第319話『似た能力……?』by海弟
何か化け物チックになってしまった。まあ良いや、容姿は兎桜にお任せですし。
感想にあった敵さんを一つ登場させてしまいましたー、名も無い奴ですが。
褒め言葉を見つけろ、そう言われて一週間が経った。
「悠々と嘘を吐くんじゃない。まだ一日も経ってないぞ!」
「読心術使える奴が居るとネタバレが早いな。しょうがないマジメに取り組むとしよう」
「最初からやれ」
睨みつけるような視線に耐えつつゴミ屋敷を眺める。
……本心から褒めないと合格じゃないんだよなぁ。うーん。
……そうだ、連想でいけないか?
俺の魔法技術その一にある連想魔法、これを利用すれば褒めるべき点が見つかるやもしれん。
このゴミ屋敷、もっとも注目すべきは汚さだ。
汚さから連想されるのは……菌か? 菌……なるほど。
「菌を研究している学者にはたまらない場所だな!」
両手を広げて絶賛する。本心から言っているのでこんなポーズはいらないのだろうが一応だ。
「惜しいな、三十点だ」
三十点て惜しいのか!?
後ろを振り向き鬼教官ことセバスチャンを見る。極めてマジメな表情をしていた。
これでは言い返すことも出来ない。
「……それじゃあ、そうだな」
惜しいというのなら少しずれた別の観点から見れば正解に近づくかも知れない。
汚さから連想する……ダメだ。褒め言葉につながるような言葉に連想じゃあたどり着かない。
どういう見方をすれば良い方向に褒められるんだ……。
この限定された空間の四隅にしゃがみ込みのの字を地面に書きつつ愚痴をこぼす。
「……空間?」
目の前にあるゴミに触れてみる。勿論実体のあるもので埃っぽい感触とともに触れる事が出来た。
その手を放す。
……この場所にある褒めれるものはゴミっていう限定された物だけじゃないじゃないか!
「この空間! この空間はゴミが行き着く最高の場所だ! 誰も居ない静かな場所なんてこれ以上ゴミに相応しい場所は無い!」
本心から言ったんだが……チラリと鬼教官の顔を窺う。
困ったような顔をしていた。
「い、一応合格ラインには達しているんだが……空間を褒めるって……お前」
「気にするな、俺の頭脳は天才をはるかに超えた鬼才をも凌駕している」
「……まあいいや、次の修行に入るぞ」
「ちょっと待て。今の修行で俺は何かを得たのか!?」
俺が手に入れたものと言えば少量の満足感だけだぞ!
「相手の利点を別角度から見る力、これを手に入れるための修行だったんだが……お前には必要無いな、お前のために組まれた修行なんだが」
「何だよそれ」
俺は俺のために組まれた修行をも超えてしまったってことか?
……いやいや、ゴミ屋敷を褒める修行を越えたぐらいで喜ぶ俺じゃないぞ。
「……まあいい、次の修行って何だ?」
「似た能力に対処する力を付ける修行だ!」
「……俺は能力なんて持ってないぞ? 持ってたとしても支配者権限ぐらいだ」
「特殊魔法、お前の持っている能力はそれだよ」
……能力と魔法は違うんじゃないのか?
魔力を使って出現させるもの、自分の意思で自在に動かすもの。
似ているようで違う。
「人間型の間では特殊魔法と能力は別々、とされているが世界には一緒とされているわけだ、覚えておくと良い」
「ふーん、で似たような能力を持った敵を攻略すれば良いわけだろ、簡単だ!」
「そうか? お前の能力『鏡』はかなり厄介なんだぞ?」
「けれどもそれに似たものだろ?」
「……まあ良い。すぐにフィールドと相手を用意する」
そう言うと空間に溶け込むように消えていく鬼教官。
どんな奴が来るか楽しみだ、俺と似た能力と戦うってのも始めてだし。
そんなことを思っているといつの間にやら空間がゴミ屋敷から大都会へと変貌している。
昨日ちっこいのと戦った場所と同じだ。
場所の移動、というか空間の変動は終わったようだし相手を探す。同じ人間だったら探すのは厄介だ。不意打ちだって食らうかも知れない。
要注意して目を見張っていると、何やら化け物が現れてくれた。表現するなら悪魔、人がたのフィルみたいな優しい奴じゃない。牙もあり羽もあり口からなんかヘビみたいな舌が出ている。
手には石を削ったかのようなこんぼうが握られている。
「こ、コイツ……だよな」
こんなキャラをマスコットにする企業なんてあるわけ無いし。中に人だって入っている気配は無い。
魔力の流れを一応確認し、アレが敵だとわかると一気にやる気がそがれた。
……まだ俺にも一般人なりの感覚があったようだな。
でかすぎる! 強がりさえも通用しない、邪悪ってのはこういうのを言うんだ!
