第1話異文化祭の演劇?美形なんてみんな滅びろ!!
「うわぁぁあああ~~!!」
叫び声とともに目を覚ます俺。額周りの汗を拭きながら周りを確認する。
右良し、左良し……完全に俺の部屋だ。
いたってシンプルな構図の部屋だが、勉強道具だけは揃っている。勿論使用する機会は……と、朝から勉強のことなど考えていられるか。
しかも今日は文化祭なのだ。
「ふぅ」
溜息を吐き、階段を下りてリビングまで行くと兄さんがパンと牛乳を飲んでいる。
……兄さんは料理できるはずなんだけどなぁ~。
「ん? おはよう」
「おはよー」
兄さんとの挨拶も程々にして(スキンシップは程々のほうがいいのだ)、俺もパンと牛乳を用意する。
リビングの入り口から見える位置にある時計を見る……。これが気づかないうちに日課となっていたりする。
「なっ!!」
少し驚きよろける。
な、何だと!?
明らかに遅い。遅すぎる!
時計が指している時間は明らかに俺のいつも起きる時間を数十分は超えいつもなら家の外にいる時間だ。
「先に行ってるぞ」
「え? ああ、うん」
そう行って、学校に行く兄さん。俺も早く食べ、学校に向かう。なんてったって今日は文化祭だ。
遅刻確定寸前なので走って学校へと向かう。
影流は『モテルダローナ』と硝子より繊細な砂でできた心の中で片言になりつつ思っていると本人登場。
曲がり角に差し掛かると昨日も会った親しい人物二人が雑談しながら歩いてくるのが見えた。
しょうがなく足を止め右に向き直る。俺の家にこようとしていたようだ。隣には青空がいる。
何ていうか……光に包まれた綺麗な光景だ。目が覚める。
「あっ、おはよー」
「ん? ああ、おはよう」
「おはよ」
簡単に挨拶を済ませるとさっきまで話していた話題なのか『馬』と鹿で何故『馬鹿』と読むのかという議論に入る。
遅刻しそうなのだが……うん、三人一緒なら怖くない。影流が何とかしてくれるはずだ。たぶん。
他力本願で歩いていると学校に着く。
ギリギリセーフで教室へと入る。緊張しているせいか武者震いしている体を何とかいさめると自分の席に着く。
ちなみに、俺と青空は同じ教室で影流は隣の教室だ。クラスが違うといろいろ不便だが、まあ許してやろう。
何に対してかわからないがそう思っておくことにした。
いつもよりちょっぴり長く感じられたHRも終え文化祭の開始だ。
勿論午前、午後とも舞台にいることになるので屋台などを回れるのはお昼の休憩かそこらだ。
リハーサルもあるので青空と一緒に体育館へと向かう。
「お、影流」
「やっときたか」
影流と合流し中へと入る。
しかし男に待たれているというのもな。
こういうのは美少女で、もじもじしている女の子に限ると思うんだが……。
雑念を消しリハーサルを開始する。
俺は魔王なので出るのは最後の方だ。
勇者と姫君の演技を眺めつつ目をこすらせていると……
―――グルルルルーーー。
俺の腹が鳴る。さすがにパンと牛乳じゃあ持たないか。
兄さんはもっと大変そうだな……そう思いながら俺の出番を今か今かと待つ。
☆
リハーサルが終わると青空が弁当を差し出してくる。
「へへ、お腹空いたんでしょ? 食べて。……えと、その代わりお昼おごってね?」
「……いいぞ」
何ていうか……うん、海老で鯛を釣るのかこの野郎。
全て計算ずくのようだ。確信犯の青空の弁当を腹に収めつつ朝の公演を迎える。
勇者と姫君の出演シーンではやはりというべきか会場からは音が消える。
あの二人を前にして堂々としていられるのは俺ぐらいだろうな……よくよく考えたら他にもいるけど。
朝の公演は順調に終わり。お昼。
影流も誘って三人で食べる。何故だか青空が不機嫌なような気がしたが気のせいだろう。
演技の話になるが、青空が泣くシーンがある。
そこで、俺はついつい昔のことを思い出してしまう。
☆
