第247話現実逃避とかなんとか
……マジメに書くのやめ。
兄さん聞いてよ。ほら、あそこに大きな白い鳥がいるよ。
きっと向こうの世界で言うカモメなんだよ。
「何かアレがヘンな方向に頭のネジを飛ばしちゃってますが……」
「いいんじゃない? 私知らないし」
「……と言うか、何でお前らはこの場に適応してるんだ」
「はは、もういいじゃないか影流」
うん、もういいじゃないか。
影流の部屋に全員で集合しなんか変なことになっているが気にしない事として、青空が不機嫌気味なのも気にしない事として。
とりあえずこの海軍少女の話を聞こうということになった。
ただ、情報の制限は不味いだろう、と言う事で何故か各国の代表……つまり国王様がたくさん影流の部屋に集まる事になっている。
正直に言うと、この少女は不幸の元凶と言うべき存在に0.1秒ぐらいで変化したんじゃないか? とか俺は思っている。
「では、会議……と言うか話を聞こうか」
慣れた口調で影流が言う。
……俺が逃避している間にもう集まってたのか。
「え、えぇ、では。まず、私の立場としては魔族の使者として扱っていただきたい」
様になった敬語だな。俺には一生を掛けたって扱えない言葉だ。いうならば英語だ。
まぁ、二回ぐらい死んでもオーケーならいけるかも知れないな。
「それで、魔王様より伝言が―――」
「魔王が直接出てきたらいいのに……。自分だけ楽しようと……。ぶつぶつぶつぶつ……」
「…………」
俺を見るな!
それ呟いてるの俺の母さんだから!
何て言うか……血縁関係者なのがイヤな母さんだから!
フォローは出来ないんだよ。
「魔王様より伝言があります。何か書くものと紙は無いでしょうか? 紙は大きめの物を……」
「海弟、取ってきてやれ」
「……はぁ、仕方ないな」
俺の部屋に向かうため、立ち上がって歩き出す。
こっちに手鏡一枚しかないからついでに補充するかな、とか思いつつ手鏡を手にとり向こうの世界と繋ぐ。
吸い込まれるような感覚の後、目に入るのは散らかった俺の部屋。
「……ふぇー、起きろ」
「ん、んむぐぅ……」
……よし、キミは今日から『大食い妖精』と『散らかし妖精』と言う二つの名誉無い称号を与えよう。
お菓子は別腹とか言うレベルじゃないから。
面倒だったので世界地図と油性ペン、それに机の上に無駄に置いてある鏡をポケットに入れもう一度こっちの世界にある俺の部屋のベッドの上に置いてある鏡に触れる。
すると視界が暗転、次の瞬間には異世界に!?
「コレをマジックとして売り出しても売れそうに無いな」
種も仕掛けも無い以前に病院に行けと言われそうだから。
自分の部屋から出て影流の部屋の扉を開ける。
音に気づいた何人かがコチラを見てくるが気にせず俺は準備する。
丸まっていた世界地図を反対向きにして鏡を端に何枚か乗せて丸まらないようにすると海軍&魔族使者の少女に油性ペンを渡す。
世界地図の裏側は白いし油性ペンなら書けるだろうと……消す方法は知らないが。
「……コレどうやって使うんですか?」
「うん、素朴な疑問をありがとう。それはこのキャップを取って、でほら」
少女からペンを借りて世界地図の裏側の端っこに一本線を引いてみる。
おぉ、と言う声が少女とそれ以外……マエティーからあがるが俺は気にしない。売り出そうとしたって構造は教えないからな。
キュッキュッと音を鳴らしながら魔王を書く少女。
「こ、コレは……」
「何だ? 何か悪いところでもあったか?」
長い間放置されてたやつだしな……。
「楽しい! よし、次はお母さんの絵を―――」
「待て。待てよお前。ふざけんなよお前。ほら、皆さん呆気に取られてるよ」
たぶん反応できるのは俺か天才児影流だけだぞ。
「あの、続けてくれないか?」
影流が優しげな口調で言う。
……ッ、何だと……。
俺が驚いた理由、それは雰囲気だ。
俺の予想ではこの中に影流にほれているヤツは三人。この場には各国の王と近衛騎士が一人ずつ居る。
俺も近衛騎士扱いだからこの場に居られるんだが、その近衛騎士のうち三人が女性、三人とも影流を好きになっている……と言うのがわかる。視線で。
さっきからチラチラ見てるし。
しかし! しかしだ……コイツはすげぇ、影流に優しげな口調で囁かれて惚れないだと!?
コレが魔族の力なのか!? そうなのかぁぁ!?
「表情が気持ち悪い」
「俺の精神がガリガリと削られていく音が聞こえてくるよ」
ほら、何か大切な物まで削られちゃったよ。
「あ、そうでした。続けましょう」
あくまで敬語で続ける少女。
しかし、続けるよりも先にやる事があると俺は思う。いや、王からすれば気にしないのだろうが俺はメチャクチャ気になる。
「な、お前の名前何?」
ただの使者に名前を聞くなんてことを普通はしないだろうが、とりあえず聞いておく。
「……自己紹介ですか。そうですね。私はサオです。改めましてよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる。きっとそれは俺以外に向けられたお辞儀だろうな。
なので俺はお辞儀せずとりあえずサオの足を踏んでおく。
頭を上げた時にこっちを睨まれたが俺は気にしない。ははは、お前が悪いのさ!
しかし何も言わず床に置いてある世界地図に必要なことを書き始めていく。
何だつまらないな。
そう思いながら俺は影流の横へ移動する。
……うん、もう無理だ。我慢するの。
「影流、影流」
「ん? 何だ―――顔が青いぞ……」
「トイレ借りるぞ」
「え、あ、あぁ」
もうすぐそこまで来てる!! 間に合えぇぇぇぇ!!
と言う無駄な根性でトイレへ駆け込む。変な目で見られようが俺は気にしないぜ!
トイレへ入るとアレを吐き出す。
喉が刺激的な感覚になったが気にしない。と言うか腹減ってきた……。
そんな事を考えながら俺はアレを吐き出していった。
さぁて、人間&魔族&神族vs『???』の戦いが―――始まりませんよ。
でも似たようなことは……あるかもしれませんね。