
「まあそんな感じだから俺も任せるとするよ」
「……信頼している、ですか」
「お前は……いつ試験を受けて騎士になったんだ?」
「え、あ、第二十五回目の試験を受け採用されました。名前は――」
「そうか。ならつい最近だな。まあわからないのもしょうがないって事か」
「はぁ」
「んじゃ、残り一人は頼んだ」
残り一人というと……妖精の国の代表だろう。
「アイツなら助けに出てくれると思うから目一杯急かしてやれ」
「そうですかね……」
うーん、わからない事ばかりだ。
☆
残りの一人。
「エルフを会うのなんて一生に一度ぐらいだから……そういえば海弟様のお師匠様もエルフと言っていた気がするなぁ」
髪で耳が隠れててわからないけど本人が言っているんだし本当なんだろう。
けれども僕の思っているエルフ像と全く違うから、エルフだと感じて接することが出来ない。
「うーん」
扉を開く。あの五人のせいで僕の最初の勢いも削がれ続けている。
「動くな……」
「ひっ」
部屋の中に一歩踏み込んだ瞬間、その一瞬のうちに僕は背後を取られ首にナイフが突きつけられている状態となってしまった。
あ、でも背中にはやわらかい感触が……。
いや、その感触も命とは引き換えには出来ない。
女性の騎士も少なからずいるんだし僕にもいつか春が来るはず!
「え、えと敵が……」
「……お前のことか?」
「い、いえ。確かにノックもせず入ってきましたが違いますから」
少し無言で考えた様子のエルフ代表。
ナイフを無言で仕舞うと僕の方を向く。
その全身をやっと見ることが出来て溜息を吐く。
何というか、これが人外なのか。
「……それで、敵というのは何処にいる。口調的に急いでいる感じがしたが」
それはあなたのせいです。
「そ、そうでした。一般兵士用の食堂で海弟様と戦っています!!」
「わかった」
そう言うとベッドの隣にある小さな机の上に乗っていた手袋のような物を掴み廊下へと飛び出していく。
何ていうか、敵と認識されたのはアレだけれどもこの人が一番まともな対応をしてくれたなぁ。
ふっ、仲間の助けなど海弟には不要さ。
……約一名海弟の本当の立場を知らない人がいますがね。