第252話海弟の始めて
ヘンな意味じゃないですからね。
……陸地と書いてパラダイスと読む。
それだけ。
「復活したぜ!!」
「異様に元気! んじゃ、これで」
「それじゃー」
さて、ここから一人旅が始まる……オイ、何で俺は一人旅なんてしてるんだよ。
「待てい、シルア」
「待たない」
船に飛び乗り海の向こうへと去っていくシルア。
……ふっ、いいさ。
「つまりこういうことだろう? ここから魔法を撃って撃沈させて欲しいと」
「ただいま戻りました中尉!」
「途轍もなく中途半端な呼び方だが、タイミングはピッタリだ」
それとあの船は魔法攻撃に耐性が無いらしいな。
まぁそりゃそうだろうな。魔法耐性なんて付けたら船を動かす為の魔力が伝わらなくなるし。
「それで、何処で戦いやってるんだ?」
「さぁ? たぶん首都じゃない?」
ふむ、首都ね。
……で、何処にあるんだよそれは。
「あぁ、それとアタシも首都何処にあるかわかんないから。出合ってすぐの妖精にんな深いところまで聞けるわけ無いでしょ?」
「正論過ぎて言い返せない。しかし探して歩くのは大変だぞ? たぶん心優しい妖精もこっちに少しは残ってると思うが戦いのことを不用意に嗅ぎまわるのは避けたい」
「でも、聞かなきゃわかんないでしょ」
それもそうなんだよな。
唸っていても良い案は出ないのでとりあえず歩き始めることにする俺とシルア。
勿論、魔力船(仮)は鏡の中へ収納済みだ。
「俺の予想では、最低でもこの大陸の半分は歩かないといけないと予測されるんだが……」
「何で?」
「漁業が盛んな首都があったら海へ逃げようとは思わないだろ? 絶対に王様とかが用意する船の方が高性能だし数も多いだろうし」
すぐに見つかるからな。
だとしたら、山の近く、もしくは国の真ん中だろ、と言う予測だ。
「なるほど。外観から見た大陸の大きさで言うと一ヶ月は掛かりそうね」
「……よしここは馬を―――」
「妖精には翅があるし馬なんて食用のしか無いから長時間の旅ができる馬なんて居ないわよ?」
……翅を毟り取ってやろうか妖精ガ。
「表情が……、いや魔王様が突っ込んではいけないと言っていたな」
「正解だそれは」
外道のポーカーフェイスが崩れる時……それは人の深層心理に眠る負の心が表面へと現れる時だ。
うむ、とりあえずわかる人はいまい。
俺だってわかんない。
「さて、急激にドーナツが食べたくなってきたな」
「何の脈絡も無く……。いや無いよ」
「しょうがないじゃないか! だって俺は……俺は……」
「何?」
「人間だから!」
「…………」
無言で進んでいくシルア。
……このノリは付いていけないのか魔族。
二十分ほど進むと、なにやらゴツゴツした岩が増えてくる。
……採石場でもあるのか?
そんな予想をしつつもシルアに伝えずに先へ進んでいくと、川が流れているのが見えた。
「……何だ川かよ」
チッ、採石場にいる妖精の翅を毟り取ってやろうと思ったのに。
「結構深そうだけど?」
「……よし肩車してやろう」
「違う、橋を見つけて来い」
「いや妖精飛べるんだから橋とかいらないだろ?」
「……橋になれ」
「人間には不可能デース」
「魔族でも不可能だ。海弟という男は超人だと魔王様から聞いてるんだぞ、お前ならできる」
「超人にも限界があるのです! 俺がイケメン超人と言うのは認めよう。魔王だって言ってるんだしな」
「イケメンが余計だし。って言うか橋!」
……鏡の中には箸しか無いんだが……。
この川深いし、やっぱり渡らないといけないからな……。
「下流のほう行くか」
「ここ結構上流っぽいけど」
……何年掛けてでも首都へ到達してみせる!
いや、待てよ。もう一つの案があったりなかったり。
「採決を取ります」
「いきなり何?」
「この川を魔法でぶっ飛ばせばいいと思う人」
「……やってみて」
右手に魔力を溜める。
求めるのは電圧の高い雷ッ!!
俺の右手から放たれる白い雷。
さぁ、裁きの一撃を受けてみろ川めが!!
バッシャァァァァァァ!!
「今だ、渡れぇぇえ!!」
ぽっかりあいたクレーターを進む俺とシルア。
ハハハ、最高だぜ。
しかしクレーター中央付近に俺とシルアが居るところで宙に散った水が落ちて来る。
……何ていうか水だけど当たったら痛そうだ。
「ッ、よけっ、避けろ!!」
「足が……」
落ちて来てクレーターに溜まった水に足を取られ思うように動けない。
……何て姑息な手を使うんだ川……。
「あぁ、コレでどうだ!」
ズガンッ、と俺とシルアの体が揺れ地面が盛り上がる。
ズッシャァァァッと土を撒き散らし俺達もそれに巻き込まれクレーターの中央から川岸へと飛ばされる。
「ッ、な、地の魔法使えるのかよ」
「一応わね」
……ダメだ。俺もそこまで気が回らなかった。
まだまだだな。
「んじゃ、先へ進みましょうか。この先森みたいだし暇そうだからアタシの妹の話とかしながら」
「暇なら俺をおぶってくれ」
……疲れた。
「イヤ」
そう言って進んでいくシルア。
……異世界始めての旅……、なんだよなコレ。
キスを期待した人は何人いただろうか……。




