第303話『エルフの話を聞こうじゃないか』byずっと暇だった海弟
あれ……何かおかしいぞ。
勝ったー、という訳でせっかく勝ったのだし何かしたいと思う
暇だからって理由が一番大きいが。
わざわざ日光が直接当たる場所まで連れて来て縄で縛ったのだがあのエルフさんはそれを苦にしていない様子。
白い肌からは考えられないが日光に強いのだろうか?
「さてフィルさんや。何を希望する」
「まず事情聴取でしょうよ!」
「なるほど。仲間を売れ、というわけか」
せっかくの木陰から出てエルフの元まで行く。
暑い、が我慢しよう。小学校のときに教えられたように相手の目を見て話す。
「えーと、名前は?」
「……」
ええ、何か喋ろうぜ!!
「良いのか? 我々はすでにキサマ等の村の位置を掴んでいるのだぞ!! そう、今頃帝国から大群が……キサマ等の持つ情報をすぐに我等に渡した方が良いとは思わんか。なぁ?」
「くっ、それは本当か!!」
意外に釣れるものだな。なるほど、帝国というとこの国の隣にあるビリシア帝国のことか。結構巨大な国だが生産率が悪いからこの国に同盟を持ちかけてきた国だったか。
主な輸出国だな。情報集めはやっぱり大事だな。うん。
「信じるかどうかはお前次第だな。俺は無駄な時間は使いたく無いし。で、話すか? それとも話さないのか。どちらだ」
「……構わん! 殺せ」
……ここから進みそうに無いぞ。
チラリとフィルのほうを見る。あいつ寝てやがる!!
「あー、うん。嘘だ。今までのことは」
「は?」
「いや、お前等が攻められてるかどうかなんて俺はホントは知らないってことだ。ほら、ノリって大切じゃない?」
「人間と関わらない我等には不要なものだ。それよりも嘘ならよした方がいい、どの道わたしは情報を喋らない」
「ええ、ホントだって。まあお前等が死のうと俺には関係無いし良いか。姫様達を待って帰ろう」
「姫様? この国の姫君のことか!」
「そうだけど。信じないんじゃないのかぁ?」
都合の良い奴だな。俺は一つも嘘を吐いてないぞ。嘘を言った後にはしっかりと嘘だと言うからな。
なるほど、これが冗談というやつか。
「さて嘘と冗談の違いがわかったところで。姫様に何のようだ?」
「あいつ等に……攻撃をやめるよう、伝えて欲しい」
「なるほど。切羽詰ってるなお前も。で、俺の言っていることが嘘だったらどうするんだよ」
「……どうせ殺されるのなら一人でも多くの人間に我等が抵抗したのを知っておいてもらったほうが良い」
そう言って俯くエルフ。これ以上喋る気は無いらしい。
ここまでのことをまとめるとすると『武力で押さえつけられようとしているから同盟国のこの国の王、つまり姫様に攻撃をやめるように伝えたい』と。
俺の前に助けるか助けないかの二択が出てきたのだが勿論俺が選ぶ方は決まっている。
「おいおい、俺みたな一般人が姫様に会えるわけ無いだろう? それに――」
「海弟様?」
……くっ、無念。姫様タイミングっ!!
「誰だ?」
「えと、私は――」
「その前に自分が名乗れ!」
ここでこいつの名前を聞いておかなげれば今後聞けないような気がする。
それにこの人は姫様だ。簡単に身分を明かしちゃいけない。こいつが求めているのも姫様だしな。
少し思考したように顔をしかめると決心がついたのかぼそぼそと名前を言う。
「リンナという」
「偽名じゃ無いだろうな?」
「それをわたしに聞くか?」
「偽名だった場合この姫様はお前に協力しないぞ」
「え?」
不意を突かれたのか驚き顔になる。その顔のままリンナ(仮)が姫様を見る。
姫様はリンナ(仮)に対し一礼する。
「ぎ、偽名っ!! これ偽名っ」
おお、すごいあわてっぷりだ。
「あー、どうしよっかなー。姫様?」
「あの……名前」
「エティが本当の名前だ」
「似合わないなっ!」
「言うなっ!」
鋭い突っ込みだ。
うう、怖い怖い、と決まり文句のように言いつつリオネのほうに向かう。ここは姫様とエティの二人で話していれば良いだろう。
「治ったのか?」
「はい、何とか治せました」
「良かったな、ここまで旅したかいがあるってもんだ」
「海弟さんも……本当にありがとうございます」
「いやぁ、最後の最後で面白いものも見れてるしな」
そう言ってエティを見る。リオネも姫様と話しているエティを見る。
