第297話『ハイテンションなんて……』by海弟
『嫌いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
抱えて走ったときに気づいたのだがこの子は女らしい。すなわち悪魔の少女と表現するのが正しいだろう。
まあ今はそんなことどうでも良いんだ。予想の範囲だったし。
そして……宿屋に格安で泊まってやったぜ!!
「悪魔にビビってる奴が多いおかげで格安で泊まれたなー。いやぁ、よかったよかった」
「格安というか、タダでしたよね」
「ここは周囲に気を使って格安と言うのが筋だ」
そこまで俺は黒くない。実際タダで泊まっているけれども!!
「に、してもだな。この悪魔喋れないようなのだが……どうする?」
「翻訳の魔法も一応あるにはありますが……この子が喋っているのは言葉では無いようですし、無理でしょうね」
「そうか。なら良いや、ペットとして扱おう!!」
「いや、ダメでしょう。姫様が何て思うと思いますか?」
「……じゃあどうするんだよ。悪魔の記憶力って良いのか? 何年ぐらいで言葉覚える?」
「わかりません」
どうするんだよ……。
目の前に居る汚い布を一枚着た悪魔の少女を見る。実際には着るって表現も正しくないような無残な姿なわけだが他に表現のしようが無い。
俺も数枚服を持っているのは持っているのだが……残念ながらすべて男物だ。それにサイズも合わない。
「はあ、しょうがない。ホントにしょうが無いんだぞ?」
「えと、何をするんです?」
「そうだな……。一言で説明すると『瞬間的に神をも超える能力で俺達に理解できる言語をこの悪魔の少女が喋れるようにする』ということをやろうと思うんだ」
「息継ぎせず言い切りますか……。っていうかそんな方法があるなら最初からやってくださいよ。神をも超える能力なんでしょう?」
「馬鹿野郎! 後で俺の仕事が増えるんだよ!」
始末書とか最悪だ。
今日だけですごい数の仕事が溜まってるなぁ、とか思いつつ悪魔の少女の額に触れる。
「ん? ……角?」
今気づいたのだが角がある。削られ小さくなっているが間違えなく角だ。
「……戻しといてやるか。って言うか触覚みたいな何かじゃないんだな」
世界をちょびっと変え、悪魔の少女が喋れるようにする。ついでに角も戻し外部の傷をすべて治しておく。
「何すんだっ!」
「いやいや、ちょいとフルパワーで限界をぶっちぎっただけだ。気にするな」
「気にするっ! 物凄く気にする! っていうか喋れてる!?」
「おーい、リオネ。お前世話してやってくれ。このハイテンションは俺には合わない。いや、相手にするのが面倒だ」
「後半に本音でてるし!! 面倒とか言うなよー」
「馴れ馴れしいっ!!」
角が! 角が目に入る!! 二つあるから両目がやられる!
「って言うかお前は鬼か!?」
「さあ? 人間に捕まってすぐだったからわかんない」
「にしてはハイテンションだな。悲しいとか思わないのか?」
「……そりゃあ、悲しいよ。心がとっても痛い」
「なら野に帰れ。そして死ね」
「死ねって酷いっ!!」
「いや、死ぬのは迷惑になるから人間に献上して生きろ!」
「……もうやだよ」
テンションの差が激しいな。NGワードでも踏んじまったか。
「……まあ良いや。リオネ、世話」
「僕ですか? でも……凶暴そうですし」
「か弱い乙女です」
「ほら、か弱い乙女だ」
「悪魔だし」
「そこは曖昧なラインってことに出来ない?」
「じゃあそうしとこう。ほら、世話してやれよ」
「何か無理やりすぎる気がするんですが」
「なぁに、ただの女の子だと思って接すれば良いさ。何発か殴れば言うこと効くだろ」
「ええ!? 何その扱い方!」
「それじゃ、俺はやることあるから」
そう言って部屋から出る。
騒がしくなりそうだなぁ。喋れるとわかった瞬間に急に喋りだすんだから。
廊下には誰も居ない。そりゃあ高い宿代を出す奴なんて居ないだろうから当然だろう。俺達はタダだが。
「これならもうちょっと高い宿屋使えばよかったなぁ。まあ良いや、目的地には近い」
俺が目指しているのは武器屋だ。剣を買おうと思う。
勿論あの剣が一番使いやすいのだが少しでもいつも使っている得物と同じ重量感の武器を使いたい。
それに剣に慣れてしまっているのが確認できた。
「えーと、どっちだ? まさか武器屋まで値段高くしてないよな?」
看板などなかったが何とか武器屋を見つけ中に入る。
何か高そうだったが物々交換で何とかしよう。
