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第274話夢の中の大乱闘

物語は動き始めましたよー。

「連絡をいれてもらわないと困ります!!」


イリアが言う。悪かったと何度も謝っているのに言う。

たぶんそれは俺が反省していないように見えるからだろう。まあ反省してないし。


「けど持ち場を離れるのは危険だっただろ?」

「もしも生きていたらどうするんです」

「暗殺者が?」

「はい」

「しっかりと見張りを付けてたから大丈夫だよ」


幽霊少女と言う。


「見張り? 複数人で見張っていたのですか?」

「アレは(にん)と数えるのか微妙なところだな」

「は?」

「いや、なんでもない。けど実際なにも無かったんだからいいじゃねぇか!!

「次に生かそうとしないから怒っているのです!」


そういやそうだった。


「ならあの時俺はどんなことをすればよかったんだ?」

「護衛対象を起こし暗殺者のことを伝えた後全体に連絡し全体の防御能力を高める、これが然るべき行動でした」


ほお、そうなのか。次からそうしよう。


「悪かったな」

「いえ、反省しているのなら良いのです。それよりも、今日も取引が続いているようですね」

「そうだな。俺は夜に見張ってたから眠い。午前中はお前が監督してくれ、俺は寝る」

「了解しました、昼からは?」

「んー、まあ参加する」


聞かれなかったら遊びに出かけようかと思ったのに。

まあコレで寝る時間は確保できた。短いがそこは目を瞑って部屋のベッドにダイブする。


驚くほど早く睡魔が襲ってくる。


かなり疲れてたんだな……。





視界がぼやける。見えないはずのものを見ているように。

何だろう独特の浮遊感すらあるのにあの気持ち悪さを感じない。それどころか周りに漂う空気の熱さえも感じることができない。

この感覚は、異世界に来る前に感じたものと一緒だ。魔王と戦っていたな、そういえば。


『何処だ、ここ』


見たところ古い屋敷のような場所だ。ドレスやタキシードに身を包んだ老若男女が見ていて痛々しくなるほどのお嬢様口調や気障な言葉を投げかけあっている。

この光景、舞踏会か何かだろうか?

影流から聞いたことのあるその話を思い出してみて想像する。何処かの貴族が主催した舞踏会、その中に居る俺。


『似合ってないな』


いつの間にか俺もタキシードを着ていた。キッチリしていて他人が見るとしっかりした人だなぁ、とか思えそうなほどの高級な物だ。

俺も目利きの才能を持っているわけじゃないが貴族どものと自分の物を見比べればわかる。同程度だなぁ、と。


そういや前は出口が見つからなかったが今度は出口がすぐそばにある。


ベランダを見て思う。一度出て行ってみたいという衝動に駆られてデランダへと歩いていく。

一歩外に出ればその光景は広大だった。まるで別世界。


いや、完全なる別世界だ。俺の知っている世界じゃない。

一度も行ったことの無い世界だ。あるのかないのかすらわからない。


『また召喚されるんじゃないよなオイ』


二度目の召喚なんてイヤだぞ。

ベランダから下を眺めていると一段と大きな馬車が到着する。周りがざわめきだしアレが王族の乗っている馬車だと気づくのにそんなに時間は掛からなかった。

出てきたのは俺と同じぐらいの年の少女とその母であろう麗人。どちらも極限まで美しい。

王妃と王女に殺到する若い貴族達。なんだろう、見ていて気持ち悪い光景だ。


『彼等は貪欲なんだよ』


首を曲げ隣を見る。琴を持った吟遊詩人が俺の隣でベランダの手すりに体重を掛けるようにして立っていた。目線は常に王女へと向けられている。

俺へと話しかけられているのはわかったがこちらを見ないことには俺も反応がしにくい。

なので俺も王女を見る。


『髪の色、目の色、肌の色、キミはこの国の人間じゃないね。周りは何処かの貴族の奴隷だとでも思っているようだけれど、違うよね?』

『何が言いたい』

『頼みがあるんだ。我が姉を助けてほしい』


姉?

