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男性主人公・ラブコメ系作品

幼馴染に俺が振られたら、美人で優しい義理の姉のブラコンが過激化してヤンデレになった

 他人の心の中なんてわからない。


 そんな当たり前のことを、俺は忘れていた。すぐそばにいる二つ年上の義理の姉の想いも、俺は何一つ理解できていなかった。


 そのことに気づいたのは中学三年生の夏だった。


 もし、もっと早く彼女の本当の気持ちに気付けていたなら、事態は違っていたのかったかもしれない。


 でも、現実はそうはならなくて――。


 俺――神宮寺新矢の部屋の中で、義姉が優しく微笑んでいる。

 部屋に明かりはついていなくて、カーテンを閉ざした窓からこぼれでる夕日だけが部屋を照らしていた。


 目の前の彼女の名前は、秋川咲乃。両親の再婚でできた血のつながらない姉で、名字も違う。

 

 でも、俺にとっては大事な家族だった。


 咲乃姉さんは俺より二つ年上になる。つややかできれいな黒のロングヘアと、すらりとしたスタイル。それに、日本人形のように整った顔立ちもあいまって、清楚で可憐な印象の美人だ。


 俺とは同じ中高一貫校に通っている。学校でも咲乃姉さんは有名人で、誰よりも可愛いし、勉強もできてスポーツ万能。優しくて明るい性格で、みんなから憧れられる完璧美少女だ。


 咲乃姉さんには弱点なんて、無いように思える。

 けれど――。


「ねえ、新矢君?」


 咲乃はそっと俺の胸板を指先で撫でた。俺は部屋着のTシャツ姿で、咲乃は肩出しのキャミソールにショートパンツという大胆な格好だ。


 普段は清楚な印象だし、こんな露出度の高い格好をしない。それなのに、まるで俺を誘惑するように、胸元も露わな服で、俺を媚びるように上目遣いに見る。


「さ、咲乃姉さん……」


「ふふっ。照れちゃって可愛い♪」


「て、照れさせるようなことを、咲乃姉さんがするからだよ……」


「これからはもっと恥ずかしいことをするのに?」


「もっと恥ずかしいことって、な、なに?」


「新矢君のしたいこと、だよ?」


「俺は……何も望んでいないよ」


「嘘つき。本当はいろいろしたいくせに」


 咲乃姉さんが一歩俺に近づき、俺はびびってそのまま壁際へと下がる。でも、もう逃げ場はない。

 とん、と壁に咲乃姉さんが手をつく。

 

「壁ドンだね」


「普通の壁ドンは、男が女性にするんじゃない?」


「じゃあ、新矢君、してくれる?」


 甘えるように咲乃姉さんは言う。その頬は紅潮していて、咲乃姉さんが女性だと感じさせられてどきりとする。


 今まで、俺たちは血はつながっていないけれど、普通の姉弟だった。仲の良い姉弟だったけれど、異性として互いを見たことはない……はずだった。


 でも、今は……。


「どうしちゃったのさ、咲乃姉さん? 今日の咲乃姉さんは変だよ」


「私は変じゃないわ。幼馴染の女の子に振られた弟を慰めてあげたいだけ」


 そう。たしかに、俺は両思いだと思いこんでいた幼馴染に告白して振られた。ずっとずっと好きだった子で、彼女も俺のことを好きだと信じていたのに……。


 ショックを受けて寝込んでいたら、突然、姉の咲乃が部屋に入ってきたというのが現在に至る経緯だった。


「これは姉の慰め方じゃないよ」


「そう。だって、私、今は君の恋人のつもりよ?」


「え?」


 俺が驚いて目を見開くと、咲乃姉さんは顔をさらに赤くした。


「か、勘違いしないで。私が恋人の代わりをしてあげるって言っているの」


「恋人の代わり……?」


「練習台になってあげるってこと。私で練習して新矢君が理想の男性になれば、優奈ちゃんも振り向いてくれるでしょう?」


「そ、そうかなあ?」


 ちなみに優奈というのは、俺の幼馴染の西桜木優奈。俺を振った相手だ。咲乃姉さんが俺の姉になる前から、優奈は俺たちと同じマンションの隣の部屋に住んでいて、幼稚園の頃から家族ぐるみの付き合いがある。


