第2話異世界事情と自分の立場
数十分経ち……。
今俺達は客間のようなところに来ているのだがが……周りには兵士がいっぱいだ。部屋にぎゅうぎゅう詰めというほどでは無いが俺達三人が見事に囲まれている。
理由としては逃げないためだろう。
「なあ……俺達なんか悪いことしたか?」
「してないだろ……たぶん」
影流が聞いて俺が答える。勿論、答えという答えは出ていない。
その間も不審な目……好奇心にも似ていたがそんな目で俺達を見てくる兵士達。
しばらくすると、ガチャリと音を立ててドアが開く。
そいつはここまで案内してきた奴だ。着替えるとかいってさっき出て行った。目のしたに隈ができてて危ない人みたいだったので危険人物だ。
つまり要注意。
「遅れてすいません」
「いえいえ」
言葉遣いはしっかりしているな……。
とりあえず、面倒なので影流に全部任しておき、俺が気になることを聞く。ということにした。いや、全てが気になる事だらけなんだが……。
青空はもうさっきから部屋中興味しんしんでクルクルと首をまわしていろんなとこを見ている。確かに気になることだらけだが不審なことしてたら兵士さんにグサッ、とされない?
「私の名前は、ファン・ジェルン・テイミです。今から、皆さんを呼んだ理由を話したいと思います」
目の下の隈をこすりながら言うファンさん。
「俺達もも、名前を言ったほうがいいかな?」
「よろしければ聞かせてください」
俺たちは一人ずつ自己紹介をしていく。
そして俺がわかったことが一つ。
やはりというか……このファンさんは影流に大変興味をお持ちらしい、何ていうか……オーラだ。オーラでそれがわかる。
こいつが側にいるからこそこの雰囲気を感じ取るのに敏感な俺がいる。
異世界で役に立つのかは不明だが。
「影流に青空に海弟ですか。では、これから話していくことをよく覚えてください」
記憶力には自信はありません。だから無理だと思う。
内心呟いていると、兵士が部屋から出て行く。
……何か重要な話でもあるんですかね?
☆
全て話し終わり、何か葡萄ジュースのようなものをファンが飲む。
こういうものもあるんだなぁ、と思っていると影流も口を開く。
「え~と、つまり――」
長いので要約。
つまり、この世界には魔王と勇者が過去に居た。で、魔王を勇者が倒したわけだ。ここら辺はテンプレのような王道ファンタジー。
その後のことは曖昧で描かれない事が多いが、この大陸にある複数の国が勇者のために資金を出していたから手柄の争いになったわけで……。
通常ならそうならないだろうが、この勇者……出身の国がわからないのである。特徴としては長い黒髪で、種族は人間。性別は女だったらしい。
まあ旅に出ると決まったときに髪は短くしたらしいが……。
その出身国のわからない勇者の一言で俺達は呼び出されたらしい。
『このまま争いをするんじゃ私が平和にした意味が無いでしょうが。こうなったらそうね……異世界……そう、そこから人間でも妖精でも良いから呼び出して全責任、いや全功績をそいつに渡せば良いのよ』
異世界があるのかすらわからないのに……という意見も勇者によって却下され、才能のある人材……つまりファンさんらしいのだがその人によって俺達は召喚されたらしい。
そこには大変な努力があったらしいがすでに済んだ事だ。これからの事を考えていこう、そういう事らしい。
「そういうことでしょ?」
そう言い終わると影流もブドウジュースのような物を飲む。
「あぶっ!!」
そして吐く。
俺は正面にいないからセーフ。
正面に居たファンは反射的に避けたのでセーフ。
高級そうなソファはアウト!
紫色の液体を吸い込んでしまっている。
「これ酒でしょ!!」
何!?
俺はコップの中に注がれている紫色の液体を見る。確かにアルコールのにおいがするかも知れない。
影流がそれに気づかないはずは無いだろう……とは思ったが鼻を近づけないと葡萄ジュースのにおいしかにおわない。
間違えるのも無理は無いか……。
俺がそんな事を思っている間に話が進んでいく。
「まあいいですけど……三人いるんですよ。誰がやるんですか?」
「それは……まぁ」
そう言って影流のほうを見る。
ここだけの話……影流が正義感強いのには理由があって影流の家はとある有名な武将の家系にあって、家系の慣わしなのか自分の父親に『男はやさしくなくてはいかん!!』とか『常に正義の心を忘れるな!!』とか言いまくってるのである。こう言っちゃアレだが小さいころから聞いてる影流は洗脳されているのである。それと伴い武術も習っているので文武両道で美形君の完成だ。
はっはっは……目から流れているのは感動の涙さ。こんな友達を持って感動。決して悲しいとかそういうんじゃないからねっ!!
