第323話『俺は休みか! やったぜ!』by海弟
サブタイ通り海弟が出てきません。っていうか青空がうじうじする話となっている可能性が……。
日常生活において魔法とは……便利な道具の一つである。
これは魔法が使える者、使えない者を問わず認知されている事実だ。
その便利な道具は、時に武器となることもあり身を守るための盾となることもある。
勿論、それ相応の技術が必要になってくる事となる。
「魔法学園の設置?」
いきなりの提案に影流は後ろを向く。小さな龍と戯れている青空が目に入る。
元は光を反射し綺麗な鱗を持っていたこの龍だが、白と黒に彩られた今では迫力に欠けるところがある。
「そうそう! えとね、今大変な事になってるからさ……その……全員は無理だと思うから……その」
要領を得ない説明だが、影流にはある程度わかる。本当は全ての民を救うべきなのだ。
勿論そんなことは不可能に近い。では、子供達だけでも……と言っても孤児を含めたらかなりの数になってしまう。まだこの国には貧富の差が激しいのだ。
全ての者が一定の所得を得られていない状態なので、それも改善していかなければいけない。子供達は一時的に保護するといってもこの戦いが終わったら親の元へ帰ることとなる。
そこで今まで通りの生活が出来る者も少ないだろう。そこで青空は学校を作ろうと思ったのだろう、まあアイデアは良い、一時的に預かり勉強を教えるのなら国側としてもある程度の補助は出来る。
「一部の奴が切り捨てられるのは仕方ない……か」
補助は出せる、といっても全ての子供を収容できるだけの場所が無い。
面倒な事に現在城内でも慌しく、すべての事態に備え見回りを強化したり、兵士を徴募し軍事強化にも励んでいる。
それを見た他国も何かが起こるのか! と使者を影流の元へ大量に送ってきたため今回の事態の全貌、いやその一部は全ての国の主に伝えられる事となった。
思う、全ての人間を救おうとしたら何が必要だろうか? と。
ずば抜けた才能ではない。ただ一人が持つ才能など混乱時には何の役にも立たない。
「後世に魔法使いだけでも残しておきたいしな、良いだろう……そうだな……いつも軍の連中が使っている演習場にその学園を建てることにしよう。魔法があればすぐだろう」
「……海弟、何処行ったんだろ」
そういえば教えてなかったな、と影流は思い青空の気持ちを軽くすべく口を開く……が、言うのをやめる。
海弟だったらここで何をするだろう、と少し考えてみる事にした。
すると、中々面白い案が思いつく。
「青空、真実を知りたいのなら自分から動かないといけないんだぞ?」
「そ、それは……、じゃ、じゃあ影流は海弟が何処にいるか知ってるの!」
「まぁな。教えるつもりは無い」
「いじわる……」
ぷいっ、と顔を逸らし部屋から出て行く青空。
人をからかうのも面白いものだな……などと影流は不謹慎な事を思いつつ、口元に笑みを浮かべる。
「なるほど、全ての人間を救うのなんて簡単だな、海弟」
あの少女から話は聞いた。敵側が攻めてくるという情報、何人来るかはわからないという未確定なところもあるが……簡単だ。
執務室にある自分の椅子から立ち上がるとすぐ後ろにある窓のそばに立つ。光、というのはあるようで明るい場所、暗い場所と様々な色を持つ場所がある。
勿論この部屋は光が入るようになっているため、夜でもない限りは明るくなっている。
思いついたこの案には最後の分岐点がある。
それに頭を悩ませつつ、顔を太陽に向ける。
「武器を捨て、防具を取るか。それとも、防具を諦め、武器で戦うか……」
まるで死の選択をしているようだな、とか思いつつ後ろを向く。
影流以外に誰も居ない部屋だ。置いてある花がかすかに匂いを漂わせているが、そんな穏やかなものを微笑ましいと見ている場合じゃあない。
「土下座でも何でもして、頼み込むしか無いよな……」
気難しい海弟の師匠の顔と、この城下町一番の鍛冶屋の顔を頭に浮かべつつ苦笑いするとこの国の王は新たな決意をし、執務室から一歩、また一歩と外へと踏み出した。
☆
む、むぅ、そりゃあ……私は影流みたいに具体的な権力があるわけでもないし……海弟みたいな行動力があるわけじゃないよ……。
だから見ている事しかできないって……そうじゃ……ないのかな?