ある意味シュールな光景なそれなので少し動揺したようだったがいつもの表情に戻る。
「遠目なのでわかりませんが。エルフですか?」
「その通り。名前をエティと言うらしいな。小生意気な奴だ」
「はぁ、この辺りに僕も実家がありますが……始めて見ます」
「だろうな。話を聞く限りじゃ国境跨いだ向こう側にエルフの村はあるみたいだからな」
「そうなんですか。この戦争が終わったら行ってみたいですね」
「その前にこのエルフの村は危機になってるみたいだぞ」
笑いが漏れる。いやぁ、面白いことになった。
相手は同盟国だ。暴力的なことは出来ない。となるとどうすれば良いか。
簡単だ。
「敵国唆して攻撃させる!!」
「え、その前に諫言するというのは……」
「無い! 却下だ!! 俺が戦う!!」
「最後のおかしいですよ。というかこの戦争の仲間を倒すって……」
「勿論百も承知だ。相手も自滅させるから安心しろ」
「どうやって?」
「そうだな。俺が敵国の王になって軍を指揮してビリシアに攻撃を仕掛ける。最後に俺が裏切れば完璧だ」
「無理ですって。攻めるのにも時間が掛かりますし、海弟さんの革命に近い行為だって長い年月をかけなければ成功しませんよ」
それもそうか。ならこの国の勢力を使って叩き潰すまで!!
「危ない顔をしてますね……」
「まあ最悪でも俺だけで潰せるだろ」
「無理ですから。諦めてください」
俺も半分冗談で言っていたので笑って返す。
勿論その半分は『一人で攻め込む』という部分だ。決して一人じゃ潰せないという意味ではない。
「海弟ー、暇」
言葉通り暇なのか歩み寄ってくるフィル。
「じゃあ木陰で休んでろ」
「それが暇なのよ。わかる?」
「ああ、わかる。だから木陰で休んでろ」
「人の話聞けっ!!」
フィルの拳が空を切る。
危ないぞお前。
「ああ、聞いてる聞いてる」
しっかりとフィルのほうを見つつ言う。コレ以上身の危険を冒してたまるか。
「私を置いてなんか楽しんでるしっ!!」
「いや、まったく楽しくないぞ」
「笑ってた」
ふむ。
「楽しんでました」
「よろしい。いや、よろしくない。私も混ぜるべきっ!!」
「じゃあ今から仮想敵国に攻め込もう!!」
「いや、同盟国ですよそっちの方向は。それに仮想敵国の意味は――」
「良いんだ。俺の自由!」
「断じて違います」
ほら。人間の三大欲求は無限大じゃない?
ちょっと自分で言ってて意味わからなくなってきたけど。
「それよりもリオネ。姫様が呼んでるみたいだぞ」
「え?」
「今だ突撃っ!!」
「了解ぃ、って何処に行くの?」
「……そうだな。馬鹿が地獄を見る時代に変えに行くのさっ!!」
「おうっ!!」
「あ、ちょっと海弟さん……、ってホントに姫様から呼ばれてるし……もうっ!!」
リオネ。男の子なんだろう? 頑張れ。
森を二人で抜け整備されている道に出る。
北の方角を見れば関所が見える。南側には無限にこの整備されている道があるように見えるが人間の目じゃ目視が出来ないだけだろう。
「おっと。そういえばお前の能力を解放しておかないとな」
「忘れてたのかっ!」
「いや、諸事情だ。事情については聞くな」
脳の中でその情報が寝てたんだよ。決して忘れてたわけじゃない。
「どうする? 関所を通るか林を通るか決めれるが」
「我が呪いの餌食にしてくれるわー!!」
「なるほど良い案だ」
堂々と関所を通るってわけか。
フィルの案を採用し、なるべく旅人に見えるように道を進む。やはり関所で捕まり通行料を支払えと言われるが三割ほど上乗せされているような気がする。
元々安い通行料だから気にならないがそれでも三割は大事だ。もっと言うと一割も払う気は無い。
フィルの能力、というか悪魔の能力の一つに呪いというものがある。言わずともがな人をじわじわと殺していくものだがフィルは未熟なせいか人の動きを止めることしか出来ないらしい。
まあこの世界の悪魔の能力がそういうことしかできないようになっているのかも知れないが。
「じゃあ素通りって事で」
「軍隊壊滅に行ってきますっ!」
何かおかしい。何で海弟が同盟国の軍隊を壊滅しに行ってるんだ?
常識って何だろう。
鬱になるのでこの辺でやめて……。
敵さんの件はまだ募集してるので。