第254話ジワジワ進む
眠い
「疲れだ!!」
「ん、じゃあ今日はもうちょっと歩こうか。俺を負ぶって」
「鬼畜だッ! 外道だ! 非道だ!」
……んー、俺はもはや人間じゃ無いと自覚しているはしているのだが……。
だから非道では無いと思う。
非道って人間と言う範囲の内部での外道だし。
「ほらいくぞ」
「何処まで歩きゃ救われるの。アタシは死ぬ」
「死ね。じゃあいくぞ」
「ちょ、ミイラにでもなれと―――」
「魔族だしできるだろ」
「……出来るから返答に困る」
よし、もしもの時はコイツを盾にしよう。大丈夫、ミイラでも俺は差別しないから。
そう、使える奴は全員使う、コレが俺だから差別の対象にはならないよ。
って言うか、差別ってのは特定の相手よりも扱いが酷いときに使う言葉だろ?
最近の女子……では無く、女性は勘違いが多いね。政治のことは良く分からないけど、男女平等になるためにやってる事―――『男を見下して人間性を低くする』―――馬鹿の極みだ。
青空がこの精神病に掛からないことを祈るかな。
「オラァ、キビキビ歩くッ!!」
「……いや、今気づいたんだけど何で海弟は荷物を持って無いわけ!!」
「魔法って素敵、とだけ答える」
「アタシの荷物も―――」
「無理」
……入る量=消費魔力×鏡の面積、だからな。手鏡は武器一つぐらいしか入らないの。
まぁ、俺が全魔力を込めたらどうなるかはわからないけど。
「そういや、魔力で鏡を作れるんでしょ? その中に―――」
「馬鹿か。式が総崩れだろうが、入る量=消費魔力×魔力って、何だよそれってなるだろ」
「……魔法の理論には一応則るんだね。って言うか死ぬ暑い」
「妹を思い出せ」
「……内乱を早く止めようッ!!」
プラスの力に働いてよかったよかった。残り使用回数は二回かな……それ以上使ったらホームシックになる。
何にも無い平野を歩きつつ、ラクダ代わりのシルアに水を飲ませたり休ませたりしながら進む。
次第に木が多くなっていき、林、森へと変わっていく。
「うむ、気配が増えた。盗賊かなんかだな」
「……疲れて動けません」
「わかってる、俺が対処するさ」
……お前が付いてくるの遅くてイライラしてるから。
「第三『風星』」
具体的な人数を数える。人数は十六、多い……。
「だが弱い」
十六人全員の翅に向かって空気を打ち出す。
十六っこの大きな音が同時に聞こえ、地面へと十六人が落ちて来る。
「リーダーシップを発揮しようか。ほらリーダーこっち来い」
風を操りリーダー妖精の腹へ一発空気の塊をぶっ放し俺の目の前へ吹っ飛ばせる。
俺は片手で妖精の着ている服を掴むと、身なりを確認する。
「……盗賊か? その割には装備が整ってないな」
『ッ、クソが。当たり前だろ? ここは王都付近なんだ。貧困に困ったヤツが居て当たり前。フハハ、オレを殺せよ。お前を狙う奴が一気に減るからさ』
「オーケー殺します」
口の中へ空気の塊を発射。内側からバラバラになるのはグロいので息を止めるだけに押さえる。
「シルア、ココから先は盗賊が多くなるみたいだな」
「内乱って恐ろしいぜよな」
「語尾がおかしくなってる。暑さで脳がやられたか?」
……魔族には熱耐性が無いのか? もしや魔法耐性しか持って無いとかそういうことか?
はは、なら魔王にあったらライターで攻撃してやろう。
「さて追いはぎするか」
「……盗賊バンザイッ!!」
と言うわけで極少量の食料と武器を手にし、森を進む俺とシルア。
二度三度と盗賊に出会ったが、三度目でイラッときたので森を全焼させた。
「さて荒野だ」
「物凄い力技見ちゃったよぜ!」
……脳だけじゃなくて精神までやられたな。
「蜃気楼かはわからないけど町が見えてきたみたい」
「ん? あぁ、ホントだな」
何か物凄く遠いところに城が見える。
「思ったより速かったな」
「……思ったより?」
……まさか。
「お前俺が居ないところで―――」
「健気に全力疾走してたんだよッ!!」
……全力疾走する少女は健気じゃない。
「……下僕として十分な働きをしたな」
「ひどっ」
いや安心しろ。心の中だけで褒めてやるよ。
……魔族という種族に生まれてくれてありがとうシルア。
「さて行くぞ」
「あ、炭は?」
……いらね。魔法ある世界で炭なんて使わないだろ。
って言うかそれは灰だ。
「う、うぅ……眠たいお腹すいた、ついでに死ぬ」
ついでじゃないだろ。
「……少し休むか」
「おぉ、優しい!」
「さてその荷物の中からトランプを―――」
「旅行気分!?」
勿論♪
……目の前にあるトランプのジョーカーが憎たらしい。