外に出て、兵士さん達が案山子へと剣や槍で攻撃している姿を眺めつつ考える。
何が出来ることは無いのかな? と安直すぎるその考えはすぐ自分の弱い部分で『無理』と断定されてしまう。
「難しいね……」
ほとんどお飾り状態の私だもん、できる事なんて限られてるよ。
愚痴を心の中で言いつつ膝の上に乗っている一匹の龍を撫でる。
小さな龍で、私の心を支えてくれている大事な友達だ。海弟からのプレゼント……らしいけど海弟自身が怖がってちゃ意味無いよね……。
ふと頭に浮かぶ。
「怖い、私は……たぶん怖いんだ」
主人の心の変動を感じ取っているのかはわからないけれども、その小さな龍は私を見つめて小さく鳴く。
可愛らしい容姿なのだけれども、この声はちょっと似合わないかも……と思いつつ再び膝の上の龍を撫でてあげる。
「守られてたんだなぁ」
ずっと、それに甘えてたんだ。
武器の一つも扱った事の無い私の手を見る。柔らかな手……。
何かできること、みんなを勇気付ける? ダメ、私自身が怖がっているのに……。
なら、私が恐怖を克服すれば、みんなは……。
「付いてきてくれるの、かなぁ?」
異世界に来てから、力を手に入れてから海弟は変わった。影流は相変わらずだけど、でも本質でも見せたかのように、海弟はどんどん先に進んでいってしまう。
それこそ、実力が付いてきてないのにそれをわかって上でホラを吹いては相手を倒していくなんていう危なっかしい戦い方で……。
少し見習ってみようかなぁ、とにやにや笑っていると近くにいた少女が声をかけてくる。
服装を見れば独特なものでどんな階級なのかはわからないが……せっかく話しかけてくれたので私も少女を見直す。
「あの……」
言葉が詰まる。
どんな話題を持ちかけたら良いんだろう……。知らないうちに、世界を狭めていた自分に驚く。
自分の興味のあるもので固めていった世界。
空を見上げる。こんなに広いとわかっていたのに、私が求めていたのは自分の身を守るためだけの世界なのか。
……海弟や影流が頑張っていたときに私がやっていたのはその程度の事なのか……と気を落とす。
けれども、少女が声をかけてきてくれたのには変わりは無い。
「こんにちわ」
張りの無い声だったけれども、少女に挨拶をする。
「こんにちわ。えーと、あなたが青空さんですか?」
私の名前を知ってるの!? と多少驚いたけれども、そういえばこっちではある程度の有名人なんだよなぁ、と感慨深いものを得る。
勿論それで傷ついた心を埋めようとしているのが自分でもわかって、嫌悪を抱く。
「そう、だけど……」
「おお、運が良いです。海弟の話通り綺麗な人ですね」
「え、海弟のお友達……?」
「友達というより部下というか雑用係というか……名前がまだでしたね。影流さんには名乗りましたがクォンを言います」
「私は……って、知ってるね」
クォン、どこかで聞いたことがある名前だなぁ、とか思いつつ海弟の愚痴の中に含まれていた名前だと思いだす。
それと同時に海弟は『俺は始末書を書く達人だ! もしも書くことになったら俺がアドバイスしてやろう』と言っていた気がする。
「あの、話に戻りますが青空さん」
「は、はい……」
初対面なのにはっきり話せて凄い人だなぁ、私とは大違いだよ……。
心の中に本音をしまいつつ相手の話にあわせ、話を聞く。
「海弟の師匠、という人物を探している、んですが」
「ディティさんのことかな? 普段は酒場でお酒ばっかり飲んでるって豪語してるよ」
「イメージと合致してるからその人でしょう」
海弟はディティさんのことをどんな風に話しているんだろう。
少し気になったけどそれを抑えて話を続ける。
「けど、酒場は夜にならないとあかないから……今は自分の部屋に居るんじゃないかなぁ?」
「案内してもらえますか?」
「え、あ……うん」
ディティさんの部屋へと向かう間になんで探しているのか聞いてみることにする。
「クォンさん、ちゃん……どっちが良い?」
「何もつけないのが好ましいです」
「クォン、は……何でディティさんを探しているの?」
「海弟の弱み、それこそがアレだと確信しています」
この人は海弟と本当にどんな関係なんだろう。
クォンは不思議な人、という風に頭の中で落ち着き同時に見えてきたディティさんの部屋まで早歩きで向かう。
部屋の前までくると立ち止まる。
「ここだよ」
「すごい魔力……さすがは海弟の師匠、といったところでしょうか」
「ま、まぁ……」
魔力がすごいなんていわれても私にはわかんないよ……。
不思議な人に凄い人が加わり始めたので、ごちゃごちゃしないうちに素早くノックして扉を開ける。もしも着替え中でも女の子同士だし。
と、最悪の事態でも大丈夫! とあけた後に頭の中で整理する。
「頼むっ!!」
「イヤよ、ほら……アレだし」
そこには影流が頭を下げている光景、それに対しディティが下着姿にも似た薄着で理由もないのに反論しているという問答が繰り返されていた。
「……ど、どうしよっか……ってクォン」
すでに部屋に入ってるよ……。
引くに引けない状態なので「おじゃましまーす」と小さな声で言いながらも私は部屋に入った。
海弟はよく正気でいられるなぁ。
影流は行動力あるし良いんだけど、青空はどうすりゃいいのか……。
まあ一応方向性が決まってるので落ち着くところに落ち着くと思います。
そういやなんで影流視点なのに三人称で書いてしまったのか。
青空はうじうじしすぎだし、まあ元々こういう子なのですが……。




