第200話『こ、今回も変な始まり方……だなぁ』by海弟
海弟も嫌なんですね。今回みたいなの……。
演劇。
そう、俺の通っている高校には年に一度、学芸会ならぬ演劇発表会がある。
文化祭とかとはまた別物だが、この学校特有で中々面白い。
……最近はアニメのパロディが増えてきたな……とか、思ってるんだが……。
「暗いな。まぁ、暗視もできる海弟であるんだが」
「何だ、そのテレビショッピングみたいな説明は」
……実は、生徒会が色々取り決めたりしているので席はばらばら。好きなところに座りやがれ! と言うことで、俺は何故か影流と青空に挟まれる形で座っている。
……俺って友達少ないだろとか思った奴でてこい。でてこなかったら、来世は芋虫にしてやるぞ! しかも、キャベツ農家の人に殺されると言う運命にしてやる。
「お、始まったぞ」
まずは、こう言っちゃ何だがレベルの低い一年から。俺たちは二年なので真ん中だ。
「しかし、文化祭とことごとく被るよな」
「けど、文化祭は演劇部だけだろ? 俺たちは、手伝ってくれって頼まれてやってただけだし」
「それで飛ばされちゃったけどねー」
……うんうん、あの時の俺はまだ正常だった。
ただ、主人公的立ち位置に浮かれていたな……あぁ、懐かしい。
「何だか瞳から水分が……」
「すごい遠まわしな言い方だな……。ただ、俺もお前が考えている事がわかるから何も言わないで置こう」
ありがとう影流。俺は、思う存分これで泣けるよ。
☆
「って、泣いてたらほとんどの演劇を見れなかったと……。異世界はここまで俺を不幸にするのか」
「何だか、海弟が割り切っちゃいけないところを割り切ってる気がするよ……」
さて、最後の生徒会の演劇ぐらいは見るか。
ブザーと共に幕が上がる。
生徒会長(名前忘れた。すいません)が一番前に立ち、後ろに他の生徒会に面々が立っている。しかも、楽器を手にしている。
「オイ、ここまでの手抜きは俺は始めてみた」
「いや、手抜きって―――フォローするのはよそう……。俺も一瞬、学芸会だったか? と、思ってしまった」
「わ、私も……」
音楽が流れ、それにあわせて楽器を演奏し、歌う生徒会の面々。
……先に帰るかな。
「って訳で」
「……お前の決意は何処へ行ったんだ……」
「ははは、期待が重すぎて潰れたよ」
欠陥があったんだろうね。生徒会の手抜きと言う。
「まぁ、しょうがないと思うよ。最近の生徒会は忙しそうだったし……。生徒会長さんは、毎日ラブレターの返事を一通一通丁寧に返事をしているらしいし」
……つまりは、ラブレターを送った自分達(俺含まず)の手で手抜きにしたと。
一般性とのせいだったら怒れないじゃん。
「って言うか、俺は生徒会長の顔すら忘れてたな。そんなに人気なのか」
……前の席の奴(三年)が立ち上がってて見えねぇ……。
テンションの上げ下げが激しい学校だな……。青空が消えたときの光景が目に浮かぶ……。
そこまで会話して席を立ち上がり、体育館の脇まで移動し、出口まで歩く。
ドスンッ
「わっ!」
「おっと」
誰かとぶつかったみたいだ。
「大丈夫ですか?」
倒れた人物に手を差し伸べる。
そこで―――
スパンッ!
と、照明が俺の真上に落ちた。
そして、何故か俺は他生徒(主に男子)から怨むような目を向けられている。
「……は?」
な、何が起こってるんだ?
『テメェ、生徒会長を独り占めとはいい度胸だなぁ!』
『アァ? お前、いい気になってんじゃねぇぞ?』
……ゴメン、理解が追いつかない。
何が起こってるの?