 今の中高一貫校に入ったのも、優奈と一緒の学校に行きたいという不純な動機からだった。

 その優奈も「一緒に帰ろうよ、新矢!」なんて誘ってくれて、俺にだけはとても甘い表情を見せてくれたりして、俺は優奈が自分を好きだと勘違いしてしまった。


 実際には、「お兄ちゃんみたいにしか思えない」と恋愛対象じゃないと撃沈したわけだけれど。


 ともかく、優奈に俺は男として見られていない。それが問題だ。

 咲乃姉さんは優しく俺に笑いかける。


「私を好きに使ってくれていいの。優奈ちゃんと付き合うための練習台でもいいし、本当に恋人の代わりとして慰めてあげてもいい。どんなことでもしていいの」


「そ、それって……たとえば?」


「キスとか……もっとエッチなこととか」


 咲乃姉さんは恥ずかしそうに小声でささやく。俺はぶんぶんと首を横に振る。


「咲乃姉さんにそんなことさせるわけにはいかないよ。俺たち姉弟だよ?」


「姉弟だからこそ、私は可愛い弟のためなら、何でもしてあげる。それとも、私じゃ不満?」


「姉さんが不満な男なんて、この世に一人もいないと思うけどね」


「ふうん。つまり、新矢君も?」


「えっと、その、そうだけど」


 咲乃姉さんはぱっと顔を輝かせる。


「なら、決まりね。今日から私たちは恋人のフリをしましょう」


「な、なんでそうなるのさ」


「ね、考えてみてよ。私が新矢君と付き合っているところを見せつければ、優奈ちゃんも危機感を持つかもよ。大事な幼馴染を取られたって思って、本当は新矢君が大事だと気づくかもしれないわ」


「優奈が俺を好きなら、そうだろうけどさ」


「優奈ちゃんはきっと新矢君のことを好きだよ。だって、私の自慢の弟だもの」


 咲乃姉さんはくすっと笑い、そして俺の髪をそっと撫でた。咲乃姉さんの小さな手が、俺を弟扱いしていて、俺はほっとした。


 このとき、咲乃姉さんが本当は何を想っていたか、俺はもっとよく考えるべきだったのだ。



 咲乃姉さんが俺の姉となったのは、俺が小学五年生、咲乃姉さんが中学一年生のときだった。


 俺の父と咲乃姉さんのお母さんが再婚して、それで俺たちは初めて出会った。

 

 俺も咲乃姉さんも、もうとっくの昔に物心はついているし、異性を異性として意識する年齢だ。


 だから、初めは気恥ずかしさもあった。「初めまして、よろしくね」と微笑んで挨拶する咲乃姉さんに、俺は真っ赤になって「よろしくお願いします」なんて返事をしたと思う。


 当時の俺は内気で、でもそんな俺を咲乃姉さんは可愛がってくれた。俺の父が喧嘩別れで母と離婚したのに対し、咲乃姉さんのお父さんは事故で亡くなったのだという。


 当時の咲乃姉さんはその悲しみをまだ引きずっていて、反抗期だから母親との関係もぎくしゃくしていて……。

 咲乃姉さんだけ名字が「秋川」なのも、「パパのことを忘れたくない」と言って名字を変える手続きをしなかったからだ。


 あの頃の咲乃姉さんは傷ついていて、苦しそうで……。

 だから、咲乃姉さんは、心の隙間を埋めるように俺を溺愛したのだと思う。


「ずっと可愛い弟がほしかったんだ」


 咲乃姉さんはそんなふうにくすくす笑いながら言ってくれて、その表情がとても可愛かった。

 いつしか、俺は「秋川さん」ではなく「咲乃姉さん」と呼ぶようになっていた。


 新矢君、と俺の名前を呼ぶ咲乃姉さんは、本当に俺のことを愛おしそうに見てくれた。

 俺たちはまるで本物の姉弟みたいに、いや、本物以上に仲の良い姉弟になった。


 その関係はずっと変わらないと思っていた。

 だけど、そんなことはなかった。


 ある日の休日の正午。


 俺は咲乃姉さんと待ち合わせをしていた。遅れそうになって、慌てて地下鉄の階段を駆け上る。

 名古屋駅の金時計が集合場所だった。


 俺たちの住んでいるのは、名古屋市だ。あまり特徴はないけれど、便利な都会だと思う。

 もっとも、俺は生まれてからずっと名古屋育ちなので、名古屋以外の街を知らないけれど。


 咲乃姉さんは、俺たちの家族になる前は東京に住んでいたらしい。そういう意味でも違う世界を知っているのだ。


 俺が息を切らして、金時計前に着く。文字通り金色の時計が駅の構内にそびえ立っていて、両側が百貨店の入り口になっている。


 名古屋駅の集合場所として有名で、あたりは人でごった返している。

 きょろきょろと見ると、金時計のすぐ下に咲乃姉さんが立っていた。


 咲乃姉さんはくすっと笑う。


「新矢君、おそーい」


 咲乃姉さんは、白のブラウスにおしゃれなスカートを身に着けていて、いつもよりぐっと大人な雰囲気だった。もともとスタイル抜群だし、まるでファッション雑誌の表紙の美人モデルみたいだ。


