第330話『何か難しいことになってるな。スパイは死刑?』by海弟
ええい、無茶でも突き進んでやるわぁっ!!
俺の部屋。殺風景の中で一際輝く鏡を背後に俺は両手を床に着く。
「壊してはいない。でも呼び出しはくらうだろうなぁ」
「がんばれー」
「お、おう」
そんな励ましを受け立ち上がる。
そうさ、俺なら―――
コンコン
……誰だ?
「海弟様、影流様が――」
「あーあー、聞こえなーい」
「ドアを蹴り開けましょうか?」
「ブチ破るの間違えじゃあ無いかなぁ」
殺気が漂っているのは気のせいか。
とりあえず部屋の扉を開けて呼び出しにきた人物を確認する。
俺の予想通り、ファンだった。
「いやぁ、危なかった」
「殴りますよ」
「目が男の急所を狙っているんだが……」
玉を二つ守りきれるだろうか……。
「まあ影流様に怒られるでしょうから、今回はやめておきます」
「次回が無いことを祈るが……」
「そうですね。城中の兵士を宝物庫へ向かわせるなんていう自体はこれっきりにしてほしいものです」
おお、さすが対応が早いな。
事情を説明してくれたのは青空かな……。青空にも謝っておかないとなぁ。
「付いてきてください」
「いや、一人で行くよ」
「……逃げる気でしょう?」
玉は潰されたくないから行くよ、という弁解も通じそうにないので大人しくファンの後を着いていく。
なんだか他の兵士やメイドさん達の方から笑い声が聞こえるんだが……もうやだ。
「ではここで」
そう言って広間の扉の前で立ち止まるファン。俺は立ち止まらずにノックをして部屋に入る。衛兵の手は借りない。
というか誰が来るかわかっているのだから一々確認する必要も無いのだ。
「失礼しまーす」
気楽な感じで部屋の中へ入ると―――なんだか険悪な雰囲気が漂っていました。
え、何これ。
急いで影流を探す。一番目立つところにいるのですぐ見つけられたが何だか困ったような顔をしていた。
「……えと、何があったのでしょうか?」
「海弟、自体が飲み込めてないようだから一言で言うと……宝物庫に侵入して宝を奪おうとしたせいでスパイ容疑がかかってるぞお前」
なるほど、それで険悪な雰囲気なのか。もしもスパイという結果になったら俺は死刑かなぁ。
それは嫌だ。これは罪じゃあないと主張してやる。
「みんな聞いてくれっ!! 俺は間諜なんかじゃあないっ!! ただ本能のままに動いたらこんな感じになってたんだ!!」
『つまり祖国を捨てると?』
ああ、もう馬鹿野郎っ!! っていうか絶対わざとだろおい。
今から殺しに行くから待ってろ。いや、これ以上後戻りできない状況にはしたくない。
「と、とりあえず王に決めてもらいましょ。絶対王政絶対王政」
そう言ってからやっと王の前まで来て片膝を着く俺。
何だかいろいろとマナーがなってない気がするが気のせいだ。いや、雰囲気がいっそう悪くなったのは気のせいじゃあないのかもしれない。
そんな思考を振り払って何とかできないか考える。
前までこの国で文官、武官をやっていたのは他国のお偉いさん方だ。つまり有能な人材の集まり。
しかし今、この国はだいぶ良い軌道に乗ることができた。つまり補助なしでも良いだろうレベルまで達したのだ。それと同時に徐々に政治を国内の人材でやっていくようになり、今現在では過半数が国内の人材で埋まっている。つまり俺達が異世界から来たという事実を知らない奴が増えてきているわけだ。
配慮ができない奴等が集まって俺を非難しているわけだろう。仕方なく他の連中も、みたいな感じになっているだけだと思う。
「……何か言うことはあるか? 無いならそのまま判決を出すが」
「んじゃあ一つ」
死刑じゃあ無いけど謹慎はくらうかもなぁ。影流のことだから一週間無償で国民のために労働してこいとかあるかも知れない。
「あ、影流……様にじゃあない。武官、文官のお前等にだ」
むっ、とした表情の青年や老人の集団に向き直る。
「目の前に宝、つまり世界の希望!! 人類の夢!! それがある状態でそれに手を伸ばさない人間が何処にいるっ!! そう、俺は夢を追った馬鹿な男なのさ」
あれ、自分で自分を貶している? そんなことあるわけないか。
顔色を伺ってみる……と、なにやら笑い顔だ。
『コイツ死にたいらしいです♪』
……違う。違うんだよ。
「……まあ、死刑でも良いんだが今はダメだ。戦力があればあるほど俺達は強くなれる。敵に勝てるんだ。だから今はダメだ。この白と黒の世界が終わった時、その時に判決を出そうじゃないか」
そうかっ!! 敵を倒した功績でチャラにしてやろう、という意味だな影流。
ふ、いいだろう。
さすがに王の言葉となると黙ってしまう武官や文官達。
「と、言うわけでだ。先陣を頼むぞ海弟」
「……先陣って……えと」
「もしも攻めてきたときはまっさきに死ぬ覚悟を決めろ、という意味だがそれ以外に何かあるのか?」
……無いですね。
そんなこんなで会議が終わる。
後で影流の部屋に行って文句でも言ってやろうか、とか思ったが脅迫文にしておくことにした。
「お命頂戴する、と。差出人は……そうだな暗殺者『ふぉーともーぜー(中略)だいるどる』と」
うん、紙の裏まで名前続いちゃったがいいか。
封筒に入れて影流の部屋の前に置いておく。衛兵がいたが見事一撃で倒すことができたので見られてはいない、大丈夫だ。
「さて、こんなに清々しい気持ちになんだ。寝よう」
よく考えればやること無いな他に。
部下達はまだ倉庫の掃除、もとい魔法学校設立のための手伝いを頑張っているのだろうか。
うん、ご苦労様。
後付展開? 何とでも言うが良い、その通りなのだから。
……にしても今日は落ち込むことばっかですねぇ。ああ、もう最悪だぁ。