俺が混乱している間に、見事なコンビネーションで席を離れ俺を取り押さえる体勢へと移行している男子生徒達。
「う、ばっ、ちょ、らぁぁぁぁぁ!!」
ぶつかった人もまだ立ち上がったいなかったようなので、俺が抱えて走る。
ど、どうなってるんだ……。
『死ね! 奈落へ落ちろ! 俺たちの生徒会長だぞ!!』
『そうだ、テメェは落ちてろ!』
『神隠し騒ぎの次は生徒会長か? アァ?』
……り、理解しろ。
生徒会長絡みと言う事はわかった(顔が遠くからしか見てなかったからいまいちはっきりしないけど)。
それで、この生徒達は生徒会長が好き。好意を寄せている。純粋なものから純粋じゃないものまで。
「……ん? 独り占め? ……俺って、何か恋人とかと勘違いされてる?」
「そ、そうだと……思います……。……たぶん」
「ん? お前、何か知ってるのか?」
抱えている……女子? いや、童顔の男子だ。
世間ではショタと言う。
「は、はぁ……。色々あるんですが……そのぉ……、えっと……」
「理解する。適当でいいから、話せ」
「はっ、はい!」
☆
海弟が席を立った頃。
今は演奏だけで、真ん中に立つ生徒会長は歌を歌っていなかった。
そう、何かを決意した顔でこの舞台の前にいる生徒達に語っているのだ。
「わたしは、皆さんからの恋文を毎日のようにもらっています。それを、渡してくれた人は自分の事だとわかるでしょう」
……ほぼ全員が頷いた。(女子含む)
「わたしは、皆さんの期待に応えられません。生徒会長としてではなく、一人の女として……」
これは彼女なりの決意だったのだろう……。
「わたしの彼を紹介します。この人です」
照明に合図を送る生徒会長。
スパンッ!
音と共に体育館の一角が照らされる。
そこに立っていたのは誰かに握手を求めているような格好をした海弟だった。
「あ……あれ? おかしいな……。犬也くん……は、おトイレかな?」
しかし、生徒会長の呟きは届かない。
スポットライトに当たった、海弟は倒れている人物を抱えて走り去ってしまった。それを追うように集団が襲う。
「あ、あれは……」
海弟が抱えていた人物。
それこそが、生徒会長の言っていた彼氏。犬也であった。
つまり、海弟は元々スポットライトに当たるはずだった犬也にぶつかり、運悪く、代わりにスポットライトに当たってしまったと……そういうことである。
あの体の弱そうな少年を守った……と言えば聞こえはいいが、生徒会長は怒っていた。
「皆さん……。わたしの恋心を踏みにじったあの人を打ち殺しましょう。ふふふ」
極上の笑みで後ろにいる生徒会メンバーへと告げた。
☆
「と、言うわけです」
大体は理解できた。
俺の知らないところでドラマがあって、その最終場面を俺が奪ったと……。
「何か、悪いことしたなぁ……」
「い、いえ、ぼくじゃあの人たちに襲い掛かられてたら死んじゃってました! あなたは恩人と言えます!」
「いやぁ、でもそれは後付の理由じゃん? 発表するって時に、俺が助けるって事が組み込まれてない限りはそれは意味の無いことだし」
「そうですか……」
……世の中のお母さんの気持ちがわかった気がする。
この子は保護欲発生装置だ。
「ただ、一度助けたんだ。最後まで逃げ切るっきゃ無いだろ。屋上まで行くぞ。扉を閉めれば誰も入ってこれなくなる」
「出れなくもなりますよ……」
「それについては大丈夫だ」
そう言って、走る。
……って言うか、今回勘違い系?
俺が引きこもりになってエンド? ハハハ、やめてよ作者サン。
「ったく、水よ!!」
……一応、言っておくが異世界とこの世界の関わりがわかった時点で魔法の事はわかっている。
つまり、お偉いさんのほとんどが魔法を使えるわけだ。俺も一度、向こうの世界に行ったことになっているので(お偉いさんの息子のわがままとして)、魔法を使っても不思議じゃない。
……次の日自慢できる話ができたんだよな……。ただ、魔力を使い切って死にそうになったけど……。
考えている間に階段に水が流れ、ほとんどの生徒達を転ばせる。
「おっと、危ない」
風を操り衝撃を軽くする。
「一気に行くぞ!」
「は、はいっ!!」
そのまま屋上へ飛び込み、扉を閉める。
「雷よ!!」
扉(鉄製)と扉接続部分(鉄製)を電気を使って溶接する。
炎だと扉ごと溶けそうだからやめておいた。
「ふぅ、ひとまず安心」
ガンガンガンッて、音がメチャクチャ怖いがまだ大丈夫だろう。
勘違い+a=大乱闘
海弟の居ないところでもドラマはあるのです。……海弟のやってる事よりも真っ当な……。