「ああ……俺がやるんですか」
「頑張れ影流っ」
「青空様は影流様の王妃様役なとどうでしょうか?」
「え、私も……って。王妃様?」
「勇者様は世界を救ったのですよ? 国を作ろうとすれば出来るくらい偉い人だったのです。その権利が移譲された今、影流様が国王をするのは当然の事です。すでに準備も出来ていますしね」
驚いている二人を俺は無視して俺の立場を聞く。
「そうですね……。お供でいいんじゃないですか?」
酷いっ!! 何か酷いぞそれ!!
まあ青空の妃まで許すとして……何故に幼馴染のお供なんだよ。
教えてくれよ。いや、明確な理由があったら嫌だからやっぱり聞かないけどさ。
「ちなみにお供なのは思い付きです」
「ひどっ!!」
……これは明確な理由に入るんだろうか?
こんな感じで何故か一日目が終わっていった。
こうして俺達とこの世界の国王達による国民を騙す大きな演劇が始まったのである。
……召喚された立場というのは一緒なのに俺と影流の差が大きいなぁ。まあ我慢しよう。
けれども……一つ言いたい事がある。それは『演劇用の衣装は動きにくい』って事だ。
魔王様衣装は恥ずかしいぞおい!
☆
小鳥のさえずりが聞こえてくる。日陰と日向交互に窓から入ってくる。
そして段々覚醒していき、ガッコンっ!! という大きな音と浮遊感で目を完全に覚ます。
バシンッ!! と地面に打ち付けられたような音。実際にそうなのだが……。
「イタタ……」
体を無理矢理起こす。
すると二人の顔が見えた。
「あっ、おはよう」
「やっと起きたか」
二人の声が聞こえる。やけに部屋が狭い気がするんだが……。
周りを見てみると影流、青空、ファンの三人がいた。
……拉致!?
って、そんなわけ無いか。
「えー、ここどこ?」
俺が寝ていた部屋じゃないことにさすがに気づき誰でもいいので答えてくれという無責任な質問をかける。
責任者やってる影流君どうぞ。
「ここは馬車の中です。海弟様はなかなか起きなかったのでそのまま乗せてしまいました」
「説明どうも」
あ、そっちから来たか。ファンの方を見る。昨日さん付けでなくてもいい、と言われたのでこう言っている。
一度冷静になったけど……よくよく考えたらアレだけ疲れてたら起きれないでしょうよ!!
この二人がおかしいの!! いや、召喚魔法に時間をかけてたファンも何で起きれるんだよ。
まだ混乱している頭をよそにどんどん進んでいく馬車。
「どこに行くの?」
やっと出てきた質問がそれだった。
頭の回転がいつもより遅くなっているような気がする。
「レティナという国です。御三方を召喚するに当たって、他の国とは比べ物にならないくらい魔法石を寄付してくださいましたから」
笑顔で説明してくれるファンさん。
確かレティナという国は商業が盛んな国で色々な物があるとか。昨日の夜地図を見て覚えた知識を頭の中から搾り出して考える。
興味はあるがそういうとこには絶対裏があるものなのだ。ま、挨拶程度だし別にいいか。
俺の中では行きたいけど行きたくないというなんか矛盾した場所であった。
昨日何処か目的地があるのか? と聞いたが決まっていない……と答えていたのでたぶん今日決まったのであろう。
召喚できるかどうかも怪しいのに……という本音が窺えるような……まあ結局は決まったのだから良いだろう。
「そういや魔法石って採掘場とかあるの? 商業が盛んって事は輸入する場所があるんだろ? まさか自国で発掘したのを売ってるわけじゃあ無いよな?」
そんな疑問。
自分の国で発掘したものを売っていくだけじゃあ商業を盛んにすることが出来ない。いくら需要のあるものとはいえ、魔法使いと女性だけをターゲットにした魔法石なんていう商品は……いや、待て。
ここは異世界なのだ。それに見るからに女性が稼いでいけるような時代じゃあない。ならば女性で手の届く者は一握りになる。
そこで現れるのが富豪層だろう。金持ちの象徴にもなりゆるからありゆる。
自分の中で考えても答えは出ないが……今までの価値観が通じないってのはあると思う。
「はぁ……えぇと昨日この世界の事を説明しましたが……覚えていらっしゃらないのですか?」
敬語だが何処か呆れた感じの声。
残念ながら夕飯のアルコールと影流ラブ☆ラブな雰囲気にやられてほとんど覚えてないぜ。
そこから昨日話を一から最後まで話し始めるファンであった。
ちなみに俺らの世界についての話題はあまり、というかまったく聞いてこなかった。
気を使っているのかは知らないがコチラの事も少しは聞いておかなくていいのか? と思ったがさっき向こうの知識が通じないかも知れないということを思ったばかりなのを思い出す。
聞いてもこの異世界側の技術じゃあ向こうの機械とかは作ることは出来ないからな。
……って言うか、勇者になれとかじゃなくてよかった。
手直ししました☆