 俺は一瞬みとれて固まってしまい、咲乃姉さんがふわりと笑う。


「私に見とれてた?」


「……少しだけね」


「照れなくてもいいのに。どう可愛い? 新矢君とのデートだから気合を入れてきちゃった」


「で、デートって……」


 俺はデートの練習(?)という名目で呼び出されたのだった。デートの練習ってなんだろう……と思うけれど。


「練習でもデートはデート! それより、女の子の服装はちゃんと褒めてあげないと」


「えっと、すごく似合っているし……綺麗だと思う」


 俺は自分の頬が熱くなるのを感じた。

 咲乃姉さんが俺の頬を指先でつつく。


「もっといろいろ褒めてくれないと。でも、新矢君の表情を見るだけで可愛いって思ってくれているのわかっちゃった。ありがと」


 咲乃姉さんも少し照れたように笑う。


「そういう新矢君もカッコいいわ。でも、女の子を待たせたら失格よ。わかった?」


「いや、でも時間通りには来たよ……?」


「遅刻してなくても、待たせたらダメなの」


「ええと、ごめんなさい。というか、そもそも同じ家に住んでいるんだから、一緒に出かければ良かったんじゃないの?」


「そうしたらデートって雰囲気じゃなくなっちゃうわ。それに、弟とデートに出かけます、なんてお父さんたちに言える?」


 まあ、それはそうだ。俺たちは仲が良いから一緒に出かけることは多いけれど、さすがに姉弟二人でデート(の練習)に行くなんて言ったら、どんな顔をされるか。


「そういう咲乃姉さんはいつから待っていたの?」


 俺が聞くと咲乃姉さんは顔をちょっと赤くした。


「……30分前」


「えっ。そんなに前から!?」


「だって、新矢君とのデートが楽しみだったから」


 咲乃姉さんは、そんないじらしいことを言い、俺を上目遣いに見る。俺は自分の体温が上がるのを感じた。

 くすっと咲乃姉さんは笑った。


「どう? 理想の彼女っぽい?」


「ま、まあ、えっと……可愛いとは思ったけど」


「ふふっ、そうでしょ?」


「でも、そんなにあざとい演技をしなくてもいいのに」


「演技じゃなくて、新矢君とのお出かけが楽しみなのは本当よ?」


「えっ」


「だって、私、新矢君のこと、大好きだもの」


 まっすぐな目で咲乃姉さんは俺を見つめ、胸のあたりに手を置く。

 一瞬、告白されたのかと思い、俺は動揺した。


 でも、すぐにそんなわけないか、と思う。


「弟として好きってことだよね?」


「そう。新矢君は可愛くて大好きな私の弟だもの」


 咲乃姉さんは少し寂しそうに微笑んだ。


「咲乃姉さんはどうしてそんなに俺のことを……大事にしてくれるの?」


「私にとって君が一番大切な家族だから」


「一番って……お母さんは?」


「もちろん大事。生みの親なんだから。でもね、私が今、こうして楽しい日々を送れているのは、傷ついて死んじゃいそうだった私を救ってくれたのは君だから」


 たしかに打ち解けたはじめの頃、咲乃姉さんは家族を失って、荒れていて、ひどく傷ついていた。

 俺はそのそばにいることしかできなかったと思う。咲乃姉さんにとっては、俺が支えだったのだ。


「だから、今度は私が恩返しをする番。私が新矢君を幸せにしてあげないとね」


 咲乃姉さんはとても嬉しそうに笑った。




 それから二週間後の放課後、俺は幼馴染の優奈に呼び出された。

 咲乃姉さんと付き合っているのか、と問い詰められた。休日にデートするところを見られていたらしい。


 一応、咲乃姉さんとはフリとはいえ、付き合っているということにしている。咲乃姉さんは学校では毎日のように告白されているから、断る理由にもできるというメリットがあった。


 優奈にだけは本当のことを話すべきだろうか。でも、付き合っているフリをすることで、「俺を咲乃姉さんに取られた」と優奈に思わせ、優奈を焦らせる、というのも咲乃姉さんの計画のうちだった。


