第281話国内での歩み②
自由ってすばらしい。けど海弟の場合は自由すぎる。
二日目の朝。こっちの世界の料理を食べ(木の実を含んだパンにきのこのスープ)森を抜けるために出発する。
魔物は居ないこの森だがその分野生の動物の動きが活発で危ないのだ。一般人から見たら魔物も動物も危険レベルは同じである。
まあ俺から見ても危険レベルは一緒だけどな。俺よりランクが下という意味で。
「暗い森だな。夜だと真っ暗じゃないのか?」
「だから朝から昼のうちに渡りきらないといけないんです」
そうか、と軽く返事をして視線を目の前に戻す。
一応『風星』で野生動物の位置はつかんである。まだ危険な動物と出会う可能性は低いだろう。
それから数分歩みを進めると―――なんか地面がもっこりしているのが見える。
「っ、運が悪かった……としかいえません」
「何だ? 何か危険なのか?」
「魔法と武術がすべて効かないのですよ、この動物……いえ、精霊動物には」
「精霊動物?」
「長い間生きて特殊な能力を得た動物のことですよ。魔物より強いから討伐隊には嫌われてますけどね。そしてこの森の主と呼ばれているのがあれです」
……お、良いこと思いついた。
魔力を土のもっこりした部分に打ち込みまくる。
『グギャァァァァァァァァッッ!!』
シュンシュンッ、と風の塊が打ち込まれていき砂埃が舞う。
ふははははははっ!! 俺にオマエは勝てぬよ。
しかし本当に魔法が効いていないらしく傷一つ見えない。
……良いんだけどね?
精霊動物が口をあけ咆哮をあげている。しかしその最中に俺は攻撃する。
「第三『閃電』」
ブシュンッ、とレーザーのような……しかし電気を帯びた直線状の電気の塊が精霊動物の口内から体内へ、そして体内を焼き殺していく。
すごい臭い臭いが回りに広がる。
最高だ。
「魔物より強い精霊動物がこの程度か。魔物ってのはどれだけ弱いのか」
「……いえ、これ以上驚くのも無駄というものですね」
「驚きなんているか。俺に声をかけたお前は自分を誇ってれば良いんだよ」
そう、誇れば良い。
それとまったく関係ないが今日が終業式だというのに気づいた俺。さて、学校行こうかな。やめよ。
ああ元の世界に帰ったら青空から大量の宿題が手渡されるんだろうな……。
よし、そのまま宿題を手伝ってもらおう。
「さっきから表情がころころ変わってますけど……大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫大丈夫」
森を歩き続け抜けきったときには再び夜になっていた。
昼は森の中にちょうど良く建てられた飲食店(魔法人形とか言うのが経営)があったのでそこで食べた。
「今日はここで休みですかね」
「そうだな」
俺もテントを組み立てる。
昨日も見て驚いていたが特に質問などしてこなかったので別に説明しなくて良いだろう。
今晩も質素な料理を食べ寝ようかとしているとき、王子が話しかけてくる。
「あの……あなたはすごいです。何処かの貴族として産まれていたのならば英雄と呼ばれる存在になっていたでしょう」
「その前に家出するね」
この世界なら家出しても生きていけそうだし。
「あなたもこの世界は腐っている、そう感じましたか」
「どこでもそうだよ。天才が現れたってその寿命で死んでしまうし、世界を完全に変えることはできない。だから腐ったままだ」
アニメや漫画の世界のように才能あふれた人材なんてこの世には少なすぎるほどしか居ないのだ。それが一点に集まることなんて無い。
天才の中じゃ天才は育たないからだ。
「まあ俺は世界を元に戻す方法を持っているわけだけれども」
分厚い承諾書に一枚一枚目を通さないといけないだろうけども。
「……そういや、お前の事情を俺は知らないな。よければ話してくれないか?」
「あなたですからね……話しましょう。僕は死を間近に控えているんです。まあただの呪いですけどね」
呪いで死亡ってファンタジーすぎるだろ。
まあここは異世界なので何も言わない。
「それを治すためにこの国のお姫様を拉致したわけじゃないんです。僕の母さんが……僕より軽い呪いですけど進行の早い呪いを掛けられているんです」
「……ほお」
「王族なら治すことができる。そう思って……はるばる、そういうわけなんです」
まあ腹違いの姉が居るならそれに頼るのも無理は無いな。
と言うかその前に。
「それを先に言え。明日は馬を奪って一気に距離を縮めるぞ。どっちの方向へ進めば良い」
「西です」
……わかった。よっしゃー、色々テンションあがって―――こないな。眠い。
さて今日は寝るか。
「おやすみー」
「え、あ、おやすみなさい」
そろそろ海弟は外道って言葉だけじゃ収まりきらなくなってきたと思うんだ。
けど外道路線で行きます。
次思いつくのが覇道だったから。