アイツが一歩歩くごとに人が避けていき、注目の的になっている。
どうせ今回も人を守りつつ戦うんだろう。
「楽しみだったんだが……やる気がそがれたぞおい」
鏡の中から槍を取り出す。
アインに剣を預けてきたので今武器はひょろっとした物しかない。魔力をエネルギーとした銃やら移動速度を速めるための移動手段やらはまだ作れていないのだ。
白黒のせいでいっそう怖い悪魔を眺めつつしっかりと槍をもう一度握りなおす。
距離がちょうど十メートルも無くなったところで俺は地面を蹴って走り出す。ちょうど人がいないルートを通り一気に悪魔に近づくと牽制のために炎を片手に出現させ顔面に投げつける。
そして当たったのを確認すると炎が当たった部分へと槍を突き刺す。
カンッ、という小さな音。
腕も痺れている、何だか足が痛いです。
「あ、足を掴まれた!」
カンッ、という音の正体が次いでわかる。荒削りされたこんぼうで攻撃が防がれたのだ。
そこで視界が揺れる、投げられたとわかるのに時間を要したがわかってからの行動が早いのが俺だ。
痺れた腕をもう片方の腕で掴み両手で地面へと槍を突き刺す。
ガンッ、というコンクリートが削れる音と共に体が急停止……するわけも無く速度が若干落ちた程度でそのまま転がっていく。槍は手放してしまった。
急いで周りを確認するも、人っ子一人いない状況だ。安心した、まだ被害は出ていない、出た瞬間この修行は最初からやり直しだろうから。
目の前にある槍に目を向ける。元々細いものであるからして折れてしまっている。ガンッ、ってのはもしかしたら槍が折れた音だったのかも知れない。
「……殴り合いで行きますか? のー」
相手は武器を持っているんだぞ!
という訳で次なる武器を取り出す。
「……木刀って」
剣の部類が入っている鏡から一つ引っ張りだしてきたんだがまさか木刀が来るとは。
何ていうか……酷いです。
しかし敵は待ってはくれない。相手はその図体ゆえかスピードは遅いよう……飛んだぞこいつ!!
自分の動きに耐えかねたのか羽を使い飛ぶ悪魔。
突風が吹き荒れビルにはまったガラスが割れていく。被害が出ていないことを祈りつつ目の前に鏡を出現させる。
あのスピードだ、急停止はできない。ならばこのまま鏡に突っ込んでくる事になるだろう。ぶつかる直前、その直前に鏡に溜まった俺の魔力より魔法を発動させる。
地面に足の着いていない状態だ、ならば一番効くのは雷系の魔法。そこまで選び終えると相手が突っ込んでくるのを待つ。
…………今だっ!!
「雷よ!!」
鏡より放出される雷の数々。かなりの魔力を鏡には込めたのでかなりの威力になっているはずだ。
しかしこの近距離で俺は奇怪なものを見た。
悪魔の体から発せられる黒いオーラ、そのオーラにかき消されるように消える雷、そういえば炎も効いていなかった。
鬼教官の話を思い出す。
俺と似た能力を持つ者を用意すると言っていた。しかしコレでは無効化ではないか、俺の能力とは根本的に違う……。
そこまで考えたがまず最優先を思い出す。
「逃げろっ!!」
鏡は割れ後数センチの距離なのだが体内に魔力を充満させ強化を素早く終えると横に飛ぶ。
コンクリートに肩がこすれ血が滲んだが気にしてはいられない。
すぐに俺は立ち上がる――と、そこに無数の雷が襲い掛かってきた。
「ど、どういうこと――」
全てを言い終わる前に吹っ飛ばされる。
ど、どうなってるんだ……。
……ああ、提案が来た時点でわかってたけど強すぎる。
何で悪魔にしたんだろう自分。
それと一日経ってるけど海弟の食事はどうしたんだろう。
読者の方々も疑問に思ってると思いますが作者も疑問です。