 もっとも、優奈が俺に自覚しない恋心を抱いている、という前提が成立しないと意味がないけれど。


 でも、結果的に咲乃姉さんの計画は大当たりだった。優奈はいきなり俺に抱きつくと「新矢を取られたくない!」と泣き出したのだから。


 優奈は俺への恋心に気づいていなかっただけで、本当は大好きだったのだと言う。俺はすぐには信じられなかったけれど、でも、優奈は本心から言っているようだった。


 こうなったら、もう咲乃姉さんとのフェイクの交際について黙っている必要はない。

 俺が言うと、優奈は「良かった」……と泣きながら安心してくれて……そして、俺たちは彼氏彼女になった。


 呆然としながらも、俺は優奈と一緒に家へと帰った。優奈はとても楽しそうで、可愛くて、俺はそんな子と付き合えるのが嬉しかった。

 

 ずっと優奈のことが好きだったのだ。俺は浮かれていた。

 そう。咲乃姉さんのことを忘れてしまうぐらいに。


 マンションの玄関を開け、リビングに行くと咲乃姉さんがいた。

 夕方だから、まだ両親は帰っていない。咲乃姉さんは制服のセーラー服姿だった。


 テーブルの上で紅茶を淹れているみたいだった。これは咲乃姉さんとそのお母さんの優雅な趣味で、専用の高そうなティーカップとポットがある。


「おかえり、新矢君」


 咲乃姉さんは俺を見ると、嬉しそうな笑みを浮かべた。


「ただいま、咲乃姉さん」


「どうしたの? 浮かれているじゃない?」


「わ、わかる?」


「私は新矢君のことなら、なんでもわかるよ」


「そ、そっか。あのさ、優奈に実は大好きって告白されて」


 その瞬間、咲乃姉さんがティーカップを床に落とした。

 ティーカップが大きな音を立てて割れる。


 俺は慌てた。


「だ、大丈夫? 咲乃姉さん……?」


 気づいたら、咲乃姉さんは俺のすぐそばまで来ていた。咲乃姉さんはうつろな瞳で俺を見つめる。


「嘘」


「嘘じゃなくて、咲乃姉さんの計画のおかげで優奈は本当に俺を好きだと気づいてくれたみたいで……」


「それで、優奈ちゃんの告白はどうするの?」


「そりゃ、もちろん受け入れるよ。最初は俺から告白したんだし、俺は優奈のことが好きだし……」


「へえ。私と付き合っているのに、別の女の子と付き合うんだ?」


 咲乃姉さんが冗談を言っているのかと一瞬思ったけれど、咲乃姉さんの表情は真剣だった。

 でも、俺たちは付き合っていたんじゃなくて、彼氏彼女のフリをしていただけのはずだ。


 俺がそう言うと、咲乃姉さんは首を横に振る。


「フリでも付き合っている約束でしょう?」


「咲乃姉さんが俺のために、彼氏彼女のフリをしようって提案してくれたのには感謝しているよ。でも、優奈と付き合えるなら、もうそんなフリをしなくてもいいんだよ」


「違うわ」


「えっ」


「これから、もっと練習が必要になるでしょう? 好きな子と付き合えたんだから、デートもキスもエッチもちゃんと練習しなきゃ。私と練習するんでしょ?」


「いや、でも、咲乃姉さんにそこまでしてもらうのは悪いし、そもそもキスとかえ、エッチなことなんて……」


 口ごもる俺に、咲乃姉さんがいきなり抱きついた。咲乃姉さんは手を俺の背中に回し、ぎゅっと抱きしめる。

 セーラー服越しにその大きな胸を押し当てられ、俺はうろたえた。


「さ、咲乃姉さん……!」


「中学生になってから、こんなふうに優奈ちゃんを抱きしめた?」


「す、するわけないよ……」


「良かった。なら、女の子とハグするのは、私が初めてね」


「そ、そうだけど、それにどんな意味が?」


「これからも、初めては私が全部してあげる。キスもセックスも結婚だって……」


「そ、そんなのダメだよ! 咲乃姉さん、おかしいよ」


「私はいつもどおりよ。いつもみたいに、大好きな弟を可愛がっているだけ」


 咲乃姉さんが耳元でささやく。俺はびくりと震えた。咲乃姉さんは本気のようだった。


「ごめんね。本当は、優奈ちゃんが新矢君と付き合うなんて私は思っていなかったの」


「え?」


「君が優奈ちゃんのことをずっと好きだって、知ってた。だから、私は君のことが好きだって言い出せなかった。だって、私はただの姉だから。でも、優奈ちゃんに振られたって知って、私は君のことを自分のものにしたいって気持ちを我慢できなくなったの。恋人のフリをしながら、君を自分のものにしていくつもりだった」