そこで気づく。


『お前……』

『腹違いだし、向こうは気づいてないと思うよ。でもキミにしか頼めないんだ、国外へ姉を連れて行ってほしい』


初めてコチラを見る吟遊詩人の顔はあの王女と似ても似つかない顔だったが十分に美顔だった。

影流と良い勝負だ。


『……イヤだ』

『報酬かな?』

『いや違う。面倒だからイヤだ』

『困ったな、キミに頼めないとなると姉は死んでしまうかも知れない』


な、あの美少女が死ぬだと!? 世界が許そうとも世界の支配者である俺が許さないぞ。

うん、美少女って得だよな。


『詳しく聞こうか。納得できるのなら助けてやっても良い』

『いや、説明はしないよ。僕は僕の都合で姉を助けてほしいと頼んでいるのだから』

『……よし、それじゃあやめる』


意外そうな顔をする吟遊詩人。

なんだ、何かおかしいか?


『普通の人ならばここまで言えば引き受けてくれるはずなんだけどね』

『普通の人じゃ姫様さらって国外まで逃げれると思ってないだろお前も』

『―――っ、それもそうだね。僕は僕の手で守ってみるよ。でも気が変わったら僕に話してほしい』


無いと思うぞ。俺はこの夢が覚めたら―――いや、覚めても『鏡』を使えばこの世界に来ることは出来るんじゃないか?

よっしゃ記憶だ記憶。


右、左、上、下、っとすべて確認。頭の中で組み立てて曖昧な部分をもう一度目視。

よし記憶完了。


『とりあえず頑張れシスコン!』

『しすこん? なんだいそれは』

『姉のことを好きな奴のことだ』


そう言ってベランダから飛び降りる。

体を強化しなくても夢の中なので痛みは感じない。ただ夢と言っても現実、筋肉の痺れが取れるまで何秒か掛かった。

で、それが不味かった。俺の頭の中では前に進むことでいっぱい。

痺れが治ると同時に前にダッシュ、そして何かにぶつかる。


『きゃっ』

『うわっと、と―――』


夢の中だがなにやらやっちゃいけないことをやってしまった気がするぞ。

そうだ剣は―――無いね。タキシードの時点で無いとは思ってたよ。ははは。


『キサマッ!! 姫様になにを!!』

『俺は悪くないから! わざとじゃないし!』

『ならば意図的と言うことか!!』


コイツは国語の勉強をしたほうが良い。

わざと、と、意図的、は同じ用法で使えるんだぞ。どちらも意味は意識してやろうとしたこと、って意味だ。

だから自然にそうなってしまったと―――剣が向けられていますね、俺に。


『ちょ、ちょっとー!!』

『問答無用!!』


騎士(?)が俺へと斬りかかってくる。

ふっ、残念だが俺は魔法が使えるんだよ。


『第三『水花』ァ!!』


ブシャァァッッ、という音ともに俺の頭上から伸びる水で出来た花びら。

それは周囲の貴族達と騎士達を丸呑みにして、気づけば尻餅をついている王女と俺だけがその場に残っていた。


『……これはヤバイ事態ですよ。ははっ、どうしようね』

『コイツ奇術を使うぞ!!』

『奇術じゃない。魔法だ!!』

『何を言う。魔法とは人々を活気付けるためにあるもの、オマエの使うような野蛮なものを魔法とは呼ばぬわ!!』


そう言って懲りずに斬りかかってくる騎士。

俺も魔力を練ろうと意思を集中したところで―――意識が消し飛んだ。





「いっ、つつ……。な、何すんだよ!!」

「交代の時間だよ、たいちょー」

「え、はぁ?」


時計を見れば一時。腹減った。


「悪いヘレン行かないといけないところが出来たかも知れない」

「は? 副隊長! 隊長がサボろうとしてますよー」

「ば、やめろ!!」


しかし時すでに遅い。


「ふふ、行きましょうか」

「昼ごはんだけ食わせてくれ! な?」

「ふふ、あと六時間もすれば晩御飯ですよ、すぐじゃないですか」


それ時間の感覚がおかしい!!


廊下をひきづられつつ惨めな思いをしている俺はせつなに願う。


この異世界の娘の頭をもう少し柔らかくしてやってください!


この場合のエンドは二通り。


海弟が世界を救う。


海弟が世界を壊す。


作者としてはどっちでも良い。

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