中学の時、青空はいじめを受けていた。俺はそれをただ見ているだけ。今思うと、『あの約束』さえなければすぐに首謀者を殴り倒していただろうが、俺はそのころ約束に縛られていた。
というか自分の身を守りたかっただけなのかも知れない。俺の中にあった、すぐに収まるだろう、なんてのは都合の良い言い訳だったのだ。
いじめはどんどんエスカレートしていった。
『おい、泣きまねなんかやめろよ』
そんな事を言いながら男子が青空のまわりに集まってくる。いじめをするのは女子ばかりだったがこのときは男子だった。
それで、一人の男子が殴りかかろうとした時”誰か”がそれを止めた。
それは、”影流”だった。カッコいい登場に男子達が静かになる。
『おい、やめろよ』
そう言う影流。
『お前もコイツの友達だろ、助けてやれよ』
こっちに向かって言う影流。もっともだと思うが、約束がそうさせなかったのだ。
そう言い訳しようとした時、影流をうしろから男たちの一人が殴ろうとしていた。
それを俺は止めた。この約束を始めて破った時だった。
それから、二人で全員殴り何故か影流だけが停学をうけた。今ならわかるが、俺は国会議員の息子、青空は町長の娘だ。そういう扱いなのだろう。
停学が開けたあと、青空に影流が告白したらしい。その答えは聞いてないが、これは俺たち三人だけの秘密だ。
うん、美形って色々大変だ。モテない俺はコレを励みとして生きよう。いや、青空に失礼だな……。
っと、考えていたら昼の公演の時間になった。
「んじゃいくか」
「そろそろだもんな」
そういって、三人で席を立ち体育館へ行く。
昼の公演も順調だった。アレがなかったら……。
また青空が泣くシーンだ。そこには俺も登場している。
また思い出しそうになったその時……何故か俺の足元が光り始める。もう、太陽さんもビックリな程だ。
俺はまだ照らすとことじゃないぞなど……、などとのんきに思っていたが事態はもっと深刻だった。
急にガクッ、と体が揺れる。
「うおっ!?」
驚く声とともに、その光の中に俺は取り込まれていく。
そりゃあずぶずぶと……。
周りの客は驚いている。何故か目をキラキラさせてる人もいる。演出じゃないぞ!!
「あっ、海弟!!」
そう叫ぶと青空が演技をやめて俺を助けようと光の中に居る俺に手を伸ばすが……逆に光に取り込まれる。
アレ? コレってヤバイ状況ですか?
「大丈夫か!!」
「大丈夫なわけあるか!」
影流の叫びに俺も叫び返すと影流も演技をやめて飛び込んでくる。
が、また取り込まれる。
多少窮屈だったが俺達はその光に飲み込まれていった。
その他観客や他の役の奴等は、ただ呆然と見ているだけで俺たちだけが取り込まれていった。
☆
次に……目が冷めるとそこは森だった。
近くに湖があり……悪天候で風が吹き荒れ雷も大地に降り注いでいる。だが不思議と冷たい感じがしなかった。
次第に視界がぼやけていき、最後に神殿みたいな場所になる。ほわほわした感覚があったが立ち上がり周りを見回す。
影流と青空は起きていて、ほかに男子がほとんど女子が数人こっちを見ていた。
妙な雰囲気だ。どうやらこの男やら女やらの中心人物を見つけ出しその一人を見る。
たぶんその妙な雰囲気はあの女が一人で……む?
待て、俺はこの雰囲気を知っているぞ。
これは影流に惚れたときの雰囲気だ。長年一緒に居てこそわかるのだ。
俺はそれについては熟練だ。
しかしこの妙な気配は一人で出せるような……。
再び周囲を見渡す。
一人だけだと!! 一人であんなに雰囲気を醸しだすなんて!!
ふざけている! そう言おうとしていたときに声が掛かる。
「ようこそ責任者様」
笑顔。笑顔で言われる。
実に淡々とした口調、何ていうか安心した様子にも見えた。
けれども俺達は――
「「「へ?」」」
――口を揃え、そう口から漏らす事しか出来なかった。
手直ししました☆