「ちょ、ちょっと待って。咲乃姉さん、それってつまり……」


「私は新矢君のことが大好き。姉としても、一人の女の子としても」


 咲乃姉さんは、顔を真っ赤にして俺に告白した。

 どうして気づかなかったのだろう。俺はとんだ間抜けだ。


 たぶん一緒にデートしたあのときも、咲乃姉さんは俺を男として見て、好きだと言ってくれたんだ。


 俺にとっても、咲乃姉さんは大事な人だ。でも、俺には優奈もいて……。

 俺が口を開く前に、俺の唇は咲乃姉さんのキスで塞がれた。


「んっ」


 それは情熱的なキスで、俺からすべてを奪ってしまうようで……。

 咲乃姉さんはキスを終えると、ぽーっとした表情で俺をぼんやりと見た。


「新矢君……私、ファーストキスあげちゃった」


「さ、咲乃姉さん……ダメだよ、俺たち姉弟なのに……」


「姉弟だから、好きな子だから、私は君に初めてを上げたくなるの」


 咲乃姉さんは妖艶に微笑むと、俺から一歩離れ、そして、右手で俺の手を引き、左手で近くの扉を開けた。


 その扉は咲乃姉さんの部屋へとつながっていた。咲乃姉さんの部屋に入るのは久しぶりだ。姉さんは俺の部屋によくやってくるけれど、俺は異性の咲乃姉さんに遠慮して入ることもなかった。姉さんも俺が部屋に入ることを避けていたようにも思える。


 ともかく、部屋に連れ込まれたら、このままだと本当に押し倒される……と俺は心配になった。

 でも、次の瞬間、俺はそんな心配が吹き飛ぶぐらい、驚愕する事態が起きた。


 咲乃姉さんの部屋は少女らしいきれいな部屋で、ぬいぐるみなんかも置いてあってちょっと子供っぽいが可愛らしい雰囲気だ。


 ただし。

 壁に俺の写真が大量に貼ってあることを除けば。壁にはびっしりと、俺が寝ているところ、俺の制服姿、俺の運動会での写真……と様々な写真が貼ってある。


 俺が言葉を失っていると、咲乃姉さんは微笑む。


「驚いた?」


「そ、そりゃ驚くよ。こんなの……」

 

 写真のほとんどはおそらく盗撮だ。俺が咲乃姉さんに同じことをすれば、許されないだろう。

 いや、咲乃姉さんはもしかしたら許してしまうのかもだけど。


「これがあるから、部屋には入らせなかったの。ね、私のこと、嫌いになった?」


「嫌いにはならないよ。ならないけど……どうしてこんなことを?」


「言ったでしょう? 私は君のことを大好きだから、君のことを一番理解していたいから」


 呆然としている俺を、咲乃姉さんが自分のベッドへと押し倒す。あまりのことに俺は抵抗する気力もなかった。


 咲乃姉さんはふふっと笑っていたが、その目に光はなく、俺は背筋に冷や汗が流れるのを感じた。


「誰にも君のことを渡さない。あの子にも他の女の子にも……君と同じ名字になるのは、私なんだから」


「みょ、名字って……」


「私が神宮寺の名字にしなかったのは、最初はお父さんを忘れないためだった。でも、今は違うの。いつか新矢君と夫婦になったときに取っておこうと思って」


 咲乃姉さんがそこまで考えていた事実に驚く。


「咲乃姉さん……俺は優奈のことが好きで、もちろん咲乃姉さんと結婚するなんて約束できないよ」


「いいの。今はまだ君の練習台でいい。君の姉でいい。でもね、いつか最後に選ばれるのは……私なんだから」


 咲乃姉さんはそう言って、俺の上に覆いかぶさった。俺は咲乃姉さんを突き飛ばすこともできず、ただされるがままになっていた。


 俺はきっとこのまま咲乃姉さんのものにされるんだろう。この優しくて、俺を溺愛してくれる義姉を俺は拒絶できない。きっとこの先も。

 そんな気がした。





血のつながらない姉っていいですよね! 美人な先輩キャラの強化版みたいな……!


面白かった、義姉の咲乃や幼馴染の優奈との今後が気になる、咲乃が可愛かった!と思っていただけましたら


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他にもラブコメを書いているので、ぜひお読みください。詳細は↓のリンクから!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 義姉弟モノで優しい姉が大好きです。 それも決して揺るが無い程の姉の包み込む様な愛情は堪らなく好きです。 [一言] 優奈の気持ちは何か有れば揺るぎそうな気がしました。 続きが読みたいです。 …
[一言] これはNiceboat
[一言] 超個人的には優奈と咲乃さんの二人に襲われてしまえ
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