第249話『ま、またか!!』by海弟
え? 妖精の島(仮)に着いてまず最初にやるのが……。
陸地って良いよね。
久々に降り立った土の地面を踏み締めながら深呼吸する。
目の前には緑豊かな森。その先にあるのは妖精の暮らす村。ただ俺はまだやることがあるんだよなぁ。
「これで全員か」
「そうみたいだね」
……ん? 今の誰が―――青空さん?
「え、えぇと、何でここに居るのでしょうか?」
「敬語はくすぐったいよ。私は一応王妃様なんだけど……、周りに誰も居ないしそういうのなしでいいんだよ」
「んまぁ、そうだな。ちょっと待ってろ」
手鏡を取り出し向こうの世界の豪華客船並みの船を仕舞う。
よし、後は影流に……いや、ここに青空が居るし青空に伝えとくか。
「青空、一緒に来た奴等全員に村から出るな、って伝えといてくれ」
「何で?」
「色々あるんだよ、俺には」
「ふーん。まぁいいけど。最近海弟忙しそうだよね」
「勉強する暇も無いぐらいにな」
「やりたくないだけでしょ?」
「……認めないぜ俺は」
「まぁその意味の無い努力に免じてこれ以上の追及はしないよ……」
まぁ、勉強が最近疎かになってるのは認めざるを得ないが……。
こんなこと言ってくるのは青空ぐらいだし、久々に勉強をマジメに取り組んでみるか……。
「と言う訳で教えてくれ」
鏡の中からブルーシート、卓袱台ほどの大きさの机を取り出しその上に宿題を置く。
おっと、シャーペンも忘れずに。
「……あのさ、今ここに居るうちはこっちの問題を解決しようよ」
「関係ないぜ!!」
「異世界とあっちの世界を別々にわけて考えないところは良いことだと思うけど……何でかなぁ、全く尊敬できないよ」
溜息を吐きつつブルーシートへと腰を下ろす青空。
俺もシャーペンを持ち宿題と言う名の強敵と対峙する。コイツとの戦いはほとんどの戦術が通じない……覚悟して掛からなければッ!!
「……ッ、何てことだ。一つもわかる問題が無いぜッ!!」
「いきなり……って言うか、予習復習しっかりやってる?」
ニホンゴ、ワカリマセーン(若干裏声)。
「……とりあえず、基礎からやろうね。海弟」
「久々にやる気な俺が一味も二味も違うぜ!!」
「その集中力を勉強に向けてもらえると嬉しいな」
……うん、やるよ。今から。
☆
カリカリカリカリカリカリカリッ
シャーペンを海へと投げる。
「ふっ、終わった。俺は燃え尽きたぜ青空」
「既に私は燃え尽きて灰になってるよ海弟……」
掛かった時間は五時間。既に空は黒くなっている。
ははは、俺の脳ミソはこの五時間の厳しい特訓に耐え抜き一般教養並みの知力を手に入れたんだ!!
……何ていうか恥ずかしい宣言したな、今。
「さ、さて、これらは仕舞って―――ッゥ!?」
何かに集中すると姿勢も良くなるようで、正座から立ち上がった俺はかなりの痺れを足に覚える。
伏兵がこんなところに潜んでいたとは……クッ、気づかなかったぜ。
青空も痺れているのか立ち上がった時に苦しそうな顔をする。
宿題とブルーシートに机も鏡の中に仕舞い、森の方を見ると夜だからか、不気味さがいっそう増して見える。
出来るなら避けたいところだが、森の中に村があるので向かうしかない。って言うか王妃様が消えたって今頃騒ぎになってるんじゃないだろうか?
