第217話弱者からの再スタート
『海弟 ハ 洗脳 サレテ シマッタ ヨウダ』
「完成だ。これ以上の物は無い」
一人の白衣の老人が言う。老眼鏡を掛け、一つの画面を見ている。
それは、ゲームの画面にも見えた。しかし違う。それは、世界だった。
この世界とは別の世界。
老人は考える。
この世界には上下があると。
そして、上の世界に行くには世界の構造を知らねばならないと。
だから、博士は自分の住んでいる世界よりも下位の世界を作り、そこから弱者を救い上げる計画を行った。
とても非効率で、誰も本気にしない計画を、この老人は成功させた。
……ただ、誤算が一つある。それに、この老人は気づかなかった。
☆
暇だ。暇すぎるぐらい暇だ。って言うか、手だけを動かす作業が暇以外の何なのかと聞きたい。
クォンはクォンでマジメーな感じに手を動かし続けてるし。逃げたら捕まるし。この始末書終わらないし。
最悪だろーが。
……逃げた影響で、また始末書が増えたし。
最悪だー。
「海弟、誤字ばっか」
「読めれば大丈夫」
「この誤字、意味が全く別物になるよ」
「はぁ?」
見る。
必死に覚えた全異世界共通の言葉だ。まぁ、その異世界に住むヤツ等は共通とか知らないんだろうけど。
「……阿呆だな」
「自分の書いた文ですけどね」
○すいません ×好きません
「好きなのか、嫌いなのかわからないなコレ」
「そっちじゃ無いでしょう」
……似てるから間違えるんだよ。
「燃やすか」
ボッ、と。
「……いや、もう何も言いませんよ」
「言いたそうな顔はしてるけどな」
「当たり前でしょうが」
まぁ、そうだろうな。
うん、燃やしちゃいけないよな。
「破るか」
「…………」
睨まれた!?
「な、何を睨んでるのですか? クォン様?」
「何でもありませんよぉ。何でも」
……ありますでしょうに。
「んじゃ、そろそろ今日は帰るかな」
「全然進んでないのを置いてかないで……」
HAHAHA、まぁ頑張りたまえよ。
鏡を出して、行き先を―――ッ。
「何だ? 頭が……」
「知恵熱でもでたんじゃないですか?」
「まさかぁ」
俺が知恵熱?
出るかよ。
「どうしました? 顔色が悪―――」
声が途切れる。
思考も途切れる。
目の前が真っ白になる。
何か、俺の知らないところで俺が操られているような感覚。
浮遊感が終わって、目を開けると、そこは……研究所?
☆
「なんじゃコリャー!!」
「うるさいぞ。老人の体ぐらい労われ」
「無理」
って言うか、その前にこの声の主は誰?
と言う事で、後ろを振り返ると、一人の爺さんが居た。……愛想笑いってこんなにも気持ち悪いものだったのか……。
まぁ、コレが愛想笑いかはわからないが……。
「誰?」
「博士でいい」
「良くない。名乗れ」
馬鹿士と呼ぶぞ。
「……木永奥墨。電脳科学の第一人者ってとこか」
「おぉう、何だ聞いた事無い名だ」
コイツ個人の妄想?
「妄想じゃないわい」
「読心術!?」
「違う違う。自分の体を見てみぃ」
俺の体?
近くにあった鏡の場所まで移動し、全身を見る。
……おんぬぁ!?
……いや、取り乱した。
しかし、何で女になってんだ? コレが、性転換!? 誰だ! 誰がこんな悪戯をぉぉぉぉぉ!!
って言うか、コレ悪戯レベルじゃないぞ!!
「気が動転しておるのぉ。まだまだ精神は成長不足だったか。まぁ、そこらへんは補えるじゃろ」
「何? 何々? コイツが犯人? バッカじゃねぇの。元に戻せよ」
「老人を労われと……はぁ、精神はまだまだ鍛えなおす必要があるのぉ。何度、戦地に向かっても成長してないその精神は、ワシも驚きじゃ。精神学でも賞を取れるぞ」
……馬鹿にされているのか?
まぁ、いいや。
「……お前……考える事を放棄しておるのぉ……」
「生きていけるものだよ爺さんや」
「名前聞いたのにそう呼ばないし」
「もう忘れたから」
「……怒る気にもなれん」
「そりゃぁ、怒られないだけ得ってものだ」
……何でこの爺さん、こんなにフレンドリーなんだ?
って言うか、読心術の答えになってないし。
「おぉ、すまんかった。データじゃよ。データ」
「は? データ?」
画面を指差す爺さん。俺の考えている事(?)が画面に文字として表示されている。
「……ぬぁんじゃコリャァー!!」
「叫ぶな。耳が痛いじゃろうが」
お前の都合で俺が止まるか!!
「って言うか、ここ何所? ……魔法が使えねぇ」
魔力の動きが見えねぇ。
「ホッホ、無理じゃよ。能力チップはこっちじゃ」
「は? 能力チップ?」
どういう意味?
「お前はな。一種のデータ。AIってものに近いものだ」
……理解ふのー。
「……つまり、この世界とは下位の世界からお前は来たんじゃよ」
下位の世界? 何だソレ?
「ワシの作った世界。そこからお前は来たってことじゃ」
……どゆ意味?
……ん? いつもどおりのペースじゃないかって?
今回は海弟が女になりつつも頑張るというお話しじゃないですか。海弟に女心をわかってもらおうとする作者の愛です。
……しかし、この爺さん。難しい事言いすぎだ。もちっと、簡単に言ってもらえるかな?
では、次回ー!!