第248話海弟と迷宮路
……絶ッ不調!!
「チッ、今日は収穫ナシかよ」
「しょうがないんじゃない? たぶん、さっき出てきたヤツが時間稼ぎしている間に逃げたのよ。セコイ手を使うわ」
そんな会話を横で聞きつつ、元々コイツの持っていた所有物を漁っている俺。
鞄や服などはそりゃあ、もうすごい早着替えで……と言うわけでもなく魔法とだけ言っておこう。
ただ向こうの大陸に飛ばしたあの女が裸、と言うことだけは確定しているわけだが。
さて、コイツの鞄の中身は……魔法石三つ、本が二冊。
……黒魔法使いのポジションか。なるほど、コレなら俺にも出来そうだ。
「……コレで潜って三日目。今回はコレで帰るか」
リーダー男、略してリトコが言う。何ていうか女っぽい名前だな、リトコ。
地図があるのか、紙切れを開いて方角を確認するとリトコは歩いていく。俺とその他二人もそれに付いていく。
「着いたか。それじゃ、ここで一度―――どうした? 具合悪いのか?」
「え? い、いえ……」
何で船がまたココに……。それも小型……コレ絶対酔うよ!! 魔法溶けるよ!!
……何てピンチだ。
ッ、そうか。良い手が見つかったぞ。
断りを入れて物陰に隠れるとパチンコ玉を取り出す。
さて、コレに魔力を詰めに詰めて……変化させます。
……うん、完璧。
よし、コレとうまく摩り替われれば……。
いや、待てよ。俺はどうやって向こうの島に行くんだ? 無理だろ。
……いや、無理じゃないぞ。
「俺が酔いを我慢できれば良いんだ!!」
最終的にそうなるわけです。
と言う訳で、四人一緒に船にのりこみ人間の島(仮)を目指す。
「大丈夫? 顔が青いけど……」
「え、えぇと、あの時の衝撃が大きかったみたいで……」
「そう。あと少しだからね」
……優しい人達だなぁ。
いやぁ、勇者パーティと呼ばせてもらおう。
さっきの女の人が言ったとおり、三十分くらいで着いたのだが……俺はもう限界寸前だ。
何処かで吐きたい……何ていうか……吐きたい。
物陰へとコソコソ移動する俺。
次からは絶対に酔い止めを持ってこようと誓ったり誓っていなかったりしながら道端へと汚物を吐く。
「今回の収穫は薬草だけか。んー、三日後また集合な。オレはこの薬草を売ってくるから」
「三日後ね。了解。それじゃあ皆解散しましょうか」
結構仲の良いパーティだと思ったら、全員知り合いなのか。
んー、それじゃあ俺も帰るとしましょうか。
鏡を探す。
窓はあるが、鏡は無いな。
そういや鏡のある場所って……服屋……とかか。
ちょいと、聞いてみるか。
「……あの」
『ん? 何かな?』
「服を売っているところって何処だかわかりますか?」
『んー。ここを北に行って、迷宮路の近くじゃないかな』
……迷宮路? 何だそりゃ。
疑問を打ち消し、笑顔でお礼を言うと路地裏に回って変化を解く。
ここの島の人間という特別な印みたいなものも無いようだし、元に戻っても良いとの判断だ。
さっき話しかけた男の言った通りに、北に行くと明らかに周りとは違った特色の店がある。たぶんあそこが服屋なんだろうと中に入る―――と。
「……女物ばっかだなオイ」
……計算外。とでも言おうか。
メチャクチャ注目の的になっている。コレじゃ鏡を利用して消えることも出来ないぞ。
とりあえず、置いてある鏡に魔力だけを付与し店から出る。
……ッ、はぁ。
「メチャクチャ疲れたぁー」
ふっ、脳内で時間が引き延ばされた間があったが実際は五秒くらいの早業だろうな。
フハハハハ、俺の凄まじさはこんなところでも……イヤ、女物の服屋に入ったことじゃないよ?
「さて、後は向こうに戻ってあの服屋にある鏡を使って魔物を送り込むだけ……か」
しかしその前に迷宮路ってところ行ってみたいな。
何ていうか響きが良い。
「今持ってる武器は……」
補充したばかりだから結構あるな。
ネズミ花火を手元にセットしておこうか。煙玉も。
「さて、迷宮路は―――あそこだな」
服屋の前にまだ居る俺だが、ここからでも良く見える。
大きな建物だ。あれ一個が迷宮となっているのかー、と思うと何だか破壊衝動が溢れてくる。
人混みに紛れつつ迷宮路の近くまで行くと、三人ぐらいの兵士が入り口を守っているのが見える。
話しかけにくい雰囲気を醸し出している兵士三人に話しかける俺。
「あのー」
『……何だ』
「入っても良いですか?」
『……通行許可書は』
……持って無いよ。
さて、どうしたものか。いや、簡単だな。
「『電花』」
バチンッ、という音と共に倒れこむ三人。
勿論、大きな音を出したのでこちらに注目が集まる。
俺がやったとバレる前に迷宮路の扉を開け中へと入る。
「……テキトーにすごいな」
ゲームのダンジョンみたいな風景が俺の目の前に広がる。
右を向けば壁、左を向けば壁。前を向いても壁。
……え? 何で?
その瞬間、俺の耳に低い何かが擦れるような音が聞こえてくる。
上を向けば壁。しかも、俺を押しつぶそうと迫ってくる。
「……ッ、迷宮だぁぁぁぁ!!」
ある種の歓喜に震える俺。
ハハハ、やったね!!
「第二『重火』」
バゴンッ!! という音と共に破壊される俺の前にある壁。
かなり狭い部屋だったので俺にも少し被害が出たが、まぁ気にするほどではない。
壁の奥にはやはり空洞があり、その中へと飛び込む俺。
ズガンッ、と俺の後ろで音が鳴る。たぶん天井が落ちたんだろう。
「……さて、次だ」
手持ちの鏡に空きは無い。
だからこそ、他の鏡をコッチで探さなきゃならなくなったんだが、それはつまり必需品は全て鏡の中ということだ。
鏡から松明を取り出し魔力で火を付ける。
「いやぁ、世の中便利だなぁ」
ライター一本で解決なんだけどね。
そんなことを考えつつ、俺はザックザックと迷宮を壊していった。
……何ていうか、海弟は反則だと思うんですよ。
外道だと思うんですよ。
用意されている攻略方法を使わずに、力技で解決とか。
もはや外道とか超越してますよ。
ん?
めんどくさがりや……か。作者に似たんですね(独り言です)。