「急ぐぞ」
「元々海弟のせいなんだよっ」
「わかってるから……。はい、ゴメンなさいね」
そう言って青空をおんぶする。
かなり足がやばい状態だが、酔っていた船の上よりかマシだ。
「『林我』」
体の強化をかける。
その後『風星』で森の地形を大体把握する。ずっと真っ直ぐ進めば村には着くな。
いや、待て。
「この肺活量からして人間……か?」
四つの気配を感じ立ち止まる。
俺の知っている人間ならいいんだが……。もしも、違ったら。
……あぁ、嫌な予感しかしないぞ。
「青空、悪いが一人で行ってくれ。真っ直ぐ行けば着くから」
「う、うん……。真っ直ぐね」
青空には真っ直ぐ進んでいってもらい俺は身を潜める。
近くに草むらがいっぱいあるので見つかったとしても逃げ切る事は出来るだろう。
少しすると俺の目の前に現れる四人の男女グループ。
見た目からして人間だ。しかし着ているものは一般兵士の物ではなく、かといって騎士の甲冑にこんな亜種が増えたなんて聞いたことは無い。
つまり、傭兵。または中央の島の人間、と言うことだ。
少なからず傭兵もこの島に招待されているが(ギルドSランクの者)、これだけの数で移動するSランクなんてい居ないだろうからそっちの線も消える。
残るは中央の島の人間。たぶんそれに決まりだろうな。
武器は全員が殺傷用の道具ではなく、あくまで捕まえることを目的しているのか鞭や木刀が主となった装備が目立つ。
丁度良いな。
たしかこの島の妖精は魔法を使えるんだったな? なら一人ぐらい殺っても問題無いはずだ。うん。
「雷よ」
バチンッ、と言う音と共に俺の周囲に電気が瞬く。
それに気づいた一人がコチラを向く。
「不意打ちィ」
『ッ、あっ!!』
ビリビリという音は聞こえないが人が一人倒れた音は聞こえる。
さてここからが俺の腕の見せ所だな。
『ッ、周りを囲めッ!! リアは魔法を!』
リーダーらしき男が言う。
「見つかった。しょうがない逃げるか。炎よ」
わざとらしく俺は言い、魔力を使って炎を出現させる。
クハハハ、圧倒的な力の前には作戦など通じないのだよ。
まず数を揃えようか数を。
「水よ」
右手に炎、左手に水を出現させ、二つをぶつける。
その結果水蒸気が辺り一帯へと風に乗って流れる。
俺は素早く動きさっき倒れただろう人物のところへと走る。
そして顔を確認する―――
「……あ、やべ……」
と同時に後悔する。
……コイツ女じゃん。何ていうか……はぁ。
溜息しかでねぇ。
俺はこの女を手鏡を使ってあっちの大きい大陸へこの妖精の島から転移させるとさっき覚えた顔へ変身する。
勿論、胸も確認済みだ(手で)。
外道? 元々わかってるさ。
煙が晴れると同時に俺は地面に倒れる。
そして、リーダーらしき男が俺が逃げたと踏んで少し奥まで行っている間にリアと呼ばれた奴が俺のほうへと近づいてくる。
「っ、うぅ……」
頭を抑えて俺は立ち上がる。
「あ、大丈夫?」
「う、うん……。ちょっと痛いけど」
……女口調になるのは久しぶりだけど……コイツの口調はコレであってるのか?
「何ていうか……ッ、頭が痛い……」
よし、ここは記憶喪失的なものを演じよう。
後は……中央にあるとか言う人間の島へと潜り込みこの島と行き来できるようにしておけばオーケーだ。
俺は鏡を地面へと置くと立ち上がる。
「ホントに大丈夫? このまま妖精狩りいける?」
「う、うん……いけると……思う」
ふらふらと揺れながら言う。
何度も言うがこれは演技だ。
「……それじゃあ、行こうよ。大事な『収入源』なんだし。ドラゴン退治は楽じゃないしね」
「私たちドラゴンなんて倒したこと無いでしょうが。もう、それじゃあリーダー様が帰ってきたら進みましょーか。この先が村だったよね?」
何処と無く俺に聞いた感じだったので適当に頷いておく。
いやぁ、こいつ等の泣き叫ぶ声が聞けるのも近いなぁ。とか考えながら。
潜り込み作戦開始!
作者も笑いが止まらないぜッ!!