「いらっさいなー。ってお兄さんお金のほう大丈夫? 格好も違う国の人っぽいし字が読めなかった?」
いきなり何てことを言う店員だ。
「はっはっは、愉快なことを言うな。まあ金は無いが珍しい物たくさん持ってるぞ」
「へぇ、私そういうの集めてるんだよね。どゆの?」
鏡を取り出す。さて、何をまず出そうか。
「え、何それ?」
「ん? これか? これは鏡――」
「すごっ!」
「おい、テンション高いなお前。今日だけで二人目だ。この鏡がそんなにすごいのか?」
「いや鏡って物凄く高いんだよ!? 持ってるのも一部貴族だけなのに! いや、貴族贔屓の体制じゃなくなったから今は普及し始めてるけど!」
「なら珍しくないな。んじゃまずは……あー、お菓子ばっかだな。あとは武器とか」
「お菓子!? 何持ってるの?」
「色々だなぁ。クーラーボックスの代わりに使ってるからアイスとかケーキばっかりだな。チョコも入ってるな」
「あいす?」
アイス知らないのか。
夏の季節の定番……いや、面白いな。
「ひんやりしてて冷たいんだ。うまいぞ? 一つ食べてみるか?」
「う……」
「ああ、別に意図は無いぞ? 俺は甘い者好きだから一人でも多くの人間にこのうまさを伝えたいんだ!」
「おお! 良い人!」
スプーンと一緒にカップアイスを手渡す。棒アイスも良いと思ったが青少年には危ない食べ方しそうなので遠慮させてもらった。
「これは……少し硬いね」
「どっちも危ない表現だな。ほら口にいれてみろ」
店員が一口食べる。
「あ、何だこりゃあ!!」
「うまいだろ?」
「良いねえ! 良いねえ!!」
「よし、ここで提案だ」
「何々?」
「お前の店の前で俺がこのアイスを売る。そして儲けた金で俺がお前の武器を買う。どうだ!」
「素晴らしい! 良い案だよ!!」
『良い案? 使い走り程度が何をほざくか!』
低い声が店内に響く。
声のしたほうを見ればいかにも暑苦しそうなおっさんが居た。黒こげたエプロンみたいなのをつけている。
「おやっさーん。うまいッスこれー!」
「そろそろ地獄でもお前の受け入れ準備は終わってるだろうよ、でお客さん」
「何だ?」
「その案についちゃあ否定はしねぇが、聞いてれば武器はすでに持ってるんだろう?」
「槍とか持ってるけどさ、でも俺が使うのは長剣なんだよね」
「……すべて扱うのか?」
「いや、剣以外は見様見真似だ」
「お前さん。武器を甘く見ていないか?」
「見てないさ。わからないのか! この俺の悲しみが!」
「悲しみ?」
「この剣を見ろ」
そう言って真っ二つの剣を鏡の中から取り出す。
「おおお! 鏡とはそのような効果が!」
「これはただの魔法だ。気にするな」
外野がうるさいぞ!
「こ、これは!」
「わかるだろう?」
「かなりの業物だ。しかし……」
「俺の腕についてこれなくなったのかな」
「いや、お前さんの扱い方が悪かっただけだ」
ふっ、全力で否定させてもらおう!!
「お前さんの悲しみはすごくわかる!」
「だろう!?」
「わかった、この剣を持っていくが良い!」
「よっしゃー! って木刀じゃねぇか!!」
くっ、このノリで行くのか!?
木刀を床に投げつけると跳ね返ってきて俺の顎に当たる。
「あっはっはっはっはっは!!」
「ぼ、木刀のくせに生意気な!」
「久しぶりに威勢の良いガキを見たぜ」
「ボケたかおっさん。俺はガキというには高すぎる年齢だぜ」
何たって十七歳!
「ちなみに長く感じられたが誕生日きたばっかり!」
「旅人か? まあ剣を求めるならそうだろうな。ならこの剣の生い立ちを説明しよう、その椅子に座ってくれ」
「おう」
指差した椅子に座る。木製の椅子で座り心地が悪かったので立ち上がった。
「……この剣は、天から降ってきたんだ。ある日」
「そうか。使えないなこの剣」
ボキッ
「あっ」
「え?」
「いや、そんな……」
「得体の知らない物など使えるか!!」
「そう言われるとそうだな」
「じゃあその剣で」
鋼鉄の重量的にちょうど良さそうな剣を選ぶ。取ってもらうと重量感も同じぐらいだ。
「それじゃ帰りますね」
「おう、旅頑張ってくれよ」
「頑張ってくるぜ」
そう言って店を出る。
……………………………。
突っ込み待ち何だけどなぁ。
店の扉が開く。
「お、おい! 会計済んでねぇぞ!!」
「やっと逃げる事が出来る!!」
ハイテンションで空回りしてるなぁ。さすが。
……へへっ、うまくまとめようとしたらしくじった。
時間おいて書くのはやっぱりダメだなぁ……うん。一気に書き上げてしまうことにしよう。